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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
二章 帝国-革命軍編
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四十四話 日々鍛錬あるのみ

 ―――次の作戦が決定してから三日が経過する。その間に色々と出来事が発生した。たとえば合流したプレイヤーの中にスパイが見つかり、拷問と処刑を行う必要があったとか、ダイゴの娼婦通いが加速していたとか、穏健派レジスタンス所属、プレイヤー最強決定戦が繰り広げられたとか。そんな事もあって、レジスタンスの拠点に到着してからの三日間は物凄い騒がしいものであり、飽きる事のない時間だった。意外と気を使っているのか、レジスタンス拠点には様々な娯楽が用意されている。ダイゴが利用している娼婦がいるのは勿論、それ以外にも賭場が普通に行われている。勿論カジノの様なキツイレートではなく、遊び感覚で手を出せる、銅貨一枚や二枚レベルでの賭場だ。


 それ以外にもチェスやカードゲーム、ボードゲームの類が豊富に用意されており、ストレスを紛らわせるための道具の類は多かった。やはり勝ち目の薄い戦いに身を投じ続けていると、こういう娯楽には気を使うらしい。特に穏健派は過激派と違って目に見える成果が出し難い。その為、他よりも特にストレスの解消手段には気を使っているとか。娯楽を除けば食事の類がかなり充実しており、酒は勿論、王国の方から新鮮な野菜や肉を取り入れているらしい。これは過激派ではやっていない事だそうで、エドガーが交渉してやってのけた、と本人が自慢していた。


 何も戦うというのは直接殴り合う事だけではないから。


 そんな訳で、意外と充実した三日間だった。遊びたければ酒を片手に賭博を楽しんでいる連中に絡めばいいし、お腹が空いたら食堂へと行って食事を取れば良い。鍛えたいと思ったら、戦いたいという連中はかなり多い。そういうプレイヤーやレジスタンス連中と剣を合わせて戦えば、自然と強くなって行く。ゲームクロックが加速して現実へと帰る回数が減ったのもあり、此方での生活はさらに快調とも言える事になった。魔法の使い方を教わったり、剣の使い方を教えたり、そんな事をしている間にスキルはドンドン上昇して行く。


 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:62

  体力:64

  敏捷:62

  器用:69

  魔力:64

  幸運:53


 装備スキル

  【魔人:32】【創造者:32】【明鏡止水:32】【支配者:32】

  【血戦血闘:33】【高次詠唱術:26】【魔剣保持者:18】【侵食汚染:21】

  【咎人:15】【業の目覚め:18】【剣聖:13】【聖者:14】【斬打突花:15】

  【英雄喰い:10】


 SP:32


 少しずつ、少しずつ魔剣に喰われて行く。そんな自覚はあっても、キャロライナのステータスを見て、彼女単体では十三将に届かない事を聞いてしまった。こうなると残りは自分の実力に頼る部分が出てくる。こうなったら足手まといにならない様に、徹底的に鍛えられるところは鍛え、利用できる物は利用しなくてはならない。そうやってやっと勝利できる領域なのだから。



                  ◆



 ―――そんな事もあり、今日も拠点近くの草原で刃を振るう。経験が染みつき、基礎が徹底的に叩き込まれている。だが肉体に合致している訳ではない。肉体はまだ最適化され切っていない。だからまだ、自分の体に経験を馴染ませないといけない。だから決して、油断も慢心も安心もしてはならない。平原、上半身裸の状態で大剣となった状態の魔剣を握り、ひたすら素振りを繰り返す。たかが素振り、だがこれが剣術の基本にして基礎。


 全ての技能はここに集約される。


 全身から大量の汗が流れ落ちるのを理解しつつも、決して動きを止めない。振り下ろし、切り払い、袈裟切り、突き、そして切り上げ。剣術だけではなく、剣での戦闘における基本動作になる。これらの動作をクセと、そして様々な技術と合わせる事によって剣術という形が出来上がってくる。【斬打突花】はそれを現すスキルだ。カルマと、そしてその継承者たちが喰われながら生み出してきたクセと技術、その塊だ。それを自分が鍛える基礎と合わせる事によって、有効化されて行く。


 剣を振り下ろすという一つの動作にしたって、速度、力の入れ具合、鋭さ、角度、体重の乗せ方、呼吸のタイミング、と様々な要素が混ざる。それを理解し、他人にはまねできない様に、理解できない様に、読み抜けない様に複雑化させながらも、それを綺麗に揃える。複雑化し過ぎると咄嗟の動きで出す事ができなくなるからだ。故に一刀一刀を無心で振るってはいけない。


 無我の境地とか狂った馬鹿な事を言ってはいけない。


 ―――考え続けるのだ。


 一刀一刀の鋭さ、それを構成する全ての要素を理解し、合理を以って常に次へと繋げつつも、獣の勘を取り入れ、それで導く。無我等所詮は思考停止した、組み上げてきた鍛錬が反射で動いているだけに過ぎない。反射での動きを殺す方法はカルマの経験に存在する。故に【英雄喰い】の対象となって、跡形もなく殺せる。


 ―――考えるのだ。


 そうやって思考を止める事無く、極限までゆっくりに刃を動かす。ここからどうやって繋がるのかを、それ何十何百にも思考させながら、腕が棒の様に感じるのを無視し、ゆっくりと、そして正確に刃を通す。一寸のブレすらも許さずゆっくりと刃を通し、そうやって基本動作を徹底的に肉体に刻み込んで行く。剣の道に終わりはない。剣を極める事は出来ない。武の世界に頂は存在しない。故に無駄の様にも思える反復練習が、基礎と基本の繰り返しがひたすら動きを最適化し、そして鋭さを上げて行く。


 こればかりは、ステータスやスキルが上限に達しても終わる事はない。


 数時間ぶっ続けで同じことを続けていると、全身から流れる汗が足元で水たまりを作りそうなほど、濡らしている。目を開けたまま振るい、汗が目の中に入ってくる。それで一時的に視界がぼやけるが、それに一切気にする事無く刃を振るい続ける。やっている事を見た何人かのプレイヤーが一時間だけ真似し、それ以上は無理だと投げすてた。それもそうだ。こんなの正気の鍛錬じゃない。だが狂気に踏み込まないと得られない境地がある。


 いや、強さとは正気を捨て、得られるものなのだ。正気のまま強さを得るなんて間違っている。


 狂気に踏み出し、それを理性で縛りながら飼い慣らす。カルマ=ヴァインの中にある基本的な強さへの踏み出し方であり、そして胆。この鍛錬も自分で考えたのではない。侵食を通して得た四十年、その中で”常に行われていた”経験の肉体へのフィードバック方法だ。今迄は場所が場所で、そして環境が環境という事で手を出す事は出来なかった。だが拠点周辺にはモンスターがいない事実を含め、鍛錬には遠慮する事無く打ち込める。


 ―――速度を上げる。


 数時間も続けた事で体全体が疲れている。力が入りにくいが、それを無視して意思の力で大剣の姿をしている魔剣を握る。疲れてきたときにこそやる意味がある。体力を極限まで追い込みながら、今までやっていた斬撃の反復練習を少しずつ速度を上げる。勿論、次に何を繋げるかという思考の流れは一切やめない。思考のペースをそのまま維持し、体の動きだけを加速させる。流れ出る汗が散る様にはじけるが、それに惑わされる事無く刃を振るい、


 ―――動きを織り交ぜる。


 ステップを取る様に、一歩下がる様に、戦闘で使う基本的な動作を織り交ぜる。それは即ち前進、後退、回避、跳躍、そして急転。飛び込む様に跳躍し、滑る様に前進しながら急転し、ステップを取る様に後退から横へ回避動作に入り、再び一歩を踏み出して前進する。その全てに連動する様に、今まで続けていた斬撃動作を付け加えてある。基本と基本。剣の基本と動きの基本は連動する様に出来ている。故にこの動作に斬撃を入れる事は無理ではなく、一切の不自然はなく、自然な動作として完成されて行く。


 ―――ちっ、足りない。


 動きながらも駄目だ、と評価する。現状、自分が出しうる最高の動きをこうやって、鍛えながら繰り出すが、それでも駄目だと判断する。この動きはまだまだ記憶の中のカルマにも、その継承者たちにも届かない。当たり前と行ってしまえば当たり前なのだが、この魔剣を握ってから一週間と少ししか経過していないのだ。この短期間で、しかも侵食を二割に抑えている状態でどうやって追いつけと言うのだろうか。無茶を考えている自覚はあるが、それでもこれ以上敵に仲間を討たせたくなければ、記憶の中の使い手たちに追いつかなければならないのだ。


 ―――だが足りない。


 時間も、覚悟―――狂気が。才能なんてものは所詮後付の理由でしかない。そんなもの、魔剣が後押ししてくれる事でどうにかなっている。だから足りないのは時間と狂気。どこまでも上限を突破して行く、その狂気が足りていない。解っている。それを補う為の【業の覚醒】なのだと。適度に身を任せれば、今までとは比べ物にならないぐらいに力を引き出せるようになるだろうと思う。


 だけど、それはきっと、純粋じゃない。


 そう思ってしまう為、任せられない。


「―――素晴らしい」


 その言葉が聞こえるのと同時に足を止め、魔剣を回転させながら目の前の大地に突き刺し、両手で柄を掴む様に体を支える。荒く息を吐きながら視線を声の方向へと向ければ、赤と銀色のグラデーション、という珍しい髪色の女が軍服姿で立っている。良く考えてみれば彼女のその髪色は精人から来る特徴なのかもしれない。キャロライナの存在を知覚し、漸く彼女の接近にすら気付けない程集中していたことを理解する。この様子だとおそらく、他に持近づいて来た人間を気付かないうちに無視してしまったかもしれない。内心、軽くダウンに入りつつも、視線を持ち上げてキャロライナへと向ける。


「集中し過ぎてたみたいだ、悪い」


「気にする事はない。戦士として鍛錬を重ねる事の重要性は良く理解している、故に恥ずかしがることはない。それよりも卿の様に高いレベルで基礎を固めつつも、未だにその鍛錬を止めない者は少ない。王国流の思想だと見るが」


「まぁ、鍛錬法自体はカルマ=ヴァインから引き抜いたもんだよ。ただ方針は基本的に王国流がベースだな。王国騎士団に短い間だけど所属した事があってな、その時にいろいろ教わったよ。何に注意するとか、何をすればいいとか、極みなんてものは存在しないから鍛錬も終わる事がないとか。間違いなく自分の戦闘に関する思想の根本は王国流によって形作られているわ」


「ふむ、羨ましいな。王国の兵は帝国や聖国と比べると数が少ないが、精兵である事が特徴だったか。方針で言えば帝国でもそう変わったものではないが、帝国は個人の資質や連携よりもマニュアル化された全体としての動きを優先する。軍へ入隊すれば剣を捨て、銃を握らせられ、それでひたすらアウトレンジから死ぬまで集団で射撃、というスタイルが基本だからな。私の様に特殊な部隊にでも所属していなければ個人の個性を伸ばす事もないだろう」


「処刑部隊、だっけ」


 ポロっとキャッライナがそんな事を呟いていたのを思い出す。魔法を使って小さな水球を生み出し、それを頭の上で破裂させて頭の上から一気に汗を流す。インベントリからタオルを取り出しつつ、キャロライナの言葉に耳を傾ける。


「あぁ、別命死神部隊とも言うがな。命令があったら出動し、命令のままに指定された”区域を完全殲滅”するだけの存在だ。こう見えて天賦の才を保有しているらしいが、やってきたことが弱者の暗殺ばかりで活かす機会もなかったが……漸く私も上を目指せそうな気がしてきたよ」


「寧ろまだ伸びしろ残している事に恐怖を感じるんだけど」


「卿の成長速度の方が個人としては恐ろしく感じるさ。先程見せていた太刀筋には年月によって鍛え上げられた美しさを感じる。燃やしてばかりである私では到底到達できないものだ。誇るが良い、たとえ魔剣の呪いであろうと血肉となっている以上は力だ。そして力とは振るう者次第であるが故に、この場では祝福される。私達の戦力が高いのは良い事だ」


「あんまり言葉で飾らないでくれ、なんつーか……信用しづらくなる」


「すまないな。どうしても私は多く語ってしまうクセがある。悪癖だとは分かっているのだがな、どうしても流れ出てきてしまうのだ」


「何がだよ」


「―――愛がだ」


「そっかぁ、愛かぁ」


「……何故一歩距離を取る」


 いや、だってよく考えるべきだ。自信満々に腕を組んで愛とか言ってのける人物とか恥ずかしすぎてどうしようもない。というか先日見たキャロライナのステータスを思い出す。そこには思いっきり【愛】というスキルが搭載されていたが、それの事なのだろうか。だとしても十分に変態的というか頭がおかしい。なんで愛がスキルになるんだ。しかも愛が溢れ出すって一体どういうことなのだろうか。やはりどう考えても変態。


「何を考えているかは大体解るが、別に愛を抱くのはそう珍しい事でも恐ろしい事でもあるまい? 私のそれは皇帝程怪物的なものではない―――言うなれば一つのモチベーションだ。戦う理由ではなく、”戦いをする為の動機を支える考え方”とも言えるものだ。有名なものであれば皇帝の”苦難は幸福を思い出させる”というものだろう。皇帝の愛というものはそこに集約されている。故に私の愛も似た様なものだ、”一つ一つの命を愛し、慈しむ”というだけの話だ」


 キャロライナの口から出てきたのは予想外にまともな言葉だったが、


「そんな風に人の命を愛しているのに、処刑部隊なんかにいたのか?」


「だからこうやって抜けたのだろう? あの隊は元々死にでもしない限り除隊出来ない様になっているからな。私も一人では無理だから殿下の力を借り、こうやってレジスタンスに合流したのだよ。まぁ、あまり語る様な事でもあるまい。ただ私の愛と、そして皇帝の愛の方向性は相いれないからぶつかる必要がある、それだけの話だ」


 恐ろしくまともな内容だ。これは少々、色眼鏡で見ていたのを反省した方がいいかもしれない。


「ま、人を燃やすのも家を燃やすのも大分飽いて来たところだ。戦いが終われば子供の一つでも作って育てるのも悪くはなかろう。まぁ、その前に卿と共に鍛錬を重ね、最低限の連携を取れる様にしなくては勝てる戦いも勝てなくなるものなのだが」


「んじゃ、さっそく訓練を始めるか。えーと……俺の基本的な戦闘方法は魔剣による近接戦を交えた召喚術での範囲殲滅。遠近両方で戦える。能力やスキル的には届かなくてもカルマ=ヴァインから四十年分の純粋な戦闘経験を引き出している。だから自分よりも格上の存在であってもある程度渡り合えることは出来る」


「話に聞いていた通りだな。私のステータスは既に知っているな? 生憎とも燃やす事しか出来ないが、単純に燃やすという事であれば大抵は何でもできると自負している。武器として炎を固める事も、地雷の様に設置する事も、空間そのものを炎で満たして一瞬で燃焼させる事も……あとはあぁ、酸素を燃焼させて一時的に無酸素状態を生み出す事もできるな」


「そう考えると強いよなぁ、炎は」


「ある程度相性を無視できるからな。ダンジョンや城等が相手であれば密封してもやし、燃やし殺せばいいし、狭い場所であれば放火しつつ逃亡すれば良い。広い場所なら遠慮なく炎の魔導を降り注ぎ殲滅が行える。常道と言ってしまえば常道だ。だからこその強みとも言えるが」


「となると、俺が前に出てキャロが後ろ、って形になるのかね、この場合は」


 タオルでぬれた上半身を拭き終わったところで、タオルをインベントリの中へと戻し、代わりにシャツを取り出し、それに袖を通す。胸元のボタンを二三個、シャツが開かない様に閉めると、大地に突き刺していた魔剣を引き抜いて肩の上に乗せる。


「つかキャロはアレだ、近接戦こなせるのか?」


「無論、私も接近戦を行える。ただ卿と一対一、近接戦のみで戦うとなれば負けるかもしれない、その程度の実力だ。私の本文は魔導士として炎の魔術を放つ事にある。故に卿が前衛を務め、私が後衛を務めるという方法は間違っていないだろう。もしくは―――」


「もしくは?」


「―――私達のスキルを連結させ、更に凶悪な術を発動させ、薙ぎ払う事もアリだ」


「そんな事が出来るのか」


 うむ、と答えながらキャロライナは片手を持ち上げ、四重に重なった魔法陣を出現させる。見ればその魔法陣が一つ一つ違う魔法をベースとしてあり、それを組み合わせる事で大魔法の領域にその魔術を押し上げているのが解る。これは基本的な技術だ。スキルとスキルを組み合わせる事で大きな効果を生み出せるように、複数の魔術を組み合わせる事で強大な魔法を実現している。剣術も同じように重ねられる技術は重ねる事で効果を相乗させる事が出来る。それと全くお同じ事だが、げに恐ろしきはそれを苦も無く発動待機状態で維持し続けているキャロライナの姿だ。


「このように私は炎の魔導であれば大分融通が利くからな。ここに卿の魔術の干渉を加えれば私と卿で魔術を合わせて発動させられるだろう。世間一般で言われる”合体魔法”というやつだ。個人でやるタイプではなく、複数で魔法を錬成するタイプだがな。本来は訓練された者同士で行うものだが、私と卿の二人だけなら私が制御を引き受ければ問題なく回せるだろう」


「合体とか男の子的には聞き逃せないキーワードなんだよなぁ……」


 合体魔法なんて選択肢が出てくるのであれば、更に選択肢は増えてくる。奇襲として大規模な殲滅合体魔法でも叩き込み、それで戦場を混乱させながら突撃する、とか選択肢が増えてくる。


「となると、炎の属性でもっと高位の召喚獣か、或いは召喚物を呼び出す事ができそうだなぁ。とりあえず考える前に色々と試してみた方がいいか。ここら辺で暴れても平気なのか?」


 その質問に彼女が頷く。


「ここは山に囲まれているから相当派手な事をしようと帝国に感づかれることはない。一切遠慮する事はないぞ」


「ならば―――」


 大剣をくるっと回して逆手に握り、左手をキャロライナが浮かべている魔法陣へと叩きつける。そのままそれに神経を繋げる様に魔力を通し、自分の意識を繋げ、そしてスキルを発動させる。【魔人】、【創造者】、【高次詠唱】、【支配者】、【聖者】、と乗せる事の出来るスキルは全て乗せ、そして召喚術を意識する。目の前の広い空間に、今の実力で召喚できる最大規模の存在を召喚しに行く。炎属性という制限、それを拡大解釈すれば”太陽”という風にもなる。


 自分が思いつく範囲で炎、或いは太陽と言う属性が付随する存在はベリアル、スルト、ファフニール、レヴァンティン、アグニ、スーリヤ、紅孩児、天照大神、カグツチ、


 そして、


 ―――魔法の錬成が完了し、四つの魔法陣が複雑に絡み合いながら一つの魔法陣を描き、空中に回転しながら前方の空間に広がる。その中心を、魔法陣を砕く様に一つの姿が出現する。上半身には何も着ず、下半身に白い、装飾の施された布を纏う、素足で平原に降り立つ褐色の王の姿。魔法陣から出現した魔王殺しの英雄、ラーマは平原の上に着地すると、腕を組み、ほう、と声を零す。


「此度の召喚は前回と違い無用な消費もなく、制度も密度も上がっているか。いや、二人掛かりで召喚しているのであればこれはこれで当たり前か。五割程度しか実力を発揮できないのは惜しむべきところだが、この様子であればたとえ一人であってもそこそこの密度で召喚できるだろう。良き成長だ、褒めて遣わす」


 徹底的に上から目線で神話の英雄はそう言い切った。それも見ただけで此方の実力、状況を完全に見抜く辺り、やはり存在としての格が違う。おそらくはフルスペックで召喚する事が可能であれば、この王は皇帝さえも屠れるのではないのかと思ってしまう。神話の伝承を調べれば、理想王ラーマはサルンガという神弓の力を利用する事で一撃で不死身の魔王を消滅させた程の実力の持ち主だ。それに、上から目線の発言ではあるが、ラーマの言葉の中には一切見下すような意図は存在しない。此方を対等として見る事は絶対にありえない。何故なら彼は王なのだから。だから上から目線で物事をいうのは当たり前、しかし見下す事はしない。ラーマにとって人の成長、王に仕える臣下や民の良き変化は愛でるものであり、祝福するべき事。


 故に前の召喚から此方が得ている変化と成長を祝福しているのだ。


「予想外に良い成果が出て割と戸惑っている」


「卿もか、私も望外の結果に驚いている―――目の前の御仁は我々も強いな。がちょうどよい。召喚術で格上が呼べるというのであれば好都合だ」


「ほう」


 キャロライナが瞳を焔の様に赤く輝かせながら、ラーマを見る。その視線と言葉で何を求めているのかを理解する。実際に、ちまちまと言葉を重ねるよりも、こうした方が今のレベルでは圧倒的に早いだろう。それこそ昔の様な低いレベルであれば、強者と戦ったところで得られるものは少ない。次元が違いすぎて得られる技術を理解できないからだ。昔、レギンレイヴを召喚して戦った時、それを通して得られたものは今から考えると非常に少ない。だが今は違う。


 何故足を踏み出すのか、次の行動が何故そうなったのか、そういう事を理解できるだけの経験と技術が存在する。故に強敵と戦う事はプラスになる。


「実戦で互いの呼吸を合わせる方が私も卿も上手く行く―――その様な気がする。故に神話の世の王よ、お相手を願う」


 手を振るうキャロライナの周辺に魔法陣が立体的に、複数回転する様に出現する。それに合わせる様に此方も魔剣を握り直し、前へと飛び出す体勢を整える。何だかんだで自分も、狂人の領域に踏み出しつつある事は自覚している。ダイゴ程ではないが、戦闘となると高揚して来る。強敵と戦う事には興奮を覚える、そんな感覚が僅かにある。これは果たして【業の目覚め】から来る事なのだろうか? それは判断できない。ただ、戦う事は必要だ。


「というわけだ理想王。いきなりの呼び出しですまないが、特訓の相手をして貰うぜ」


「良い、構わん。遠慮なく来い、それを愛でよう。何せ彼方は暇でな、一時の熱狂を夢見て揺蕩わないと時間すら潰せん」


 言葉と共にラーマの纏う空気が変わる。その繋ぎ目を狙い、一気に踏み込んだ。召喚獣であるラーマの命を考慮する必要なんて一切ない。死んでも本体へと還元されるのみ。故に一切の遠慮も容赦も、躊躇もなく、殺す為の斬撃を胸に刻む為に叩き込む。それに対するラーマの行動はシンプルであり、


 虚空から取り出して太陽弓サルンガを取り出し、


 それをまるで剣の様に振るい、斬り払いに対して斬り払いを叩き込み、相殺した。慣性のままに後ろへと流れて行く体を知覚しつつ、鍛錬で何百回、何千回、何万回と繰り返してきた動きのままに急転、背後から流す様に斬撃を繰り出す。まるで背後に目が―――否、心眼を備えたラーマは振り返る事なく背後からの流し斬りを肘打ちで刃の腹を的確に殴り、刃の動作を阻害する。そこでさらに接近しようとし、


 虚空からキャロライナがラーマの頭上に出現する。


 縮地という歩法は体術の一つとして認識されているが、それはあくまでも本来の形から武芸者が学んだ”劣化”の技術でしかない。縮地、或いは縮地法と呼ばれる技術は本来仙術、神術に通ずる術であり、その本当の効果は瞬間移動となっている。故にキャロライナが行った瞬間移動は本来の形としての縮地。完全に魔法を放つ準備が完了している状態で、


 ラーマの頭上から業火を叩きつける。その瞬間に透過の状態へと移行し、ラーマと炎を透過して逃れる。同時に魔剣を両手で握り、


 それを二つに引き裂く様に動かす。


 結果、カルマ=ヴァインが二つの長剣に分かれる。二本の片刃の長剣、それを握って正面から薄れる炎の中へと進もうとし―――即座に横へと跳躍する。閃光が先程までの場所を貫いたのを確認しつつ、目の前に置かれてある光の矢を片手で切り払い、そのままラーマに接近する。左手の刃で首を斬り落としに行けば、掌底が確実に刃の腹を捉える。正確に、超高速戦で武器の破壊と無力化を狙うその技量は完全に此方を捉えているのが解る。


 既にキャロライナが放った炎は消えている。故に追撃が来る。それを理解し、弾かれるのと同時に大きく飛びのく。


 瞬間、隕石の様に火球が雨の如く降り注ぐラーマを中心とした爆撃が開始するも、射られた一本の矢が分離し、それが頭上の火球の雨を自動で迎撃する。その様子を離脱しつつ眺めると、真横にキャロライナが出現する。


「まだまだ連携が甘いな。踏み込むタイミングが遅すぎるようだ」


「ある程度だったら透過で無視する事も出来るから、俺への被害を恐れる事無く攻撃を繰り出してくれ。それに一人だけで接近戦にも限界があると思う。抜ける気がしないから手数が必要だな」


「成程、私も卿と混ざって近接戦を繰り広げるべきか。余り無様な姿を見せたくはないし、少々気合を入れる必要があるな、これは」


 そうやって此方が言葉を重ねている間、ラーマは笑みを浮かべて待っている。それこそ強者の余裕であり、上に立つ存在の特権。


 ―――今日の訓練はちょっときつくなりそうだな。


 そんな事を思いながら連携と相互理解を深める為に、ラーマへと向かう。

 正気のままでは強くなれない。どこか突き抜けて狂ってないと強くなれないという考え。常識から逸脱してこそ、その境地は見えてくる……らしい。


 というわけで鍛錬訓練特訓調練。あまりこういう特訓シーンは話し全体がダレるので、普通はサクサクと~~の間に体を動かし、という風に処理しているけど、定期的に成長を印象付ける為にも丸1話訓練回とかも挟み込んだり。


 実はキャロりんそこはとなく気に入っている。

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