四十二話 今とこれからを
「―――はぁ―――ッ」
上から振り下ろされる聖剣をしたから掬い上げる様に横へと切り払う。頭がお辞儀をするかのように下がっているのを利用し、そのまま前へと倒れる様に前進する。進むのは左肩を、剣を握っていない方の半身を前にして。そのまま突進する様に接近し、相手の懐へと入り込む。反応する相手が後ろへと下がる。剣と剣の戦闘では常に有利な間合いを保有しておくことが最重要になる為、その選択肢は正しくもある。だが同時に、
戦闘とはひよった者から負けて行くものでもある。
相手が一歩下がるという動作に入ったため、此方も一動作を入れる余裕が入る。故に切り払った刃を戻しながら体を加速させ、横を抜ける様に斬撃を入れる。それを回避する様に聖剣が振るわれ、閃光が斬撃として響く。しかし、魔剣は聖剣と対をなす凶悪な”兵器”となっている。普通の剣であれば一瞬で破壊される閃光も、魔剣であれば僅かな傷痕さえ作らない。斬撃で閃光を切り裂きながら切り払える。
そうやって横へと回り込むのと同時に、斬撃が遅れて発生する。浅く相手の肌に生まれる切り傷は決して魔剣を通して生まれた者ではなく、反対側へと抜ける様に攻撃を放った存在が理由だ。振り返りながら斬撃を放つ体勢に入れば、白に近い青色の毛並みの狼が牙と爪を見せ、高速で斬撃を放つ体勢を完了しており、此方の動きに連動する様に狼が斬撃を繰り出す。合わせる様に高速で動きながら斬撃を四方八方から無尽に重ねて行く。その全ては肉を裂くのではなく、調整して肌を斬る程度のものにしており、
最後の最後、最後の一斬、
「―――ここ!」
そこで逆転のカウンターを叩き込んでくる。
経験が【英雄喰い】と合わさり、この土壇場の状況で英雄の素質を持つ者であれば、絶対にカウンターを叩き込むと、予想、予測、理解させられていた。刹那、此方の斬撃が喉へと届く前に、行動に斬撃が割り込んでくる。それに冷静に、片手を使って手刀で斬撃を祓いつつ、右手で大剣を振るって首筋に刃を当てる。
「―――勝負あり! 勝者、フォウル!」
「最後のカウンターは決まると思ったんだけどなぁ……」
「英雄の素質のある人間は土壇場で逆転を狙ったり、普通は踏み込めない様な所へと平然と踏み込んでくるからね。それをちょいと誘導すればカウンターを逆に狩ってカモれるんだよ」
「えー……それはズルイ」
大剣となっているカルマ=ヴァインを短剣へと戻しながら腰にしまい、近づいて来た狼―――限定顕現のフェンリルの頭を軽く撫でてからその姿を送り返す。その流れのまま、近づき、手を出す。”聖剣使いさん”でスレでは親しまれている人物、プレイヤーネーム・トモ。聖剣の使い手であり、聖国出身のプレイヤーである彼とは、聖剣と魔剣という共通点から手を合わせてみたが、意外と学ぶべきところが多いと思う。例えば、自分は魔剣を武器と触媒としてしか使っていない。だがトモは聖剣を利用している。聖剣内部に存在している力を引き出し、それを術として発動しているのだ。自分の魔剣との運用方法とは全く違う。ただ向こうからしても、此方の動き―――カルマの動きに関しては学べることが非常に多いだろうと思う。そういう事もあり、技術交換を含めて他のプレイヤーとは手合せしたり、話しあったりしている。
おそらくはトモがやっている事も”知っている”のだろうが、魔剣の侵食はそこまで進んでいない。それをステータスを表示させながら確認する。
名前:フォウル
ステータス
筋力:61
体力:64
敏捷:62
器用:68
魔力:64
幸運:49
装備スキル
【魔人:30】【創造者:30】【明鏡止水:30】【支配者:30】
【血戦血闘:31】【高次詠唱術:23】【魔剣保持者:18】【侵食汚染:21】
【咎人:15】【業の目覚め:16】【剣聖:12】【聖者:11】【斬打突花:13】
【英雄喰い:10】
SP:25
どうやら侵食は順調に進んでいるらしい。ただ、これだけ上昇してもまだ侵食率が18%程度の事を考えると、決定的な何かが足りていないのかもしれない。それが何かは解らないが、とりあえずは侵食率を抑えながら自分の修行を繰り返し、カリウスを殺すだけの実力を付けないといけない。現状、カルマによれば、ダイゴ、リーザ、そして自分三人がかりでもカリウスには絶対勝てないという判定が出ている。となるとできる事は修行しかない。だからひたすら鍛錬を朝から重ねている。
―――レジスタンス拠点へと移動してから一日が経過している。
ここへと移動してからちょっとした騒ぎが色々と発生している。まず最初に大量に現れたプレイヤー達の宿舎を用意しなくてはいけない事、他には有名プレイヤーやトッププレイヤーに接触しようとする事で起きる混乱、そして大炎上しているスレやWIKIの様子の確認と、一気に色々と起きている。だが、プレイヤー達を最も大きく揺るがしたのはそんな事ではない。
運営からの通達だった。
―――ゲーム内クロックを加速させ、外と中での時間の流れを変える、というものだった。
なんでもこれで現実とゲーム内での時間の流れは変わり、外の、リアルでの一時間が此方の世界における三時間にまで変更されるとか。こんな事が最初から出来るのであれば、やれよとも声が多くスレや公式の掲示板へと叩きつけられるが、公式から返ってくる解答は全裸のGMが踊っている悪夢だけだった。
そんな事もあり、この世界、このゲーム、Endless Sphere Onlineは色々と変化を見せていた。コロセロスの脱出から色々と変わって来た事を自覚しつつも、右手を出して皮膚に刻んだダメージを回復し、自分にもそうやって治療を施す。魔法関係のスレはスキルや魔術の応用の幅が増えて非常に便利だと、常連になってしまう。
「しかし魔剣聖さんホント強いですね」
「たぶん現在の環境で一番強い”プレイヤー”である自信はあるよ。ある程度は相性無視して戦えるし、魔術戦も近接戦も均等に行える。経験で言えばダントツで保有しているつもりもあるし、天才相手にも噛み殺せる自信はある」
「まぁ、俺でトッププレイヤーって評価だし、やっぱり魔剣聖さん最強プレイヤーかも」
「なおこんな俺でも一方的に殺してくるのが帝国十三将です」
「ホント上は魔境だな」
その言葉には激しく納得するしかない。ぶっちゃけ、カルマ=ヴァインの性能を考えればある程度の格上なら喰う事が可能なのだ。少なくともカルマの記憶、この感覚からすると上位スキルカンスト辺りのレベルであれば、一対一でギリギリ殺せるというだけの実力は発揮出来る様に感じる。そこまで来ると流石に当分動けなくなるぐらいには損耗するが、不可能ではない。逆に考えると、ロンはそのレベルを超えているし、カリウスは遥かに手が届かないレベルに到達している。殺すなら相応の下準備を行わないといけない。そういう事になってくるのだろう。
そんな事を考えながら休憩を入れようとすると、此方へと走ってくる姿が見える。小さいその姿はミリアティーナのものだ。両手にはタオルと水筒が握られているのを見ると、試合後を見計らって持ってきてくれたのだろう。本当に良くできた子だと、軽く感心しつつ、しゃがんでやって来たミリアティーナからタオルと水筒を受け取る。
「ありがとうミリア」
「どーいたしまして!」
頭を撫でると物凄く喜ぶその姿を見て、トモが言う。
「なんというか……物凄い懐いているね」
「刷り込みみたいなものがあるんじゃないかなぁ? とは思う。俺以外には未だにビンタやキック繰り出すし、こいつ妙にステータスが高い感じがするんだよなぁ……」
水筒から流れ出す水を頭にかぶらせ、そして口の中に流し込んでからタオルで顔を拭く。魔法でも水を生み出せるには生み出せるが、その反動としてその周囲が乾いたりしてしまう。まぁ、帝国の荒野ならともかく、こういう場所は水で溢れているからやっても問題はないだろう。だが環境によっては使う魔法に気を付けないと爆発したり、”属性が狂って”魔法災害が発生してしまう時だってある。ただやはり、こういう安定した環境だとそういう事を心配する必要はない。
「そう言えば魔剣聖さんはその子のステータス、確認した事あるの?」
「いや、この子元々は大人の姿で遺跡にガーディアンとして配置されててさ、危うく全滅しかけたクラスだから確かめるのが恐ろしくて―――」
「あぁうん。気持ちは解る。ウチのテイマーもそんな風に遺跡守護者のテイミングに成功して、そのステータスとかを確認したときは驚いたよ。でも、まぁ、戦力になるし確認しておいた方がいいんじゃないかな」
「戦力……」
ミリアティーナを見る。向けられた視線に対して笑みを浮かべながら首を傾げる姿は生まれたばかりのひな鳥を思い出す様な姿だ。それに年齢は大体七、八歳程度。このぐらいの年齢の少女に戦闘を任せてもいいのだろうか、なんて思う事はある。だけど、今まで彼女のステータスを確認しなかったのは確かに、怠慢だったかもしれない。しゃがんで、ミリアティーナと視線を合わせ、彼女のステータスを見たいから見せてくれないか、と頼んでみる。
「いいよー」
そう言って、ミリアティーナがステータスを表示してくれる。それを即座に後悔する。
名前:ミリアティーナ
ステータス
筋力:83(-30)
体力:79(-30)
敏捷:80(-30)
器用:76(-30)
魔力:87(-30)
幸運:77(-30)
装備スキル
【幼呪退行:79】【制限覚醒:71】【死神:67】【斬殺界:51】【魂破壊:59】
【原罪:69】【信仰狩り:63】【背神:40】【神格位:12】【拷問耐性:60】
【時流刻眼:67】【死行者:38】【英雄喰い:87】【殺戮芸術:43】【堕天使:81】
「強いとかそういう問題を超えている件」
「【幼呪退行】って呪いジャンルなんだ……というか思いっきり呪いでこんな姿になってるんじゃん!」
ステータスに弱体化、というよりは制限が乗っているのは呪いから来るものなのだろう。俺を入れても、滅茶苦茶強い。今更ながらミリアティーナにあの時勝てたのは軽い奇跡だったのだろうな、と思い知らされる。しかしスキル内容がかなり物騒だ。これでもし、ミリアティーナの呪いがなくてフルスペックで戦えるとすれば、
『あ、それでもあのカリウスって男には勝てないわよ。遠目で確認した限り、数値的には九十代から九十代後半ぐらいある上に、まだまだ鍛えているっぽいし。ミリアちゃん一人ぶつけたらバラバラにされて終わりじゃないかしら』
「帝国は化け物か」
個人戦力ではそれを上回る王国の方が遥かに恐ろしい気もするが、ミリアティーナに感謝してステータスを閉じさせる。ついでに、絶対にほかの人にはステータスを表示しない様に言い含めておく。これを見てしまったら最後、欲しがったりする人間はいるだろうし、それが原因で無差別大量殺人が発生しても困る。勿論殺して回るのはミリアティーナの方だ。そこらへんの有象無象ではステータス差があっても、スキルの質の差で圧殺される未来しか見えない。まぁ、あまり子供には戦ってほしくないのだが。だからたぶん、戦場に出す様な事は今後もない。
「とりあえず、これは見なかったことで」
「う、うん。まぁ、子供を戦場に出すのはね……」
ミリアティーナが首を傾げるが、その頭を軽く撫でて、満足させておく。それだけで幸せそうな表情を浮かべるミリアティーナだが、一体何故、彼女はここまで自分を慕ってくれているのだろうか? それが若干気になる所ではあるのだ。なにせ、彼女が自分を慕う理由がカルマ=ヴァインにあるとしたら、人一倍カルマに蹴りを入れる理由などが解らない。色々と、この娘に関しても謎が残る部分がある。そこらへん、発掘できればいいのだが。
そんな事を思っていると、おーい、という声がする。
視線を空の方へと向ければ、大きな鷹の様な動物の背に乗ったマント姿の男が見える。一気に近づいて来た彼は鷹の背から飛び降りて目の前に着地する。彼こそが聖剣使い、トモと共にパーティーを組んでいるテイマーの男だ。眼鏡をかけた彼は此方とトモへと視線を向けると、
「会議室の方で色々と話す事があるから、集まって欲しいだってさ。乗せてくよ」
そう言ってテイマーが背後の鷹を指差すが、それよりも早く両手で印を組み終わる。
「いや、短距離なら俺の方が早い」
大地を貫いて白虎が出現する。片手でミリアティーナを抱きあげながら跳躍すると、白虎が飛び上った此方の姿を迎える様に接近し、背に乗せる。トモへも手を伸ばし、掴んだそれを一気に引き上げれば、飛び乗る様に背へと回る。それで準備が完了し、バスよりも大きな聖獣の背中に全員が乗った所で、一瞬で風を砕く様な速度の加速を得て白虎が走り出す。
召喚時間、装備、調整、安定性という点ではテイマーは秀でているだろうが、
圧倒的な、暴力的なまでの力。それだけでは召喚師の領域だった。
◆
レジスタンスの拠点となっているこの村、その本部とも言える施設は地下に存在する。地上部分は完全なブラフであり、破壊されても再建築がしやすい様になっている。その為、地上部分はテントやログハウス風の建造物が多い。破壊されても立て直しやすく、何時でも撤収できるというスタイルの場所だ。ただ、この地下だけは違う。元々ここに存在した遺跡を完全に改造したものらしく、防衛機能まで備えているらしい。入口も入口でカモフラージュされており、正直そこに入口があると知らなければ、全く解らなかったところだろう。
白虎から降りて入口である土の中へと沈むと、一切汚れる事無く地下本部に入る事が出来る。壁が鉄だったりとかなり近代的な内装を見せているこの地下本部だが、セキュリティの他にはちゃんと哨戒の人間も存在している。そういう人たちの横を抜けながら階段を下り、更に深い場所へと移動し、
作戦会議室へと到着する。
扉を軽くノックして開けた向こう側には大きなテーブルを中央に置いて部屋が存在しており、それなりに多くの人間を収容できるようになっている。そこには既にエドガーや見た事のない人間が数人おり、部屋の一番奥、黒板の前には軍服姿の女が立っている。赤に銀色のグラデーションの長髪を持つ、不思議な髪色の女は両手で胸を抱える様に組み、此方が入ってくるのに気付くと来たか、と声を零す。
「卿らで最後です。そこに座ると良いでしょう」
長髪を軽く揺らしながら彼女は席の二つを指差し、そこにトモと一緒に、並んで座る事とする。
作戦会議室には自分以外に幾つか、見知った顔がある。まずはエドガーであり、そしてプレイヤー達の姿だ。パーティーのリーダー格、昨日情報の整理と音頭を取ったマルクスなんかもいる。それ以外で自分が知っているのは、リーザの存在だ。此方を目撃した彼女は手を軽く振ってくるので、手を振り返す。
なお、勿論ミリアティーナを預ける機会を逃してしまった為、彼女も一緒にいる。その為、視線は自分に集まっているような気もする。それをガン無視し、視線を黒板前の女軍人へと向ける。黒色の軍服姿の女は軽く咳払いで視線を集め、赤と銀の混じった髪を軽く撫でてから、視線が集まったのを確認し、口を開く。
「私の事を知らぬ者も多いだろうので、故に最初に自己紹介をさせて貰いましょう。キャロライナ・リヒテン・アザト、穏健派レジスタンスで軍師、或いは参謀をさせて貰っている者です。昨日卿らが経験した作戦は私の発案となっています。もし責める相手が欲しいのであれば殿下ではなく私へと向けて欲しい。皇家の中でも特にまともな皇子に死なれるとこの先、帝国が暗黒の時代を迎えなくてはならなくなるので、どうしてもというのなら我が身を差し出す覚悟もありますが―――」
「そういうのはどうでもいいから、さっさと軍議の方に入ってくれ」
「感謝します、利用された立場でありながらその寛容さは尊敬に値すするものだと思います」
「ただ全部終わったら腹パン一発は入れさせてもらう」
「……手加減してくれるよね」
「ない」
「ぼくたちともだち……」
「殿下、拳の一撃で許されるというのですから、これは慈悲に感謝するべきです」
「なお殴るのはリーザである」
視線をリーザへと向けると、何時の間にか席から立ってシャドーボクシングを始めている姿のリーザが見える。その拳を加速した瞬間には目に捉えられなくなり、振るわれる度に風を殴る轟音が駆け抜けて行く。そこから腹パンのシャドーをリーザが始めるが、そこからどう見ても岩石や鋼鉄の壁を砕く様なイメージを取っている。人間なんかに喰らわせれば、上半身と下半身がさよならしてしまうだろう。
「イメージトレーニングは終わった。後は貫くのみ」
「殿下、遺書さえアレば後は適当な傀儡を立てますので」
「ソッコで見捨てないでよ軍師ィ! しかも立てられる傀儡っているの!?」
「いえ、まぁ、殿下の他にも過激派には二人いますので、どちらかを薬漬けにして洗脳すれば立派な傀儡になりますから……」
「すげぇ! 過激派ですらやりそうにない事を言い切ったよ!」
「まぁ、これはあくまでも最終手段でありますから」
つまり本当にどうしようもなくなったら、それを実行するだけの覚悟がある、とキャロライナは言っているのだ。軍師という職はそこらへん、ハードだと思う。彼、彼女たちは最善だけではなく最悪の状況を想定して常に戦い続けなければいけないのだから。彼らの戦場は戦う時ではなく、平和な時にこそある。平和な時に知恵をつけ、理解する事によって非常時でそれを利用する事が出来るのだ。ともあれ、場は軽い冗談と本気で温まった。
「それでは現状を説明させて貰う。そう難しいものではありません」
そう言ってキャロライナが黒板を叩くと、黒板の下に置いてあった複数のチョークが勝手に動き出し、黒板に絵と文字を描き始める。それは帝国のおおざっぱな地図の様にも見える。
「さて、新たな者が多いために改めて最初から説明させて貰いましょう。我々レジスタンスは元々一つの組織であった。陛下の横暴、独裁、或いは狂気に耐えられなかった者達の集い。それが組織となったのが始まりです。打倒皇帝、帝国の解放、政権交代。それを掲げたのがレジスタンスであり、多くに知られているレジスタンスの姿となっています。だがその実態はアレクサンリドア皇女率いる過激派、そしてエドガー皇子率いる穏健派と真っ二つに分かれています」
エドガーがそこで何時の間にか取り出したリュートをぽろろろーん、と引いて自分をアピールする。
「穏健派と過激派の違いは簡単です。過激派は基本的に一切の被害を考慮しない集団、帝国という国が最終的に救われるのであればその間の被害は一切考慮しない、そういう思想を元に活動しています。アレクサンドリア皇女は殿下と違って非常に優秀な人間ですからね―――おかげで思想の根本的な部分が陛下に似ています」
「どうせ俺は優秀じゃねーよぉ! コミュ能力だけだよー!」
「うっせぇ! 黙って会議を聞いてろよボンクラァ!」
「あ、すいません」
怒鳴り声に恐縮したエドガーが縮こまりながら黙る。
「戦力的な話になりますが、戦力的にはあちらの方が基本、優位になります。あちら側には”通り魔レスト”の様な準十三将級の戦力が揃っているのに対して、此方側で最も実力が高いのは良い所私ぐらいでしょう。正直戦力の差はどうしようもないので、どういう形であれ、戦力を補給できたのは喜ばしい事です。過激派レジスタンスとはぶつかる必要はなくても、あちらは間違いなく妨害する気はあるでしょうから」
「身内で殺しあいとかめんどくさいなぁ」
「身内から身内が離反して、そしてその離反した身内が自分たち同士で殺しあいを始めているのですから、これは皇帝陛下もまたニッコリするほかないでしょう。ともあれ、漸く待望の戦力の増強がなった事で、帝都と空中城の攻略へと向けて行動を開始する事が出来る様になりました。さて、ここまで軽く流す様に話しましたが、この先の活動以外の事で質問はありますか?」
そこですかさず質問を挟む姿がある。マルクスだ。
「えーと、キャロライナさん、質問しますけど、過激派と協調する事とかは不可能なんですか?」
「キャロで結構ですし、畏まる必要もありません。協調に関しては現状不可能だと思ってください。此方と彼方で相容れぬ思想が存在する限り、全く別の団体だと考えてください。ある程度ならお互いを無視する様にしていますが、先日の様に妨害の為、激しくぶつかる事もままあります。敵対関係ではありませんが、あまり良い関係でもありません。基本彼方の方が戦力は充実していますし、考えは悪くはありませんから」
一般人に犠牲を強いる。現代社会であればまず考えられない発想だが、この世界では違う。強者が絶対であり、そして国民は”資源”なのだ。それの消費を行うのは別に何も悪くはない。故に、選択肢としては悪くはないのだ。実際、この後の被害を考えると犠牲を出しても皇帝を殺したほうが被害が減るかもしれない。ただそれとは別に、それを許容できない人物もいるという事だ。
「んじゃ、俺からも質問だ」
プレイヤーらしき人物が軽く手を上げて質問する。
「穏健派でキャロさんが一番強いって話だけど、ぶっちゃけ強さとしてのレベルはどれぐらい?」
「その物腰からすると王国出身か、なら簡単に言えば団長クラスはあると思ってくれていいです。ただあくまでも戦えるだけで、直接的な戦闘能力はそこまで高くはないです。私の本分は直接戦う事ではなく、城攻めや砦の粉砕等にありますから。まぁ、千日手に引き込む程度なら可能です」
冒険者の視線が此方へと向けられるので、勝てないという意思を込めて頭を横へ振るう。
『んー、この感じ、彼女相当”炎”の属性に愛されているのかしら? 体内の力の流れからして仙術やルーンを通して肉体そのものを炎属性に近づける事ぐらいはやっているわねぇ。こういう子が妨害に入ると面倒なのよね。だからまぁ、一番最初に首を落としに行くんだけど』
お前時々物騒だよな、と心の中で呟き、他に質問がないのをキャロライナが確認する。
「ふむ、質問はこれぐらいですか。それではこれからについてを話したいと思います。と言ってもやる事は簡単です。空中城を攻略し、皇帝を討つために必要なものを揃える、それが私達がやるべき事です」
そう言って、キャロライナは魔石を取り出した。それはどこか見覚えのあるものであり、エドガーに視線を向ける事で思い出す。
「これは過激派の方で生み出した新たな魔石型の爆弾です。今回のテロ騒ぎで使用されるはずだったものを幾つか盗んで調べましたが―――」
そう言ってキャロライナは魔石を壁へと向かって放り投げる。起動された魔石は壁とぶつかり、黒い円を描きながら綺麗に遺跡の壁を抉りぬいた。
「見ての通り、この爆弾は属性、材質、硬度を無視して消滅効果を与えます。ある程度のテストをしましたが、まともに当てる事さえできれば皇帝でさえ間違いなく殺す事の出来る武器になります。問題なのはこれの量が足りず、そして空中城へと大量に運搬する方法がない事です」
ですが、とキャロライナは言葉を置く。
「つい先日、この問題が解決する事になりました」
キャロライナのその言葉に全員が耳を傾ける。
「知っての通り、帝国には”飛空艇”が存在します。今迄は発掘された浮遊機関の数だけしか存在しません、つまりは”高速船ガルダ”、”軍艦ルタレス”と”空中城”に存在する三つしかありません。ですが少し前にこの浮遊機関の劣化コピーが完成したそうで、それが複数の研究所で組み立てられているそうです」
そこまで話をすると、キャロライナの言いたい事は伝わってくる。
「我々で飛空艇を奪取します。これに大量の魔石爆弾を搭載し、空中城にぶつけて、結界諸共空中城を飲み込んで消し去ります。これで皇帝が殺せなかった場合、空中城から出てきた皇帝を殺すというチャンスを過激派が逃す理由はありません。おそらくは総力戦を以って皇帝へと相対してくれるでしょう。というわけで、最悪空中城だけでも地へと落とせば目的は達成できます。此方よりも戦力で優れる過激派が皇帝を倒せないのであれば―――」
そこでキャロライナは言葉を区切り、続ける。
「―――帝国内で皇帝を討伐できる存在はありません。王国が戦争で勝利する事を祈る必要があります」
「それほどの化け物か、帝国皇帝ってのは……」
誰かのつぶやきに対して、エドガーが答える。
「化け物ではないよ。父は―――陛下は”人間”なんだ。どうしようもなく人間という括りを守り、そしてその範囲で限界を求めた結果、限界が存在しないという結論に至っちゃった、それが陛下だよ。言葉では伝わらないかもしれないけど、こればかりは見れば解る。魂で、この人は誰よりも人間らしいと、そう思わされる。……あぁ、その果てにあるのは恭順か、拒絶なんだけど。俺みたいに器のちっさい男は基本拒絶してしまうのさ」
それ以外にも邪悪である、という事があるらしいが。
「とりあえず、これが基本的な方針になります。これから必要な細かい部分に関して説明を入れたい所ですが……そろそろ昼の時間ですね。一旦食事休憩を入れてから話を続けましょうか」
キャロライナの言葉と共に、作戦会議が一時中断を告げる。彼女の姿を見て思う。
キャロライナの方がどっかの王族や皇族よりもそういう風格があるなぁ、と。
赤銀軍服パイオツデカイチャンネー。属性過多のキャラが多いのがこのお話です。
どうせ みんな 修羅る
空中城をどうにかしない限りはまず戦う事すら出来ない、というのがレジスタンスの現状。残りは強者をどう処理するか、という所にもあるんでしょうが。ともあれ、レジスタンスの活躍はこれからだ!!
ようじょつおい




