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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
二章 帝国-闘技大会編
40/64

四十匹目

「……どうしよう」


 スレを見て、連絡を受けて、大体に今の動きは知っている。コロセロスにいる大量のプレイヤー達が打倒レジスタンスに燃え上がり、イベントの様にはしゃぎ始めているのも良く知ってる。おかげでコロセロス全体が更に騒がしくなっている。ただこんな状況になってくると、少々困る事がある。


 何をすればいいのかが解らない。


 予め言い訳をすれば、自分はそこまで頭が良くない。他よりも優秀に見えるのは、この世界を誰よりも理解し、そしてそれに上手く”乗って”いるからだ。こっちで覚えた事は基本的に体を動かす事ばかりだ。だから結構上手くいっている。これが考える事とかだったら、正直、自分には無理だ。そういうのは自分の領分ではない。というか考えるのは苦手だ。


 学校に通ったことがないし。


 だからどうするべきか、と、路地裏の中で考える。数時間前にフォウルが掲示板を、スレを通して援軍要請を行った。その結果、コロセロスにいた数百人のプレイヤーが一気にこの騒動に”イベント”として加わった。おかげで召喚術士を見つけ、そしてストーキング中の報告が各所で出ている。この大きな都市に対してたった数百人という規模でしか動けないのが少々不安だが、現状はこれが最上の方法だ。だからそう信じるしかない。ただ問題はここからどうやって動くかだ。ぶっちゃけ、自分には先の展開が見えない。


 こいつを殺せ、こいつを殺す為ならこう動く、というのは本能的に解るけど。


 リーザは言っていた、”殺す才能”というものを自分は持っているらしい。暗殺者や一級の戦士としては欲しい才能らしい。リーザが持っている、何でもかんでも関係なく飲み込んで学習し、自身に使いやすい様に成長を促す天賦の才とは違い、ひたすら相手を抹殺する事だけを得意とする才能。存在そのものが殺す事に特化している。だからそれから行動が離れれば離れる程苦手になって行く。


 だから索敵とかそういうのは苦手だったりする。必要な技術として覚えたが、それでも劣っているという自覚が自分にはある。だからと言って腐るわけでも、努力を止める訳でもない。最近はフォウルがむくむくと成長というか侵食されているせいで強くなっている。それでちょくちょく自分には焦りがある。それに関してはきっとダイゴも一緒だろうと思うし、自分が口にする事はない。


 想いは言葉にしてしまうと弱くなる気がするから。だからあまり口にしたいとは思えない。


 ともあれ、現状コロセロスは冒険者、つまりはプレイヤーで溢れている。もうほとんど彼らに任せてしまえばこの勝負は勝ったような状態だ。だから特別に何かをすればいい、というわけでもない。ただ帝国兵に指名手配されている状況は一切変わっていない。だから表に出たくても出られない。もう何度目か解らない、この路地裏での生活が再発生している。


 早く表に戻って、ケーキを食べたいのに。


「このまま……待機?」


 がベストかもしれない。明確にマークされている中で、自分が行動に移すのは余り良くない気がする。ここら辺、指示が欲しい所だけど自分に対して指示を出してくれるフォウルは牢屋の中で、馬鹿がそれに付き合ってしまっているから、そこらへんは期待できない。だから自分のやるべき事はこの路地裏で、逃げ込んできたレジスタンスの過激派を狩りだす事だ。まぁ、そんな事は早々はないと思っているが。一気に街に吐きだされたプレイヤーの事を考えると、もう既に狩り尽くされている可能性も―――。


「―――おいおい、どういう事だ。敵はたったの数人だったんじゃないのか?」


「エドガーって野郎を殺せばそれで計画には支障なしって筈だったんだが……」


「……」


 気配を殺して、路地裏に潜んでいたらレジスタンスらしき存在が壁の向こう側で話し合っていた。おかしい。歩けばフラグにぶつかるというのは自分じゃなくてフォウルの領分だ。自分はもっと大人しい感じだった筈だ。いや、考えてみればフォウルとずっと一緒なのでフラグ体質が移ったのかもしれない。そう考えると凄まじく悲劇的だ。


 責任を取って貰う為にデートにでも連れだそう。


 そう考えて感情も溜息も凍結させて跳躍する。この体は高速移動と立体的な動きにとことん特化している。一撃必殺一撃離脱。そういうスタイルであるために、リーザやダイゴの様にとことん戦い、常に警戒心を消さない生粋の武人には通じない。最近のフォウルも無意識的に完全迎撃の体勢が完了している為、奇襲が通じなくなっている。それでも、自分は乱戦という状態であれば輝く様に出来ている。そういう特化型なのだ。故にレンガ造りの壁を飛び越える動作は一瞬で、一回跳躍すると上で一回転する様に、頭を下に見せる様な状態で飛び越え、両足で着地する。


「あ―――」


 言葉を話させる前に一瞬で一番近くにいた男の首に人差し指と中指を突き刺す。貫通させない様に力加減しながら喉を潰しつつ金的を叩き込み、落ちてきた頭を掴んで壁に三度叩きつける。完全に意識が抜けるのを体が崩れ落ちそうになる姿を見つつ理解し、落ちるのを髪を掴んで阻止し、掴んだ髪、頭を残りの三人へと向ける。左手の指で瞼を無理やり開かさせ、抑える。


「両手を上げて降参すれば……気絶だけで済ませる……そうじゃない場合苛める」


「おい―――」


 目に指を入れて目玉を掴み、引っこ抜いて潰して捨てる。


「喋る事は許可してない」


「―――」


 相手が明確に黙り、そして動きを止めた。これで黙らないなら歯を五本ぐらい一気に引き抜く事を考えたりもしたのだが、その必要はなかったようだ。三人が全員、無言で両手を上げている。三人全員が震えているが、一人だけ隙を伺うかのように視線を周りへと向けている。掴んでいる男はそのまま、左手で腰のナイフベルトから投擲用ナイフを取り出し、それを隙を伺っている一人の足へと投擲し、突き刺す。


「がぁっ」


「質問。召喚師は」


 視線が今、ナイフの突き刺さった男へと向けられる。成程、これがテロの実行犯の一人か。そう判断した所でナイフを更に投擲し、手首、太もも、と立っていた二人へ突き刺す。そうやって逃げる事も干渉する事も出来ない様に無力化してから倒れた男へと近づき、


「クソが!」


 飛び上る様に襲い掛かって来た姿の顔面に膝蹴りを叩き込み、片手で喉を潰し、ナイフで両手の甲を突き刺して、フォウルの様に印が結べない様にする。ついでに動けない様に足の甲も数回突き刺し、喉をもう一度、念入りに潰してから手を握り、インベントリを表示させる動作を取る。そうやってインベントリから触媒らしきアイテムを全部取り出し、自分のインベントリに移す。本当は殺すのが最善なのだろうが、


「……ウチのパーティーで……今……殺人は……御法度だから……生かす……」


 返事は喉を潰しているのだから勿論返ってくるわけがない。ただ返ってくる恨みと殺意の視線を返答として受け取り、そのままその場から離れる。家と家、壁の間を抜ける様に移動し、すぐさま現場から離れる。戦闘音を発生させてはいないが、それでも気付かれる時は気付かれる。その為、戦闘後は直ぐに移動した方が良い。王国で習う狩りの初歩の初歩の初歩だ。人も、魔物も、結局は音と臭いに敏感なのだから、常にその二つを警戒すべし、だと。


 故にこれである程度は仕事が出来た、そう思いながら、


 ヤバイ、と思った。


 狭い空間を立体的に、高速に、音を立てずに移動している。それこそ速度に特化しているタイプの自分だからこそ出せる速度。後方、遅れる事無くついてきている気配がある。良く偽装されている気配だが、そこから感じる本能的な強さが、ミリアティーナという相手の戦闘経験を通して理解させられた強者特有の内包された狂気、それを臭いとして感じ取る。いや、ミリアティーナを通して覚えたんじゃない。おそらく原因はアレだ、


 カルマ=ヴァインだ。


 自分も、ダイゴも、リーザも、あの妙な魔剣を通して軽く干渉されているのだ。それを通して変な技能に目覚めてしまったのかもしれない。それはそれとして、後方には凄まじい気配を感じる。それを振り払う様に移動が難しく、そして自分の体格でギリギリ通れる様な空間を選んで逃走しているが、それを一切気に返す事なく相手は追いかけてきている。


「振り切れない」


 確定した。自分のトップスピードでもどうしようもない。なら即座に迎撃か妨害に移るべきなのだろうが、それが出来るほど自分の実力が匹敵するようには思えないのだ。少なくともそれだけの隔絶された実力差を感じる。つまりは詰み、ジ・エンド。こういう時はフォウルの様な透過能力が欲しくなってくる。アレは剣士というよりは暗殺者向けの能力なのだ。欲しかった。逃げやすいし。


「引き離す」


 理想は街の外へと相手を誘導する事だが、そこまで許してくれる相手の様には思えない。だったら最善は適当なところまで引き離し、


 ―――自爆する事だ。


 そうすれば情報は渡らないし、リアルを通してSMSでも送ればそれで情報を送る事が出来る。プレイヤー、という完全な死が存在しない立場だからこそ出来る戦術だ。予め、こういう状況を想定して爆薬や爆弾の類は常に自分のインベントリの中に入れてある。故にそれを取り出そうと考えた瞬間、


 臭いが一気に強まった。


「―――俺から逃げ続けた結果、貴様を敵と認識する」


 目の前に男の姿があった。いや、男だと解るのはそれが男の声をしているからだ。目の前にいるのはスリムで鋭利的なデザインの赤色の鎧の騎士だった。ただ騎士と呼べるのは鎧が若干禍々しいながらも装飾が施されている事実があるからだ。それを抜きにすれば相手が騎士であるとは気付けない。その瞬間移動の如く出現した姿に足を止め、スティレットを抜いて逆手に構える。


「レジスタンスか?」


「……」


「黙して語らずか。否、関係ないな。陛下がいる今、不穏な存在は皆殺しにするだけだ。―――死ね」


 あまりに横暴で、あまりにも暴力的だった。こいつは一体何を言っているのだ。普通、誰であってもそう思う。喋っている最中に既に予備動作を動くことなく完了させ、そしてトップスピードで拳が何時の間にか迫ってくる。喋りながらの正面からの不意打ち、奇襲。騎士道の欠片も存在しない様に思える行動だが、誰かを守る、目的を達成するという考えから来るのであれば、これ以上なく正しい選択だった。その動きは見るだけで遥かに格上の存在である事を実感させる動きだった。


 反応できない―――なんてことはなかった。


「かはっ―――」


 口から血を吐きだしながらも飛びのき、回避する事に成功した。その初動を見切った事が最大の原因だ。何故なら、


 こういう事、リーザなら普通にやってくるから。


 身内の誰かがやってくるから、知識にあり、目撃した経験がある。それが開幕での即死という結果を回避させ、ダメージを負いながら接近する事を選び、すれ違いざまにスティレットを鎧の隙間に通し、斬撃を通そうとするが、鎧が流れる様に動き、入り込んだ刃を掴んで折った。まるで最初から攻撃が来るのが解っていたかのような対応であり、


 武器を失うのと同時にボディブローが叩き込まれる。体を固めずに衝撃を外へと流す事でそれに乗って、体をわざと飛ばし、範囲外へと逃げようとするが、


 逃げる前に、衝撃が体から抜ける前に相手は接近していた。赤い鎧の悪魔は拳を叩き込んだ。


 叩き込む。


 叩き込む。


 叩き込む。


 叩き込む。


 一撃一撃で確実に骨を砕く、関節を砕く、急所を抉る、皮膚を抉る、肉を千切る、暴力という暴力を両の拳で表現していた。リーザの洗練されている暴力とはまた違っている。リーザのはひたすら効率的に敵を殺していくスタイルだ。拳一撃一撃がどうやって敵を殺すか、どうやって命を奪うか、どんな存在であろうと徹底的に殺せるかを追求する拳だった。だがこれはひたすら暴力でしかなかった。ルールや相手、技術やスキルなんて関係ない。ただただ暴力を拳に乗せて、


 一切の技術のない、暴力を叩き込んでくる。


「―――」


 あ、これ駄目な奴だ。それを理解する。どの行動を取っても何もする事が出来ない。それを理解しながら壁に叩きつけられる、ゆっくりと倒れる。もう動く事が物理的に不可能な此方の姿へ、赤い悪魔が近づいてくる。


「穏健派と過激派の争いか……下らんな」


 そう呟きながら素早く接近し、振るわれる拳を見た。



                  ◆



「酒を……酒をください……お願いします、故郷で俺が待っているんだ! 故郷の俺に酒を持って行ってやらないと……! 俺に酒を持って行ってやらないと、故郷のれおがぁぁ―――」


「故郷のお前ってなんだよ! お前ここにいるじゃねぇか!! しかも酒を飲みたいだけじゃないかよ! お前本格的にアル中になってんぞ、大丈夫かよ!」


「へへへ、アルコールの匂いだけでもう……」


「こいつやべぇ……!」


 そこで同時にダイゴと共に黙る。牢屋の外、地上の方へと耳を傾けるが、何も音は聞こえない。魔法的なものなのか、それとも仕掛けでそうなのか、魔力を感じられないし、それに気配もない。牢屋ではやる事がないため、こうやって茶番を繰り返したりして時間を潰していたが、ノってくれるのは友人のダイゴだけだ。看守なんて存在しないから新しい話題もない。物凄く暇だ。もう脱獄してやろうか、なんて事を考える。


「暇だな」


「だなぁ。さっきからスレが大炎上していて腹筋が痛いけどな。過激派に所属しているプレイヤーが情報を攪乱する為にこっち側のスレに乗り込んでテロって来るのに対してレジスタンス総合版に突撃して爆撃、スレが大炎上起こしてクッソ愉快な事になってるわ。タイミング的にコロセロスの外のプレイヤーは絶対に間に合わないからな。俺達がリードしている分、情報を抑えさせたくなくてこんな事やってるんだろうなあ―――まぁ、どうせ専用板かパス付きの板にそれぞれ分かれて重要な事はやってるんだろうけどさ、炎上をしているのを見る分にはクッソ楽しいわ。酒のも」


「手枷は」


「足刀で斬った。足で無刀返しされるのを見て、別に手でこだわる必要ないよなぁ、って気づいたら出来たわ」


「お前も人の事言えないぐらいに色々とぶっ飛んでるよな」


 そこで一旦黙る。もう一度聞き耳し、気配を探る。同時にカルマに上の状況を問う。今、上の方はどうなっているのか、と。魔剣とある程度は独立している彼女であれば観察できるはずなのだ。というわけでカルマに馬車馬の如く働く様に指示する。


『あーん、お姉さんの扱いが段々雑になってくー』


 どうでもいいから働いてほしい。というか働け。


『はいはい―――ってあら、全員焦った様子で出て行っちゃったわね。チャンスね』


「はーい、上が空っぽで出払った様なので脱走しまーす」


「いえーい! ―――っていいのか? 脱走したら増々レジスタンスの疑いが強くなるぜ?」


 手元にカルマ=ヴァインを召喚し、それを長剣状態で牢屋を切り裂く。再び短剣に戻して装着しつつ、自分の考えをダイゴに話す。


「いや、俺牢屋にぶち込まれてからもう何時間経過してると思ってるんだよ。深夜にぶち込まれてからえーと、今何時だ? 十一時か。とりあえず何時間も待たされているのに事情聴取も何もされてねぇからな。これ、疑いってのは名目だけでなんか半ば確定している流れっぽいし―――」


「脱獄して街を出た方がいい、って事か。ヒャッハー! 脱獄だぁー! やりたかったんだよなぁ、一度ぐらい」


 粉砕されるような音と共に、横の牢屋からダイゴが出現する。歪んだ鉄格子を見れば、この男が純粋な暴力だけでこの牢屋を突破したのが解る。こいつ、正気かよ、と疑うが、正気があるかどうか最初から疑わしい人間だったので問題ないなと判断し、地下から地上へと上がる階段を上る。カルマが報告した通り、詰所には一切兵士の姿がない。ついでに地上に出たところで魔力も復活する。とはいえ、どうやら感じないのではなく、空っぽの状態だったようで、少しずつ回復している、という状態だが。


「爆破工作すっか?」


 ダイゴのそんな声を聴きながら取り上げられた装備を回収し、装備し直しながら言葉を返す。


「本格的にテロ屋になるからやーめーろーよー」


 そう言った直後、爆発の音が響いた。視線を街の奥へと向ければ。そこでは煙が上がっているのが見える。それがテロによるものであると、考えなくても理解が出来るだろう。うわぁ。と声を零しながらその光景を眺め、


「派手にやってんなぁ……」


 呟いた直後、プロテクターに包まれた帝国兵の姿が宙を舞う様に吹き飛ばされ、店や家へと突き刺さる。一瞬で蹴散らされたと解るその姿を追いかける様に、家屋を飛び越えてリーザが回転しながら目の前の大地に片手をついて着地する。その姿は此方を捉えると、片手を上げて挨拶をしながらも、


「―――ニグレドが殺られたわ。犯人は十三将のカリウスよ。とりあえずロンをぶつけてきたから時間稼げてるけどアイツでも長く持たないかも。相手は十三将のカリウスだし。まぁ、ロンなら逃げるぐらいなら出来るだろうからそれはいいとして、私達全員レジスタンスとして完全にマークされているから、脱出しないとヤバイわよ。あ、後これ返すね」


 捲し立てる様に情報を吐きだしたリーザは背中にしがみ付いていたミリアティーナを剥がし、それを此方へと渡してくる。此方へと抱き着いて来たミリアティーナは即座に背中へ回ると、首に手を回してしがみつく。戦闘を邪魔しないように配慮しているのだろうが、その迷いのない動きを見ていると、大人の頃の戦闘経験というか判断力、実は残ってるんじゃないか? とは思う。というか、待て、


「ニグレドが殺されたってマジかよ」


「死体は確認したわ。弔い合戦はあとにするとして、今は離脱よ。生きていれば復讐もできるし」


 薄情かもしれないが、その判断は正しい。ニグレドはプレイヤーで、死から蘇る事が出来るその事を考え得るのであれば、また後日にニグレドを回収すればそれでいい話だ。死亡中のプレイヤーに関しては”NPCから認識され辛い”存在になる為、気にされなくなる。簡単に言えば蘇るまでの間、記憶から消えているようなものだ。リーザの様に親しいNPC以外からは。リーザの態度が淡白なのはただ単純に、


 王国の教育方針で、死は引きずる者ではなく、報いるものであるという考えから来ているだけだ。


 仲間が死んだらその死を背負い、その分結果を出す事で弔え―――それだけの話だ。


 つまりはここから逃げ出すのが最善策だが、問題は”どこへ”という一点に集中する。


「国外?」


「関所や街にここまで騒ぎを起こせば手配されるだろう。そもそも仕組まれているかの様に俺達のレジスタンス認定が早すぎるんだよ。普通、レジスタンスとやりあっても即座に穏健派と過激派の争いって認識されるわけないだろ―――」


 砲撃が十連続で空間を粉砕する音、斬撃が切断する様な金属音が連続で響き、コロセロスの一角が吹き飛ぶ。その方角へと無言で視線を向け、そこがリーザがやって来た方角、つまりはカリウスなる存在と、ロンが戦っている方角だと察する。もはや状況はテロとかなんとか、言っていられるような状況ではない。アレに巻き込まれでもしたら即死する。直感的に相手の実力を察し、そして逃げるべき道を考える。と言っても、逃げ道は極端に少ない。まず、帝国兵と完全に敵対してしまっている事がいけない。


 帝国とは戦いたくないから牢屋の中でおとなしくしていたが、リーザが言うには完全にレジスタンス扱いされてしまっている為、大人しくしているだけ無駄である事は確かだ。こうなると一番いいのは帝国兵の少ない街へと逃げるか、国外へと抜ける事だ。ただ、国外へと行くのは非常に非現実的だと思える。何せ、国外へと抜けるには転移をしないといけない。そうじゃないと一ヶ月かけて移動するハメになる。


 割かし状況は悪い。それを理解しつつ素早く考えようとすると、


「―――お、そろそろ助けにこようかと思ったけどもう脱獄してたか。流石だな」


 投げかけられた声に、視線を持ち上げて向ければ、そこにはエドガーの姿があった。そう言えばこいつはニグレドと一緒にいたはずなのだが、何故こんなところにいるのだろうか。


 しかもその背後に武装した人間を数人つれるような形で。反射的に大剣状態へと移行し、構え、リーザとダイゴも構える。だがそれに対してエドガーは両手を前に出して振る。


「いや、待て待て待て待て! 戦う気はない! 戦う気はないってば! 寧ろ逆だよ逆! 俺は芸術家肌、というか才能が全フリそっち系統なんだから戦えないんだから、勘弁してくれよ。ほら、武器を下げてくれよ。そんな物騒な視線を向けないでくれよ。今まで黙っていたのは謝るからさ」


 エドガーが今までとは一切変わる事のない口調、態度で接してくるが、警戒心は残っている。ここでこいつに隙を見せてはいけない。戦闘的な意味ではなく、思考的な意味でだ。今迄は完全に舐めていたが、この男―――おそらく俺達よりも遥かに賢い。そう感じる。故に直感的に閃いたことを尋ねる。


「―――この状況を作ったのは、お前だな?」


「おう正解! っつーか、ウチの軍師な。馬鹿どもの力を削る方法があるって言われてな、実行してみたらこんな感じよ。騙す形に成っちまったけど悪いな。その代わりに身柄の安全をバカ騒ぎに参加している仲間共々確保するからそれで許してくれ」


 悪びれる事もなく、エドガーはそう言い切った。そしてその言葉で、エドガーがどういう存在か、どういう立場にいる人物なのかを大体理解する事が出来た。


 こいつは、


「―――改めて名乗らせてもらうぜ。エドガー・ウィティカ・ケラム・ケルスト。反帝国勢力”レジスタンス”の穏健派所属幹部で帝国の第三皇子なんて立場を兼任させて貰っているぜ。どうよ、驚いた―――」


 言い切る前にローキックと腹パンと膝蹴りがエドガーに叩き込まれ、その場でエドガーが崩れ落ちる。護衛らしき男たちはそれに即座に反応するが、エドガーが手を出して待て、とストップを入れる。


「よ、容赦がない!」


「そらぁ、お前に騙されて巻き込まれたせいで仲間が一人死んでるから容赦ねぇのは当たり前だぶっ殺すぞこの野郎」


「あー……そうか、彼女死んでしまったか。まぁ、カリウスがここに来ている事を考えればアイツが原因か? 仕方がない……で済ませたら流石にキレるよな。いや、まぁ、本当に申し訳ないとは思っているんだけど、こっちも切羽詰っているんだ。このまま恨むなら恨んで殺してくれて結構。ただし少しでも許してくれるって気持ちがあるなら、君と君の仲間を全員ウチの隠れ家へと収容する訳だが……」


 仲間、というのはこの騒動に参加しているプレイヤー達の事を含むのだろう。それが出来るだけの材料が目の前にはあるのかもしれない。


 ―――ニグレドは蘇る事が出来る。


 それを判断の材料とし、ダイゴとリーザを見る。


「……死人より生きている人間よ」


「全部終わって安全確保したら殺すから」


「というわけで頼むわ」


「了解、合流地点があるからそれを君のお友達達に伝えてくれ。それが出来る方法があるんだろう?」


 リーザとは違って、エドガーは掲示板を理解しているような言葉を仄めかす。舌打ちしつつも、今回は完全にこいつの掌の上で踊るだけだったというのを理解し、


 速やかな撤収と逃亡の為に、情報をスレへと入力し始める。



                  ◆



 帝国へとやって来た。


 王国の頃から前進し、しっかり前を見据えているようで、


 未だに、本当は誰が敵かすら見えていない―――。

 というわけで帝国編の前編はこれで終了。ニグレドちゃんが顔面陥没して四肢がもげてミンチになりましたが、ヒロインが爆殺されたりミンチになるのは恒例行事なので元気です(半ギレ


 今回の事件の全体的な流れに関してはたぶん次回

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