三十八匹目
―――漸く深夜になった。
黒いインバネスコートの下に隠れている体を動かし、窓の外へと視線を向ける。満月が昇っているのが見える。周りにある光源は満月を除けば一切存在しない。魔石を利用したライト等が帝国には存在している為、現代に近い感覚で起きている人達が帝国には多い。故に完全に人が寝静まり、夜の闇が確たるものになるまでには、少々長い我慢が必要だった。それでも確認すれば、しっかりと人の気配も、姿も見えない完全な夜の姿がある。再び窓から離れて夜の闇に、影の中に隠れる様に体を動かす。
視線を動かせば、同じように闇の中にニグレド、そしてエドガーの姿もある。どちらも闇の中に隠れられる様に低く、そして闇色の服装を着ている。ニグレドはそのままだが、エドガーは黒い布を被っており、それで服装を誤魔化している。そこまで確認した所で軽く息を吐き、もう少しだけこのまま潜む事を続行する事にし、無言、消灯設定でステータスウィンドウを確認する。
名前:フォウル
ステータス
筋力:59
体力:64
敏捷:62
器用:65
魔力:64
幸運:45
装備スキル
【魔人:28】【創造者:27】【明鏡止水:29】【支配者:27】
【血戦血闘:30】【高次詠唱術:20】【魔剣保持者:17】【侵食汚染:20】
【咎人:15】【業の目覚め:14】【剣聖:11】【聖者:10】【斬打突花:10】
【英雄喰い:5】
SP:20
―――カルマ=ヴァイン経由のスキルの影響か、スキルやステータスの上昇が目覚ましい。下位の時と同じように成長しているような、そんな気がする。ロンと戦った結果だと考えても、それにしてはスキルレベルやステの上昇が1、多いような気がする。【魔剣保持者】のレベルが上昇している事を考えると、やはり最適化が進んでいるという事なのだろうか。また2%進んだ、この短期間でそう考えれば、かなり高い侵食率だと思う。たぶんだが、一回ガッツリと侵食させてしまった為に、それを通してパスみたいなものを形成させてしまったのかもしれない。
『まだまだ悲観するには早いわよぉ、そのうち思考もお姉さんそっくりになって悲観しづらくなるからね』
ひでぇってレベルじゃないな……。
口を開けて喋るのを回避する為に、脳内でカルマとくだらない事を話し合いながら時間を軽く潰し、再びステータスウィンドウを開いて時間を確認する。その作業を何度か繰り返し、気配と視線、人影や光がない事を確認してから口を開く。
「―――とりあえずは大丈夫そうだな」
闇の中から体を出すと、それを確認したニグレドとエドガーが出てくる。ここにリーザ、そしてダイゴの姿はない。二人とも隠密には向かない為、別行動を取ってもらっている。故にあの二人の事に関しては一度忘れる事にし、ニグレドとエドガーへと視線を向ける。闇の中から姿を現し、見やすくなった二人へと話しかける。
「とりあえず、状況説明を行う。……オーケイ?」
「おーけい」
「カマン」
ノリが良い二人に苦笑しながら、それじゃあ、と話し始める。
「今現在、俺達三人はこのコロセロスに入り込んでいるレジスタンスに狙われている。サキュバスが色々と搾り取って持ってきた情報によると、こいつらは”過激派”って言われるレジスタンスの一派だ。こいつらのスタンスは実に簡単で、”どれだけ屍を築こうと絶対に皇帝を殺す”って連中だ。物凄いキチガイの様に思えるけど、これから戦争が始まる事を考えると街一つで救える命の数はかなり多い、というか数字の桁が圧倒的に違う。だから一概に否定できる訳じゃないが―――」
そこでニグレドとエドガーを見る。
「巻き込まれるのは……勘弁」
「やるなら知らない場所でやって欲しいって所だね」
「と、言うわけで、死にたくないので妨害します。マジで妨害します。作戦がバレてるって事で俺達三人は最優先排除対象、それ以外にも情報をぶっこ抜いたので殺意マシマシのターミネイトモードに入ってるので、現状普通に歩いたら召喚テロを喰らう事間違いなし」
今はコロセロスの住宅街にある廃屋を使わせてもらっている。戦闘が終わってからは何度か場所を入れ替えながらも、監視の目や捜索から逃れる為に移動し、通り過ぎたのを確認して戻ってきている。一度探索した所はまた探しに来ないのは良くある事だ。相手が馬鹿であって助かった。そんな事もあって、今いる環境はあんまり、良くない。それでもできる事はやらなくてはならない。
「既にエドガーが作戦を警備兵にゲロってるけど、どうやら話が突飛すぎて信じられていないっぽいので、ぶっちゃけ持ち込むのは無駄っぽいので、全部俺達で解決しなきゃいけない様です。やったね、デスマーチが見えるよ!! ―――とまぁ、冗談はここまでにして、連中の計画をバラすと」
それは、
「―――召喚術による魔石爆弾の一斉召喚。特殊な魔石を加工する事によって爆弾とするんだが、それをある加工法を通す事で爆発した範囲が”消失する”らしいんだ。この現象、問題は質量だけであって物質の強度とかは一切関係ないから、これでを街が吹き飛ぶ規模で使えば絶対に皇帝を殺せる、って算段らしい。まぁ、本当にそれがスペック通りなら、って話になるんだけど」
「召喚術でそんな事は可能なのかい?」
「可能です。っつーか器物召喚は基本的な事だしな。マーキングか、或いは指定した物品を自分の元へと召喚するのはそう難しい事じゃない。問題なのは距離や量の方でな。この街全体を吹き飛ばすとなると、相当量の爆弾が、或いは超大型のが必要になる。サキュバスが吸い出してくれた奴は捨て駒だったのか契約の概要と、アジトと、そしてエドガーを始末するって事しか知らなかったわ」
「あぁ、アジトは見つけられたんだ」
まぁ、だからやる事は簡単だ。召喚術に対してはカウンターで召喚術を叩き込むのが基本だ。故に相手が器物召喚で爆弾を召喚した場合、此方で召喚カウンターを組んでおけば、爆弾を圏外まで弾き飛ばす事は出来るかもしれない。いや、バルドル―――ヤドリギ以外で殺す事の出来ない神を肉壁として召喚するというのもアリかもしれない。きっとバルドルなら、バルドルなら耐えてくれる筈だ。なにせバルドルなのだから。頑張れバルドル、コロセロスの未来はお前にかかっている。ミストルティン相手には即死するけど。
そんな事を考えていると、目の前にホロウィンドウが出現する。
『肉壁にするのは勘弁してください。あとヤドリギも勘弁。そしてファッキューロキ。ファック! ユー!』
「文面から強い殺意を感じる……バルドル肉壁作戦は駄目かぁ」
「神々を肉壁にするという発想を考え付いた人間は君が初めてだろうなぁ……」
「こう見えて四聖を暴走爆破させたり、召喚獣自爆テロの経験はあるから、意外と外道技術にも経験があるんだよなぁ、俺。今度なんか適当な神様を自爆させるか。皆大好きロキ辺りを魔力任せに無理やり召喚して自爆ダイブとかポップコーン片手に観戦したくなるような光景なんじゃないかな」
再び出現しそうなホロウィンドウを片手のチョップで叩き割る。地味にこっちは消灯設定でやりくりしているのに、光り輝いて迷惑極まりない。とりあえず、一通りネタを楽しんだところで深呼吸を繰り返し、落ち着く。
「っつーわけで、俺達ができる事は現状二つある。一つは逃げる事。ただこれはどう足掻いても無理だ。非人道的というか、流石に……ねぇ? まぁ、そんな訳で残された選択肢は戦う事。というかアジトを襲撃して、この街に入り込んだ召喚師を見つけて潰す事だわ。爆弾自体は街の中にないそうだし、召喚さえ防いじまえば後は逃げ切るだけでオッケーってな」
「事前に召喚できなくさせる事とかは出来ないのか?」
エドガーの真剣な質問にある、と即答する。
「―――太極陣を発動すれば一時的にその土地を支配してあらゆる干渉をシャットアウトできるよ。まぁ、相手との実力が離れすぎると意味がないんだけど、召喚妨害程度なら難なく行えると思うさ。ただこれ、俺が限界まで振り絞っても50メートルが範囲の限界だろうし、そっからだと両儀陣にも繋げられないから全くの無意味なんだよなぁ。それにそんな陣を街を飲み込む大きさで張ったら一瞬でバレてお縄だし」
「ズルは出来ないって事か。世の中厳しいね、どうも」
「そうだな。そして」
ホロウィンドウにたった今到着した内容を見せる。それはとある場所を撮影したスクリーンショット写真だ。この際、それをエドガーが正しく認識しているかは置いておき、
「―――此方が地獄の映像です」
◆
刀を振るう事で薄暗い空間に斬撃が走る。特別な力は乗っていない、ただの斬撃だ。だがそこには技巧がある。いや、技巧を込めている。それを常に意識している。そして意識するのを止めている。無意識の中で意識する様にしている。全ての剣術は基本に通じる。基本こそが動きの全てである。故に自分という存在に対して剣術を、基本を最適化させる。そうする事で全ての技術が基本に浸透している事を理解し、それを基礎として自分の体に組み込む。
これぞ鍛錬武錬なり。
「う、腕がぁ―――」
「お、悪いな。俺は手加減できるほど上手じゃないから殺さない程度にしか出来ねぇんだわ」
目の前で腕が斬り飛ばされて崩れ落ちる男の姿が見える。死んでないからセーフセーフ、と心の中で言い訳をしておく。実際、街を丸ごと吹き飛ばそうという連中相手に最低限命だけを保障しているのだから、これぐらいは良いだろうと思う。これ以上求めるのは贅沢だ。そう、リターンに対してリスクは当然の代償だ。それを忘れてはならない。つまりは簡単な話だ。目の前の連中は、街の住人というコスト、そして皇帝の命というリターンしか考えていない。それが個人的には腹立たしいのだ。
殺すのなら殺される覚悟をしろ。
理不尽を行うのであれば理不尽を向けられる覚悟をしろ。
ご都合主義が欲しいならご都合主義に破られる覚悟をしろ。
その程度。本当にその程度の、小さな話だ。ただそれが目の前の相手にはない。だから弱いのだ。覚悟するべき事が覚悟できていない。故に酷く脆い。支えとなる支柱がないから簡単な圧力に屈する。憐れ。情けない。なんとも嘆かわしい。現代社会へと戻ればそんな覚悟が自分にもないと?
だがここでは自分はダイゴだ―――死狂って一切の問題はない。故に死狂う。
だから刀を振るって斬る。
目の前で振るわれる斧に刀が食い込み、斬鉄しながら柄を握る指を切断して行き、刀が振りぬかれた。悲鳴が聞こえる中で、煩いと言いながら体を蹴り飛ばし、刀を捨てる。今の斬鉄で刃が軽く刃こぼれしたのを感じ取ったからだ。実戦における刀の運用で、刀を長い間使い続けられると考えてはいけない。そう教わった。
刀は消耗品であり、芸術品だ。
故に少しでも違和感を感じた場合捨て、そして新たな刀を腰の鞘から抜く。そうやって振るわれる槍を切り払いながら、返しの刃で両腕を切り落とす。あぁ、やっちまった、これ出血多量で死んでしまいそうだなぁ、と思うが、まだ腕のある仲間が近くにいるのだから助けてくれるだろう。切断は綺麗にやっているから魔法でもきっとくっつくだろうし。
つまり問題ない。戦闘続行。斬る、斬る、斬る。
刀を振るう度に血が舞い、腕か指が舞い、そして悲鳴が増える。同時に自分が受けた昼の傷跡が開く様な気もするが、それも良い。痛みは生きていることの証明だ。痛みのない戦いなんてあってはならない。つまりこれが正しい。
そして斬る。
そうやって、一心不乱に斬り続けた結果、もうそこには立っている者の姿は残っていない。誰もが床に倒れ、血を流し、呻きながら治療しようと蹲っていた。ここで殺さないと情報が広がってしまうが、生憎とそれはそれで構わない。妨害が入って作戦は中断、という形になるのもまた理想の形だ。使っていた刀を投げ捨て、インベントリから鞘に入った状態の刀を取り出し、肩に担ぐ。腰に残った鞘は全部一旦抜いて捨てて、そして視線を背後へ、
ワインセラーの奥にあった、地下型アジト内にいた十数人のレジスタンスはそうやって完全に沈黙する事になった。ここに侵入する時にパクって来たワインボトルを取り出し、コルクを噛んで抜き取り、一気にワインで喉を潤す。
「ま、相手が悪かったな。昼間は俺の相手がめっちゃ悪かったけど。無刀返しを足でやるとか柳生でもやらねぇよ……」
これだからこのファンタジー世界は素晴らしい。常識じゃ測れない様な事で溢れている。
「ま、妙な事は考えずに治療に専念すりゃあ死なないだろ。死んだら自己責任って事で」
そう言葉を置いて敵を背後に、歩き出す。セオリー通りであれば、アジトの奥には会議室が存在している。或いはボス部屋の様な部屋が存在する。そしてその予想通り、薄暗いアジトの大部屋を抜ければ、円形のテーブルの存在する会議室があった。その上には色々と資料らしきものが置いてあるが、そこからピンポイントで手記等を探し、インベントリの中へと放り込んで行く。経験的な話だが、重要な事は書類とかよりも忘れない様にメモしておくため、手記とかを確保した方が遥かに効率的な気がする。
という事で、手記を確保しつつ、出口へと向かって歩き始める。立ちはだかる様に一人が前に立つ。
「ま―――」
「言葉を通したきゃあ勝てよ。弱肉強食、シンプルだろ?」
喋らせる事なく横へと蹴り飛ばす。つまらないもん斬ったなぁ、何て嘆きながら通路を抜け、その先の階段を上がり、そしてワイン樽によって隠された扉からワインセラーへと出る。
そこから出て待ち構えるのは、レジスタンス数人の姿だ。
「あ」
「お」
「アジトから―――!?」
「あぁ、アイツを探していた連中が戻ってきた所かぁ」
そう呟きながら刀を素早く抜き、振り下ろしていた。
◆
「というわけで我が大親友であるダイゴくんにはちょっと陽動をしてもらっています」
「もう彼一人放置するだけでいいんじゃないかなぁ」
「無理」
ダイゴから送られた情報を共有し、エドガーの抱いた感想を即座にニグレドが否定する。そう、これでは無理だ。何せ、召喚術が胆となる作戦で、態々アジトなんて”危険”な場所に胆となる存在を置く訳がない。少なくともアジトという場所は隠れ家ではあるが、常に捜索されている場所でもある。拷問でもすれば情報を割る事はそう難しくはない。つまりアジトは割られることが前提で、複数個所保有しておくのがベスト。
俺だったらそうやって複数のアジトを用意しつつ、アジト以外の場所に置いておく。
たとえば普通にレストランで働かせるとか。その方がずっと自然でバレ難い。
つまり、アジトの人間は捨て駒、見せ札だ。これで召喚術を使える術者たちを無力化したと考えてはいけない。
「というわけで、これだけじゃ潰すのは無理だ。アジトは他にも複数あるだろうし。というわけで襲撃は完全にダイゴに任せます。というかその為のダイゴだし。んで、召喚術士の捜索に関してはリーザ……ウチのもう一人のパーティーメンバーな? が、ロンさん連れてやってくれてる。なんでも王族的直感パワーでそういうのを看破できるとか。王族ってなんだよ」
「仲間に恵まれているようだね」
「……まあね」
それは常々思っている。自分には勿体ない程の良い仲間達だと。ダイゴに関しては完全にリアルの付き合いがあるから何とも言えないが、ニグレドとリーザの出会いに関しては偶然のものだ。それでいてここまで仲良く出来ている、と考えると色々と奇跡に近いものを感じる。特にリーザが一国の王女だと考えると凄まじいものがあると思う。
―――王女だぞ、王女。普通に考えてなんでお前冒険者のパーティーにいるの。勇者パーティーでもないんだぞ。しかも殴り殺すのが特技だし。王族が笑顔でマウント取って顔面陥没するまで殴り殺すっていったいどんな教育を受けたのだろうか。教育というか”狂育”の様な気もしてくるが、きっと触れてはならない王国の闇の様な気がするので、触れるのをやめる。
とりあえず、重要な事は一つ―――召喚術を止める事だ。それで全てが上手く行く。アジト襲撃で囮のダイゴ、逃亡する事で囮になっている此方、これによって相手はダイゴを探すのと、そして此方を探す二チームを用意しなくてはならない。そしてそれで人員が削れているのを理解すれば、焦りとかが出てきてもおかしくはないだろう。少なくとも計画が破綻し始めている状態で、焦りも何にもなしというのは難しい。
そこをリーザとロンが二人揃って見つけ出し、潰す。いや、実際に潰すのはダイゴか此方の役割だ。リーザに関してはミリアティーナの相手をして貰いたい所もあるし、襲撃には参加せずに索敵のみに回ってもらう。彼女の勘の鋭さとスキルの強さは良く知っている。
だからこれでチェックメイト。後はそうやって隠れている召喚術士たちをあぶり出せばそれで完了。
「俺達は最後まで隠れ、潜んでいればそれで勝利って事になるのさ」
「結構賢いんだなぁ」
「いや、まあ、相当悩んだ結果でもあるんだけどねー」
ぶっちゃければ、自分の脳味噌ではこれぐらいの発想が限界だとも言える。自分が軍師や参謀の様な、戦闘の後の事や、長期的なビジョンを持てる様な存在ではない。なので、短期的な戦術しか組む事が出来ない。それにしたって、おそらくまともな教育を受けているリーザの方が組む事だって出来る。そう、リーザを舐めてはいけない。彼女は王族であり、ああいう振る舞いをしているが、それにふさわしい教育を受けている。
王国から帝国へと移動する間にキャラバンに詰まれた美術品を見る機会があった。それに関してリーザは製作者の特定や品質、状況や大凡の価値等を語る事が出来た。それは彼女が王城という場所で生まれ、育ち、そして得た教育を通して培った審美眼だ。それと同じように、多くの戦士と軍師、仙術や戦い方に触れてきた彼女はパーティーの中では誰よりも特化している、純粋な”戦士”なのだ。故におそらく、リーザの方がもっと上手い作戦を考える事が出来るだろう。
それでも此方にそういう考えを寄越すのは面倒なのと、キャラじゃないのと、そしておそらく彼女がそうしたいからなのだろうか。いや、しかし、改めて考える。頭脳労働を専門で行う存在が必要であると。今回は敵がハッキリしており、情報がちゃんと存在しているからこそどうにかなった。もっと強大で不透明な敵が相手だった場合、ハッキリ言って自分じゃ無能扱いなのもいいところだと思っている。
『お姉さんもどちらかというと脳筋属性だからねぇ、やっぱり参謀がいると物凄い便利よ? 一気に戦闘効率が上昇するもんだし』
そう言われるとやはり、軍師や参謀の存在がパーティーに欲しくなってくる。世界を見て回る、それとはまた別に軍師、或いは参謀、後方の指揮担当をパーティーに参加させる事を目標としようか、と考えておく。結局は仲間に相談して決める事なのだし、運が大きく絡む事なのだが、このままこのパーティーで活動するにはやっぱり、必須の人材だと思う。
―――悪魔に頼りすぎるとそれはそれで恐ろしいし。
そんな事を考えていると、ニグレドが何かに反応する様に窓の外へと視線を向ける。
それに合わせる様に視線を窓の外へと向ければ、此方へと向かって近づいてくる人影が見える。闇の中であるために中々相手の姿が見えないが、【魔人】の効果で自分の眼に暗視効果を与え、それで闇の中を歩いている存在を確認する。即座に戦闘を行えるように右手は柄へ、そして左手は印を組み、召喚術を即座に放てる状態に移行させておく。警戒態勢に移行しつつ窓の外から確認する人影、
それは四人の帝国兵だった。この世界での近未来風のプロテクターと魔導銃装備の姿は間違いなく、帝国兵の姿だ。その姿に安堵し、息を吐く。レジスタンスでなければ敵ではない。帝国とは敵対する理由はないし、している訳でもない。寧ろ今、レジスタンスの恐るべき計画を相手にしているのだから寧ろ感謝されるべきではないないのだろうか?
―――帝国だから横暴、というイメージは間違っている。
上がそうだから下まで腐っている、というのは間違った考え方だ。実際、兵士の多くは、特にこの時代、この世界は”腐っている余裕がない”のだ。環境が、そしてモンスターの殺意が高すぎる為、腐ればそれだけ死期が近づく。そういうわけで、特別帝国兵を警戒する必要はない。レジスタンスじゃなかったことに息を吐いていると、真っ直ぐこの廃屋へとやって来た帝国兵が、扉を叩く。
「どうする? 出るかい?」
「レジスタンスに狙われているって話した方が、今は有利になりそうだし、そうしよう」
どんな形であれ、帝国兵の保護を得られたのであれば、少しは此方に有利に動くだろう。そんな事を考えながら、ニグレドとエドガーを置いて先に隠れ場所から移動し、廃屋の入口へと移動する。影から気配もなく出現した此方に対して帝国兵がギョっとした表情を浮かべるが、その視線は此方の顔へと向けられ、
「あ、アンタ昼間闘技場で戦ってたやつじゃないか! アンタ運がなかったよなぁ、王国の副団長様が相手だなんて。まぁ、四回戦からはどこも似た様なレベルばかりだったらしいけどさ」
結構フランクな奴だった。軽く笑いながらそう話しかけてくるのに対し、軽く緊張を抜きながら言葉を返す。
「お、おう。見てくれたのか。なんかそりゃあ申し訳ないな。まぁ、来年があるなら来年こそは優勝目指したいと思うよ」
「おう、応援しているぜ……っと、職務を忘れる所だった」
と、そこで空気を切り替える様に話しかけてきた帝国兵が視線を真っ直ぐ此方へと向けてくる。
「こんな廃屋で一体何をやってるんだ?」
「あぁ、実は試合でダメージ受けただろ? アレから復帰してないのになんかレジスタンスが襲い掛かって来てさ、さっきまで逃げ回ってたんだよ。過激派だがなんだか知らないがけど、襲い掛かってくるのは体に響くからマジで止してもらいたい所―――」
「―――ふむ、良し」
チャキ、と音と共にライフルが首に突き付けられる。その動作にゆっくりと手を上げ、そしてそのまま動きを停止すると、帝国兵が二人、背後へと回って手を縛り始める。なんだこの展開、等と思っていると、話しかけてきた帝国兵が言う。
「冒険者フォウル、お前をテロの容疑で逮捕する」
えっ。
「まって、まだ街中に何もぶっぱしてない!」
「まだとはどういうことだ!!」
「ネタとノリだよ!! 察しろよ!! つか逮捕ってなんだよ!!」
ワザと声が響く様に大声で返答する。これだけ大声で叫べば、間違いなくエドガーとニグレドにも聞こえ、そして逃げ出してくれるだろう。両手が後ろで縛られ、そしてカルマ=ヴァインとファーレンの短剣が没収される。あー、と声を零しながら没収される装備を眺めていると、脳内で子牛が売られて行く歌をカルマが歌いだす。
やかましいわ。
『たーすーけーてー』
お前ワープできるだろ。
溜息を吐きながら大人しく捕まると、帝国兵が此方へと説明する。
「コロセロスの住人からお前がレジスタンスであり、テロを企てているという報告が入った。その証拠として昼間、街中に召喚攻撃を行った事が提出されている。あまり信じたくはない話だが、それでも実際に反応は検出されているから。一旦拘束させて貰う。悪いな、しかし無実の確認が取れれば釈放するから安心しろ。流れの冒険者がレジスタンスなんてまずありえないとは思うが、レジスタンス自体が王国から支援されているという噂もある。少し確認すれば済む筈だ」
「ういうい。ま、どうせ無実だしなぁ。大人しく連行されますよ」
そうやって表面上は平静を装いつつも、内心は別の事を考えている。
―――やられた、と。
「君の仲間には容疑はかかっている。隠し立てするとあまりいい事にはならないが―――」
「あー……今は皆、別行動なんだよなぁ……馬鹿は酒飲みに、馬鹿は知り合いと、あと汚い方のロリは常識に囚われないし、たぶんアクロバットしているんじゃないかなぁ」
「お前のパーティーメンバーはなんというか、実にユニークだな」
「言葉を選んでくれてありがとう、でもキチガイだって言ってもいいんだ」
おそらくはレジスタンス側に押し付けられたのだ、この兵の存在を。賢いやり方だと評価する半面、自分は全く動けなくなるし、帝国兵を頼る事も出来ない。
めんどくさい。
やはり、頭脳担当はこのパーティーの急務なのかもしれない。
そんな事を考えつつも、連行される。
頭脳担当はやっぱ必須だと思う今日この頃。
主人公、人生初の牢屋生活。経験したい事では全くない。ところでダイゴくんはアレ、天然です。




