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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
二章 帝国-闘技大会編
29/64

二十九匹目

 ―――カジノ。


 それは人の夢と希望と絶望の詰まった場所。賭け事は何時だって人を熱狂させ、そして堕落させる。数多くの遊戯が設置されているカジノではお金を賭けるのが当たり前であり、賭けようとしない人間もいずれはその熱狂に当てられるように賭けを始めてしまう。おそらく、カジノで必要なのは運ではない。その誘惑に抗う鋼鉄の精神なのだろう。だが全ての者がその精神を持てるわけではないのだ。故に短い熱に熱狂する。正気を失う。そしてお金を失う。


 ダーティーな運営をする必要は一切ない。この世で最も儲かり、そして人を破滅させるビジネスなのだから。それがカジノ。そういうものなのだが、


 カジノの正面に到着した時、入り口付近で倒れているダイゴとリーザとニグレドの姿があった。こいつら何やってんだろう、なんてことを思っていると、ダイゴが震える指で入り口近くの看板を指差す。そこにはドレスコードに関する事が書かれており、フォーマルな姿ではないと入場する事が出来ないと書いてあるのだ。つまり馬鹿三人は服装の問題で勝負を挑む段階にさえ入る事ができなかったのだ。


「お前ら当たり前な所で躓いていてクッソ恥ずかしくないの? カジノって富裕層向けだぞお前ら? そりゃあドレスコードがあるに決まってんだろ? もしかしてそんな事さえ解んなかった? 大丈夫? 寒さが脳にまで行っちゃった? ごめんね、俺まともな格好で。ばいばーい」


「ばいばーい」


「お先にー」


 ミリアティーナとカルマの言葉の追撃で誰も動かなくなり、そのまま三人をガン無視でカジノの前へとやってくる。入口でチェックを行っている人物は自分の服装を見て、笑顔でようこそ、と言って来る。その視線はミリアティーナにも向けられ、優しく微笑む。そしてそれがカルマへと向けられたところで、


「すいません、幽霊族の方々は入場禁止しております故に……」


「あ、でもお姉さんは―――」


 カルマが言い続ける前に、腰に装着している鞘からカルマ=ヴァインを抜き、それを未だ死んでいるかのように倒れている馬鹿三人の方へと投げる。かたんかたん、と音を立てながら転ぶその魔剣の姿を眺めてから言い笑顔でうなずき、ミリアティーナの片手を握る。


「そう言う事なんで」


「私にもギャンブルさせてぇ―――!!」


「ばいばい」


 ミリアティーナの容赦のない言葉がカルマにも突き刺さり、怨霊を置いてきぼりにしてカジノに入る。瞬間、光と音の爆発の様な感覚が体を抜けて行く。目の前に広がるのは光に輝くきらびやかなカジノの光景だ。フォーマルな服装に身を包んだ紳士淑女がカジノ内を歩き回り、賭けごとに興じている。感じる。カジノ中から絶対に勝つ、儲けてやる、そういう気配を強く感じる。


「ま、ギャンブルで身を滅ぼしたくないからほどほどにな?」


「うん!」


「良し来た」


 カジノへと入り、お金とチップの変換レートを調べる。最低で銀貨二十枚、という風になっている。チップ五枚であっさりと金貨一枚相当になる、と考えるとかなり高額だというのが解る。あまり、幸運ステータスは高くない。となると完全に運任せなギャンブルは手を出さない方がいいかもしれない。けど、いや、そんな事を考えていたらギャンブルは楽しめない。純粋にギャンブルをギャンブルとして楽しもう。そう思ってチップを三枚ほど変換し、それを元手にスロットへと向かう。


 これを軍資金にスロットを回す。まぁ、これでスってしまったなら運がなかったと諦めるだけの話だ。スロット台の前に座ったら、ミリアティーナを持ち上げて膝の上に乗せる。これがスロットだよー、と軽く遊び方を教えながらスロットを動かす。何だかんだでパチンコならリアルの方で経験があるのだ。この鍛えられた動体視力と組み合わせれば造作もない。そう思って挑み、


「……ありゃ」


 失敗した。リールが押した所で止めるタイプではなく、微妙に滑ってから止まるタイプだった。ジャストで止まるとやっぱり冒険者にカモられるからそういう風になっているのだろうか。まぁ、仕方がない、と苦笑する。それを見ていたミリアティーナが目を輝かせている。視線を此方へと向け、


「私も! 私もやる!」


「どうぞどうぞ」


 スロットマシンを起動させる。回転し始めるリールの姿に魅入られる様に目を輝かせると、一気にボタンを三連打する。子供らしいその姿に小さく苦笑していると、横一列に絵柄が揃っているのに気付いた。スロット下部の排出口からチップと交換できるコインが溢れ出てくる―――と言ってもレートを見る限り、全部で合わせてチップ十枚程度のコインだ。チップをお金へ、コインをお金へ、変換する事は出来ない。景品に交換したとしても、お金になるわけではないから、どう足掻いても損をしている事は確定なのだ。まぁ、それでも記念に何か景品を持って帰りたいという気持ちはある。


「まだやる?」


「うん!」


 どうやらミリアティーナの方が自分よりも運の女神に好かれているらしい。スロットは完全に彼女に任せるとして、あまりはしゃぎ過ぎないように気を付けながら、後ろからスロットを遊ぶミリアティーナの存在を支える。



                  ◆



 しばらくスロットを遊んでいると、勝ったり負けたりが続く。その結果トータルとして手元のチップが二十枚になる。価値で言えば金貨四枚分のチップだ。これだけ大金になると大分慎重になってくるわけだが、このチップはミリアティーナが稼いできたものだ。彼女の好きに使わせる事が一番だろう―――それにリアルに戻ればパチンコがあるし。


 そんな訳で、ミリアティーナがスロットに飽きたころを見計らい、スロットで遊ぶのをやめて、カジノ内を歩き回るのを始める。あちこちで騒ぎながら賭け事に熱中している人達の姿を見て、そしてそれに興味を持つミリアティーナに説明して行く。


「あれはあれは?」


「アレはね、ルーレットだよ。アレをクルクル回して、何処にボールが行くかを当てるんだよ。赤とか、黒とか。単騎賭けさえしなければ手堅く遊べるんだよなぁ、ルーレットって。でも何だかんだでディーラーの腕がいいとどこに行くのかをある程度調整できるし……これ以上言ったら睨まれるし止めておくか。とりあえず数字か色を当てるゲームだよ」


「じゃああれは!」


「あれはね―――」


 興味津々のミリアティーナを連れまわし、それぞれのギャンブルについて教えて行く。幸い、メジャーなものばかりで、難しいものはない。使うチップも一枚、或いは二枚という規模で賭けて行けば負けて減ってもトントンで済み、結局二十枚前後に戻ってくる。健全なギャンブルというやつだ―――ダイゴが間違いなく嫌がるタイプだろうが。アレはぱぁっとやってどばー、っと一気に楽しむ自己破滅系タイプ、絶対にギャンブルをやらせていけないタイプの人間だ。


 既に月末前にエロゲを大量購入してお金を借りたり、課金のし過ぎで食費を使いきった前例がある。アイツがカジノに入れなかったのはある意味幸福だったのかもしれない。そんな事を思いつつも、ミリアティーナに様々なギャンブルを遊ばせてあげる。本当はこんな事をしてはいけないのかもしれないが、情操教育の一環としてゴリ通す。



                  ◆



「楽しかった!」


「そうかそうか、そりゃあ良かった」


 最終的にチップは二十五枚になった。ミリアティーナも満足しているようだし、これ以上カジノにいる必要はない様に感じた。何よりもカジノにいる間、面白い話を耳にする事が出来たからだ。カジノとは人が、それも富裕層が多く集まる場だ。そこにいるだけで口の軽くなった人が漏らす言葉を耳にする事がある。例えば今も、椅子で座って休憩している合間にも近くからスーツ姿の男たちの会話が聞こえてくる。


「―――だそうですよ」


「なるほど、ヴァレルレアン砦がレジスタンスに落とされたか……ただアレは帝都からはかなり西方に位置する砦だぞ? アレを落とされたことで何か私達に意味があるのか? あの先にあるのは未開領域だけだぞ」


「馬鹿か貴様は。アレが未開領域に対する防波堤になっているんだ。アレがもしレジスタンスによって完全に放棄されたとなれば、もはや未開領域からの侵入者を見張る存在も、迎撃する存在もない。国内に攻め込まれたと思うとゾっとしないな」


「ふむ、これは皇帝陛下に素早い奪還を願うべきだろう。しかしレジスタンスめ、国を荒らすつもりか!」


「……ふむふむ、レジスタンスねぇ」


 新しいキーワード、”未開領域”というのが耳に入って来た。どうやら帝国の西には未開拓の領域が広がっているらしく、その先は壮絶な生態系が存在し、帝国や王国、聖国とは比べ物にならない程強力なモンスターが存在しているらしい。西の砦はそういうモンスターが入ってこない為に警戒する最前線であり、そこが襲撃されたらしい。そこをレジスタンスが放棄すればあっさりとモンスター達は砦を越えて侵入、帝国にその生息地を広げるとか。王国の方が殺意が高いと言ったな、


 アレは嘘だった。帝国も帝国で十分殺意の高い環境だった。この世は地獄か。


 しかし、帝国は黒い噂が絶えない。


 こうやってカジノで数時間歩き回ったり遊んでいるだけで、ドンドン不満の声などが入ってくるのだ。富裕層の人間は帝国が、いや、皇帝が所有している”処刑部隊”という部隊を非常に恐れている。不正を見つけたら弁明なしで即座に殺し、一族を処刑して消し去るという部隊だ。これが徹底的に富裕層の人間を調べ、そして探っているらしい。この部隊相手に懐柔や賄賂を送ろうとすれば、即座に処刑リストに名前が載る事らしく、どうにもならないと恐怖の部隊になっているとか。これが少し下の層になると、処刑部隊よりも日々の生活の方に恐怖が出てくる。


 帝国の国民にはある程度の税が課せられている。生きていけない程ではないが、生活がある程度苦しいレベルでの税らしい。あとは腐敗の元として幾つかの思想の弾圧、宗教の徹底否定等が行われているとか。まぁ、確かにそこまで来ると住みやすくはないな、と思う。遺跡からの遺物で科学力が潤い、一番進んでいると言われている帝国。


 聞いた話以上に住みにくそうな場所だった。


 それに”研究所”という施設が存在し、そこでは日夜人体実験も行われているとか。王国とは全く違う帝国の方向性。まるで水と油の様だ。帝国の話は聞けば聞く程、絶対に王国とは相いれられない―――ぶつかる事が確実な未来だというのが解る。実際、帝国軍は戦争の準備に入っているらしい。何時でも戦争を始められる、というわけではないが。帝国が王国との戦争を始める為、どうしても処理しなくてはならない問題がある。


 そう、レジスタンスだ。


 レジスタンスに参加しているのは帝国の将軍だった男、そして皇子が二人、皇女が一人。帝国が戦争を始めれば背後から食らいつき、そしてそのまま食い破る程度の力がある。過去にもレジスタンスが結成されることはあったが、現在ほど力を持ったことはないらしく、間違いなく戦争を始めれば帝都は落ちる。それが共通見解だった。故に現在、帝国における最重要対処事項はレジスタンスの存在だった。容赦のないゲリラ戦術で砦を襲撃し、そうやって兵力を削り、帝国の戦力を落として戦争への準備ができないようにする。ひたすらそれを繰り返しつつ占領の出来る砦は占領してしまう。


 これは勝手な予想だが、それが出来るのは間違いなくプレイヤーが増えてきたことが原因だと思っている。プレイヤーがレジスタンスに参加した事によって上位スキルを使用する事の出来る戦力が増えたのだ。この世界の住人は基本的に大半が下位スキルまでしか習得できない。それが才能の限界というものなのだから。だがプレイヤーというこの世界の基準で言うと最高の才能を持った存在が現れた事により、レジスタンスの戦力が潤ったのだ。おかげで今までやる事の出来なかった戦術や行動がとれるようになった。


「ふむ……意外とレジスタンスが優勢なのか……? こういうのは決まり的にレジスタンス劣勢で最後の最後で大勝利って奴だけど。まぁ、現実はそんなフィクションノベルの様ではないって事か。この世界自体がフィクションだけど―――ま、この国が予想以上に面倒だって事実が発覚したな」


 これは直感的なものだが、あまり帝国には長居しない方がいいだろう。戦争に巻き込まれる可能性が高いし、そして戦争に巻き込まれなくても確実にレジスタンスに巻き込まれる。どちらにしろ面倒な事だ。戦争、他国か内乱。その違いでしかない。間違いなく流血がすさまじい勢いで成される。ここはそういう場所なのだろう。あまりミリアティーナの教育に良くないなぁ、と思いつつ、


 カジノを出る準備を整える。手に入れたチップを景品交換所へと持って行き、何と交換ができるのかをチェックする。やはりチップ二十五枚程度ではそんないいものとは交換できない。ここは実用的なのは諦めて、記念になりそうなものを選ぶことにする。そうやって景品を眺めていると、ちょうど二十五枚で交換できるペンダントを発見する。


 正直に言えばアクセサリーの専門職人に素材持ち込みで頼めば四分の一の値段で作ってくれそうなのだが、それはそれ、これはこれ。こういうのは雰囲気とかが大事なのだ。ペンダントの先には小さな宝石が付いている。色からしておそらくサファイアあたりだろうか。そのペンダントをチップと交換し、そしてしゃがんでミリアティーナの首にかける。


「今日はミリアがいっぱい稼いだからな、思い出として大事に取っておくんだぞ」


「うん! ありがと!」


 純粋なロリに癒される。ニグレドは汚い方のロリなんでもう駄目だ。ロリは非合法に限る。


 そうやってカジノを満喫した所でミリアと手をつなぎ、カジノの外へと出る。大分散財してしまったが、情報料だと思えば安いものだろう。カジノの前にはバカ達の姿がいないのを確認し、おそらく宿かギルドの方へと向かったのだろうと当たりを付ける。しかし同時に、本日は自由行動でもある。となれば、バラバラに行動している可能性だって大いにある。そう思うと考えるのが大分めんどくさくなってきた。まぁ、今日は自由行動なのだ。適当にやらせてもらおう。


 カジノから出たところで手を振り上げると、手の中に白い長剣、魔剣カルマ=ヴァインが出現する。それと同時に出現する怨霊のカルマが顔をアップで迫らせて来る。


「ちょっと! 数時間放置はないでしょ!! お姉さん既に三回は売られたわよこの短い時間の間に!!」


「売りに出して再召喚したら儲けられそうだなぁ」


「犯罪だから止めよう」


 冗談だと言うと、安心したようにカルマは息を吐いて、そして視線をミリアティーナへと向け直す。そのままミリアティーナを相手し始めるが、肝心のミリアティーナ本人はどうやらカルマの事が好きじゃないらしく、近づいてくるカルマの顔面に拳や蹴りを叩き込んで行く。仮にも女の顔なのに容赦ないなぁ、とは思うけど幽霊だったら顔が崩れる事もないし顔面セーフか、という変な考えが浮かぶ。とりあえずその考えを頭から引きはがして、次に行くべき場所を決める。


「カルマ、ミリアと宿で留守番頼めるか?」


「うん? お姉さんは別に構わないけど、どこか行くのかしら?」


 あぁ、と答える。


「奴隷市場を見てくる」



                  ◆



 奴隷。


 現実世界であれば法律で禁止されている、他者を道具として扱って保有する制度。現実世界ではその考えがすたれて時間がたっている。どこか世紀末的な国へと行けばまだやっているかもしれないが、それでも現代社会では奴隷制度が”悪”であるという考えが存在する。故に奴隷制度に対する風は強く、存在する事は難しい。しっかりと人権が確立されている世界に奴隷に場所はないのだ。故に、


 帝国では存在できる。


 奴隷市場は比較的帝都の内側、大くエリアを取るように広がっている。奴隷市場と言われればオークション的なのを想像しがちだが、ここのはそういう形ではない。いや、確かに存在はするのだが、それは高級な奴隷に対して行う事だ。基本的な奴隷となるとそれぞれの奴隷商人が店先に奴隷を並べる風になっている。何人もの奴隷商人がそうやってそれぞれの店を構え、奴隷を売るマーケット、奴隷市場が出来上がる。


 そうやって並べられる奴隷の姿は多種多様である。


 翼を生やして天使族などの有翼人種が存在すれば、獣人や魔族も存在する。その種族は多種多様であり、明らかに帝国外で捕まえてきたような事を叫ぶ奴隷もいる。ただ帝国の法律では奴隷を認めている為、そういう事を叫んでも助けが来る事は永遠にないだろう。レジスタンスでさえ、態々帝都の奴隷市場を襲撃して警戒を強める事なんて愚は犯さないだろうし、彼らに救いはない。


 ただ奴隷の扱いが小説やゲームの様に酷いというわけではない。着ている服装は粗末である事は認めるが、その体を確認すれば真新しい傷はなかったり、清潔にしてあることが解る。奴隷商人たちも解っているのだ。奴隷たちは”商品”であるという事が。売られる先で何があるかは奴隷商人たちの関与する事ではないが、それでも奴隷たちは彼らの扱う品である。


 ショーケースに飾る商品はどれも綺麗に飾られ、そして傷がつかないように気を付けて維持されている。


 奴隷たちもそういう扱いを受けているのだ。着ているものはお約束的に粗末かもしれないが、少なくとも体は健康に見える。健康を保たれている。万全の状態で購入者へと引き渡せるように状態を維持しているのだ。だから奴隷市場にいる間の奴隷たちの扱いは悪くはないのだ。


 そんな情報を銀貨を兵士の一人に握らせる事で聞き出した。


「つっても、奴隷商人ってのは商品を大事にする代わり、売る時は容赦なく売るからな。ホモの変態野郎相手にだろうと金になるなら売る、そういう連中だ。奴隷の扱いがそこまで悪いからって甘く見ちゃいけねぇのさ。連中は金の亡者、そして奴隷は金を稼ぐことのできるビジネスだからな。カジノの方が儲け的には大きいけど、奴隷商売はその次に食い込む形で人気あるぜ。まぁ、奴隷は使い潰すもの、って認識が基本的だからな。奴隷の需要は帝国内からはなくならないのさ」


「へぇ、また凄まじいもんだな、帝国って」


「そりゃあな。我が皇帝陛下はどの国よりもキチガイで苛烈である事で有名ではあるさ。弾圧する事が人々の幸せにつながると信じている、って明言するぐらいにはな。ただその代わり、娯楽には凄まじく手を入れてるんだぜ? カジノもその一環だしな……そう言えば兄ちゃんは冒険者だったな。だったら闘技場へと向かうといいぜ。帝都から南へ徒歩で二日、馬車で半日行った所に闘技場を中心に広がった街がある。あそこには帝国からだけじゃなく、他国の酔狂もんが集まるぜ。それ以外にも剣奴達による殺しあいもやっているし。ま、個人的に帝国で一番楽しめる所だと思っているぜ」


「サンキュ、いいこと聞けたわ」


「これぐらいなら何時でもいいって事よ、へへへ」


 銀貨を更に数枚握らせ、財布が大分軽くなった事に嘆く。だが色々と面白い情報は聞けた。闘技場だ。間違いなくダイゴやリーザ辺りは興奮するであろう場所だし、個人的に実力やレベリングを行うという意味では一番いい場所ではないかと思う。帝国の周辺にいるモンスターは数が多いが、あまりにも手ごたえがなさすぎる。召喚術を使えば簡単何に滅ぼせるし、魔法でも殲滅する事が出来る。接近戦に持ち込むまでもないのだ。こうなると魔剣関係のスキルのトレーニングもできない。何だかんだでトッププレイヤーを戦闘力的には目指しているし、それは困る。


 となると強敵と戦える、闘技場にガンガン挑むのがベストではないかと思う。まぁ、闘技場のシステム次第なのだが、この話は持って帰れば間違いなく喜ばれると思う。カジノに入れなかった馬鹿共に多少の土産話を持って帰るのもいいだろう、と思う。それを考えつつも、


 奴隷市場を歩く。


「ふむふむ……奴隷つっても表に出てるのはあんまし高くねぇな。基本的に銀貨からが相場か。って事は本命はオークションとかの方に出品してるのかねぇ。まぁ、確かに表に出ている奴隷は―――」


 そこまで綺麗でも可愛くもないし、頼りになりそうとは思えない。言えば”普通”、と評価できる者ばかりが並んでいる。奴隷商人としてもいきなり綺麗だったり屈強な奴隷を売りたくはないのだろう。もしくはそれは既に予約が入っているとか、そんな感じではないのだろうか。そこまで奴隷に関するシステムは詳しくはない。だからあまりどうこう考えられたものじゃないが。


「こういうのは基本的に信用よ、信用。奴隷商人も割と危ない橋を渡っているから、ある程度取引を重ねて信用できる相手にしか特殊技能を保有した奴隷や、希少な種族の奴隷とかを出すのよ。基本的に天使族は美男美女揃いだから高いし、そういう意味ではエルフとかも人気ね。獣人とかは身体能力が優れているから何時の時代も労働力としての人気は高いって聞いているわねー」


「うぉっ!?」


 横からの声に驚けば、何時の間にか横にはカルマの姿があり、そして腰の鞘の中にはカルマ=ヴァインの姿があった。本当にこの魔剣、自重はするけど捨てる事は出来ないんだな、と呪われている実感を抱きながら、カルマへと視線を向ける。


「つかお前こんなところで何をしてるんだよ。ミリアはどうした」


「もう本当にパパって感じよね。ミリアちゃんならニグレドちゃんが帰って来たから任せたわよ。真のマスコットロリ決定戦でも今頃繰り広げているんじゃないかしら」


「一体誰が得するんだその戦いは」


「貴方じゃないかしら」


「ないわー。大艦巨砲主義だからなぁ」


「合掌」


 そこまでふざけたところで、カルマに聞く。


「結構詳しいんだな?」


「こう見えてお姉さんは元奴隷だからねぇ。まぁ、戦時中故致し方なし、という感じだけど。お姉さんの時代はモンスターの侵略と生存戦争と不作による飢餓でかつてない程のクライマックス状態だったのよ。自分から奴隷身分へと売り込んで、そこから帝国軍に奴隷兵として売られて、祖国を守る為に、そして生活の為に戦場へと向かうというのが珍しくなかったわ。だからその時に色々ね」


「なんでお前が今怨霊をやっているかそう聞くと凄い気になってくるわ」


「隠す様な事じゃないし別に構わないわよ? ただ語らなくてもどうせ理解しちゃうんだろうし、そんな事もする必要はないとお姉さん、思うなあ」


 魔剣カルマ=ヴァインの侵食の事だろう。確かにその効果が発揮されるなら、別に言葉で語り合わなくても記憶と経験が共有される。そうなれば言葉で語る必要はないだろう、彼女との間では。ただ、そう言うカルマの表情は笑っていても、その眼からはなんだか哀しみを感じる様な、そんな気がした。そんな風になる事がとてつもなく悲しい事であるかのように。


「で、話は変わるけど奴隷市場の社会見学はどんな感じかしら?」


「なんかイメージしてたのとは違う。俺が習った奴隷に関するアレコレはもっと虐げられている存在だったとか、そういう話ばっかりだわ。だけど見たり聞いたりしている限りそういうのはないし、まぁ、奴隷商売が予想していたのより遥かにクリーン、だって所ぐらいかな」


 改めて奴隷市場を見る。活気がかなりあるのは見ていてわかるし、一部の奴隷は自分から売り込む様な事だってやっている。これは過去のカルマみたいに自分から奴隷になる事を選んで連中だろう。奴隷となって売却されて初めてお金が入る仕組みなら、自分から売り込む気持ちもある程度は理解できる。ただ、自分の中で奴隷制度は悪事である、という現代の教育が残っているせいでとてもだが手を出そうとは思わないが。


「ま、個人的には奴隷よりも闘技場の方が興味あるな。奴隷とか購入してもどうしようもないしな。養うだけの金があるわけでもないし、他人の命とか背負うのはちょっと……」


「まぁ、そんなもんよね。基本的に貴族向けよ、貴族向け」


 そんな訳で奴隷に関しては完全に興味を失った。何せこれ以上はどうしようもない事なのだから。自分でどうにかする訳でも、購入する訳でもないなら興味に関してはその程度で終わってしまう話だ。まぁ、所詮は他人事だ。正義の味方ではないのだ、奴隷解放頑張るぞー! という風には行かない。興味もない。それよりも重要な事がある。


 奴隷市場を抜け、エリアの中でも奥の方へとやってくる。様々な建造物の前には客引きの女の姿が見える。肌の露出の多い服装の彼女たちは誘惑する様な視線を此方へと向け、誘い、店内へと連れ込もうとして来る。だが、既に兵士から話は聞いてあるのだ、


 オススメのお店を。


 オススメの娼館を。


「さぁて自由時間だから楽しもうかなぁ!」


 召喚。否、娼館。召喚術士娼館へ。この世界でもできる事は出来るとは既に証明されている為、後は経験だけだ。


「資料用! 資料用に経験が必要なんだ……!」


 言い訳完了、これで良し。


「資料なら仕方がないわね!」


 そう言ってついてくるカルマへと視線を向け、


 カルマ=ヴァインを全力で投げ捨てる様に投擲し、逃亡した。

 召喚と娼館。偶に誤字りそうになる。


 熱いお前らの1万コールに結局1万文字で続行。読み応えと誤字があるよやったね! 真面目にチェックはしているんだけど消えないんだよなぁ、なんでだろ。


 とりあえず空中城、カジノ、闘技場、奴隷市場。ファンタジー的な部分は大部分抑えている帝国はファンタジーの鏡。王国の奴と来たら殺意とガンメタとガチ戦術しかやらないでホント帝国を見習うべき。


 資料用だったらしゃーないね!!

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