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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
二章 帝国-闘技大会編
28/64

二十八匹目

 ―――寒い。


 北へ移動している訳ではないが、それでも帝都の存在する環境は寒かった。荒野という遮る障害物の存在しない場所で、これでもかという風に冷風が吹き荒れていた。帝都の周囲は寒い。一年中こうであるが故に、作物を育てる事が出来ない。その上、土地が完全に死んでいる。その為に昔から遺跡の遺産を利用したり、そこから技術を抽出する事で環境に頼らない生存権の確保が行われているらしい。リーザはそう言っていた。”プラント”という建物が帝国には存在し、そこで人工的に食料を作る事が出来るとか。


 プラント、人工的、肉―――昔のゲームのトラウマが呼び起されそうなので考えるのを止めたい。


 ただカルマは更に古い帝国の姿を知っていた。大昔、カルマの時代に帝国が実験を行って失敗した結果、この荒野が生まれたそうであり、そしてそこから始まる大量の餓死や生存権の確保を行う為、生きている土地が帝国には必要だった。その為に始まったのが帝国の侵略戦争であり、飲み込んだ国を利用して作物を育てたりし、そうやって生きながらえたのだとか。帝都周辺が常に冬の様に寒いのも、元の原因はその実験の失敗に繋がり、それで環境が歪んでしまったのが悪いのだとか。


 そういうリーザやカルマの説明を耳にしつつ、ステータス画面を素早く確認する。


 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:56

  体力:59

  敏捷:55

  器用:56

  魔力:60

  幸運:28


 装備スキル

  【魔人:20】【創造者:19】【明鏡止水:20】【支配者:19】

  【血戦血闘:20】【高次詠唱術:8】【魔剣保持者:1】【侵食汚染:3】

  【咎人:1】【業の目覚め:1】【片手剣:40】【長剣:40】


 SP:13


 帝都に到着するまでに【片手剣】【長剣】をカンストさせたかったが、どうやら無理だったらしい。それでも一週間かかりそうな40までのレベル上昇を、たったの五日で踏破したのは凄まじい。これがおそらく魔剣の力の一端なのかもしれない。カルマ=ヴァインを握ると剣をまるで自分の体の一部の様に動かせる。そのおかげで修練が物凄い捗った。あと一日あれば、確実に二つのスキルをカンストさせる事が出来るだろうとは思っている。


 【魔剣保持者】【咎人】【業の目覚め】に関しては一切成長していないどころか成長方法さえ判明していない。ただ、解るのは【侵食汚染】が進んでいるという事だ。この五日間の間にカルマ=ヴァインを使ってトレーニングを行ったことが原因なのだろう。経験に対して肉体の最適化が行われるという話だったが、このレベルではまだ、なにも発生していない。とりあえず五日間の成果としては上々とも言える内容だ。上位スキルもメキメキと上昇してきている。リーザが言うにはここら辺から上がりにくくなるが、強敵とぶつかったりする限りはそうでもないらしい。


 基本的にリーザは実力が上だった騎士団長とか親衛隊を相手に戦闘を行っていたため、そこまで苦労はなかったが、若干戦闘力や対応が歪だとも本人は言っていたが、詳しい事は教えてくれなかった。とりあえずは馬車の中、自分の膝の上で体を寄せてくるミリアティーナの頭を撫でる。普段自分が来ているインバネスコートはこの時ばかりは脱いで、ミリアティーナを温めるのに使っていた。帝都周辺の寒さはどうやら彼女には厳しい様で、ずっとこんな様子だった。自分がシフトの間は幻狐を召喚してなんとか進んでいるが、それでも体を温めているのに限界はある。まともな服装を用意する必要がある。予め王都で情報を聞いてコートなどを購入していた自分達とは違い、ミリアティーナだけは途中参加の為、そういう準備が一切ない。


 帝都に到着したら一番最初に、彼女に冬服を購入しなきゃいけないな、とは思った。


 そんな風にミリアティーナを抱きしめつつ馬車の前方へと向ければ、キャラバンの向こう側に鋼鉄で出来た城壁の姿が見えてくる。帝都はバームクーヘンの様な設計をしてあるらしく、城壁の様な巨大なシャッターによってそれぞれの区画が遮られているらしい。一番外側が貧民区、一般区、貴族区、そして中央に、


 帝都の上に浮かぶように王城が存在している。


 そう、帝城は浮かんでいるのだ、空に。


 元々は遺跡だったものを帝国が調査、解析、そして改修しつつ再利用したのが浮遊城・帝城になる。なんでも地上に転移装置があり、それを通る事で帝城の中へと入る事が出来るらしい。空からの侵入は結界が張っており、そのせいで無理だとか。まぁ、自分にはまだ関係のない話ではある。ただ浮かんでいる帝城の姿は凄まじく、そして威圧感がある。あそこに皇帝が住んでいると思うと、逆らいたくなくなってくる帝国民の気持ちもちょっとは解ると思う。アレを落とそうというレジスタンスに対しては感嘆するしかない。


 そんな事を考えている内に馬車はドンドンと帝都へと近づき、そしてモンスターの寄ってこない範囲内に入る。これにて漸く危険地帯は抜け、帝都へと到着する事が出来たのだ。それをアナウンスする様な声に、商人と冒険者両方から歓声が上がる。やはり道中のダンジョンアタックや、モンスターの波状攻撃を考えるとそれぐらいは喜びたくなる。その歓声に今まで眠っていたリーザが体からコートを落としつつ、上半身を持ち上げる。


「あ? ん? 何? 到着した? 昼飯? あ、到着したのか。ふぁーあ……あー、寒い寒い」


 そう言ってコートに袖を通すリーザの恰好は帝国の寒冷地帯仕様になっており、ホットパンツはジーンズに、タンクトップはそのままだが着ているコートはハーフコートからロングコートになっている。タンクトップはそのままでいいのかと思ったが、生命力を燃焼する事で少し疲れがたまりやすいが、体を温める事が出来るらしい。だから防寒具は最低限でいいとか。


 なんだそれ羨ましいぞ。


 この世界、王族というだけで才能、そして潜在的なスペックは世界最強クラスらしいとか、カルマが言っていた。特に王国のソレは戦闘力に特化していて、内包する生命力は他の国の王族を凌駕する。そう言われるとリーザの戦闘方法を見ている限り、納得できるものが多い。若干羨ましい話ではあるが、プレイヤーはプレイヤーでこの世界で言うスキル関連の才能が最大値設定の存在らしい。


「アレが浮遊城かぁ……ウチの親父がアレ、何時か地に落としてぇ、とか言ってたなぁ」


「王国の王族がヒャッハー気質なのは昔からのまんまなのねー……」


 その言葉と共に半透明な女性が馬車の背後に出現し、ふわふわと浮かびながら馬車に追随している。魔剣カルマ=ヴァインの怨霊、カルマだ。半透明だが、その姿や色はちゃんとよく見える。戦闘能力を一切保有しない賑やかしだが、知識を多く持っている為、少しは大切にしようとは思える。ただ昔から、と言われると気になる。


「リーザのご先祖さまってどんな感じだったの?」


「そりゃあもう東の国で言う”ますらお”? って奴だったわよ。大盾に大剣に聖剣に魔剣を装備した上に魔槍を持ち歩いて呪いを気合と根性でレジストしながら精神力で逆に屈服させる怪物でもあったわねぇ。リーザちゃん見てると血族というのをヒシヒシと感じさせるわ。あの人は凄かったわよ―――人間やめてるって意味で」


「そこだけマジトーンで人の先祖を怪物扱いするのを止めろよなー」


 ゴスゴス、と音を立てながらリーザの手がカルマの頭に突き刺さる。それを寒そうにしていたミリアティーナが楽しそうに笑っている。まぁ、子供が笑っていられるならそれでいいか、と結論し、視線を前方へと向ける。帝都へと侵入する為の防壁の前、門の前で動きが停止している。プロテクターに銃姿の兵士達が馬車や商人のチェックを行っている。その間に馬車の外、周辺を眺め、


 そこに広がっているスラム地帯を眺める。貧民街以下、人間としてさえ認識されない連中たちの住処。まだ貧民街には家がある。だがスラム街はほとんど廃墟としか表現の出来ない光景が広がっている。ぎりぎり生活できる、が、ダンジョンで寝泊まりしているのと変わらない。そんな状況だ。それを、この国はどうにかしようとする事はない。それどころかこれでいいのだとさえ思っている。そういう部分がある。


 見ていると悲しくなってくる為、あまり視線を向けたいものではない。そう考えているから帝都はこうなってしまったのだろうが。


「―――良し、通っていいぞ」


 そんな声と共に馬車が再び動き出す。それを感じつつも、視線をミリアティーナへと向ける。


「大丈夫か? 到着したらなんか暖かい服を買って、スープでも飲みに行こう」


「うん」


「もうホントにパパやってんわねぇー。まぁ、悪くない事なんだけど。帝国は南の方の香辛料の生産地を抑えているから、結構辛い料理が出回るわよ。ミリアにはちょっと辛いかもしれないけど、こういう場所で体を温める為には結構いい感じだと思うわ。あー、そう考えるとなんか食べたくなってきたなぁ、激辛料理。移動の間は結構食べ物がアレだしなぁ……」


「まぁ、死んじゃってるお姉さんと違って自由に食事の出来る皆はちょっとうらやましいけど、逆に考えると私どう足掻いても太らないのよね! フフフ……羨ましい?」


「そこは話の流れ的に羨ましがる所なのになんで自慢してるんだよ!!」


 ホントパーティーメンバーの皆はいい感じに頭がアッパー入っているよなぁ、とは思う。最近は結構コルネとの絡みも多い。正直な話、もうパーティーに誘ってもいいんじゃないか、とは思っている。ただそれを言い出さないのは、彼自身が何か目的をもって帝国へ来ているかの様に見えるからだ。目的があって帝国へ来ているのなら、それを邪魔するのは悪いだろう。待望の完全支援後衛職を諦めておく。


 何だかんだで自分も魔剣握って前線に出る様になったし。


 そんな事を考えている内に貧民区を抜け、一般区へと入った様子だった。暗かった街の雰囲気は一転して発展を感じさせる明るい雰囲気になって来た。馬車から見える人々の服装は若干厚着している様子がある。コートなどを着ている姿が多く、そして同時に見慣れた服装をしている人達がいるのも見える。黒い上下の姿は現実でも目撃するスーツ姿だ。この時代背景にスーツは普通、ありえないと思う。が、その存在を肯定する様にちらほら、近代的な服装が見える。と言ってもメインはドレスやコートの様なものだが。


 どっかで服飾関係のプレイヤーが、デザインを帝都で流行らせているのかもしれない。スタート地点は何も王国だけではないのだから、ここで頑張ったプレイヤーが商業や流通、流行等に干渉しているのは全然ありえなくない話だ。それに実際に今、ファーレンからもらったこの初期装備も大分ボロくなってきている。


 何度か修復を行っているけど、それでも限界はある。そろそろ新しい装備を用意しないといけないかもしれない。ミリアティーナの服を買うついでに自分の新しい服も用意してしまおうと判断する。何気に此方の世界で装備に関する買い物は初めてだが、そこらへんは問題がないだろうと判断する。他にも経験豊富な仲間がいるのだから。


 帝都の街並みを眺めつつ時間を過ごしていると、やがて馬車は一つの大きな建物の前で止まる。おそらくはここが目的地なのだろう。そこで馬車から降りて他の皆と合流すると、商人が軽い謝罪と共に依頼の完了証明書を渡してくる。商人が渡してくる此方の証明書には約束通り追加に関するメモが書かれており、しっかりと約束を果たしてくれることが解る。それを受け取ったところで護衛依頼は完了し、ここに拘束される理由がなくなった。ミリアティーナもインバネスコートから抜けると両足で立ち、歩く事をしつつも、興味深そうの帝都の街並みに視線を向けている。インバネスコートを肩に羽織るようにしながら、ミリアティーナの片手を取って手を繋ぐ。


 馬車が荷物を運ぶために動きだす中、自分のパーティーメンバー達と集まる。他のパーティーは既に動き始めたり、ソロのプレイヤーもどこかへと歩き出す。それを視界の端でとらえつつ、


「さて、これでとりあえずは帝都に到着だ。ここが帝国だけど……正直無計画なんだよな。予想外に服をぼろぼろにしちゃったし、ミリアの服も買いたいから服屋に行こうと思うんだけど」


「さっき調べておいた」


 そう言ってニグレドがサムズアップを向けてくる。本当に何時の間に。と言いたい所だが、多分帝都内を進んでいる間に軽く話を聞いたりしただけなのだろう。ニグレドの準備の良さに納得していると、じゃあ、とリーザが口を開く。


「んじゃあお前らで服屋行って来いよ。その間に私でギルドで換金して宿確保しとくから。その方が効率がいいだろうし。場所は……戦士ギルドで合流でいっか。先に終わったらそこで適当に時間を潰して待ってるわ。なんか予想していたよりも……いや、なんでもねぇわ。んじゃ先に行ってるぜ」


 そう言ってリーザは一人で歩いて行ってしまう。その機嫌は良いものだと言えない。そして彼女の視線が貧民区の方へと向けられていたのは間違いがない筈だ。王国の、王族として、国民を愛している彼女としてあの様な差別や区別に関してはやはり、思う事があるのだろう。ここら辺は少々難しく、あまり口を挟めない問題だ。そう思っていると、手を軽く引っ張られる。


「パパ、寒い……」


「ん、そうだな。早くコートとか買いたいな」


「だな。とりあえずはそれを用意してから色々とやろうぜ。俺達の夏休みはまだまだあるんだ。っつーことはここで色々とやらかす時間だってある。そう悩む必要はない、そうだろ? とりあえずは帝国産の酒が飲みたい所だなぁ……」


「服屋こっち」


 ダイゴをガン無視してニグレドが案内を始める。お前ら面白いよなぁ、と思いつつ寒そうなミリアティーナの手を握って歩き出す。何時の間にか入手したのか、ニグレドの手の中には地図らしきものがある。それを頼りにニグレドがマークした場所へと向かうと、石の建築物が多い帝都の中に、完全木造の店があった。完全に異彩を放っている、違和感バリバリの店舗だった。ニグレドへと視線を向け、ここかと聞こうとすると、


 何時の間にか中に入り込もうとしていた。


「……まぁ、入るか」


 ニグレドの後を追う様に店の中に入ると、そこには普通の服屋が広がっていた。普通、というのはこの世界ではなく”リアル”での普通だ。現実世界で見る様な内装をしている。ハンガーやマネキンには様々な服がかかっており、ショーケースも存在する。入店すると同時に制服姿のスタッフが頭を下げ、


「いらっしゃいませー! 何をお探しですか?」


「えーと、この子の服とかコートを探しているんだけど」


「はい、オススメがあるので少々お待ちください」


 そう言って制服姿の青年の店員は店内を忙しそうに走り回る。その姿に立派な社畜精神を感じつつあると、後ろからやって来たダイゴが店内を見渡しながら声を零す。


「お、すげぇ、ここ和服とかもあるな。何だかんだでスペアとか羽織が欲しかったし、俺もちょっと見ておくか」


「この寒さの中でも着流し姿の男は凄いなぁ」


「寒かったり暑かったりで諦められないスタイルなんだよ!!」


 そう言ってダイゴも店内を歩き始める。それを見てどうしたもんか、と思うが、店員はまだ選ぶので少々忙しそうだ。ミリアティーナには悪いが、自分の服も今の内に買っておこうかと思う。とりあえず一時的にミリアティーナの面倒はカルマに任せる。


「それぐらい出来るよな」


「……もしかしてお姉さん、相当舐められていない?」


 割と。


 そう思い、視線をショーケースなどに向ける。飾られている服装はただの服だけではなく、それ自体にエンチャントなどが施されていたりする。【明鏡止水】のスキルがそう言う魔術的な干渉へ、物凄く反応を示すから良く解る。そして店内が反応で溢れている感じ、この店が相当いいのも解る。


 今、自分が装備しているファーレンから受け取ったものはインバネスコート、黒いスリットスカート風シャツ、そして両手の手袋だ。インバネスコートはかなり頑丈なのかまだいいとして、シャツの方が少々ボロボロになっている。今履いているズボンも大分ボロくなっている。となると、やはり全部買い替える必要があると思う。ついでに手袋も新しく新調してしまおう。


 ショーケースにはスーツ一式が出ている。黒のスラックスとシャツ、ネクタイ、そして手袋に上着。上着はインバネスコートがあるので必要ない。服装に付与されている効果は強度上昇に自動再生、そして温度調整となっている。つまり暑くても寒くても、ある程度の気温であれば服の方で調整して快適な温度を維持してくれる、というものだろう。


「んー、そうねぇ、後はボルサリーノ帽辺りを被れば格好としては実に紳士的で素敵なんじゃないかしら? いえ、紳士的というよりは仕事の出来る男、って感じね。私はプッシュするわ」


 考えていることがバレていたのか、後ろからカルマのプッシュして来る声がする。ここでカルマに従うのは癪なのだが、実際自分の考えている事なので否定する事はない。軽く手袋を触ってその感触を確かめつつ、セットとしての値段、上着を抜いた場合の値段を確認しておく。やはり飾ってあるもののせいか、少々高い。だがオプションで装備の自動修復機能が追加できる。それを込みで考えると結構いい値段じゃないかと思えてしまう。


 ……いい商売やってんなぁ。


 ほぼ自分の中で購入を確定させつつ、そんな事を思う。実際、必要なのだから悪い事ではないのだが、こう、なんか負けた気分になるのが実にいやだったりする。溜息を吐いてインベントリを開き、自分の持ち金を計算していると、背後からパパ、と声をかけてくる気配がする。それに振り返れば、そこにはミリアティーナの姿があった。


 ただしその服装は変わっている。ツインテールの両側には赤いリボンが、そして体は二段階に分かれたケープの様な白に黒いラインのコートとなっており、靴はブーツ、手も暖かそうな手袋の装備になっている。可愛らしく暖かいかっこうに変わったミリアティーナの姿に驚きつつ、笑顔で褒めるのを忘れない。その事に気分を良くしたミリアティーナが嬉しそうに笑みを浮かべ、そして自慢をカルマに始める。その光景を確認しつつ、寄ってきた店員に指差す。


「この子が着ているのと、そこで飾ってあるの、上着と靴以外ください。あとオプションの破損再生も込みで。もしボルサリーノ帽があったら同じオプション追加でお願いします」


「毎度お買い上げありがとうございましたぁー!!」


 店員の素晴らしい笑顔を見て、少々買いすぎたかなぁ、と思わなくもなかった。



                  ◆



「―――インバネスコートは袖を通すんじゃなくて肩に羽織りなさい。そうそう、そんな感じで。うんうん、やっぱり十代の子供よりも、二十代入った男の子にこういう恰好させた方が似合うわねぇ、ちょいワルな感じが実に素敵だわ。軍部に顔を出せばいそうな雰囲気がいいわね」


「お前本当に怨霊?」


 買い物が終了して大分財布が軽くなるが、全体的なイメチェンが施された。まず自分はインバネスコートはそのままでそれ以外はほぼ全部変わった。ダイゴも新しく紺色の着流しを購入し、羽織も購入して肩に乗せて格好つけている。ニグレドも姿は変わらない様で、マフラーは新しくしたらしい。それ以外はそのままなのは、その方が性能が高いかららしい。そんな風に全体的に防具というより服のアップデートを測り、満足げに服屋を出る。その足の向かう先は勿論戦士ギルドだ。その場所に関して特に迷う必要はない。


 街には街の流れがある。それに逆らおうとせずに、冒険者が向かう流れに自分も便乗する。そうやって戦士達が向かう先に向かえば、何時の間にか戦士ギルドを発見する事が出来る。そのまま中へと入ると、見慣れたギルドの風景、そして奥のエリアを占領する様に座るリーザの姿が見える。


 その近くで積み上げられている敗北者たちの姿は何だろう。


「ん? お、来たのかお前ら! 待たせやがって」


 気づいたリーザがそう言って手招きして来る。一旦ミリアティーナから手を離して幻狐を召喚すると、幻狐は前よりも大きな体を持ち、その尻尾も一本増えて六尾となっていた。ちょっと驚きながらもそのサイズであれば遠慮なくていいな、と判断し、ミリアティーナを背中に乗せる。それに目を輝かせたミリアティーナを幻狐がソファの方へと運んで行く―――その前に転がっている冒険者たちを踏みつけながら。


「ん? こいつら? 待っている間にしつこく勧誘して来るからちょっとした勝負をしただけだよ。ま、暴れてないからセーフセーフ。それよりもほら、報酬は貰っておいたから早速分配しようぜ。今回は結構な大金だったぞ」


 幻狐と遊び始めるミリアティーナを一旦視線から外し、合流したリーザから銀貨を分けてもらう。流石に今した散財を補う程の金額ではないが、それでもかなりの量の銀貨が入って来た。余っている銀貨と合わせて、金貨一枚に届く程度にはお金が溜まった。やっぱり金が資本であるからして、これだけお金が溜まると結構いい気分になる。そうやって全員が揃い、ミリアティーナが幻狐で遊んでいるうちに、真面目な話をし始める。


「―――さて、真面目な話をするとして、ぶっちゃけどうする? 特に予定を立てている訳じゃないけど。リーザが宿を決めてきたんだよな? ……うん、取って来たな。まだ昼前に到着したばかりで、今日一日って言ってぐらいい時間は残っている。こっから依頼を引っ掛けるってのは十分アリな訳なんだが」


「まぁ、暇なのはそうなんだけど……ぶっちゃけ今日は休みにして自由行動にしない? 若干ストレスとか溜まってると思うし、ここら辺で息抜き入れるのがいいと思うけど」


「……そう言えば帝都にはカジノがあるって話だったな」


 ダイゴの追加情報に全員が黙る。視線をパーティーから外してミリアティーナの方へと向けると、幻狐が狐火で汚いオッサンをじっくり焦がす様に焼き殺している最中だった。単純な殴りあいだと俺よりも強い幻狐というボディガードを突破できるわけがないだろうに、愚かな汚ッサンめ。死んで地獄で詫びると良い。


 幻狐ガードがあるので特にミリアティーナの事を心配する必要はないが、燃やしている光景を楽しそうに眺めている辺り、あの少女の出身地って実は帝国じゃなくて王国なのではないか? と思ってしまう。ともあれ、


「本日カジノで」


「異議なし!」


「異議なし」


「荒稼ぎ……したい」


 まぁ、とリーザが呟く。


「基本的にカジノって絶対に向こう側に利益が出る様に出来ているんだけどね。それでもカジノの景品の中には普通には手に入れられない物とかもあるし、軽く遊ぶついでにそういうのを確認するのも悪くはないんじゃないかしら?」


「カジノって私の時代だと違法だったんだけどなぁ……」


 時代が変わるにつれて色々と変化が訪れているのだろう。ともあれ、それはそれとして、依頼の傾向を確認しておこうと思う。リーザから宿の位置を聞きつつ、カジノで遊ぶ日だと決める。自由行動が開始し、全員がバラバラに行動を始める中で掲示板へと向かい、帝国のギルドで用意されている依頼を確認する。


「……『奴隷監視』、『脱走奴隷の捕獲』、『レジスタンスの調査』……」


 遺跡の調査や人員募集、納品や討伐依頼が普通に存在するのが王国と変わらないところだが、雑務に関する募集とかが存在しない。その代わりに見えてくるのは奴隷に関する依頼だ。逃げ出した奴隷を捕まえてほしい、奴隷市場のガードマンを募集している、奴隷に教育を施したいのでスキルか技能を持っている人間を雇いたい。そんな依頼の中に帝国の現政権を打ち破ろうとしているレジスタンスを調査する依頼等が見える。


 こうやって依頼を確認すると、帝国の大まかな状況というものが見えてくる。


 レジスタンスは奴隷解放を掲げているが、本当に大丈夫だろうか?


 アメリカの奴隷解放で有名なアブラハム・リンカーンだって即座に全ての奴隷を解放したのではない。反発等を予想して、奴隷を保有する抜け穴を用意し、徐々に奴隷という存在を消していったのだ。即座に奴隷を全て解放する、という風になるとまず色々と問題が浮き彫りに成ったり、帝国は落としたいけど奴隷は手放せない、という層を味方につけられないんじゃないだろうか?


「……ま、関係ないか」


 レジスタンスに関わる様な時があれば、その時に考えればいいのだ。今の自分は所属的にはフリーだ。パーティーで好き勝手やっているだけなのだから、適当に依頼を受けつつ帝国を見て、やりたい事を探せばよい。


 それにはまず、


「幻狐ー、ミリアー、カジノ行くぞー」


「こーん」


「はぁーい」


「アレ、お姉さんもずっと一緒にいるんだけど無視かしら」


 存在感がかなり薄いので忘れてたとは言えない。


 それを何とか誤魔化しつつも、空中城が浮かぶ帝都の街へと繰り出す。

 帝都に到着、王国は序章を含めれば二十話超える長さだったけど、帝国編自体は更に長くなるかと思っています。


 レジスタンスやら、奴隷やら、色々と関わってくる事が多いからね。


 ところで個人的には空中城とか空中要塞は飛行船やドラゴンで突っ込んで侵入するのがロマンで王道だとか思っている。



 ところで割と大事な話だけど、現在【1話1万文字】で執筆しています。元々某所で執筆している間は【1話5000文字】をベースに1章20話ぐらいを目安にしていたのですけど、


 現在【2週間でラノベ1冊ペース】という速度で執筆しています。一体どういう事なんだ!!


 1万文字のままがいいか、それとも5000文字の方がいいか、どっちが読みやすかったり読みごたえがあるか、感想書くついでに行ってくれれば執筆の文字数の方針固めます

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