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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
二章 帝国-闘技大会編
27/64

二十七匹目

 戦闘が終わって地上に戻る頃にはある程度傷が治っている。とはいえ、疲労は抜け切るわけがない。ほとんど運ばれるような形で援軍に来てくれた他のパーティー達に地上まで運んでもらうと、全員が外へと出たところで遺跡は崩れ、そして入口は塞がってしまった。遺跡、或いは墓所からは全員脱出済みなので勿論問題はないが、少々勿体ない気分だった。


 全員、というのは魔剣カルマ=ヴァインと、そしてあの堕天使になっていた少女の事でもある。


 堕天使の少女は拘束するべきか判断はつかないが、カルマ=ヴァインがもうその必要はないと言って来る。その言葉が何処まで信じられるかは疑わしいが、それでも魔剣の女は戦闘時助けてくれた。それは敵意が存在しない事を証明するには十分すぎる事だろうと判断し、地上へと纏めて持ってきた。そうやって最低限、歩く程度には傷と体力が回復した所で、やる事が増えていた。キャラバンが動き出す前に商人に頼んで少し時間を分けて貰い、


 魔剣カルマ=ヴァインを地面に突き立てる様に刺し、パーティーで囲む。魔剣の上には半透明な女の姿が浮かんでいる。その姿が正座であり、浮かんでいるというのを見るとなんとも違和感を感じる光景だが、ゴースト等のアンデッドとの戦闘経験がある今、そこまでの違和感はない。それよりも重要なのは目の前のこの存在だ。基本的に質問権は自分達のパーティーが、他のパーティーは特別何かない限りは見る事に徹するという風になっている。


「んじゃ改めて自己紹介するわね。私が魔剣カルマ=ヴァインの初代保持者で、そして魔剣とする為に消費された材料よ。カルマお姉ちゃん、と呼んでくれると嬉しいわね。この魔剣がカルマ=ヴァインというのも私の名前であるカルマから取ったものなのよ?」


「んじゃカルマって呼ばせてもらうな。とりあえず―――あのダンジョンは何だったんだ?」


 あの黒曜石の様なダンジョン。出たら崩壊してしまったあの場所。アレは一体なんだったのだろうか。勿論、アレが帝国遺跡のレギュラータイプだなんて思ったりはしない。明らかに物凄い殺意を持っている、絶対にカルマ=ヴァインを取らせない、そういう類の意思を感じる事の出来る遺跡だった。何より守護者として配置されていた堕天使、アレは正直運が悪ければ即死していたとしか言いようがない。コルネがいなかったらバフ不足で死んでいたし、アタッカーが一人でも欠けていれば倒しきれなかっただろう。それに対してカルマはそうねぇ、とのんびり答える。


「アレは私とカルマ=ヴァインと前の所持者を眠らせる為に作った封印場所であり、墓所でもあるのよね。カルマ=ヴァイン自体はそこそこ強い程度の魔剣でしかないからあの程度のセキュリティだったけど。まぁ、結構長く眠らせて貰ったわ。つき合わされちゃったあの子に関しては申し訳ないと思っているけど」


 つまり墓所という考えに間違いはなかったのだ。魔剣を隠すという意味であの守護者の理由は理解できるし。ただそうなってくると気になってくるのは、魔剣としての性能やそれに付随する呪いに関してだ。同じことを思ったのか、酒瓶を片手に持って飲んではいるが、それでも真剣な表情のダイゴが口を開く。


「カルマ=ヴァインの性能について知りたい」


「一応魔剣としては最高ランクの硬度と切れ味を保有しているけど、他の魔剣みたいに一撃で殺すとか、力を吸収するとか、広範囲を無限に爆撃できるとかそんな派手なものはないわよ? ただ過去の使い手の戦闘経験や鍛錬、記憶が記録として全てカルマ=ヴァインの中には保存されているから、それを継承する事で万を超える戦闘経験でどんな状況にも対応、適応できるというものよ。これを引き出して戦えばどんなド素人だって剣聖に成れるわよ」


 えっへん、と言いながらカルマがその胸を張る。ブラウスで解らないが、結構いいもんを持っているよなぁ、なんて事を考えていると、ニグレドが横からナイフの柄で殴ってくる。


「で……反動は?」


「そこまで酷いものじゃないわよ? 使えば使う程魔剣に記憶を侵食されて、引き出すのではなく”自分の物”に経験や記憶を刻まれて行くの。足りない場合は上書きって形で。あとは肉体を経験が最適な形へと少しずつ改造していく事かしら? 経験を、戦闘能力を一番発揮しやすい肉体へと少しずつ変化……つまりは魔剣に記録されている最強の使い手に肉体が近づいて行くのよ―――私です」


 再びえっへん、と胸を張る。その姿をリーザが素手で殴る。普通は霊体等を殴る事なんて不可能なのだが、それをリーザは迷う事無く実行し、そして成功させていた。痛い、と頭を抑えるカルマを一旦視線から外し、白い侵食型魔剣カルマ=ヴァインへと視線を向ける。ぶっちゃけ、そこまで剣を使う訳ではないが、魔剣としての格が高いのであれば、魔石とかを消費せずにこれを媒体として召喚術を発動する事が出来る。優秀な武具は媒体として使用する事で、消費型の触媒を使用する必要がなくなってくる。


 そう考えると良い拾い物だったかもしれない。


「ただ魔剣だし装備解除なんてできないわよ? 最高硬度を持っているから破壊なんてできないし。昔壊そうと試した人たちを何十人も知っているからそれだけは信じてね。あ、あと呪われた装備にカテゴライズできるから捨てても勝手についてくるわよ。逆に言えば奪われても手元に召喚できるって事だけど。ね、魔剣としてはトップクラスの善良さでしょ?」


 ニコニコと笑みを浮かべるカルマを見上げる。まぁ、その程度なら、とは思う。姿が変わるのはキャラクターエディットだし、ゲーム的に言えばスキルが追加されるとか、そう言う程度の変化だろうとは思う。堕天使戦で発揮した斬撃、アレは間違いなく自分の力量を超える技量だった。それを発揮できたのは魔剣の能力の筈だ。基本的にこのゲーム、Endless Sphere Onlineでは体を強制的に動かして発動するスキル、そういうものが存在しない。そしてこの魔剣を握って繰り出した動作もそうだった。


 おそらく理解させるとか、そういう感じなのだろう。システム的に考えて。そう考えると呪いがそこまで強くないものだと思う。少なくとも激痛を感じまくるとか、バーサークするとか、そんな感じではない。プレイヤー的に考えると、


「……悪くはないかもしれない?」


「いや、ちょっと正気に戻りなさいよフォウル。自分が自分じゃなくなって行くのよ? 正直王国に戻ってお祓いでもするべきだと私は思うわよ。いや真面目に魔剣の呪いとかは馬鹿にしない方がいいって。ナメてると油断した所で確実に魔剣に食い殺される」


「ぶーぶー、私嘘は言わないわよー。この魔剣は本当に外せない事、破壊出来ない事、記憶の追加と侵食、そして人体改造以外には何も呪いなんてないわよー。そりゃあNPCだったら最悪かもしれないけど、プレイヤーだったらそんな事もないわよねー?」


「ぷれいやー……?」


 呆ける様にそう呟くリーザが首を傾げる。彼女はNPCであり、プレイヤーやこの世界の構造に関しては知らない。純粋に修羅道を突っ走っている美女でしかないのだ。それだけな時点で結構アレなのだが。それでもカルマがプレイヤーとゲームの存在を知っているのは驚きだった。普通は戦女神の様な神話クラスに入らないと知らない筈なのだが。少なくとも、今、自分が聞いている中で知っていると言ったのはレギンレイヴ達神話クラスの存在だ。


「……俺はそこまで重くはないと思っているから、そこまで心配するな。マジでヤバイと思ったら王国に頼るから」


「ほんと? 嘘は駄目よ? 仲間を心配させちゃ駄目よ?」


「お、おう、解ってるよ」


 詰め寄ってくるリーザのしつこさに軽くびっくりしながらも、国民に対して愛を向ける彼女の姿を見れば納得する事は出来る。仲間が大事なのは彼女だけではない。自分も勿論死んでいい風にシステムが出来ているが、それを良しとするわけではない。足掻いて足掻いて、足掻き抜く。そのつもりだ。だから魔剣の呪いだって、きっとどうにかなる。


「とりあえずステータスを確かめるといいとお姉さんは思うわよ。色々と追加されているはずだし」


 彼女に促される様にスキルを確認する。


 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:56

  体力:59

  敏捷:55

  器用:55

  魔力:60

  幸運:26


 装備スキル

  【魔人:17】【創造者:14】【明鏡止水:15】【支配者:14】

  【血戦血闘:16】【魔力強化:50】【詠唱術:50】【魔剣保持者:1】

  【侵食汚染:2】【咎人:1】【業の目覚め:1】


 SP:25


 一部のスキルがカンストした他には、新しく魔剣を保持する事で上位スキルが追加されていた。【魔剣保持者】はおそらくそのままであり、【侵食汚染】とはおそらくカルマが彼女が説明した魔剣による最適化に関する話だろう。この【咎人】、そして【業の目覚め】というスキルが良く解らない。ただ、どのスキルも説明文がハッキリ言って物々しく、あまりいいものではない事は確かだ。【侵食汚染】は”いずれ自己が自己であると忘れ去る”と書いており、【咎人】は”天も地も己の欲の為に殺した罪人へと与えられる名”だし、【業の目覚め】にいたっては”その本質は目覚め、覚醒が促される”と書いてある。もう少し説明を易しくしてほしい。


 良く解らないが、精神に作用しそうなスキルだと感じる。実際この世界、精神に干渉する方法がいくつか存在していたりする。勿論、ログアウトすると全く影響が残らないのだが、混乱したり暴走させたり、そう言う事は可能な世界だと考えると、少しだけ恐ろしくなってくる。ただ怖がったところで取得してしまったことはどうしようもない。スキルを統合させて新しいものを学ぼう。


 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:56

  体力:59

  敏捷:55

  器用:55

  魔力:60

  幸運:26


 装備スキル

  【魔人:17】【創造者:14】【明鏡止水:15】【支配者:14】

  【血戦血闘:16】【高次詠唱術:1】【魔剣保持者:1】【侵食汚染:2】

  【咎人:1】【業の目覚め:1】【片手剣:1】【長剣:1】


 SP:5


 少し悩んだが、魔剣を活かす方法で進める事にした。今回の戦闘を経験し、魔力がなくなった場合の戦闘手段を確保しておくことに対する大切さを感じた。近接戦で上位の存在と足止めではなく、ダメージを与えられるレベルで覚えておく必要がある。ガルシアの言っていた通りだ。近接が出来ない魔術師に価値はない。その事をひしひしと感じる。魔剣のデメリットがなんであれ、これを使いこなせば間違いなく実力をつける事が可能だろう。使いこなすしかない。


「うーん……【咎人】だけなら私聞いたことがあるかな」


「マジか、流石王族だな!」


「つかリーザちゃんって本当に王族なんだよなぁ、忘れがちだけど……」


「逞しい」


 まぁ、王族と呼ぶにはリーザが逞しすぎるのは認めるしかない。だけど言いすぎると拗ねる様な女の子らしい部分だってあるのだ。現在進行形で入りそうな状態なのだが。それを止める為にもまぁまぁ、とリーザを宥め、そしてスキルの説明内容を引き出す。


「……悪魔族や天使族を容赦なくバッサバサいっぱい斬り殺した上で神格持ちの人間か準神辺りをぶっ殺せば入手できるらしいスキルだったっけ? まぁ、ヤク中爺さんが笑いながら自慢してた。アレじゃないかな、魔剣側の経験が反映されているって形で」


「あぁ、ヤクキメてる爺さんの情報か……信用できそう。ただ他のスキルに関しては……」


 視線をカルマへと向けるが、カルマは頭を横へ振る。


「そもそもお姉さんが生きてた頃とシステムが違いすぎてお姉さんに見せても困るかなぁ」


「っつーことは俺らがインしていないβやα時代にもシステムアップデートがあったって訳か。へぇ、こういう話を聞くと開発側の話が気になってくるな」


「お前はいい加減飲むの止めろよ」


 ダイゴがステータスをアップデートさせて、酒のスキルを他に統合したからもう酒をレベリングの為に飲む必要はないのに、それでも変わらず飲み続けていた。完全にアル中と化している我が友人はそろそろ将来的にはあのヤク中仙人のアル中版を目指しているのではないかとさえ思い始める。その時は素面に戻るまで殴り続ける必要があるだろう。


「……まぁ、俺の思わぬ強化になったから今回はこれで許そう。何だかんだで接近戦でお前ら程活躍できなかった事に関して遅れを感じていたし。やっぱ男の子としてチャンバラができる事には憧れがあるし。とりあえず現状はどうしようもないし終わり終わり! ダメージも抜けきってないんだから休まないと!」


「幼女」


 ニグレドから放たれるその言葉に固まる。そう言えばまだ幼女化した堕天使の存在があった。正直あまり考えたくはなかったという事実もあるのは確かなのだが。なにせ、あそこまで絶大な戦闘力を持っていた相手がまだ生きているのだ。もし目覚めて、そして此方に対して未だに殺意を抱くようであれば、まさしく困ったというレベルでは済まない。今、キャラバンの護衛依頼中である事も考えると、あまりリスクを負う様な行動はとれない。


「あ、彼女なら大丈夫よ大丈夫。無理やり支配していた遺跡の影響はなくなったから。多少歪んでいるとはいえ、彼女は解放されたし、綺麗さっぱり全部忘れているわよ。お姉さん、嘘つかなーい」


 指をスナップすると、それに合わせてリーザがカルマの頬にビンタを三連続で叩き込み、強制的にダウンを奪った。その姿を見て満足感を得ると、じゃり、という足音が響くのが聞こえた。振り返りながら視線を音源、つまりは馬車の方へと向けると、


 小さくなった堕天使の姿があった。あの戦装束の様な白い服装はそのまま、小さくなった体に合わせたサイズになっており、美しい、綺麗と思える女が可愛らしい少女になっている。その姿には敵意や殺意はなく、長く伸びる白いツインテールを揺らしながら周りに視線を向け、困ったような表情を浮かべている。まるで迷子の子供かの様な表情を浮かべている。今にも泣きそうな表情を浮かべ、誰もが動きを停止している。


 そりゃそうだ。誰だってあの殺人兵器に近づきたいとは思わない。


 だからそのまま眺めるように数秒間、幼い少女を見ていると、その眼に涙が溜まって行くのが見え、そして、


「ぱぱぁ―――! ままぁ―――!」


「あちゃぁー……」


 今迄の張りつめていた空気が一気に決壊するのを感じつつ、泣き出してしまった。カルマへと視線を向ければ、カルマは言ったでしょ、という風にドヤ顔を浮かべている。それが無性にムカつくのでリーザにゴーサインを出し、カルマの撃退を命令する。それに素早く反応したリーザが再びビンタの嵐をカルマに叩き込み始める。その間に立ち上がって、少女へと接近する。しゃがんで目線を合わせ、片手を頭の上に置く。


「よ、大丈夫か? ほら、泣かない泣かない」


 布きれを創造し、それで少女の涙を拭いて行く。えぐえぐと涙を流す少女は涙を流しながら此方へと視線を向ける。


「えぐっ……パパぁ……?」


「……パパデスヨー」


「おい、待て! お前だけ羨ましいぞ! 卑怯だろそれは!!」


「煩い」


「ぐえぇ」


 ザク、という音が響く辺り、かなりいい感じに突き刺さったと確信するが、段々と少女の方が涙を減らし始めている。割と全身がギチギチと痛みを訴えてくるからそこまで余裕があるわけではないが、今のこの堕天使はあの大人の姿ではなく、子供の姿だ。当たったりするのはさすがに恥知らずもいいところだ。


 それに殺意もポックリと折れているし。となると普通の子供のように扱ってやるのが妥当だろう。少女には聞こえないように片手で持ち上げ、立ち上がりながら良し良し、とあやしながら顔の鼻水と涙をふき取る。ばちいぃので布はまた新しく作って拭く。そうやって少しずつ涙が引いて行くと、少女は首にしがみ付いてくる。羨ましそうな声を放ったダイゴはもはや戦闘の事を忘れたかのような態度だったが、


 今は腹にナイフを刺されて倒れている。コルネが必死に演奏して治療をしている。なんだか完全に何時ものノリを取り戻したような、そんな気がする。ニグレドやリーザが大分暴力的になっているが、それは間違いなくこの世紀末な空気が悪いに違いない。はぁ、と溜息を吐きながら軽く少女を揺らして、あやしていると、ニグレドが次に使うナイフを選びながら視線を向けてくる。


「慣れてる?」


「ウチ、結構大家族の家系でなぁ……俺は一人っ子だけど。だけど親戚とか集まると間違いなく子供で溢れかえるんだよ。軽くボードゲームを出していればしばらくは平和だけどさ、小さい子ってホラ、なんか細かい事で機嫌を損ねて泣くだろ? ウチの親父とか子供放っておいて外に飲みにいくし。親戚が集まると良く全員で飲みに行くし。だから俺とか年長者組でガキの面倒を見る機会が結構多くて……リーザとかなら結構解るんじゃねこれ?」


「いや、ウチはじぃとかばぁやがいるからな。基本的には一緒にいる事はあっても面倒を見るのは使用人の仕事だったから、特に手出しとかはしなかったなぁ。だけどこういうの見てるとなんだか羨ましいて思えるな。なぁ、なぁなぁ、私にもちょっと抱っこさせろよ。いいだろ?」


 そう言ってリーザが少女を受け取ろうと近づくと、肩に顔を埋めていた少女が顔を上げ、手を伸ばしてきていたリーザの手を叩く。その様子を無言で見つめていたダイゴが大爆笑を始め。結果、リーザとダイゴによる素手の喧嘩が直ぐ近くで始まる。集合していた他の観客もそっちの方が面白いと判断したのか、商人を巻き込んで賭けに発展させる。お前ら戦闘終わった直後だぞ今、大丈夫か。コルネが必死な表情で演奏をしているから大丈夫だな、と判断する。


「リーザは……がさつだから……」


 そう言ってニグレドが近づいてくるが、こっちにもぺち、と手を叩いてニグレドを拒否した。それに首を傾げたニグレドが首をかしげるが、今度は抱かれたままの少女がニグレドの顔面に蹴りを入れた。それを裏で笑っていたリーザとダイゴに向けてナイフが投擲され、三つ巴の戦いへと発展する。お前ら全員休み必要はないんじゃないかと思い始める。


「結構愉快な仲間を集めているのね。どれどれ、お姉さんも―――ってあら、手を叩かれたわ。まるで鳥の雛の様ね。最初に見た親以外には一切懐かないわ。というか一応私、こう見ても物理攻撃が通じない体だから基本的に無敵な筈なのに何で二人揃って法則壊して殴れるのかしら」


「知らんがな―――いや、今は激しくどうでもいいわ。それよりも重要なのは」


 と言葉を区切って少女へと姿を向ける。此方の視線を受けた少女は不安そうな表情を浮かべる。とてもだがあの女帝と殺害ロリを蹴り飛ばした猛者の様には思えない。まぁ、子供だしな、と大人モードの事は完全に忘れて笑顔を浮かべる。


「ねね、君の名前は何か、教えてくれるかな?」


「……ミリアティーナ」


「そっか、ミリアティーナちゃんか。可愛い名前だね。ミリア、って呼んでもいいかな?」


「うん」


「俺の名前はフォウルだちょっとババアに呪われたけど宜しくね」


「宜しくパパ」


「ちょっと待って、聞き捨てならない事が聞こえた気がする」


 魔剣の怨霊が文句を言って来るが、それをガン無視して新しく出来た娘に高い高いでもやって遊ぶ。バカが馬鹿をやって馬鹿が馬鹿を言っているが、それに関しては全く知った事ではない。というか知りたくもない。いい加減疲れたのだ。未だに召喚能力の復活はしていないし。幻狐でも呼んで癒されたいのに出来ない。誰かこの心労を理解してくれないだろうか。


 そんなこんなで、一日かかったダンジョンの攻略、そして状況把握は漸く終わりを見せてきた。更に状況を混沌とする事で。



                  ◆



 ―――そう言う事で、旅のお供に魔剣カルマ=ヴァインとその怨霊が、そして幼女化してしまった守護の堕天使であるミリアティーナが合流した。最初は勿論どちらも警戒して、警戒されたことは事実だった。ただそれが三日も続くと飽きる上にある程度問題はないと判断できる。それに、カルマ自身は本当に知識を持った怨霊程度でしかなく、ポルターガイスト現象でさえ起こす事が出来ない。そこらへんのゴーストモンスター以下の存在なのだ。魔剣の経験をそのまま全て保有してるが、肉体がなければ干渉もできない。完全な置物でしかなかった。


 ただ、カルマ自身はカルマ=ヴァイン内に格納されているすべての戦闘経験をしっかりと記録しているらしい。それも彼女が魔剣そのものであるからとか。その為完全な置物ではあるが、これが剣術の教導とかになると話が全く変わってくる。剣筋を覚えたり、一瞬で見切ったりする壮絶な実力が発揮できないとはいえ、彼女の中には存在していた。キャラバンが移動していないときは剣を持っている護衛は全員で集まって、彼女の話に耳を傾けたりして自分の技量を磨く事に集中した。


 そこにはもちろん、自分の姿もある。新しくとった【片手剣】と【長剣】のスキルの鍛錬という部分もあったが、凄まじいとも言える速度で上昇して行く。魔剣を振るう時も、妙に魔剣が馴染む。それこそまるでずっと使い続けてきた相棒の様にさえ感じる。これが魔剣としての力なのだろうか。そんな事を思いながら休み時間は自分の鍛錬に時間を過ごした。


 そして移動の間に、ミリアティーナの事に関してももっと分かった事があった。


 まずミリアティーナは正確に言えば天使族であり、その中でも突然変異に属する存在だったらしい。堕天使という表現は間違っているが、黒い翼は生まれつきであるとか。解りやすい話ではあるが、やはり記憶喪失で、多くの情報が失われていた。だから父親として慕ってくれているのだろうが。このままミリアティーナが大人に戻らない事を祈る、戻ったら最後、ジェノサイドされそうな気がする。


 そんな風に、愉快なパーティーメンバーを二人ほど増やしながら、帝国への道を進む。


 ダンジョンを攻略した影響か、馬はもう怯える事はなかった。それと引き換えに旅がまた一日増えてしまったが、それでも残りの道中は焦ることなく、モンスターを殲滅しながら進む。


 そうやってますます賑やかになりつつ、ダンジョンを攻略して五日が経過する。


 そろそろ食料が危なくなってきた、そんな話をしながら広大な荒野にその姿を広く並べる帝国の首都、


 帝都の姿が冷風と共に見えてきた。

 幼女と幽霊の加入。一気に女性比率が上がったけどたぶん近いうちにイーブン化するんじゃないかなぁ……。


 というわけでVRMMOのお約束、魔剣取得。近接戦をするサマナーではなく、近接も召喚もするサマナーが段々魔人とかにジョブチェンジし始めてきた。

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