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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
二章 帝国-闘技大会編
25/64

二十五匹目

 ―――結論、ダンジョンを攻略しよう。


 選出されたのは自分のパーティーを含めた、もう一つのパーティーと合わせて二パーティーだった。結界を使用している関係上全てのパーティーを動かしてもいいが、万が一のことを考えるとほいほい動かす事は出来ない。だから一番実力が高い、或いは生存力に長けているパーティーを利用するのが結論だった。リーザを加えた俺達のパーティーは単純に殲滅力が抜き出ている。リーザの経験と実力、ダイゴの破壊力の高さ、ニグレドの殺傷性、そして俺の殲滅力。単純な戦力として考えると上位に位置するパーティーという判断だった。


 そしてもう片方のパーティーが、スカウトやレンジャーによって構成された索敵、トレジャーハンティング特化のパーティー。帝国へとやってきたのも遺跡巡りをするのが理由らしい。パーティーリーダーである盗賊風のノースリーブシャツを着た男、ケンローはそう言っていた。故に役割分担が確定していた。遺跡での探索、索敵を行うのはケンローパーティーであり、戦闘を行うのは此方のパーティーだと。それに対する文句はなかった。予め遺跡内での発見したお宝に対する取り決めを確定させ、


 キャラバンから離れた位置、地割れの中の威勢入口を発見する。その前で二つのパーティー、合計七人が集まる。


 ケンローが頭に巻いたバンダナを結びなおしながらパーティーメンバーへと指示する。


「んじゃ野郎共、優先的にトラップの解除とエネミーの索敵を行うぞ。完全に未知の遺跡だからトラップもエネミーも初見だ、一当てして実力を試そうとか、無駄に欲張ってお宝を狙うんじゃねぇぞ。俺達は堅実に攻略して確実に成果を出す―――いいな?」


「うす!」


「じゃあ先に潜ってるから合図を出したら追いかけてきてくれ」


「了解、幸運を祈ってるぜ」


 ケンローとハイタッチを決め、その姿が足元の地割れへと飛び込んで行くのを見送る。遺跡の闇の中へと飛び込んだ集団が松明をもやし、それを入口付近において視界や光源を確保し始める。スカウト専門パーティー、ダンジョンの攻略や未知の調査を考えると是非とも知り合っておきたい存在ではある。確か盗賊ギルドなどでも雇えるらしいから、名前を覚えておく。合図を待っている間に装備のチェック、そしてステータスの確認を行う。


 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:56

  体力:58

  敏捷:53

  器用:53

  魔力:59

  幸運:26


 装備スキル

  【魔人:15】【創造者:12】【明鏡止水:12】【支配者:12】

  【血戦血闘:15】【魔力強化:48】【詠唱術:48】


 SP:20


 王都から離れて一週間、能力値はほとんど上昇しなくなり、スキルも上位の方は一日に1伸びる程度に落ち着いて来た。【魔力強化】と【詠唱術】がカンスト近い。おそらくは今回のダンジョンアタックでカンストを狙えると思う。まぁ、それも敵次第なのだが。SPも修練の量は減らしてはいない為、しっかりと溜まってきている。しかしこれでも足りないと思ってしまうのは間違いなく上位スキルの取得や、新しい下位スキルの習得の事を考えているからだろう。新しい下位スキルの習得はせず、このままにしておく。


「これで確認完了かな―――」


 と思った矢先、待って―――、という声が転ぶ音と共に響いてくる。視線をキャラバンの方へと向ければ、コルネが立ち上がりながら走ってくる姿が見える。息を切らしながら走って来たコルネは近づくと荒い息を整えようとし、


「ま、待って、ハァハァ……僕も行くよ。ちゃんと許可を貰ったしフゥー……見た所支援要員がパーティーにいないみたいだし、僕がいた方が有利になると思うよ」


 パーティーメンバーの三人を見渡しても、異論はなさそうだった。否定する理由がないのでコルネの臨時加入を認める。待望の後方支援だ。ダンジョン内での戦闘支援に関しては完全に一任するとして、期待させてもらう。その事を告げて最終的なチェックや準備を澄ませていると、地割れの中から声が響いてくる。


「オッケーですよ―――」


「突入するぞ」


「おう」


「……」


「任せろ」


「宜しく!」


 パーティーを見渡して挨拶をし、そのまま地割れの中へと飛び込む。一番最初に飛び込むのがアル中のダイゴで、その次の撲殺女帝のリーザが飛び降りて行く。慣れた様子でニグレドが壁を歩く様に降りて行き、それに続く様に下へ、地割れの中へと自分が飛び込んで行く。数秒間の落下の後に硬質な床に着地し、サイドステップを取る。次に落ちてくるコルネは顔面から直地し、倒れた。全員が無言でその様子を眺め、そしてダイゴが溜息を吐きながら顔を覆う。


「……良い奴だったのに……」


「し、死んでないよ! 僕まだ死んでないから!!」


 起き上がったコルネが即座にそう言う。だいぶ慣れている様子から、わりと日常的にドジっているようだ。それで大丈夫なのかなぁ、と思っていると、スカウトパーティーの一人が此方へと視線を向けてくる。


「リーダー達が先行している。こっちだ」


 先導の声に従って、ダイゴとリーザを正面に置く様に隊列を組んで移動を始める。一定の間隔で置かれている松明はケンローが調査済みで安全を確保をした事を示す為の物なのだろう。それに視界を確保されつつ、遺跡の中を進む。


 遺跡はなんというか―――実に未来的だった。壁や床は磨かれた黒曜石の様なものでありながら、所々中には魔力なのか、或いは電気なのだろうか、不思議な色が機械の基盤の様に脈動して走っていた。光源となるほどではないが、それでも遺跡が生きているかの様な印象を与える光だったそれを追いながら遺跡内部へと入って行くと、部屋の前でケンローともう一人に合流する。そこでケンローは足を止めてあり、


「よう、追いついたか。どうやらこの部屋の向こう側に敵がいるらしいぜ。ちなみに今の所宝箱はなしだ。なんか、この遺跡、通路を進んでは部屋、って感じの構造をしてるっぽいぜ。とりあえず入らないことにはどうにもならねぇから頼んだぜ」


「任せろ」


 ケンローが退くと、そこには鉄の扉があった。近未来的なスライドドアだが、黒曜石の様な黒い、しかし透き通るような石で出来ている。その向こう側を確認する事はしない、出来ない。軽く息を吐きながら扉の前に立ち、振り返る。ダイゴもリーザもニグレドも準備を完了している。唯一、コルネだけが不安そうな表情を浮かべている。が、そう言うキャラであると割り切って無視する。再び黒曜石の扉へと視線を向け、触れる。


 とびらがスライドする様に開き、その中へと飛び込む。一切光源の存在しない部屋は完全な闇で包まれており、入口から差し込む光が一瞬だけ世界を照らす。だがパーティーが入り込んだ所で扉は閉まり、そして闇が支配する。それをそのままにしておくわけがなく、暗闇の中で印を結び、


「幻狐五尾、招来!」


 幻狐が出現し、そして狐火が部屋に光を与える。


 そうやって漸く、部屋と敵の全容が見えてくる。


 それは広い、四角形の部屋だった。中央には部屋を両断する五十メートル程の横穴が存在し、そこから機械の巨人が体を覗かせている。全長が二十メートル近い上半身だけの機械は人の形を模しているが、人間なんかよりも遥かに凶悪である事はその体に搭載されている鋼鉄が証明していた。白い鉄の体に緑色の血の様なものをパイプの血管に通し、赤い色を目のあるべき場所から漏らし、侵入者である自分達を睨んだ。


「■■■■―――!!」


 口を開け、耳を潰す様な咆哮がその口から漏れ出る。あと一秒でも長く聞いていれば確実に耳が潰れている。そう確信させる咆哮は次の瞬間、完全に音だけを失くして消え去る。衝撃は残っているが、音が消えた理由は単純明快だった。視線を後ろへと向ければコルネがトランペットを吹いており、それで咆哮を相殺していた。早速連れてきて良かったと思える結果を出してくれた。


「行くぞォ! 幻狐は部屋を明るく維持する事だけに集中してろ! ダイゴとリーザは攻撃を何とかしろ! ニグレド、こういうタイプは絶対に急所がある筈だ、仕留めろ!」


 まともに戦うやつは馬鹿だ。敵は素早く殺せるならそれに限る。それは基本だ。故にそれを実行する。咆哮を終わらせた鉄巨人は穴の中から巨大な腕を取り出し、それで殴りかかってくる。それに対してリーザが拳を叩きだし、衝撃を与える事で流し、逆の手の拳をダイゴが刀で受けつつ切り払う事で受け流した。その隙にニグレドが加速、跳躍、一気に腕の上へと移動し、鉄巨人の肩へと向かって疾走する。


 それに視線を向けた鉄巨人が口を開ける。そこから放り出されたのは―――爆弾だった。


「世界観違いすぎだろうがァ!!」


 魔導銃を創造し、オーバーロードし、破壊連射を行う。たったの十発を超高速ではじき出す代わりに生み出したライフル型の魔導銃が爆散する。その代わり、ニグレドの前面に存在した爆弾が爆破され、誘爆し、そして一気に蹴散らされる。それを突破したニグレドは一気に接近し、


 すれ違いざまに首、目、頭、胸、と連続で斬撃を叩き込むが、


「厚い。無理。胸にコアっぽい」


「作戦変更、ダイゴとリーザ、アイツの胸をぶち破るぞ! ニグレドは攪乱! コルネは自己判断に任せて支援」


 召喚魔術の詠唱を開始するのと同時に、此方へと向けて拳が振るわれる。ち、と言葉を吐きながら横へとロールし、ワイバーンを召喚する。出現されたワイバーンが鉄巨人の頭上で旋回しながらブレスを吐くが、痛覚を感じないらしく、ダメージが出ていないように思える。


「かてぇ」


「じゃあ私の出番! ねっ!」


 そう言って鉄巨人の胸の前へと踏み込んだリーザが拳を胸の装甲版に叩きつけ、そのまま破壊する様に捩じり剥がした。リーザの保有するスキル【金属破壊】がピンポイントでメタ効果をこの相手に発揮していた。あまりリーザに頼るのはステップアップにならない為嫌なのだが、この場合は仕方がないと割り切る。この先、何があるのかはまだわからない。


 だとしたら温存しつつ倒さなくてはならない。


「死ね」


 言葉と共に拳が鉄巨人の胸へと深く突き刺さり、その中のパーツを引き千切るように腕が引っこ抜かれる。笑いながらそれを行うリーザの姿は恐怖でしかない。それを感じるのか、鉄巨人がやめさせようと両腕を使った攻撃に入る。しかし片方をダイゴが蹴り飛ばし、そしてもう片方を創造した鎖で雁字搦めにして床と天井に突き刺し、動きを止める。相手が鈍くて良かった。


 こいつは強いが、カモだ。


 そう判断する頃にはリーザが巨人の胸を抉り、破壊していた。その動きに一切の躊躇や迷い、遠慮容赦といったものはない。王国は基本的に、その戦闘の教育に”一切の躊躇をするな”と教えている。相手が敵であり、殺せる状態なら、慢心も油断も捨て、趣味も捨てて殺せ。それが最短で安全を確保する方法であると教えている。それをリーザは容赦なく体現していた。


「ヒャッホー! これが心臓か? いや、こっちか? これも心臓だな? このパイプ気に入らないからぶち抜くぜ。あ、体が入れそうなサイズの穴になったな、足を引っ掛けてもっと抉ろう。おらおら、もっと気合だせよ、ここがえんか! ここがええんかぁ!」


 笑い声を響かせながらリーザの解体作業が進む。もはやここまで来ると鉄巨人に一切の抵抗は出来ない、振りあげようとする拳も、解放された拳も動く事が出来ずに目から光が失われて行く。それでもリーザは破壊を止めない。完全に殺しきって確殺を確信できるその瞬間まで破壊活動を停止させない。それが油断をしないという事に違いない。徹底的に急所を破壊して、その死を確定させる。そうやってもはや生きる事は不可能。そう確信できる状態に追い落としてから、漸くリーザが鉄巨人を解放する。


「はぁ、ただの木偶の坊だった、なっ!」


 そう言ってリーザが最後に片手で巨人を殴る。その衝撃によってズドドドド、と音を立てながら鉄巨人が穴の中へと落ちて行く。それを満足そうにリーザは眺めていると、皆の前にリザルト、つまりは討伐完了の証が出てくる。この瞬間だけはゲームだったなぁ、とシステムの存在を思い出す。おそらくはレアであろうアイテムを軽く確認し、インベントリへ収納する。コアやら鋼材が手に入るが、自分にはあまり関係のない話だ。息を吐く。幻狐も出番が終わったようで満足そうに鼻を鳴らし、消える。


 だが疲労はない。後ろへと視線を向ければ、大きな竪琴を演奏していたコルネの姿があり、そのおかげで体力消費が大幅に減らされているのを悟る。


「うーん、やはり便利……」


 聞こえないように呟いていると、部屋への扉が開かれ、ケンローたちが入り込んでくる。それと同時に部屋を両断する穴の上に黒曜石の橋が出来上がる。生えてくる様に出現したそれは、勝者に先に進む様に促す仕掛けの様にも思えた。それを無視し、ケンローたちへと視線を向けると、それを受け取ったケンローたちが先へ進む。彼らの仕事を成す為に。それを見送り、一息つきながら視線をパーティーへと向ける。


「お疲れ」


「つっても多分始まりでしかないけどな」


「これに馬がビビってるって事はないと思う」


 リーザが無双して破壊したのを見ればそれぐらい容易に想像できる。まぁ、おそらくだがこのダンジョンの大ボスが目的なのだろうと思う。これで中ボスなら大ボスは結構な大物かもしれない、なんて予想を付けておく。そんな事を考えて、アイテムの整理を行っている内にケンローが帰ってくる。次の部屋の前までの偵察は完了したらしい。


 その後を追う様に橋を渡って反対側へと向かい、スライドする扉を抜けた通路の先には、また扉があった。だが今度は半透明で、その中を見る事が出来る。その中は狭い部屋の様に見えるが、下へと下がりそうな感じがする。それは、


「……エレベーター?」


「まだ乗ってねぇけど多分な。降りた直後戦闘とかになるとどうしようもねぇから一緒に乗ってもらうぜ」


「おう、そこは任せろ」


 ダイゴが胸をぽんと叩く。それに合わせてエレベーターの扉を開き、中へと入り込む。次々と侵入して行くエレベーターは少々手狭になるが、それでも何とか全員を収容する事が出来、全員が乗り込むと扉が閉まり、下への移動を開始する。下へと移動するのは数秒。


 その後、エレベーターの扉が開かれ、その向こう側に百近い下半身と上半身がしっかり存在する、ロボットの集団が見える。思わずみんなが硬直した瞬間、無造作に右手を天に掲げる。


「出ッ勤ッガチャァァァ!!」


 完全にガチャを楽しみ始めているのはもう自覚しているのでこのままでいいと思っている。


「六段式後出しヴァルハラじゃんけんで公平に決めた出番ですの」


 公平って何だろう。


 そんな疑問と共にミストがふわり、と出現する。魔力の消費は思いが、それでもこの場では間違いなくこれが最善であると判断し、ガチャった。出現したミストは前へ出るのと同時に杖を浮かべ、そして虚空から雪崩を発生させ、その視界内の全てを巻き込んですり潰して行く。それをそのまま渦巻く様に圧壊して行き、部屋の中の雪、そしてそれに巻き込まれたロボットを部屋の中央へと圧縮して纏めて行く。


 最終的に、大部屋の中にいた敵の存在がミストの片手に収まる雪玉サイズに収まる。


「はい、完成ですの。ミストは他の方々と違って容赦はできないですの。キッチリガッチリ滅殺するのが得意ですのよ?」


「こえぇーよヴァルハラ乙女」


「これが噂のヴァルキリー召喚かぁ、初めて見たけどやっぱり羨ましいもんだなぁ、畜生!」


 嫉妬の視線にミストは微笑むと、近寄って軽く抱き着き、それからヴァルハラへと帰って行く。ミストはミストで割と良い性格をしているから気を付けないといけないかもしれない。そう判断しつつ、大量のモンスターの出現する大部屋はそれだけで完了された。目の前には大量のアイテムの入手報告が現れている。百体も殺せばそうもなるか、そう思いつつエレベーターから出る。その先に見えるのはやはり、扉だ。そこに対して接近するのはケンロー達スカウトチーム。宝箱を開けられていないのだろうが、その表情に不満はない。


 おそらく、今の戦闘のドロップはケンローのパーティーにも入っていたのだろう。若干ニヤけているのが見える。その姿が奥へと消えるのと同時に、ニグレドが呟く、


「……お墓みたい」


「墓、か」


 このダンジョンの静けさ、そしてこの物悲しい雰囲気は確かに墓と呼ぶのにふさわしいものを持っている。ダンジョンというよりは墓、そう言われてしまうと納得できるものがあった。配置されている鉄巨人や今のロボットモンスターも、墓守として考えれば待ち構えているのにも納得が行くかもしれない。ただ、結局は憶測だ。本当かどうか解ったもんじゃない。それで全部判断してしまうのは危険だろう。ふぅ、と溜息を吐いていると、コルネが此方へと視線を向ける。


「魔力回復演奏しますか?」


「あ、悪い。魔力の方は大丈夫なんだよ。それよりも色々と考えていると疲れてきてなぁ。もっとちゃんとした軍師タイプか、或いは知識を持っている人間が欲しいって思ったんだよ。俺だって完全な頭脳労働担当って訳じゃないしな。どっちかってーと脳筋タイプだし。さっきの鉄巨人戦だって先にニグレド動かして時間を無駄にしたし」


「パーティーメンバー探しですか?」


「どうなんだろう」


 視線をパーティーの仲間へと向け、そして首を捻る。


「特に仲間を探している訳じゃないんだよな」


「私とか完全に成り行きとノリよね」


「俺とか合流したからそのままって感じだし」


「懐いた」


「自分で懐いたって言うのかよこいつゥ!」


「仲が良いですねぇー……」


 身内でデコピンしたりローキックを叩き込んだりしてじゃれていると、そんな声がコルネの方から来る。羨ましいなら別に混ざってもいいのだが。そこの王国美少女なんて組む様になってからまだ十日目ぐらいだし。そう思うと重要なのは時間じゃなくて密度だと思えてくる。その答えに一人で納得しているとケンローが戻ってくる。次の部屋までの安全を確保したので、ついて来いとの言葉。部屋の反対側の扉を抜けて再び、通路に入る。


「この通路は斜め下へと向かってやがる。相変わらずはトラップはねぇ―――というかここ全体にトラップがねぇように思えるぜ。何度か構造把握を行っているおかげでこのダンジョンの全容が見えてきたけど、残す大部屋はあと二つってぐらいだ。多分次が大ボスか、その次が大ボスと報酬部屋って所だろ。お宝ちゃんが楽しみだな」


「その前に馬をションベンチビらせるほど怖がらせてる元凶の排除が必要なんだけどな」


「そりゃあお前らに任せるから俺には関係のない事だわな」


 ケンローの調子の良い言葉に笑うと、ダンジョンの更なる奥へ、通路の終わりへとやってくる。やはりここもスライド式の扉になっている。再び自分が戦闘に立ち、印を組む。予め幻狐を召喚し、狐火を明かり代わりに使う。もはや言葉を交わす必要もなく扉に触れて開き、その中へと滑り込む。再び到達する大部屋。


 その中央には刀を片手に握った、和装姿のアンデッドがいた。その体も、頭も、完全に白骨化しているが、待ち構える様に動く事はなく、バラバラにも、倒れる事もなく、立っている。鉄巨人や雑魚百体とはまた違う雰囲気を感じつつも、戦闘を始めようとし、


「―――まぁ、待て、ここはどこからどう見ても俺の出番だろ」


 そう言って迷う事無くダイゴが突っ込んで行った。ソロとかマジかよ、と呟こうとした瞬間、


 斬撃が斬撃を迎撃、金属が金属を避けた。


「オラオラ、行くぞおらァ!」


 踏み込み刀を振るうダイゴの背中姿には手出し無用、という意思が現れていた。そしてそのダイゴの心意気に応える様に、刀のアンデッドはダイゴの迎撃へと入る。踏み込みつつ体を倒し、ダイゴの斬撃を掻い潜りながらカウンターを叩き込もうとする。その刀に足を押し付け、上から斬撃をダイゴは叩き込む。


 結果として足が切り裂かれ、頭が軽く砕かれる。


「ハッハー! 派手に暴れられなくて鬱憤が溜まってたんだよ、肉のねぇ体で少しは踏ん張ってくれよ!」


 完全なウォーモンガーと化していた。


 その言動、そしてスキルはふざけているとしか言いようがない。だけど、その刀を振るう腕前だけは本物だった。天才的だと言って良い。今までまともに見る機会がなかったから、或いは純粋に剣術、刀術での勝負を見た事がなかったからかもしれない。飛び上りながら刀を構え、振り下ろすダイゴはアンデッドの刀の一撃を着流しの裾を絡める事で受け流し、そしてカウンターの刃を叩きつけて行く。一種の変態的と言える技量を持っており、


 アンデッドの持つ剣術を喰らう傍から吸収して、そしてカウンターを叩き込んで行く。


 ほぼ同時に叩き込まれる払い、突き、袈裟切り、それを技巧でダイゴは刃に刃を当てる事無く、着流しと体術で受け流し、


 その全てを投げ捨てる様に刀を上に投げて、拳でアンデッドの刀を握る手を殴り壊した。


「おとといきやがれ」


 落ちてきた刀を握り、その勢いのまま刃を振り下ろし、アンデッドを両断する。


 全体からすればたった一分ほどの攻防。これで三つめの大部屋が攻略された。ウチのパーティーメンバー、全体的に戦闘力高いよなぁ、と再評価していると、ケンローが叫ぶ。


「なんじゃありゃあああ!?」


「修羅」


「あぁ、うん。成程」


「待て、それで納得される俺が腑に落ちない……あ、回復サンキュ」


「これぐらいしか出来ないから」


 竪琴を鳴らしてコルネがダイゴの傷を癒している。その隙にケンローが進み、再びスカウトに向かう。ピースサインを浮かべるダイゴはインベントリを開きながら確認していると、ホロウィンドウを余分に一個表示させている。それを見ながらふむふむ、とダイゴは頷く。


「なんかSP0でスキル取得できる」


「え、なにそれ羨ましい」


 ダイゴの手元を覗き込んだ確認すると、【刀鬼:1】とスキルがステータスに追加されていた。おそらくは先程の刀アンデッド、アレがユニーク系の存在であり、ダイゴがソロで粉砕したために何か、習得条件を満たしたのだろうと思う。物凄い羨ましい。


 なので衝動任せにスキルを習得しようとして―――ギリギリのところでふんばる。SPを消費したらそれは絶対に負けだろう、とそう思って思い止まる。それを理解したのか、ニグレドがジャンプしながら頭を撫でてくれる。嬉しいけどジャンプという部分を抜いて欲しかった。しかし、


「女帝が大人しいな」


「一部屋目で大体破壊欲を満たせたからね」


「破壊欲ってなんだよ……」


 昼間のモンスター襲撃じゃ物足りない体らしい。これだから王族は我儘で困る。そうやってパーティー、そしてコルネを加えた状態でしばし、傷と疲れをいやしながら馬鹿話に興じる。数分、或いは十数分そうやって時間を潰していると、ケンローが真剣な表情で近づいてくる。


「……次で最後だ。最後までトラップはなかったから安心してくれ」


 そう言ってケンローが先へ進む。その姿を見送り、横に並ぶ幻狐の頭を軽く撫でる。それに気を良くした幻狐が前へと、狐火と共に進んで行く。その姿を後ろから追い、パーティーが付いてくる。


 墓所の様に静かな通路を、足音だけを響かせて歩いて行く。段々と最深部へと近づくにつれて、異様な雰囲気が場を満たして行くのを肌で感じて行く。何かが、この奥に存在する。それだけをはっきりと理解できた。スカウト系のスキルは持っていないが、もはや本能的センサーに引っかかる感覚だった。そのまま迷えるはずもない一本道を進んで行くと、通路の奥へと到達する。ケンロー達が待機している場所は扉の前であり、その扉は今までのと何も変わらない、普通の扉だ。


 ただ、その向こう側からは凄まじいまでの威圧感が、悪寒がする。


 それは間違いなく【明鏡止水】のスキルの感覚でも、そして本能的にも察知できる事だ。この先、何かとてつもない力が存在している。それを知覚し、ごくりと息をのむ。


「……俺達はここまでだぜ。お前たちが勝てそうになかったら援軍を呼んでくるからな、死ぬなよ」


「おいおい、俺達が負けるかよ」


「そうそう、負けるつもりはないんだから、勝った気でいなさいな。人型でもそうじゃなくてもミンチにすれば殺せるんだから」


「早く……暗殺……暗殺はよ……」


「臨時パーティー先が怖い件」


「慣れるよ。そのうちな」


 変に畏まったり恐れたりするのも自分らしく、というか俺ららしくはないよな、と思う。軽く溜息を吐きながら恐れる事無く、最後の扉に触れて、


 開く。


 その向こう側に広がっているのは今まで以上に広い空間だった。


 その一番奥には祭壇の様な台座が存在し、一本の剣が突き刺さっているのが見える。その前、正面には天井、床、そして壁から伸びる鎖によって雁字搦めになっている一つの存在が見える。簡単に言ってしまえば、


 美女だった。


 長い白髪のツインテールに、大きな黒い翼を持った、ヴァルキリーを思わせる様な白い戦装束を身に着けている。この子もヴァルキリーの一人かと最初は思ったが、彼女たちにはこんな翼はない。特に黒い翼の種族なんて聞いたことはない。白い翼であればプレイヤー種族に天使族が存在するが、目の前の人物にそれは適応されない。


「ナイスおっぱい」


 そう言いながらダイゴが部屋に入ってくる。


 正面に項垂れる様に吊るされる彼女の姿勢の関係上、服の隙間から彼女の胸の谷間が良く見える。確かに眼福ではあるが、それを口に出すのは正直どうかと思う。


「―――」


 前へ踏み出そうかと、そう思った瞬間、がちゃりと鎖の音を鳴らしながら繋がれた白髪ツインテールの女が目を開ける。深海を思わせる深い青色の瞳が此方へと向けられる。それを見て、全員の動きが停止する。同時に鎖がギチギチと音を立てながら罅を入れて行く。背の翼は大きく広がり、背中を縛る鎖を切り裂いて行く。


「……俺のせいじゃないよな?」


「屑」


「馬鹿言ってないで戦闘準備に入るわよ……なんか奇襲できそうにない」


 鎖に雁字搦めの状態であっても、隙らしい隙を感じない相手だった。ただ単純に強く、そして怖い。そう感じる敵だ。今迄相手にしてきたどんな存在よりも、そう恐ろしさを骨の芯にまで叩き込んで行く。


 やがて、


「あ、ぁっ、あぁぁ、ぁぁぁっ!」


 苦悶の声を漏らしながら鎖から解放されたおそらく、堕天使の様な女は両手を広げて着地し、その両手に大鎌を創造する。堕天使というよりは死神に相応しい気配と雰囲気を、二刀の大鎌を握りながら睨んでくる。その眼に理性があるのかどうかは解らないが、


 少なくともこの瞬間までリーザが踏み込めていなかったことが何よりもの答えになる筈だ。


「ぁぁぁ―――ァァアアア!」


 死神の絶叫と共に、


 死闘が始まった。

 謎の多い世紀末世界の帝国。というわけで通りすがりの墓荒しのお時間である。


 そろそろ解りやすく地図か挿絵でも書いていようかと思ったけど辛すぎて壁に叩きつける運命に。やっぱ絵は絵師の人に土下座するのが一番だな、って改めて思ったわ……。


 ところで「ぁぁっ」ってなんか響きがエロイよな。苦悶の声とか

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