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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
二章 帝国-闘技大会編
24/64

二十四匹目

 王国から帝国までの距離は遠い。普通に移動しようものなら一ヶ月はかかるだろう。いや、それは馬車で移動した場合の距離だ。徒歩で移動すればそれこそ数か月かかる。なら何故たったの十日間で移動できるか、というとやはりファンタジーな要素が絡んでくる。地域から地域へと移動できる転移門が存在し、それを利用する事で一か所からもう一か所へと移動できる。王都から二日離れた場所に転移門が存在し、これを潜る事で帝都から八日程離れた位置に出る事が出来る。これが十日間の理由である。ランケルやティニアにいる間、この存在を全く聞かなかったのは、普通に転移門が存在しなかったからである。しかし、ちゃんとキチンと国に管理されており、戦争が始まる事となれば利用する事は出来なくなるだろう。


 しかし現状は出来る。馬車の護衛が始まって二日目が経過し、予定よりも少し遅れる形で転移門へと到着、それを抜ける事が出来た。そうやって自然が豊かな王国領土から、


 帝国領土へとやってくる。



                  ◆



「―――畏み、畏み申ォォすゥ! 蒼天の支配者! 来たれぇぃ守護神ッ! 青竜招ォォ来ィ!」


 右手に軍刀を握り、左手を天に掲げる。腹の底から息を吐きだす様に叫びながら、豪雨の中、天を覆う暗雲を突き破って青く蛇のように長い竜の姿が、青竜が出現する。吠えながら出現した青竜は天から急降下し、その全身から雷鳴と烈風を振りまきながら地上を薙ぎ払い、


 上半身しか存在しないロボットの様な存在を粉々に砕いて天へと昇って行く。雄々しくも美しい青竜の姿は敵対者全ての存在に畏怖を叩きこみ、そしてそれを喰らって滅ぼす。そうやって天に上った青竜は登り切るのと同時に風と光と水流へと変化し、天を覆う暗雲を広範囲に吹き飛ばし、一時的に豪雨を消し去る。そうやって視界が最悪だった環境に天の光が当たるようになる。そして今まで豪雨によってかき消されていた音が響く。


「―――」


 勇ましいトランペットの音色が広範囲に響き渡る。豪雨でぬれた体に暖かさを与え、そして疲労を消し去って行く。荒れていた呼吸を取り戻させ、そして力を与える音色の支援。それを受けて切れ欠けていた集中力を取り戻し、軍刀を両手で回す様に印を組み、


「―――白虎招ォ来ィ!」


 地を駆ける聖獣を召喚する。馬車に匹敵する巨体を誇る聖獣は出現するのと同時に風となり大地を駆け巡り、その爪と牙で鋼鉄の体を持つロボット型モンスターを容赦なく砕き、破壊し、そして蹂躙して行く。そうやって破壊の限りを尽くしてから青竜同様、咆哮を残して消えて行く。残されるのは大量の鉄くずと残骸。だがそれで油断する事は出来ない。晴天を取り戻した空、そこへと視線を向ければ大型の緑色の鳥が、此方を獲物として睨んでいる。


「クソ! 帝国の連中モンスターの掃討を全く行っていないな!」


「アレは王国だけだからなぁ。普通は冒険者任せなんだよ」


 誰かの言葉に対してリーザが返答する。同時にリーザが此方へと向けて駆けてくる為、何が欲しいのかは理解している。


「ワイバーン! ついでにもってけ!」


「借りるぜ!」


 騎乗槍を創造し、それをリーザへと投げ渡すと、リーザはワイバーンの背中に飛び乗って空へと舞い上がる。そのまま空から襲い掛かろうとしていた怪鳥を突き殺し、それを足場に怪鳥から怪鳥へ、着地で蹴り殺し、掴んで握り殺し、堕ちながら怪鳥を足場に殺し飛んでいる。解放されたワイバーンが空中の敵に対して炎のブレスを吐き、焼き殺している。そこから視線を外し、視線を地上へと戻す。離れた位置へと視線を向ければ、トランペットを奏でているコルネへと向かって突進するロボット型のモンスターの姿が見える。


「ジャッジメントォッ!!」


 ―――やる事はキレスの真似事だ。


 使い捨ての出来る創造物、召喚物を召喚する。今回は弾丸として光の精霊を利用する。最下級、或いは下級レベルの精霊であればこのレベルに入ると召喚しても全く痛くない上に多く召喚できる。その性質を利用し、精霊を超高速で空から地上へと向けて、相手の頭上へと叩き落とす。超高速の砲撃が敵を一瞬で圧壊し、バラバラの破片へと変形させる。それをトランペットを口に咥えたままの状態のコルネが驚いてみている。


「幻狐、前鬼、楽士を護衛しろ!」


 印を素早く結んで召喚した召喚獣に護衛を任せ、空に無数の精霊を召喚、それを雨の様に地上へと叩きつけて破壊の雨を発生させ、群がってくる鉄くずを粉砕して行く。それを馬車の中から眺めている呑気な声が評価する。


「結構楽しそうにやってるけどバトンタッチするかー?」


「いらねぇ!」


 空から怪鳥の死体と共にリーザが落ちてくる。下が積み重なる様に落ちた上に、それらをクッションに着地したリーザが再び大地を蹴り、一撃でロボット型モンスターを鉄くずへと変えて行く。それを確認しつつ、軍刀を構え、接近してきたロボットの胸に突き刺し、刃をそのまま上へと引っ張り上げる様に切り裂き、蹴り飛ばす。


 聞こえてくる小太鼓のマーチに、体が軽くなるのを意識しつつ、モンスターの殲滅を進める。



                  ◆


「―――帝国領土に入った途端これか」


 転移門を抜けて一日が経過した時点で、既に十回はモンスターによる襲撃を受けていた。転移門周辺では一切モンスターの襲撃どころか気配さえなかったが、これが街道に出ると話は違ってきた。まるで群がるかのように大量のモンスターが出現し、襲い掛かって来た。複数のパーティーで迎撃し、支援までして貰っているのでそこまで問題はなかった。実際、そこまで強い訳ではない。帝国ではそこまで積極的なモンスターの駆除が行われていない為、モンスターの抵抗進化が発生していない。だから王国程殺意に満ちた特徴がないのだ。その代わりに、数が多い。


 たとえば先程のロボット型モンスター、アレは帝国が作成した、或いは捨てた、失敗作のロボットがモンスター化したものだ。野生化したそれは帝国領土に広がる荒野に散らばる遺跡や廃棄場からスクラップを改修し、それを自分に似た様に組立て、そしてモンスター化させる事で複雑な機構を組み立てる必要なく、自立して人間を襲う怪物にしている。鉄やスクラップはこの帝国領土には文字通り腐るほど存在しており、回収しても回収しても尽きる事無くある。その為、機械モンスターの数は無尽蔵だと言われている。


 良くこう言われている。


 聖国はガッデム地獄。


 王国はふざけんなよ修羅の国。


 帝国はファッキン世紀末。


 そう、帝国のこの風景はまさに世紀末の名にふさわしいのだ。モヒカンの叫び声すら聞こえてきそうな荒野が帝国領土には広がっている。そこに出現するのはその地形に適応したモンスターであり、ロボット型のモンスター。施設の周辺であれば帝国が遺跡からサルベージし、再現、開発したモンスター避けの装置が存在する。だが街道にはそんなものは設置されていない。だから街道に出ればモンスターが出る。それで商人は死ぬ、冒険者も死ぬ。


 それを漁るスカベンジャーもいる。


 帝国だけ世界観が違うとか言われているが、環境を無視して科学と遺産を重視した結果が、この帝国の荒れた領土なのだ。


 そりゃあレジスタンスでてもしょーがないわな。誰だって納得するわ。


「しかし大した手ごたえがないな。いや、こっちが強くなっているのは確実なんだけど、王国と比べて殺意が足りないな―――」


「―――そりゃあだってウチの国のモンスターは戦う事よりも殺す事に特化しているからな。殺し続けた結果学習したり、効率的に狩りをおこなう方法とか覚えるし。血の臭いを嗅ぎつけて集合とかも大体ウチの国ばかりじゃねぇ? そこまで他国のモンスターの鼻が良いって話は聞かないし。まぁ、モンスターを寄せ付けないだけだと進化はしないけど無駄に数が増えるわで不便だわ。お疲れ」


「うい、サンキュ」


 リーザが水筒を投げてくるので、それを受け取って頭からかぶり、口を開けて飲む。先程まで豪雨に襲われ、青竜で天候を無理やり変更させたが、それでも限度はある。すぐにまた濡れるだろう。ただ雨に濡れるのと、ちゃんとした水で体を濡らすのとでは結構意味が、そして気分が違う。重要なのは自分の意思でやる事だ。空、吹き飛ばした暗雲が少しずつ戻りつつあるのを確認しながら、此方へと走ってくる商人を見つける。


「すいません、暗雲を吹き飛ばしたのは貴方ですよね? しばらくの間、同じ事できませんか? 予定より若干遅れていて雨の中進むのは……追加報酬を出しますので」


「ちょっと考えさせてください」


 魔力の消費やらトレーニング、そして自分のシフトの事などを考え、そして判断する。


「常に行けるって訳じゃないですけど、ある程度なら」


「ありがとうございます。それでは宜しくお願いします」


 忙しそうに商人がキャラバンの先頭の方へと走って行くのを見送りつつ、他にも天候を制御できる方法を軽く考えておく。青竜だとコストが結構重いのだ。そうバカスカ連打する事は出来ない。となるともっとコスト的に楽なのを選びたい所だが―――やはり十絶の陣を展開するのは間違っているか。やっぱりぶっぱ青竜で一時的に暗雲を吹き飛ばして晴天を確保するのが一番かもしれない。そうと決まればやる事は簡単だ。


 青竜を召喚し、これから進む方角の空へと叩き込み、晴天を広げる。単発、それも簡単な仕事をやらせている為、ある程度コストは抑えられる。そうやって青竜で蒼天を確保した事を確認しつつ、まだローテーションで自分の順番が終わっていない為、リーザとハイタッチを決め、それぞれ馬車の反対側へと移動する。それに合わせる様にキャラバン全体が騒がしく、そしてあわただしく移動を開始する。雨が降っていない間に、という魂胆は良く見えて、馬車の移動は今までよりも少し早いぐらいになっている。十日で帝都につくかなぁ、なんてことを思っていると、


 前方から金髪の少年が近づいてくるのが見える。


「や、フォウルさん。さっきは助かりましたよ」


「いやいや、こっちも結構助けられたから。楽士だっけ? 演奏ってやっぱすごいもんだね。魔法でバフ受けるのと全く変わらなかったわ」


「うん。ただ僕の演奏は基本的に音を媒介にしているからね。豪雨だと雨音にかき消されちゃってほとんど音が響かないんだ。だから雨を吹き飛ばしてくれた時は正直助かったよ。僕自身あんまり戦闘力が高い訳じゃないし。完全なフルバックだからね、僕……まぁ、先生に言われて一応攻撃手段は持っているんだけど」


 そう言うとコルネは腰にある指揮棒を指示し、同時にインベントリからシンバルを取り出して見せる。それが白兵戦でのコルネの武器なのだろうか、実にユニークと評価できるものがある。楽器をしまったコルネを見て、少し気になった事を聞いてみる。


「そう言えば戦闘中に楽器を変えて演奏してたけどやっぱり演奏するもので効果とかは変わるの?」


「うん、そうだよ。トランペットとかは基本的に支援よりも攻撃とかデバフが得意で、ドラムとか小太鼓はマーチ系の演奏ができるから速度とか力を与えられる。ハープとか竪琴は疲れと傷、後は精神への干渉を和らげたり癒す事が出来るし。珍しいものではオカリナを使って解呪、大太鼓で衝撃波とか、あとはホイッスルで強制命令とか?」


「こうやって聞くと色々と出来る事が多いんだなぁ、演奏? 演奏術って? そう言えば正式なスキル名とか聞いたことないな」


「僕が使っているスキルの名前は【オーケストラ】だよ。あとはそれを支援したり補助する形で【超肺活量】とか【ハーモニー】とか【音感】とかもスキルとして出現していたなぁ、そう言えば。まぁ、今は統合して上位化させたから【指揮者】になったんだけど」


「うーん、やはり奥が深い。話を聞いたり、知れば知るほどスキルの組み合わせやバリエーションが豊富で、聞いてるだけでワクワクして来るな」


「だよね。フォウルはなんか青竜とか白虎とか召喚してたけど、サマナーなんだよね?」


 まぁ、サマナーと言ってしまえばサマナーだ。ただ王国騎士団の流儀を覚えてしまった結果、”召喚術は手段の一つ”という考えが出来てきたのだから。メインスタイルである事は否定しないが、それでもそれが切り札であり、全てであると考えてはいけないと思う。キレスの様に全てを召喚術だけに預けるタイプは、その手段が破られた瞬間脆弱になる。レギンレイヴとミストを召喚し、アンデッドを封じ込めた瞬間殺された時の様な事だ。


「まぁな。ただ召喚だけをぶっぱするとどうしても魔力のコストや連携で問題が出るからな。近接も遠距離もどっちもできるように意識しつつ、戦況に合わせて攻撃手段を切り替えているわ。おかげで格闘に剣に盾、槍の使い方や弓の使い方まで覚えさせられるハメになったわ。まぁ、でも基本は【魔人】と【支配者】を合わせてズドンしたり、【創造者】と【魔人】と【支配者】組み合わせたガシャン、ガコン、ズドーンしたりかな?」


「ごめん、基本擬音系なのかな?」


「いや、ぶっちゃけると召喚獣の種類が多くて口で説明するのはどうかとね。基本的に戦う所を見てくれれば解ると思う。ただ十絶の陣というどうしようもなく殺す事しか考えてない召喚技があってなぁ……」


「あぁ、うん。原作の方は知らないけど、漫画版でなら大体イメージは知ってる。召喚術ってそんなものまで召喚できるんだ……」


 まぁ、正直ちょっとジャンル違わなくないか? と思う所はある。まぁ、それでも十絶の陣はそもそも正しくは”十絶の陣を生み出す仙人を召喚する”という召喚術だ。ヴァルキリーは今、魔力を全て消費すれば二人同時に召喚できるだろう。だが十絶の陣はそれが出来ない。やはり人を殺す事だけに特化したあの仙人達はそこまで相性が良い訳じゃないのかもしれない。歩きながらそんな事を思い、更に考える。


「それに召喚メインって割とキツイんだよな。召喚するまでは自分と召喚獣の相性とか全く分からないからな。相性が良ければ召喚しやすいし、悪ければ召喚できなくもないけど、コストが馬鹿みたいに重くなるし。それに召喚できる存在も、基本自分で調べないと何もできない。ある程度は教えて貰えるさ。だけど上位級のスキルぐらいからは図書館を使ったり、召喚獣そのものから話を聞いて召喚できる存在を聞きださなきゃいけないし」


「うわぁ……コミュ能力重要そうだね」


「そうだな」


 考えてみるとコミュ能力はホント重要だった。北欧神話系で何が召喚できるかとか、暇な時に召喚したレギンレイヴやミスト辺りから聞いている。スルーズは召喚した瞬間問答無用でヴァルハラ帰しの術を発動させるのでまともにコミュを取れていない。そもそも取りたくはない。帰ってくれスルーズの精神は不変である。そんな風に調査と実験を予め繰り返さないといけないのだ。おかげで安定した奥の手、というものが持てない。出来たら最高位のサマナーでも見つけて、召喚できる存在のリストでも作って欲しい。


 勿論WIKIもそこらへん、大分充実してきているので参考にしたり、情報提供させて貰っている。


「うーん……だけど結局はどのスキルも鍛えたり強くなったりするのに大変そうってなるよね。僕が剣士プレイヤーから聞いた話だと最初は剣を振っているだけでもいいけど、だんだんとどう振れば当てられるとか、出し抜けるとか、そういう風に考え始めたり考えなきゃいけなかったりとかで、ただ攻撃するだけでも凄い悩むって」


「まぁ、それはそうだな。スキルだけ鍛えれば強くなる、ステータスだけカンストすれば強くなる、そんな都合の良い世界ではないんだよなぁ」


「数値だけカンストさせてもそれに付随する経験、知識、技術がないとただのゴミだって先生が言ってたなぁ。普通ネトゲってカンストさせて無双するもんだけど、このリアルっぷりはホント今までのネトゲに喧嘩を売ってるよね」


「それは思う思う」


 コルネの言葉に笑いつつ歩き続けている、馬車の後方からモンスターの襲撃が来ると、叫び声がする。前回の戦闘からそう時間は経過していない。そう考えるとやはり先程の戦闘に誘われてきたモンスターなのだろうか? 或いは帝国の世紀末的雰囲気がモンスター達をヒャッハー化させているのだろうか。それはともあれ、いい加減足止めされているのも面倒だし、先へ進みたい。ペースを上げたいのだ。


「ガチャァタァァァイム!!」


 手を天に向けて掲げ、そしてヴァルキリーの召喚を願う。短期で全ての敵を滅ぼす戦力を保有しているヴァルキリー。彼女に任せれば素早く戦闘を終わらせて進めるだろう。そんな事を思いつつガチャの時間に入る。指定すれば召喚できなくもないが、ガチャの方が召喚コストが安いのだ。


 仕方がないったら仕方が無い。


「ヒャッハー! 雷神の娘のお通りだぁ―――!」


 世紀末にはヒャッハーが降臨する。もはやどうにも出来ない運命だった。



                  ◆



 帝国領土での移動はやはり、少し遅れていた。その最大の理由はモンスターの襲撃が予想以上に多い事があり、戦闘回数が増えた事になる。たとえ敵を簡単に一掃し、直ぐに戦闘が終了してもどうにもならない事はある。その筆頭が道具と魔力の損耗、体力の消費。戦えば戦う程、危険にさらされる馬がストレスを感じる。そのせいで馬を休めないといけない時が来る。その為必然的に休む回数は増える。だからと言って決して、険悪な雰囲気が流れる事はなかった。


 馬車の旅が帝国の領土に入り、夜になると馬車を一か所に並べ、そして大型のキャンプスペースを用意する。馬車の見張り番を交代で用意しつつも、バラバラだったそれぞれのパーティーや商人、作業員たちがキャンプファイアの周りに集まる。移動できない代わりにモンスターの侵入を阻む結界を利用して安全地帯を確保しつつ、キャンプファイアの横ではリュートやマンドリン、アコースティックギターを持ち歩いている楽士のコルネが何時も演奏を練習の為に弾いている。その為、夜は常に明るく楽しい雰囲気が漂っている。


 コルネの楽器を借りて、他の楽器の演奏経験者がセッションを行ったり、歌える者が一緒になって歌を歌ったりする事もある。そうやって雰囲気が盛り上がって行く中、予め購入しておいた酒や保存食、あるいはツマミを持ち出す。演奏をBGMに、昼間の旅の疲れやストレスを吹き飛ばす様に笑い、飲み、そして盛大に交流を行う。正直、こういう交流を行う事は今までは全くなかった。考えすらしなかった。


 こういう形で旅をしなければ、おそらく考えもしなかった。


 そういう気分にさせてくれているのは、まず間違いなくBGMを演出してくれているコルネの存在だろう。純粋に安心できるように、リラックスできるように練習しつつも音楽を流している彼の存在がこうやって楽しめる時間を演出しているのだろう。それを考えると、昼間に見せた戦闘能力よりも、こうやって緩衝材として存在できる、彼の演奏に関する能力が非常に貴重に思えてくる。そう思うとパーティーメンバーに一人、彼のような存在が欲しいと思えてくる。戦闘でも、そしてこういう旅の間でも、ストレスや疲れを抜く為の演出を行える存在は重要だ。


 この依頼が終わったら誘うかどうかを真剣に考えるべきかもしれない。


 そんな事を考えながらも、馬車での旅は続く。


 やはり旅自体は遅れている。それはどうしようもない事実であり、本来三日目で到着するはずであった地点に到着するのは四日目となっていた。雨、そしてモンスターの襲撃によって既に一日も到着の時間がズラされていた。その事に対するいら立ちは存在していたが、夜に行う一種に交流会が程よくそのストレスを和らげていた。故にそこまで大きな問題とはならなかったが、


 そうやって王都を出て七日目。


 ちょうど一週間となったところで、


 問題が発生した。



                  ◆



「―――駄目だ、馬がブルってやがる。これ以上前に進もうとしやがらねぇ」


「なんとかならねぇのか? 演奏家の兄ちゃんに頼むとかよ」


「少しは落ち着いてくれるけどよ、それ以上は駄目だ。何かにビビってこれ以上進もうとしねぇわ。こいつぁその問題の排除をしない限り進めないと思うぜ」


 キャラバンの進行が停止していた。その代わりという風に、前方からは作業員や商人の声がしてくる。どうやら馬が停止してしまったらしく、先程から聞こえる演奏でも駄目らしい。ただ一定の効果はあるらしく、恐怖を抑える事は出来ているらしい。ただ、馬が動かないと馬車を進める事は出来ない。だから待ちぼうけになってしまうのだ。そんな事を思いながら眺めていると、商人が此方へと寄ってくる。


「すいません、馬車を引けるような幻獣や生物を召喚できませんか?」


「あー……基本殺傷力に特化しているんでチト厳しいですね。最終的にたぶん魔力が」


「成程、了解しました」


 そう言って次のパーティーにどうにかならないかを商人が相談しに行く。その姿は実に忙しそうなのは当たり前だろう。一日の遅れが大損へと繋がるのが商売というものなのだから。だからこれを何とかしようと、必死に商人が駆け回っていた。それを眺めていたニグレドが馬車から降り、そして此方へと視線を向ける。


「偵察……してくる」


 そう言って姿を消した。うひょぉ、なんて言葉を零しながら酒を飲んでいたダイゴは空になった酒瓶を捨て、新たな酒瓶をインベントリから取り出していた。


「個人的には遅れる事は別にいいんだけど……この場合原因はなんだ?」


「大体でモンスターが原因よ。訓練された馬ほど賢いもんで自分の主では倒せない対象に対して極度の恐怖を抱くもんよ。だから雑魚の時は特に暴れたりしないのよ」


「ほー……ってそれやべぇじゃねぇか」


 リーザの解説に対してダイゴが返答する。つまりこの先、自分達の実力では倒す事が難しい、そんな存在が待ち受けているとリーザは言っているのだ。流石にストレートにそう言われるとキツイものなのだが、しかしそんな状況、どう突破しろというのだろうか。


「迂回ルート?」


「いや、そりゃあ駄目だろ。街道から外れるから今まで以上に襲撃増えてストレスも増えるからヤバイっしょ」


「あー……そうか、そうだったな」


 そこらへんの判断はダイゴが早かった。別にどうこうする権利があるわけではないが、この先を予想して話し合う。結局の所、原因を排除するべきという意見でまとまる所だが、先が不透明なのが辛い。ここはニグレドの偵察の報告待ちだろう、と思いつつダイゴの横へと合流する。昼間から酒を飲んでいるチンピラ侍は最近、このスタイルを貫いている。飲酒量増えてるぞと注意すべきなのだろうか? いや、リアルでは全く飲んでいないからそこまでは心配しなくてもいいのだが。軽く頭を掻いて、溜息を吐く。


「こういう時、完全な戦闘特化だとやれることが少なくて色々と嫌になるな。最低限知識があったりしたらもうちょいなんとかなりそうなんだけどなぁ……」


「ま、誰だって最初は知らない状態で始まるから問題ないんじゃないのー? そういう甘えが許される立場はドンドン利用するに限るわ。まぁ、今回に関してはストレートにぶっ飛ばせばいい、で済むと思うし。ニグレドちんが帰ってきたらそっから相談ね」


 やはりそれぐらいしかないのだろうと思っている、商人が馬車を全て見渡せる位置へと移動し、声を張る。


「―――すいません! 馬がどうしても先へと進もうとしないので、原因排除の方で進める事にしました! 一時的にキャラバンをここでキャンプさせ、原因の調査と解決に乗り出します! 協力をお願いしたいのでそれぞれのパーティーの代表とソロの方は此方へとお願いします」


「行ってこーい」


「頑張ってねー」


「俺よりもリーザの方が適任だと思うんだけどねー」


「めんどい」


 ばっさりとリーダーをやらない理由を切りだされながら溜息を吐き、商人の方へと移動する。自分が到着した後から他にも数人やってくる。何処か若干めんどくさがっているような雰囲気が誰にもある。しかし、今回の旅がトラブル続きだと考えると納得できる話でもある。またまた溜息を吐きたくなるが、幸運が逃げそうな気もするので、今回ばかりは我慢する。代わりにふぅー、と息を吐く。


「今ウチの子が偵察に出てるから少し待てば情報が入ってくる筈だ」


「あぁ、それはすいません。しかし困りました、一応訓練された馬なんですけどね。ここまで怯える事は今までになったもので……」


「確か馬が怯えるのっては強いモンスターが原因だったな?」


 大剣を背負うリザードマンの剣士がそう聞くと、商人が頷く。


「今、ここにいる面子であれば正直に言えばドラゴンもある程度のであれば狩れる筈なんですよね。それを考慮して馬の怯え方を考えると……やはり単純にモンスターが原因じゃないかと思いまして」


「ふむ?」


 その言葉にたとえば、と質問を付け加えると、その前に影となっていたニグレドが帰還して来る。凄まじい速度は風のようにしか感じられないが、その服装に一切の乱れはない。またまた腕前を上げたな、というのが解る。


「ただいま」


「おかえり。んでなにか解ったわけか?」


 周りの視線が集まる中でニグレドが頷く。


「地割れの間から……遺跡の扉が見えてる……街道からちょっと離れるけど……おそらく原因」


「ダンジョンですか」


 帝国は大量の高魔導文明の遺跡が、ダンジョンが存在する事で有名だった。その出土品を解析、技術を転用する事で国を潤わしている。故に、地震の影響で遺跡の入り口が現れた、何てことはそう珍しい事ではないらしい。ただ、ここでの問題はこの道を突破したければダンジョンを突破しなくてはならなくて、


 そして情報の存在しない未知のダンジョンというものは極悪という言葉では表現できない殺意を持っている。


 王国の冒険者を襲う殺意がモンスターの進化から来るものであれば、


 帝国の冒険者を襲う殺意はダンジョンのトラップや適応したモンスターの生態系だ。


「―――それでは、事態解決の為に、どなたかにダンジョンの攻略を頼めないでしょうか? 報酬は勿論出します」


 ほれきた。


 ニグレドの報告辺りから絶対発生するであろう流れを予想し、苦笑以外にする事がなかった。

 感想降臨の舞を踊りつつ投稿。


 あと王国産蛮族は武器を選ばない。なにが使えても当たり前なのです。


 演奏家というか楽士を出すのは初めてだけど前々から使ってみたかったジャンルのキャラクター。戦闘時以外でも心を癒してくれる感じに、多分結構便利なジャンル。

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