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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
一章 王都編
22/64

二十二話 パーティー結成

 キレス・アイネットとの戦闘はゲーム的な”ボス戦”に当たっていたらしく、能力の上り幅は大きかった。


 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:54

  体力:57

  敏捷:49

  器用:44

  魔力:53

  幸運:25


 装備スキル

  【魔人:3】【錬金術:43】【瞑想:42】【索敵:40】【鑑定:36】

  【血戦血闘:4】【召喚師の心得:42】【魔力強化:8】【詠唱術:8】


 SP:5


 と言っても、上位と下位スキルで上り幅を比べれば、どれぐらいの差があるかはわかりやすい。下位と上位が同じレベル1の状態でスタートしても、上位スキルはその半分しか成長しない。まだレベルの低い状態なのにこの程度の成長なのだから、先が思いやられる。


 ともあれ、帝国大使館での戦いはあっけなく終わってしまった。


 ニグレドは両足複雑骨折な上に皮膚は剥がれ、ダイゴは心臓近くに貫通する様な穴を貰い、リーザは全身が打撲と切り傷と呪毒汚染、俺に関しても両手の拳は砕けきっており、体内に呪毒が残留している。戦闘を行った直後は全員が緊張感からの解放で何も出来ずに倒れ、そのまま死にかけるという事態に発展した。本当にこのまま、何もしなければ死んでいただろう。幸運だったのはミストが一時的に凍結して生命を維持してくれたこと、そして戦闘開始五分という僅かな時間で騎士団が到着した事にある。


 そこからは時が加速する様に感じられた。騎士団に助けられ、王城に連れていかれ全員で治療され、事情聴取を受けたらそのまま超説教を喰らう。特に自分とニグレドなんて一時的ではあるが、騎士団に席を置いた者だ。何故騎士団に連絡をしなかったと、それぞれ担当をしていた騎士団長から数時間に及ぶ説教を喰らい続けたが、最後の最後で良く事件を解決した、と褒めても貰えた。なんだかんだで中々褒めない人だったので、妙にそれが記憶に残って嬉しかった。


 ともあれ、事件が終わって真っ先に言い渡されたのは静養しろ、との事だった。パーティーメンバー全員が酷いダメージを受けており、回復魔法だけではどうにもならない部分がある為、しっかり休んで回復しろ、という事だった。ありがたい話ではあるが、同時に畏れ多い話でもあった。その間の滞在先は王城なのだったから。リーザからすれば住み慣れた実家でしかないが、自分達にとってはそれでも入った事もないような領域だったため、自由に歩き回る許可を貰った時は衝撃的だった、


 そうやって二日ほど、体の感覚を鈍らせないように軽く運動しながら静養していれば、体は回復する。そうやって漸くベッドから離れて、自由に歩きまわる事が出来るようになる。王様お抱えの医師だけあってその実力は凄まじく、全員に傷一つ残さず治療する事に成功してしまっている。喰らったダメージを自分の体で体感しているだけに、どれだけ酷かったかを知っているだけに驚きは大きかった。流石はファンタジーとも言えた。そうやって王城で静養する日々を過ごし、体力が回復してきた所で、


 ついに、来てしまった。


 ―――王と謁見する日が。



                  ◆



「よぉ、元気にやってるか? 俺がアルガン・リヴェル・グラターク・アルディアだ。名前はクソ長いからアルガンだけでいいぜ」


 玉座に座る男の姿は凄まじい。獅子の鬣の様な赤い髪を一切整える事もなく伸ばし放題にし、服装も一切豪華なものではない。刺繍や軽い装飾は入っているが、貴族が着るレベルの私服、そういう軽い服装を着ている。しかし、この男、国王アルガンから感じる覇気は全く衰えない。どんな姿をしていようとも、この男に対する印象を変える事は出来ないだろう。絶対王者。その名にふさわしい覇気を纏うのがアルガンという男の気配だった。笑みを浮かべ、その存在は片膝をついて頭を下げる自分、ニグレド、そしてダイゴを歓迎していた。アルガンの玉座の横には何時もの動きやすい服装とは違う、赤いドレス姿のリーザがいるが、


「ダディよ、私はこれが真面目な場だって聞いてたんだ」


「おう、真面目だが?」


「その服装でどこが真面目とか抜かしやがる。ドレスとか着たくもないのに着させやがって……!」


「えー、だってダディが見たいんだもん」


 リーザの指が国王の目に叩き込まれた。途端に謁見の間に国王の悲鳴が響き渡り、リーザが着替える為に消えて行く。近くで成り行きを見ていた親衛隊が両手で顔を覆い、溜息を吐いていた。その様子からするとこれぐらいの事は日常的なイベントのように思える。大丈夫かどうか、声をかけたい所だけど以上にし辛い。そう思っている間に、アルガンが復帰する。


「ふー……ふー……アイツ、ウチのガキの中でも一番俺の血を濃く受け継いでやがる。だってやる事に一切容赦ねぇもん! まぁいいや。っつーわけなんだおい、お前ら大使館でいい感じに暴れたってなぁ! そういうお祭りには俺も呼べよ! 最近政務ばかりで実戦が足りてないんだわ。やっぱり、こう、体は動かしたくなるもんだろ?」


「陛下、政務が本職ですよ、本職」


 えー、と言葉を零す王の姿を親衛隊がどうどう、と嗜める。欠片も威厳があったものではない。こういう一家かぁ、なんて言葉を胸中で呟いていると、アルガンが視線を向けてくる。


「まぁ、よくやった。何だかんだで騎士団が動けば後手に回ってただろうしな。フットワークの軽さではどうしても冒険者の真似が出来ないのが騎士団の辛さだ。ま、だからウチの国では冒険者を重用しているんだけどな。大規模な事や犯罪は俺らが、手の届かない痒い所は冒険者、ってな。今回の件に関しては正式に依頼していたって事にしてギルドを通して報酬を支払う予定だ。これが終わったらギルドへ行け、話は通ってる」


「ハ、ありがとうございます」


「ま、ここからどの国に行くにしろ、気を付けておけ。お前らが大使館を叩いた日の内に聖国の方も叩いてみたら、面白い事が解ったぜ? 巷の殺人事件、ありゃあ始めたのは帝国でも、途中からたきつけたのは聖国の方だってな。まぁ、終わってしまえば”やっぱりそうか”で終わっちまう話なんだけどな」


 それを聞いて思う。


「陛下、質問を宜しいでしょうか」


「おう、いいぜ」


「……戦争は回避できないんでしょうか?」


「無理だ」


 その答えは早かった。あらかじめ予想していたかのようにアルガンは答えた。


「そりゃあ戦争を回避出来たらそうするのが一番だろうけどなぁ、無理ってなもんよ。帝国は狂犬みたいに何をしても噛みついて絶対戦争をしてやるって状態だし、聖国の上の連中に関しては、皆クスリをキメてラリってやがる。この大陸ウチ以外にまともな連中いねぇのかよって思いたくなるぜ。まぁ、そんな訳で”戦争回避しよう?”って帝国に言えば”解った、戦争しよう”って言い返すし、聖国に仲介を頼むと握手の代わりにクスリをキメてくれるぞ」


「もうこれ二つとも滅ぼしたほうがいいんじゃないですかねぇ……」


 特に聖国の方、ちょっと酷いってレベルを超えている気がしなくもない。握手の代わりにクスリをキメてくれるって少々レベルが高くないだろうか。


「いや、まあ、聖国全体はそこまで悪くはないんだよ。教義自体も”生きる事を諦めず、幸福をしっかりととらえて毎日を生きよう”って感じのアレだしな。ただ幸福って何? って考えた結果上の連中がクスリをキメ始めたのが原因で腐ったからな」


「そこで何でクスリが出たのかが分からないわよねぇ」


 リーザが戻って来た。その服装は何時ものホットパンツにタンクトップとハーフジャケットだ。グラップラーである彼女としてはその恰好が一番動きやすいものなのだろう。玉座の間に戻って来た娘を迎える様にそうだなぁ、とアルガンが声を零す。


「まぁ、ぶっちゃけそこらへんはどうだっていいわ。重要なのは目の前に迫っている帝国との戦争をどう乗り切るかって話だ。疲弊しちまうと聖国が乗り出してくるしな。その前にお互い、決着を付けようとは考えているだろう……ま、ここらはガキにするはなしじゃねぇな。話題を変えるか。この後どこへ行くかとか決めてるか?」


 アルガンの言葉に対して三人で視線を合わせて、頷き、そして答える。


「―――帝国を見てこようかと思っています」



                  ◆



 帝国。


 それはこの大陸の国家の一つであり、侵略国家、狂犬、悪魔の国と呼ばれる国だ。冒険者の身分はそこまで高くはなく、若干兵士達からは見下されている様な部分さえもある。だがその帝国で一番気になる事と言えばまず、奴隷制度になる。帝国には奴隷制度が存在し、その売買を行う事が出来る。王国、聖国、そして帝国の中でこの制度が生きているのはもはや帝国だけになる。法律の関係上奴隷の所有は王国と聖国ではできるが、売買は帝国のみとなっている。


 故に帝国の奴隷市場は一定の人気を持っているらしい。


 ただ、それと同じレベルで有名になるのは革命軍―――レジスタンスの存在だろう。


 帝国のやり方、奴隷制度に関しては反対しているものがそれなりに多い。利益を生み出している裏で、王国と聖国では奴隷の売買が行われていない、即ち帝国でも必要はない、という声は存在する。それだけじゃなく、帝国では持続的な民への弾圧が発生している。要するに自由がほとんど存在せず、抑圧された環境なのだ。それでも帝国という国が続いているのは、皇帝の手腕が卓越しているからに過ぎない。それでも帝国という国を離れた方が不利益の方が大きいと、そう言う風に国を統治しているからだ。


 皇帝は自らの国をほぼ完璧に統治しているのだ。


 次はそこへ向かおうかと考えている。


 理由は色々とある。まずは帝国という国を色眼鏡なしで見たいという気持ちがある。そのほかにも帝国で見れる景色を確かめる為に、そしてキレスがあそこまで心酔していた帝国皇帝の理想というものも確認したかった。色々と見たいものが帝国にはあった。環境は王国程狂ってはいないらしいが、帝国内でのレジスタンスと兵士達での衝突は日常らしく、それを考えれば戦闘をする機会も多くあると思える。戦争から逃げる様に聖国へ向かうのも悪くはないだろうが、


 それでも見たいと思ってしまった為、行くことを決意する。


 そう言うわけで次の目標は帝国だった。


「―――陸路は辛いらしいですが、幸い自分は召喚師なので空路が使えるので、それで帝国に侵入しようかと思っています。そうでなくてもキャラバンの便乗できればそれはそれで」


「ほうほう、成程な。ま悪くはないんじゃねぇか。俺も若い頃は世界中を旅して、海の向こう側まで見てきたからな。そうやって見識を深めるのは大事だと思うぜ。俺は王国から動けないけど、お前の旅の幸運を祈ってる」


「ありがとうございます」


 そして王との謁見が終わる。かなり気さくな人だったな、と思いながら立ち上がり、部屋から退室しようとすると、何時の間にか横にリーザが並んでいるのが見えた。あ、一緒に外に出るのね、なんて事を思いながら謁見の間からでる、


 走って王がやってくる。


「まて、我が娘よ。自然な流れで一緒に退室したけどお前そっちじゃないだろ」


「え? なんかこのパーティー良い空気吸ってるし一緒に帝国で暴れてくるわ。大丈夫、外国であっても王国の法律は守るから」


「良し、問題ないな」


「問題だらけだろうがァァ―――!!」


「やべぇ、じぃだ」


 怒りの声が王城の奥から響いてくる。軽くこの親子をしかりつけなきゃいけない老人らしき人物に同情していると、腰に手を回され、抱き上げられる。えっ、と声を漏らす頃には既に横に抱えられ、リーザに運ばれている。速度的に少ししか劣らないニグレド、そしてダイゴが猛ダッシュでリーザを追いかけ、窓から外へと飛び出す。


「怪我するなよー! いい加減男を引っ掛けて来いよ娘よー」


「国王陛下ァ―――!」


 怒りの声が王城にこだまするのを聞きながら、何時の間にかリーザにお姫様抱っこされているのに気が付き、両手で顔を覆う。この親子、大体こんなノリだとしたら激しく同情するしかない、というかこれ絶対にやる側が違うだろうと思う。だけどそんな事を考えている内に着地し、王城から上層の街並みの中へと、


 そして王都へと逃亡を完了した。


 楽しそうに笑い声を上げながらリーザは走り、そして声を上げる。


「そんな訳で私も一緒だ! これからよろしく頼むぜ!」


 もうどうにでもなれ。



                  ◆



 それから一時間後、場所は王都の戦士ギルドに移る。忙しく働いている人の姿を眺めつつも、視線は掲示板へと向けられている。そこに表示されている依頼を確認し、そしてどういう種類のものがあるのかを確認する。一つ一つチェックし、そしてそれをメモったところで掲示板に背を向けてギルドの端にあるテーブルへと向かう。そこには座っている他のパーティーメンバー、三人の姿がある。合流する様に座る。


「―――基本的に騎士団がモンスターの掃討を行っているせいか討伐系が異様に少ない。地形偵察系のお仕事が多いのは間違いなくこの先の戦争を考えて、把握し直しているって事なんだろう。まぁ、あまり関係のない話だから本題に入るとすると、帝国までの馬車の護衛依頼はあったわ。ただ馬車ってじゃなくてもっと大きなキャラバンの護衛依頼だったけど。多分だけど戦争が始まる前に帝国へ便乗出来るキャラバンはこれが最後じゃない?」


「えーと……現状の俺らの移動手段は二種類……いや、三種類だっけ?」


 ダイゴの言葉にニグレドが頷き、そしてリーザが大通りで買ってきたクレープを食べながら捕捉する。


「一つ目は私達で馬や馬車を購入する方法。私個人で使えるお小遣いやみんなで金を出せばそれなりに良い馬車は購入できると思うぜ。まぁ、馬車で運ぶほど物はないから馬だけでも良いと思う。馬だけなら自分のがあるし、皆も購入できるだろ。んで二つ目は護衛依頼に便乗する形で移動。大きな所になるとローテーション組んだりメシの支給も出たりするから、割と快適にいけるぜ。んでこれが最後の手段―――空路だ」


 視線が此方へと向けられる。


「俺が【魔人】になった事で召喚できる時間と幅は大幅に増えている。騎乗用の大型ワイバーンを召喚できるし、それで足りなきゃ朱雀辺りも召喚できる。維持に関しては俺の魔力を今まで以上にゴリゴリ削るから、合間に【瞑想】で休憩を挟んだりしなきゃいけないのが難点だ。ただ地上とは違って空には敵がほとんどいないから盗賊とかとエンカウントしないって利点がある」


「ちなみに私個人の話だけど、個人で陸路の移動は真っ先に蹴り飛ばしても良い考えだと思う。ぶっちゃけリスクが高すぎる。キャラバンに便乗すれば護衛って形である程度チェックを簡単に終わらせられるけど、そうじゃない場合は一々面倒だしね。ちなみに空路の場合はバレずに侵入できるからそこらへんを考えなくても済む」


「キャラバンか……空路」


「俺の苦労は考慮されないんだよなぁ」


 その言葉を全員が無視してきた。ただニグレドは言う。


「経験は大事……だからきっと……キャラバンがいい……と思う」


「まぁ、護衛依頼とか経験して軽くお金稼ぎをしたいって感じもあるよな。空路だと召喚の練習にしかならないし。多分俺達が暇になる」


「それだけじゃなく、仕事を完遂すればその分コネができたり信頼を得られるからなぁ。まぁ、王女って時点で私の信頼は天をぶち抜いているんだけどな!」


「黙れ駄プリンセス」


 ショックの表情をリーザが浮かべるが、お前がしたお姫様抱っこに関しては絶対に忘れずに呪ってやるから覚悟しろ。きっと【魔人】スキルには呪術を行う事だって出来る筈なのだから。まぁ、それはともあれ、全体の意思としては決まっているようなところがある様に思える。陸路、それも依頼を受ける方向性という形で固まっている。まぁ、確かに必要ではない限り空路を取る意味もないだろうとは思う。とりあえずこれで方向性は決まったが、一応聞いておく事にする。


「この四人でパーティーを組む方向でいいんだよな?」


「……」


「しかないだろ」


「だな」


「―――じゃあ、パーティ名はどうするんだ?」


 その一言に全員が動きを停止し、そして真剣な表情を浮かべる。


「王国美少女と愉快かもしれない下僕達」


「フルーツタルト」


「銘酒”魔王”」


「まともな案が一つもねーじゃねぇか!! しかもリーザのお前のなんでそれ疑問形なんだよ! あと馬鹿二人に関してはもはや食べ物と酒の名前だよ! それパーティー名じゃなくてお前らが今欲しいものの名前だよふざけんなよ!」


 半分切れるようにそう叫ぶと待て待て、と皆が声を揃え、そして自分のネームを売り込み始める。だがどいつもこいつもまともな名前を持ち上げる事が出来ないので、それを全部スルーし、頭の中でパーティー名は今の所未定にしておこう、そうしようと決める。今の所早急にパーティー名が必要であるというわけでもない。こういうのは必要な時に名乗るようにすればいいのだ。……まぁ、火種を生み出した自分が悪くもあるのだが。そう思うとあまり強くは言えない気もする。とりあえずは論議している馬鹿三人を放置し、ギルドの受付へと向かう。


「……帝国行きキャラバンの護衛依頼のパーティー単位での登録ですね」


「なんか煩くしているようで本当にすいません」


「いえいえ、では―――」


 そこで依頼の説明が始まる。依頼は三日後で王都の西門での集合。パーティーは他にも三つほど参加し、ソロの冒険者も数人参加する、結構大型の護衛依頼らしい。食事は出るし、夜間の護衛はローテーションだとか。そういう細かい説明を受けつつ、メモにその内容を書き写して記憶し、必要な説明事項を聞き終わる。受付嬢に笑顔でどうも、と感謝してからカウンターを離れると、


「でもなぁ、やっぱり俺はこう思うんだよ―――やっぱりあそこはタワシだな、って」


「いやいや、タワシは駄目だろ」


「ないわー……ないわー……」


 何時の間にかタワシ議論に発展していた。お前ら本当に仲が良いな、なんて感想を抱きながら聞いて来た依頼の内容を三人と共有する。そうするとリーザがえー、と口をすぼめながら文句を言って来る。


「三日後かよー。王城から飛び出したから今日中に出たかったんだけどなぁ。三日もあったらまた家に帰る必要があるじゃねぇか。あ、いや、待て。元々着替えとか一切持ってきてないから取りに帰る必要あったわ。うわぁ。あんな風に飛び出しておいてまた顔を出す必要あるのかよ……とか思ったけど、そう言えば毎回こんなノリで飛び出してるわ。全く問題ねぇや。ダディの痔が治ってないか確かめる為にケツ蹴ろう」


「やめてあげてよぉ! 辛いんだよ痔はァ! 俺の大学の友人が痔なんだけどさ、アイツまともにトイレへ行けないって涙を流してるんだぞ。もっと痔の奴には優しくしてやれよぉ!」


 ダイゴが涙を流していた。気持ちが悪いので顔面にビンタを叩き込んで黙らせる。


「俺、気がついたよ。もうちょっとバイオレントに行っていいんだって。お前らを優しく扱うと際限なくつけあがるだけだから、これから心から容赦の二文字を消し去って行くぜ。具体的に言うとヴァルハラ式ミョルニルケツ叩きを解禁するていどには」


「ひぎぃ」


 それにしてもヴァルハラ式ミョルニルケツ叩きという言葉の言霊が凄まじすぎる。そもそもヴァルハラ式とはなんなんだ。それにケツ叩きをミョルニルでやっていいのか。スルーズが犠牲になっていたらしいが、屈辱的なものなのだろうか。まぁ、スルーズが出していた出力は無理だが、【魔人】と【錬金術】で劣化品ぐらいは生み出せるだろう。少なくとも【魔人】というスキルは召喚魔法や通常の魔法行為に対する汎用性がすさまじく高い。流石習得するのに六スキルも消費した上位スキルは格が違った。


「まぁ、そんな訳でとりあえず真面目な話を纏めておく! 俺達はこれから帝国へ! なんで? 俺が行きたいって思ったから! 方法は定番の護衛依頼で一緒に移動、そして依頼の日は明々後日から! なんでもここから帝国まで馬車を使って最短距離を通っても一週間以上はかかる距離らしいからそれ相応に準備をする! それまでは各自自由行動! 解散!」


「解散って言われても何もする気にはなれないんだけどな」


「……」


 リーザの言葉にニグレドが頷く。まぁ、なんだかんだ言って死闘を少し前に潜り抜けたばかりなのだ。少しばかり休みが欲しいという気持ちは強いだろう。だからと言って別に、街に遊びに出たいわけではなく、適当にぐだぐだしたい。そんなもんだろう。はぁ、と息を吐きながら適当なソファに座り込み、体を沈み込ませる。そのまま何もしゃべらずに数秒時間が過ぎてから、口を開く。


「いや、待て、なんでリーザがいるんだ」


「世界を回りたいから」


「なんで我がパーティーに」


「一緒に戦えば戦友じゃん」


「それでは当方で貴方をパーティーに参加する事で得られるメリットをご提示ください」


「このパーティーに足りない色気成分を私一人で供給できるな!」


「採用」


「採用」


「がっでむ」


 ニグレドが脛にローキックを叩き込み始める。その様子を見ながらリーザが勝ち誇った様子を浮かべ、そしてローキックが更に強くなる。そんなリアクションを見せているからおちょくられるのではないかと思うが、もういいや。そう思って両手で印を結んで、幻狐を召喚する。五尾となった幻狐はサイズが大きくなっており、もはや抱える事は難しい。だがそれでも、多少重くても膝に横向きに乗せる事は出来るだろう。


 そうやってソファの両脇を占領する様に、幻狐を膝上に乗せ、そのふわふわでふさふさの毛皮の中に顔をうずめる。


「うふふふ……あははは……もふふふふ……」


 柔らかく、肌触りも良く、非常に気持ちが良い。荒んだ心が癒されて行く様な気さえもする。やっぱりもふもふする動物は癒しだな、と思いながら顔をうずめていた毛皮から顔を持ち上げると、三つの羨ましそうな視線が見える。だがそれを無視し、体に五尾を巻きつけるように堪能しながら、そのもふもふ世界に溺れて行く。


「あー……幸せー……」


「おい、卑怯だぞ! 見せるだけ見せて触らせてくれないとか卑怯だぞおい! 俺にも触らせろ!」


 そう言って立ち上がり、触ろうとしたダイゴの手を一本の尾が弾く。その動きにダイゴが足を、そして手を止める。その間に耳を幻狐の口元に寄せ、そして【魔人】スキルで幻狐の言いたい事を理解する。ふむふむ成程、と声を零しながら顔を持ち上げてダイゴへと視線を向ける。


「酒臭くて鼻が曲がるからこっちくんなだってよ」


「ぐわぁぁ―――」


 ダイゴが悲鳴を上げながら倒れる。それとは違い、ニグレドとリーザには素直に触らせてあげている。幻狐の美しい毛並みを触れる事が出来た二人が幸せな表情を浮かべながら、それに埋もれて行くのが解る。


「俺のレベルが上がればもっと大きくなるのかなぁ……」


 幻狐はスキルの成長と共に段々と巨大化している。最終的に目指す場所が九尾ならば、その大きさは相当なものになる筈だ。そしてそのサイズであれば背中に乗ったり、その尻尾に埋もれたり、まさにもふもふワンダーランドが開園できるに違いない。なんと夢のある光景だろうか。そう予想が付くなら、この出発までの三日間やる事は決まっている。勿論スキルレベリングだ。この期間の間にSPとスキルレベルを上げて、帝国での冒険に備えるのだ。


 ただ、まぁ、今はひたすら幻狐のこのもふもふ世界に溺れたい。


「育てよー、超育てよ、んでいつか俺を背中に乗せて走らせろよー」


「もふもふもふ……」


「あぁ、やっぱこのパーティー入って良かった……」


「あの、すいません、私も参加させて……」


 近寄ったらダイゴが再び尻尾によってはたかれ、床を転がる。そうやって冷たい床に突っ伏すダイゴの姿は余りにも哀れだった。と言っても、一切同情する気も手伝う気もなかったが。


 三日後に帝国へ。


 それまで、思い思いに王国を満喫する事にした。

 王国美少女、パーティーに加入。


 王国は一番まともな国でも、三国で一番フリーダムな行動力を持っているのが王国だったり。

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