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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
一章 王都編
20/64

二十話 犯人殴り隊

「きひひひひ、なんよ俺ぁがいない間にギルドで面白う事やっちょるじゃねぇのよ。戦女神様ぁ呼び出して大暴れらしいのぉ!  寂しぃのぉ、俺も呼んでくれちゃらええのに」


「割とノリでやったことなので無理です」


「そんなんじゃけぇ負けるんよ! 戦場じゃぁ強ぇのに強ぇのをぶつけるのが常道よ。ひっくり返す手がないなら知ってる中で一番強いのを引っ張ってくるしかありんせんわぁ。まあええ。ほれ、頼まれてたもんじゃけの。受け取れ」


 スルーズス・ブートキャンプから一晩が経過した。スレを炎上させるほどに至った大事件から一晩、おそらく今でもスレは大炎上しているのだろうが、それを見るだけの根性はなく、他のプレイヤーからの声を全て右から左へと受け流し、グラウの所へと来た。どうやらグラウ本人の耳にも事件についたは届いており、殺人事件以上に興味を持っているらしい。この人、怠惰そうな雰囲気を醸し出している割にはたぶんお祭り好きっぽい。それはそれとして、殺人事件の容疑者に関する資料を受け取る。


 と言っても、それはたった数枚だけだったのだが。


「帝国大使館の職員で帝国人のキレス・アイネット……ネクロマンサーでありながら召喚術を使用する、と。ドンピシャですわ」


「王都全体で見て帝国人と聖国人だけ調べた場合はそぉなったわ。まぁ、皇帝派の気狂いの事じゃけぇの、あんまし凶行に出たところで驚きはなぁもんだわ」


「……皇帝派、気狂い?」


 おう、とグラニは自分へと向けて答えながら視線を向ける。ここにはダイゴの姿も、ニグレドの姿もない。ダイゴはトレーニングで、ニグレドは単純にここが苦手だから、という理由で一人で情報を受け取りに来ている。少々寂しい話だが、皆でやらなきゃいけないというルールはないし、別行動の方が今は便利だ。グラニの話を聞きつつ、受け取った資料の内容をフレンドメッセージで二人へと送る。


「帝国はなぁ、気狂いの国ぞ。ありゃぁ狂っとる。人が好きで好きでしょうがないわな。だから侵略なんて事をしているんの。自分以外の誰かに人間という生き物を管理させる事が嫌なんよ、不安なんよ、許せんよ! あぁ、愛い、愛い! なんともお前らは愛いんじゃあ! 抱きしめさせてくれ! 愛でさせてくれ! そして占領させてくれぇ! 貴様らが愛いんじゃあ! ま、将軍とかぁなれば聞く話じゃよ。皇帝は気狂いじゃの」


「うわぁ……」


 それしか声が出なかった。可愛いクマの人形がある。それを自分の物にして愛でたい。それと全く同じ視線を、目線を、人と国へと向けている。子供であるのと変わらない。それが皇帝であるとグラウは言っているのだ。正直、帝国人に関しては同情する。割と法律が厳しかったり、弾圧されていたりで、本当に愛らしいと思っているのかどうかは疑問なのだが。


「ま、帝国へ行くことがありゃぁ多少は気を付けるがええでよ。あそこの皇帝様は本気で弾圧が人を幸せにすると思うとるでよ。それがどういう風かは俺ぁには興味がねぇでよ、自分で目を使って確かめに行くがええでな。ま、今回の件で嫌でも見る羽目になるかもしれないがな」


「嫌な事を言わないでくださいよ」


「きひひひひ! まぁ苦労せぇガキどもっつーわ、程々に苦労せぇよ。あとお嬢にええ加減男でも引っ掛けてガキ作っとけともな。お嬢は昔から婚約者を飛ばしすぎて男が引っかからんで先が重いでよ」


「自分で言ってくださいよそれ……」


 溜息を吐いてグラウに感謝しつつ、これから行動に出る為にも部屋から出ようとする前に、足を止めて振り返る。この情報をたった一日で持ってきてくれたグラウだが、この竜仙人、思えば本気を出せばこの程度の事件、たったの一日で解決しそうな気配もある。そう思って出る前に一回振り返るが、その視線を受け止めたグラウは楽しそうにクスリを煙管で吹かし、楽しんでいる姿しか見えない。あまり、深く考えてはいけない様な気もする。


「お邪魔しました」


「何時でも歓迎するでよ、きひひひ……」


 気味の悪い声を背後にしながらグラウの屋敷を出て行く。間違いなくグラウがその気になれば、この事件は一瞬で終わるのだろう。それだけの実力と情報に対する収集力がある。ならば何故、グラウは自分の所属する国である王国の問題を一瞬で解決せずに、こんな風な遠まわしな手段を通すのだろうか。気になる。が、答えが出る事はない。それよりも情報が手に入ったので。


 これを使って解決へと乗りだそう。そう思い、もう振り返る事なく拠点の宿へと戻る。



                  ◆



「んじゃ、情報が集まったところで会議を始めるぜ」


 拠点にしている中層の宿屋、自分とニグレドが借りている部屋の中でテーブルの上に貰った資料を乗せ、三人で確認できるように囲む。リーダーシップを発揮しているのはダイゴの方だ。こういう音頭を取ったり、進行を促したりするのはやや強引なこいつの方が良かったりする。


「さて、犯人の目星はついた、このキレス・アイネットって帝国人だ。王都の大使館で働いていて、どうやら帝国軍人らしい。人種差別とかはなし、だけどその代わりにガチガチの皇帝信奉者。皇帝のやる事は正しい、って思っている。この緊張状態で帝国に帰らないのは仕事があるからとかなんとか。社畜の鏡だな!」


「やめろよぉ!」


 息を吐きながら溜息をつく。ダイゴの言っている事は解る。だからそれに続けるように言葉を繋ぐ。


「王国騎士団ってのは基本的に証拠を掴むまでは水面下で行動を続けるらしいよ。んで俺達の状態は”怪しい”ってのを掴んでいるだけ。具体的な証拠がないから、このまま王国騎士団に報告しても”情報提供ありがとうございます、調査しますね”で終わるわ。いや、それでもいいんだけどな、別に。ただ王国騎士団が動き出すとどう足掻いても解りやすくなってくるからね。その辺を考えると俺達が動いた方が捕まえられやすい、って場合もある」


「重要なのは証拠を掴む事か」


「……脅迫する?」


 ニグレドの言葉に、視線がニグレドへと集まる。それを受け、ニグレドは黙る。ただ、あまり脅迫がいい手段だとは思わない。相手がそれを想定して動いて居た場合、そこから派手な騒ぎになるだけだ。だから一番いい、というか理想的なのは現行犯で捕まえる事だ。幸い、プレイヤーにはNPCと違ってフレンドを通したメッセージのやり取りを行える。それを通せば監視と連絡を同時に行える。個人的にはこれが一番だと思っている。


「まぁ、脅迫にしろ、監視にしろ、問題はあるんだけどな」


「それは?」


「―――相手は大使館にいるんだぞ」


「あっ」


 大使館内にいる相手にどうやって接近するのだろうか。一般の冒険者がそう簡単に大使館に入る事は出来ないし、騎士団だって相応の手続きを行わなきゃ大使館に入る事は出来ない。調べるのは間違いなく難航するだろう。それに大使館自体を監視するにしたって、大使館内で召喚し、転移系の魔法か魔術で街へリリースされていた場合、監視していても全く意味がない。そう言う事を考えると実に厄介な場所にいる容疑者だと思う。考えてやっているなら殺意が湧く。


「んで……どうする?」


 その言葉に対して、ニグレドが腕を組んで答える。


「暗殺……する?」


「おい、お前の妹はなんでそんなに物騒なんだよ、こえーよ!」


「妹じゃねぇよ! 最近妹の様な扱いになって来てるけどさ! とりあえずは冒険者って身分からだと結構難しい立ち位置に容疑者がいるって言いたいんだよ! ぶっちゃけグラウさんが特攻して皆殺しにするぐらいだったら”あぁ、あの人か”で済むんだろうけどさぁ! 俺達の様に後ろ盾のない存在が疑いをかけても逆にこっちが追いつめられるだけなんだよ! めんどくせぇんだよ戦争前だし! これで無駄に火種を作ったら爆発しそうなんだよ! 火薬庫でファイヤーダンスしているんだよ今ァ!」


「楽しそう」


 正気か。いや、正気じゃないのは既に理解しているが。友人は頭の中まで侍だし。拾った子は暗殺脳だし。もう少しまともな同行者が欲しい。そう思うのは悪い事なんだろうか。そんなはずはないのだと思いたい。きっと、この先、もっとまともなパーティーメンバーが増えるに違いない。なんか段々固定パーティー化している気がするが、もっとまともな人材を―――。


「はぁ……まぁ、最終手段がなくもない」


 パーティーに関しては頭から切り離し、最終手段を思い浮かべる。まぁ、本当に禁じ手というやつだ。もう既に一回頼ってしまっている以上、それを使いたくはないのだ。ただダイゴは気になる様で、何それと聞いてくる。だから答える。


「王国美少女様の力を借りる」


「なんだそれ」


「多分この国王女」


「お前何時の間にそんなお方とお近づきになったんだ。ガチで羨ましいぞ」


 王国美少女―――つまりはリーザの存在を利用するのだ。グラウと面会した事で大体彼女の正体に関しては見えてしまった。というか騎士団にいる間に、普通に王族については学んだから、知識としてはあるのだ。ただあの破天荒っぷりからは思いつかないだけであって。ただ、王国美少女リーザと、騎士団に力を借りるのとは全く話が違う事になる。


「騎士団に連絡すれば騎士団は組織として動かざるを得なくなるからな。調査、許可、用意とか色々段階を通さなきゃいけない。だけどなぁ、ここは王制なんだ。王国なんだよ。王が、王族が白って言えば黒は白になる世界なんだよ。だから王国美少女リーザちゃんの力を借りて、何の前触れもなく大使館に乗り込んで捕まえる。あとはそっから尋問って流れだな」


「はっはーん、成程な。権力を利用しようって話だな。確かにこりゃあ最終手段でなるべく使いたくねぇ方法だわな。ちっとみっともなさすぎだぜ」


「脅迫して……暗殺しよ」


 ニグレドの目指そうとしている場所が解らない。お前それでいいのかよと言いたいが、ニグレドの無表情は自信に溢れている。なんでお前そんな物騒な手段に対して自信満々なの? って質問自体が、良く考えれば昨日、スキルが上位に上がったばかりだ。そう考えると少しはこの自信ありげな様子に理解もあるかもしれない。若干、天狗になっているのかもしれない。まぁ、気持ちは解らなくもない。自分も【魔人】スキルを試してみた所、今までよりもできる事や性能が上昇していて、かなりいい気分になっている。こんな態度も仕方がないかもしれない。


 そう思って苦笑を漏らし、


 部屋のガラス窓がぶち破られ、壁が粉砕される。


 反射的にその方向へと視線を向け、相手を確認するまでもなく戦闘態勢に入る。常在戦場の心得が奇襲を無効化し、襲撃者を動揺なく捉えさせる。そうやって部屋の中へと飛び込んできた襲撃者を両目で確実にとらえる。


「っ」


 その姿は醜い。


 骨だらけの体に僅かばかりの肉。ただ肉も骨も、どちらも完全に腐っており、異臭が空間に満ちる。髑髏の双眸からは不気味な光が溢れ出、同時に部屋にいる三人を敵として確実に捉えている。四本の腕に四本の剣、それらを持ち上げ、入り込んでくるのと同時に振り上げる。


「SANチェックよろしくお願いします!」


「反応はなかった」


 迎撃する様にダイゴが刃を振るい、ニグレドが姿を残像に変えて襲い掛かる。ダイゴの言葉はふざけており、ニグレドのものは真剣だ。相手を捉えられなかった。それがニグレドの言葉だった。何故。それを考える前に両手を合わせ、殺す為に召喚を行おうとし、一本の腕でダイゴを迎撃し、そしてニグレドの刃を二本の腕で完全に受け流しきった、髑髏の剣士が存在した。その姿を【索敵】スキルで把握する事は出来ない―――格上の存在だった。


「ビンゴって事かッ!」


 剣が首を刎ねる寸での所で下へと回避し、【魔人】と【錬金術】を組み合わせて軍刀を生み出す。それで剣を弾こうと刃を走らせるが、反応が悪い。いや、相手が硬く、強い。刃を僅かに弾く事すらできない。チ、と言葉を吐きつつバックステップで距離を取りたいものの、部屋が狭いため自由に動き回る事が難しい。それを察してダイゴが更に前へと踏み出し、刀を振るう。そしてニグレドが天井を足場にしつつ何度も何度も奇襲を仕掛ける。


 しかし、


「こいつ、”臭い”……!」


 ダイゴの真面目な言葉だった。ふざけているのではなく、凄まじい悪臭。それこそ涙を流し、吐きたくなるような異臭だ。腐ったものを更に腐らせて、そしてそれを一緒にミンチにして混ぜた様な……そんな最悪な臭いが武器として放たれていた。そのせいでダイゴが、ニグレドが、集中しきれずに攻め切れていなかった。故にこの臭いを変える為に印を結び、空間を清浄化しようと試み、


「かっ、くっ」


 邪魔する様に刃が振るわれる。その回避に呼吸を取られ、喉が詰まって行くような感覚を得る。あの時、カルタスと戦った時と同じように、”魔術師殺し”とも言える戦法が悪臭と攻撃動作によって連携されていた。凄まじく面倒で、そして悪辣な存在だった。その上、


 純粋な技量でダイゴを上回っている。


 ダイゴが刀を技として振るい、剣を砕こうと動く。しかしそれを交わす様に刃が、蛇の様に避け、そして抜ける様にダイゴの体の端を切り裂く。それのカバーに入る為、無数の残像と分身となったニグレドが四方から骸骨剣士に襲い掛かる。しかし、ニグレドの即死攻撃がアンデッドには全く意味をなさない。急所が存在しない。頭に刃を叩きつけようが、少し削れる程度の威力しか出せない。それでいて死なない。


 暗殺者とは相性が悪く、閉鎖空間では魔術師を徹底的に殺し、そして手数では剣士を上回る。


 酷い相手だった。


 だからと言って―――負ける訳にはいかない。


「ダイゴォ!」


「ルォ―――!」


 刀と剣がぶつかり合う。火花が散りながら部屋を一瞬だけ明るく満たす。渾身撃であった故に大きく刃は弾かれ、そしてダイゴの体も僅かに硬直する。その隙に合わせて二本の腕がバツの字を描きながらダイゴの体を正面から切り裂く。それに血が舞う。が、それを気にする事無くダイゴは刀を振り上げ、


「奥義! 超斬る!」


 部屋の床を斬り砕いた。一瞬で全員が足場を失うように思え、予めそれを予想していた俺が先に下へと落ちる。そして下、ロビーへと着地するのと同時に堕ちてくる姿へと向かって、確保した新鮮な空気を吸い込みながら拳を振り上げる。その動きに追従する様に、背後に炎で体が構成された巨人が出現する。此方もまったく同じ姿勢で拳を構え、殴る準備を完了している。


「イフリィィトォッ! バスタァァ!」


『ワッショイ! ホラッショイ! オリャッ』


 拳を正面へと叩きだすのとまったく同時にイフリートの拳が前へと叩きだされる。悪臭の剣士へと拳は届かないが、放たれた拳と共に発生する炎のレーザービームの様な衝撃波は空間を貫通し、その体に衝突させる。そこで動きを止めずに左の拳をたたきだし、右、左、連続で拳のラッシュを叩き込み、宿の壁を粉砕、貫通させながら敵を外へ日差しの中へと叩きだす。サムズアップを見せながら消えるイフリート、その役目は果たされ、


 飛んで行く剣士の姿に合わせ、八体のニグレドの残像が同時に上下左右の八方から襲い掛かり、骨や肉ではなく、間接部分を的確に狙って抉る。そうやって腕を三本、右足を斬り飛ばす。ニグレドが舌打ちしつつも着地し、そして追撃に入る。日にあたり、焼かれ始める剣士は一切文句を言う事もなくそのまま住宅街の影の中へと飛び込む。逃亡するのかもしれない。その速度に追いつけるのはおそらくニグレドのみ。走り出しながら無理臭いと評価すると、


 影から剣士が吹き飛んできた。その姿と共に出現するのは赤い、長いポニーテールを揺らす女の姿、


「悪ある場所に正義もまたアリ! 国民ではなくとも友達に手を出すなら容赦はしない! 王国美少女見参! 見つけたぞ殺人犯め!」


 リーザの登場だった。ほんとどこにでも出没するよな、と思いつつリーザが更に骸骨を殴る。殴り飛ばしながら追いつき、そして殴りながら蹴りを加える。そうやって体を大事に落とすことなくひたすら何度も何度も先制を奪い続けて殴り続け、その姿にダイゴが追いつく。


「おとといきやがれ!」


 一閃と共にアンデッドを上半身と下半身に両断し、リーザが拳で肩と下半身を砕いた。上半身だけとなった体が吹き飛び、壁に叩きつけられ、そして影の中に落ちる。そうやって相手の姿が完全に無力化されたのを確認し、戦闘が終了した事を認識して息を吐く。この、戦いが終わった直後が一番危ない時間だ。警戒をしつつゆっくりと倒れた、悪臭が未だに消えない敵の姿へと近づく。その双眸から光は消えない。とりあえず、それを確認しつつ視線をリーザへと向ける。


「リーザたんおっすおっす。逃げられそうだったから出てきてくれて助かったわ。いや、ホントマジで」


「これぐらい問題ないわよ、困った時はお互い様、ってね。まぁ、私も爺さんから聞いて丁度探してたところだしね、運が良かったってのもあるかもしれないわ。とりあえずこれ、逆探知できない?」


「うっす」


 完全に染みついてしまった騎士団根性。出来るか出来ないかではなく、言われたらやる。その精神で剣士の頭を首から外し、それを手袋越しに掴む。これが終わったら新しくもっといい性能の手袋を買うか、絶対に洗おうと誓いつつ、逆探知を試みる。スキルは統合したため、召喚に関する技能も全て、【魔人】の一つに統合されている。【魔人】スキルを意識的に発動させつつ髑髏を通して、それとつながりを持っている存在を辿ってみる。やり方は良く解らないが―――ノリと気合で行けるに違いない。


 そう信じて実行すると―――出来てしまった。


 髑髏を通して召喚者の召喚獣、召喚存在と召喚者を繋ぐパスを辿る。それ廃直線に空間を駆け抜けて上層へ、そして大きな建造物―――おそらくは帝国大使館へと繋がり、


「うおっ」


 髑髏と、残りの体が弾けた。証拠隠滅されたのだろう。ばっちぃ、と言いながら手を振り、今まで触れていたものを洗い流す様に水を召喚し、それで手袋を濡らし、炎と風を召喚して一気に乾かす。瞬間クリーニングを完了させて良し、と意気込む。


「んで、どうだった?」


「大使館へと繋がってたわ」


「んじゃカチコムわよー」


「わぁい! じゃねぇよ! フットワーク軽すぎだろ! もうちょっと応援とか増援とかさぁ!」


 その言葉にえー、とリーザが零す。


「私推理小説とか読んでるとさ、犯人確定したなら腹パンしてから顔面殴ってスピニングホールド食らわせて黙らせたら即連行でいいんじゃね? って思ってるんだけど。今回は現行犯だし、簡単に始末できるんだからとっとと大使館いって終わらせようよ。ぶっちゃけ殴る事と目立つ事以外は一切考えたくない」


「このダメ王女がァ!」


「バレてた……だと……?」


「なんでそこで驚いた表情を浮かべてるんだろうなぁ……」


 何時の間にか横へやって来てたニグレドが腰をぺちぺちと叩いてくる。それは慰めているのかそうじゃないのかを主張して欲しい。ただ叩くだけじゃ何もわからないのだから。その意思は口を開かない限りは絶対に届かないのだが。取り合えず、突破しようと歩き出そうとするリーザの背後へと回り込み、両肩を掴んで、歩いて行こうとするその姿を無理やり止める。


「騎士! 団! と! 協力! しましょ! ね! ねぇ!」


「だが! 嫌! だね! 私は直接この拳で殴りたいだけなんだ!」


「性質悪ぃ……!」


 圧倒的に筋力が足りず、そのまま掴んだリーザに引きずられる様にロープウェリへと向かって行く。その姿を見ながらドナドナを謳っているダイゴが超ウザイ。視線ではよ手伝えと促すが、ダイゴが歌うのを止めずに視線を逸らす。こいつ、完全に裏切りやがったな、と絶対に泣かす事を心に誓い、溜息を吐きながらリーザを解放する。急に解放されたリーザがそのまま地面に倒れ込む。


「ぐえぇ、って急に解放するなよ!」


「いや、もう止めても無駄っぽいし。仕方がないんで一緒に行くわ」


「……? 何言ってんだ、最初から行く予定だったんだろ? それに私が便乗しているだけさ!」


「ごめん、理解できるように喋って」


「つまり最初から頭数にカウントされているって事だろ? ここまでくりゃあぶっちゃけ簡単だし流れも見えるだろ。俺達が調べていた、それがアタリだった、相手は警戒した、始末しようとした、んで墓穴掘った―――そういう流れだろ?」


 ダイゴがそう言い、そしてその言葉にリーザが頷く。他の三人もそれで納得しているが、個人的にはそうは思えないのだ。改めて言葉として表現すると、この襲撃が少々雑に見えてしょうがない。今まで一切現場を見られる事無く、そして術者を特定させる事なく連続殺人事件を巻き起こしていたのに、なんでこのタイミングになって急に派手な動きを取ったのだろうか? 大使館にいる以上、時間はたっぷり稼げる。王都で最も手の出しにくい場所である事には違いない。引きこもっていればいいところを、何故態々ここで攻撃に出た?


 その意味が解らない。


 ここでストレートに大使館のキレス・アイネットを犯人として扱うには早計の様な気がする。まだ、というかもう少し調べた方が安全の様な気もする。それを口に出そうとするとリーザが横から肩を組み、そして背中を叩く。地味に痛い。笑い声を上げながらリーザが言う。


「いやいや、大使館へ繋がってたんだろ? んじゃあ現行犯だ。騎士団の連中がここに来る前にさっさと大使館へ行って、しょっぴこうぜ。騎士団じゃなくて私達の手柄にしちまおう! きっと悔しがる―――わけねぇけど勝った気分になれるからいいや。っつーわけで大使館へゴー!」


 そう言うリーザの動きに合わせてダイゴとニグレドが歩き始める。本当にコレデイイのかなぁ、と思う自分がやはりここにはある。帝国の動きであるのは、まあ、良しとする。でも聖国が帝国の動きの様に偽装している可能性だってある。いや、確かに偽装とか言うと終わりがないから辛いんだが、それでもこういうのは先に考えておかないと後で後悔する―――そう教わったのだから。ただ、リーザ達がもう立ち止まらないのは事実でもある。


 このまま放っておいたらそのまま大使館の扉を蹴破りそうだ。


 そうなったらそうなったで、色々と恐ろしい。ブレインのいない状態の脳筋パーティーは完全に特攻隊なだけだ。ダイゴもダイゴで頭を使うが、それでも作戦とかそういう方面ではない。


「はぁ、知能労働専門のパーティーメンバーが欲しい所だなぁ……現状全員フルアタッカーって凄まじい状態だよ……」


 おそらく臨時加入扱いしてもいいリーザも完全な前線アタッカーなのだから、ここら辺バランスはどうしようもない。自分が後ろに下がって援護に回るべきなのだろう。はぁ、と先の事を考えると再び溜息が出てくる。走って歩いて行く姿に追いつき、ダイゴとリーザの頭の裏を叩く。


「お前らだけにしておくとそのうち罠にハマって死にそうだからな! 仕方がねぇから手伝ってやるよ!」


「おぉ、これが噂のツンデレというやつか! 危険な所へと向かう仲間の為にツンデレ……私は初経験だぞ! これ! 不覚にも胸がときめいたからもう一度やらないかこれ!」


「うっせぇ! 黙ってステ差し出してろよオラ! 作戦立てるから判断材料寄越せよオラ!」


「完全にヤケになってるなぁ……」


 ダイゴのしみじみとした言葉を聞き、ダイゴのケツを蹴り飛ばしながらリーザが見せてくるステータスを確認する。


 名前:リーザ

 ステータス

  筋力:71

  体力:62

  敏捷:61

  器用:61

  魔力:49

  幸運:54


 装備スキル

 【王国王女:99】【圧壊:46】【殺撃:51】【天上天下:51】

 【羅刹:65】【魔導否定:36】【滅殺:46】【千里眼:42】【闘争の権化:47】

 【金属破壊:48】【決戦存在:44】【完全燃焼:30】【天賦の才:71】


 スキルにガッツリ【王国王女】とか書いてあるんだが大丈夫かこれ。というか王女にしてはこのスキル構成、殺意で溢れすぎていないか? どこをどう足掻いても国を支配する事よりも国を攻め落とす事しか考えていない様な気がする。


 大丈夫か、国の未来。


「ぶっちゃけると順位は割と下から数えた方が早いからな! 政略結婚の道具になるまでの帝国と聖国潰して自由になる事しか考えてないわ!」


「もうやだこいつ」


「あ、俺もステータスも渡しておくな」


 そう言ってダイゴがホロウィンドウを出現させ、それをこっちの顔に押し付けてくる。あまりのウザさに顔面に拳を叩き込みつつ、ステータスを確認する。


 名前:ダイゴ

 ステータス

  筋力:58

  体力:58

  敏捷:41

  器用:45

  魔力:16

  幸運:13


 装備スキル

  【侍道:1】【斬術:1】【心意一真:1】【鑑定:27】【ちんぴら:1】

  【血戦血闘:1】【索敵:32】【逆境:40】【酒に強い:30】


「【ちんぴら】ってなんだよ!! あと【酒に強い】って何!? レベル30とかお前どんだけ酒飲んできてるの!? いや、やっぱり【ちんぴら】ってなんだよ!!」


「カツアゲしてたらスキル選択肢に増えてた」


 頭を抱えて倒れたくなった。


 本当に、本当にこんなパーティーで行けるのだろうか……?


 ちんぴら侍、魔人サマナー、殺人ロリ、そして王国王女。


 どう足掻いても色物ってレベルじゃない。


 ここに、見世物小屋でお金を取れるレベルの珍妙なパーティーが完成した。


 今すぐログアウトして現実逃避もしたかった。

 友人が正式にパーティーに加入、そして王国美少女臨時加入。本日のヴァルキリーガチャはコインギレなので課金してから回してください(半ギレ


 赤髪の殴る人とどっかの絶壁を足して割ったような性能だと勝手に思ってる。やっぱりデータ作る作業は楽しい。だけどデータがあるって事は殺せるって言う意味でもあるんだよなぁ……

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