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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
一章 王都編
19/64

十九話 とんだ対戦

 PvP、それはつまりプレイヤー・バーサス・プレイヤーという言葉の略称であり、プレイヤーとプレイヤーが対戦する事を現す。どんなMMORPGであれ、システムとして対戦は組み込まれている。それはどの時代であっても、自分の強さを証明したい者が存在しているからだ。故にプレイヤー同士の対戦はよくある事だ。対戦を通す事で対人技能を育てる事が出来るし、それで賭けたり、スキルを育てる事が出来る。だからPvPは一定の人気を誇っている。それをダイゴはやろうと言ってきた。正直な話、正気を疑う。


「いや、何だよその眼は。俺はマジだぜ。ぶっちゃけ俺らがこの段階で出来る事はねぇからな。だったら少しでもステップアップを目指すのがプレイヤーとして正しい姿勢だと思うぜ? それにお前と別れて既に二週間以上経過してるからな。リアルで顔を合わせてるからってこっちではどうなってるか知りたいじゃん!!」


「いや、まぁ、確かに正論っちゃあ正論なんだけどさ、今の王都の状況でそんな事やっていて大丈夫なのか……?」


「大丈夫大丈夫! 人がいる所を使えばいいからな! 人目の前では殺人事件が発生してないから、ギルドの備え付けの練習場でやればいいさ。ほら、実力を把握しつつスキルレベルの上昇を狙おうぜ! ギルドでPvP用の道具を借りればダメージが致死量に届いても死なないしな。まぁ、痛みの設定が付いていると痛いんだけどさ」


「試したのかよこいつ」


 呆れた表情をダイゴへと向けると、笑顔が返ってくる。やはり友人は馬鹿であった。だけど現状、できる事と言えば訓練しかない。そして今までの成果としてそれを証明する方法はやはり戦う事が一番だ。軽く溜息を吐いてから諦めの視線をダイゴへと向けると、ダイゴは楽しそうに笑って歩き始める。おそらくは戦士ギルドへとだろう。その背中を姿を歩いて追いかける。横を歩くニグレドへと視線を向ける。


「一緒にやる?」


「見てるだけ」


 ニグレドには戦う気がないらしい。まぁ、どう見ても対人戦最強はニグレドのように思える。自分やダイゴでは早すぎてまだ、彼女の存在を掴む事が出来ない。やはり戦場では速度が一番大事な要素なのだろうか? いや、きっと、いつか彼女よりも強くなることができる筈だ。こんなに頑張っているのだから、前よりもきっと。


 そんな事を思いつつも戦士ギルドへと向かう。大通りは割とさびれており、寂しくなっている。が、それでもギルドの出入りは多い。やはり所属している者からすれば、自分の実力で倒せるという自負が存在するのだろう。倒せるのであれば、恐れる理由はない。それは簡単な答えだ。故に他の者達と同様、自分達も恐れる事なく歩き回っている。


 そうやって戦士ギルドへと向かうと、ダイゴが一直線にカウンターへと向かって何らかの申請を始める。それをギルドの中央辺りでニグレドと立って待ちつつ、ギルド内の様子を眺める。そこに流れてくる情報はダンジョンや依頼の情報、あとは殺人事件に関する情報がないか、と叫ぶ声だった。やはりどこも殺人事件を解決しようとしているのだろう。それもそうか、ゲーマーからすればイベントにしか思えないだろうし。


「おーい、借りてきたぞー!」


 そう言ってダイゴが戻ってくる。その手に握られているのは何個かのブローチだった。それを三つほど此方へと渡してくる。ダイゴが三つ纏めて装着するのを真似て、自分も三つほど胸元に装着する。


「こいつあ”見習い闘士のブローチ”ってアイテムでな、ギルドが保有する敷地内で攻撃を受けた場合、致死量に至らない限りは無効化、それが致死量に届くものはブローチを犠牲にする事で回避できるってアイテムなんだ。もっぱらPvPの練習用アイテムってやつだ。これを装備すれば致死ダメージさえなければ殴りほうだいってな! 便利だろ?」


「便利」


 ニグレドの目がいいものを見つけた、と言わんばかりに輝いているが、これはギルドの敷地内限定のアイテムだからこそバランスブレイカーではないのだろう。場所指定がなかったらアイテムの存在的に即死で、修正パッチ不可避だった。ただ、こういうアイテムがあるのであれば間違いなくPvPもいい訓練になるだろう。このアイテムを持っているギルドという場所に限定されてしまうのがネックだが。


「王都のギルド訓練場はこっちだ。他の街と比べてでけぇし、魔術ギルドと繋がってるんだってよ。ホント呆れる広さだよな」


 既に何度か利用した様な口ぶりに大体何をしていたのかに予想をつけつつ、通路を進んでギルドの裏手にある訓練場へと到着する。その姿は騎士団の保有する訓練場よりも多少小さい程度で、姿はあまり変わらない。所々マラソンしていたり、カカシを相手に技を練習している姿が見れる。それを確認しつつ人のいない方へ、広場の中央付近へと移動し、ダイゴから一定の距離を取る。自分の装備状況を確認し、腕を大きく回して視線をダイゴへと向ける。


「ルールは?」


「なし、ブローチが三個とも砕けたら負けだ。一個砕けたらそれで止まるってのも面倒だろ?」


「把握」


「んじゃ―――」


 そう言ってダイゴが武器を握った瞬間、【精霊魔術】【召喚】【錬金術】とスキルを組み合わせ、足元の大地を蹴りあげながら土と土の精霊を媒介に、変化を通して軍刀を生み出す。そのころにはダイゴが武器を抜き終わっている。それに合わせる様に出来上がった軍刀を、


 ダイゴへと優しく投擲する。


 刀を抜いたダイゴの動きが回避の動作になっている。早い。もう既に踏み込みの動作に入っている。それに合わせる様に、完成されていた地霊の軍刀が解除され、ただの土と砂の塊に戻り、回避する動きのダイゴの顔にかかる。それに合わせて顔面に蹴りを叩き込み、ダイゴの首をそのまま折るつもりで蹴りぬく。それでダイゴは吹き飛ぶが、ブローチは砕けない。つまり致死ダメージではない。それを理解する前に既に両手は印を結び終わっていた。


「王天君!! 紅ォ水陣ンンッ!!」


 陣が七メートルの距離に広がり、その空間が紅水の雨によって満たされ始める。振り始めた紅水はダイゴの肌に触れた瞬間、焼ける様な音を響かせる。本来であればそのまま体を溶かして血の水へと変換させてしまう最悪の陣。数秒ここにいるだけで死に至る十絶の陣の中でも極めて極悪な陣。蹴り飛ばされたダイゴは顔をゆがめつつ、


「オォォ―――!!」


 途中で立ち上がり、一直線に迫ってくる。それに合わせる様に足で大地に刻んでいたルーンを発動させ、陰陽の術が完成される。陰陽の術がダイゴの体から力を奪うのと同時に、刻まれたルーンの力がダイゴを大地へと引き寄せる。その体から一気に進む力を奪い、そのまま、


 紅水陣を抵抗する事もできなく全身で浴びる事になる。


 一瞬でブローチの破砕音が三回連続で響くのと同時に、紅水陣を解除する。陣が解除されたことで 王天君がガッツポーズを決めながら消えて行く。一方的な勝利が気持ちよかったらしい。天絶陣へのディスりを忘れるなよ、と 王天君に言っておきつつ、視線をダイゴへと向ける、そしてステータスへと向ける。


「お、【陰陽道】と【ルーン魔術】が1ずつ上がってる。ダイゴくん経験値を本当にありがとうねぇ、でも本当は【見切り】のレベルを上げたかったんだ。あぁ、そっか、【見切り】は近接スキルだから接近戦を始めないと鍛える事が出来ないんだった。でもダイゴくん接近すらできなかったもんねぇ!」


「う、うぜぇ! こいつ煽る! 煽りやがる! つか手段が卑怯すぎるだろ! 俺のシマじゃハメとかマジノーカンだから! 動きを封じてオーバーキルとかねぇだろ! 俺は完全に近接特化なんだよ! 遠距離戦を挑まれたら死ぬ!」


「遠距離で戦えないのが悪い」


 真面目な話、近接と遠距離、両方とも戦えるのは非常に大事だ。何といったって、遠距離専門や近接専門というのはいる。そしてそういうのに対して有利な距離を取らせずに戦うのは非常に有効な手段だ。騎士団で習った戦い方は”徹底的に自分の有利を維持して戦う”事だ。別の言葉を使うなら”アドバンテージを取り続ける”とも言える。近接、遠距離、どの距離でも十分に戦えるようになれば、戦闘中自分の有利な距離を選び続ける事が出来るという事でもある。戦闘とは駆け引きの一種。どちらが相手に不利押し付け、有利を得られるかの戦いだ。


 だから今のダイゴとの戦闘は基本でしかない。相手が戦えない距離から一方的に倒すのは当たり前。そこで罠を用意しつつ、同時にミスなく行える行動であれば同時にやる。複数の魔法を同時に処理が出来るならそれだけ手数が増し、出来る事が増えるのだから。


「ノーカン! もっかい! もっかいやろうぜ! ギルドからブローチ貰って来るから! 今度はフライングもなしな!」


「いや、武器を握った瞬間戦い始めるのは王国では……ってもう走っちまった。煽られたのが相当悔しいと見た」


「馬鹿」


 ニグレドに罵られた。まぁいいや、と思いつつ再び軍刀を生み出し、そして【瞑想】スキルを発動させる。地霊の軍刀を鞘に納めたままの状態で握りつつ、【瞑想】で魔力を回復させてダイゴが返ってくるのを待つ。今迄は王国騎士を相手にしか対人戦を行ってこなかったから、ここらでもっと対戦相手を増やしておこうという考えが今更になって思いつく。流石に思いつくの遅すぎではないだろうか、と自分で思うが、そんな事を考えている内にダイゴが戻ってくる。その手にはブローチが三個握られており、既に自分の分は装着している様に見える。投げ渡してくるブローチを装備している間に既にダイゴは刀を抜いて構えていた。


「警戒し過ぎだろ」


「いや、当たり前だろ」


 溜息を吐きつつブローチの装着に成功し、軍刀を握り直した瞬間、ダイゴが踏み込んでくる。先程と同じ戦術は絶対に通じない。少なくともそう仮定し、軍刀を構えつつ近接系のスキルを発動させ、迎撃の体勢に入る。


 瞬間、迫ってくる刀が一瞬で首に到達する。それを反射的に鞘から抜かないままの軍刀で弾けば、結果として軍刀が砕けるという結果が生まれる。どんな破壊力してるんだ、と軽く困惑しつつも刀を弾いたダイゴに接近し、その首元を握って投げる。反応するダイゴはこの間の様に投げられながら空中で体勢を整え、そして刃を振るって来る。それに合わせる様に、砕けた軍刀の破片を媒介に、刃の精霊を召喚する。


 お互いのブローチが一個ずつ砕ける音が響く。


「チ」


 舌打ちをしたのはどちらが先なのは解らないが、頭上を越えて背後へと飛んで行くダイゴを標的に、振り返りつつ最新の召喚獣を召喚する。


「ワイバーン!」


 虚空から全長二.五メートル程の長さの赤いワイバーン、つまりは腕を持たず、爪と翼が一体化したタイプの蛇の様な竜が出現する。頭上から出現したワイバーンは即座に空からブレスをダイゴ目掛けて放つ。しかしそれをダイゴは刀を振るう事で叩く様に薙ぎ払い、そして一瞬だけ炎の空白地を作る。その間に陰陽術を発動させダイゴを弱らせる。ここから距離を突き放してハメ殺す。これが最善手。そう思い実行しようとし、


 ダイゴのブローチが一個砕ける音が響く、


「おらおらぁ―――!」


 炎を突き破り、


 ワイバーンを両断し、


 その下にいる俺ごと、ダイゴは刀で縦に薙ぎ払った。


 ブローチが二つ砕ける音共に、敗北した事を理解する。


 うへぇ、と息を吐きながらダイゴへとかけたスキルの影響力を解除し、そして体から埃を払う。痛覚設定をオンにしている為、頭から足まで激痛が走っているが、これも時期に消えるものだとして我慢しておく。ガッツポーズを決めるダイゴが近づき、そして肩をポンポンと叩く。


「いやぁ、確かに召喚獣は強敵だったよ! ブレスを吐いてくるワイバーンとかめっちゃ凶悪だわ! デバフもうざいしなぁ! だけどな! だけどな! 俺の方が強いの!! 俺の方が破壊力上なの!! 召喚獣もぶっ殺せるのよ!! 悪いね!! 切り札がそれなら俺の方が強いのよ!! かぁー、辛いわ! 俺の方がかっこよくて強くて辛いわぁ!」


「お前は俺を本気にした。ニグレドよ、持ってくるのです」


「……」


 ニグレドへと視線を向けると、何言ってんだこいつ的無言の視線がニグレドから向けられるが、


「ケーキが待っているぞ?」


 ニグレドが消えた。そして十数秒後、再びブローチを手に戻ってくる。それをニグレドが持ってきた所でサクサクと装備し、ダイゴと距離を開けて睨む。


「ダイゴよ……お前は俺を本気にさせた……受けるが良い、我が最強の奥義を!」


「なんかノリがいいなお前ェ! いいぞぉ!! かかってこいやァ!!」


 ダイゴがブローチを装着し、刀を構えたところで片手を天に掲げる。


「ヴァルキリィィィ!! ガチャァァァ!!」


 前回の結果、内容が完全にガチャ化したと予想されるヴァルキリーの召喚、それを発動させると、目の前に魔法陣が出現する。その色が黄色だった瞬間、反射的に誰が出現するのかを理解し、半分逃亡する準備を心の中で完了させる。黄色の魔法陣を砕いて出現するのはあの時と同様、金髪でハンマーを握るヴァルキリーの姿だった。


「この!! アタシが!! そう簡単に反省するかよぉ!! レギンレイヴじゃない! ミストでもない! ブリュンヒルデでもない! またやってやったぜぇこのアタシ! 奥義親パクミョルニル!!」


 今日も王都に雷の雨が降り注ぐ。


 人が吹き飛ぶ。


 笑いながら楽しそうにミョルニルを振るう姿がある。


 早く帰ってくれ、その光景を眺めながら呆然とその地獄を眺めている。


 しかし、気が付けば半分黒焦げの状態で訓練場の大地に煙を上げながら転がるダイゴ等の姿が見える。ダイゴについているブローチを確認する必要はない。勿論全滅している。それを発生させた主犯であるヴァルキリー、スルーズは両腕を組んで高笑いを上げていた。このスルーズはレギンレイヴとは違って完全に制御外の存在だった。いや、レギンレイヴも制御外だ。アレは人格のおかげで此方に従ってくれているだけで、此方が制御するだけの実力がない以上、レギンレイヴも本来はスルーズの様に自由に振る舞っててもいいのだ。ヴァルキリー召喚ガチャを勝ち抜いたスルーズは他のプレイヤーに回復してもらっているダイゴを眺め、周りを眺め、そして視線を此方へと向ける。


「おい、主! なんだよここ、どいつもこいつも全く出来てねぇやつばかりじゃねぇか! つかアタシを呼ぶならもっと血と肉で溢れる戦場で呼びなよな! ワタシさ、ミョルニルをパクる度に親父にミョルニルでケツ叩き喰らわされるんだからな! 腹いせに寝ている間にかーちゃんのかつらを親父にかぶせて夫婦喧嘩引き起こしてやったぜ!」


「やめろよぉ!! それお父さん何も悪くないじゃねぇかよぉ!」


「ネタになるからアタシはこれでいいんだよ! つかお前ら気合も根性も足りてねぇよ! 召喚時間ギリギリまでお前らをこのスルーズ様が鍛えてやる! オラ、死んでない奴は全員そこに並べよ!! 言うこと聞かねぇやつはケツミョルニルだ! 死んだらアタシがヴァルハラに連れてってやるから安心しろ! リスポーンとかさせねぇから!」


「どうしてこうなったの……」


 両手で顔を覆いつつも、そう呟き、反射的に並んでしまう。そうやって並ぶ姿が自分以外にもいくつかあり、そして逃げようとする姿は例外なく不良戦乙女によって場外へ蹴り飛ばされていた。今、王都では殺人事件が発生していて、物凄い事になっているはずなのに、


 なぜこんなギャグ展開が始まってしまったのだろうか。


「ハァーッハッハッハ!! アタシを乗り越える猛者はいないのかぁ! 全員でかかってこぉい!」


 解りやすい地獄絵図が始まる。



                  ◆



「あー、楽しかった。帰ったら自慢しよ」


 死屍累々とした戦場跡を残しながら満足げな声を零し、スルーズは消えて行く。あの女はホント、一回泣かしたほうがいい。そう思うが、今のギルド訓練場の姿は酷かった。


 まず大地にはタンク、近接プレイヤーが死体の様に転がっている。壁の方を見ればそこに綺麗に横一列に魔術師プレイヤーが突き刺さる様に埋められており、所々グラウンドには逆さまに植え付けられたプレイヤーや援軍の姿がある。訓練場で突発的に始まったスルーズのブートキャンプ、その被害者は大量の戦士ギルドの所属員と、魔術ギルドの所属員を巻き込んでいた。誰もが立ち上がる事なく、そして無言で死ぬ事無く黙っていた。


 そんな中、声が響く。


「す、スカートが鉄壁すぎた……! がくり。ばたん」


「ど、同志ィ! 逝くなぁ! 逝くんじゃなぁーい!!」


「スキルがガンガン上がったのはいいんだけど、そんな事よりも連絡先を聞きたかった……!」


「もう一度……もう一度彼女を召喚してくれえええ!!」


 欲望の声の方が圧倒的に高かった。ふぅ、と息を吐きながらも地面に転がっていた体を持ち上げ、そして息を吐く。今の戦闘では後方からの火力、そして遊撃として活躍してみた。やる事は開いた隙間を埋める様に攻撃を叩き込んで相手のペースを崩す事だったが、スルーズが桁違いに強かった。接近するタンクプレイヤーを一撃で薙ぎ払い、笑いながら歯で攻撃を受け止め、そして放たれる魔法を野球でもするかのように親の武器でフルスイングカウンターしていた。相変わらず、ヴァルキリーという生物は理解を超える存在だった。


 よろよろと治療を始める周囲の光景、死者が一人も出なかったのはやっぱり、何だかんだでスルーズが手加減していたからなのだろう。そう思うと少し、というかやはり悔しい。それに今の戦闘、個人プレーばかりで連携というものが一切存在しなかった。


 習ったことだが、個人プレーから来る連携なんてのはクソの様なものである。そんなチクハグのもの、ちゃんとした連携から来る動きと比べると雲泥の差だ。あの戦闘は誰もが”連携が出来る訳がない”という考えを持っていた。あるのは常識と、役割分担だ。それを連携として捉える者もいるが、それだけでは本当に連携するという事には届かない。


 ニグレド、そしてダイゴともちゃんと連携を取る訓練、しておいた方がいいのかもしれない。


「っしゃあ!! スキル50!!」


「ぐあああ、SPがたリねぇ。何を後回しにしようかなぁ……」


 スキルに関する話も聞こえてくる。スルーズの実力のレベルが高いだけに、今の一戦は物凄い効果があったらしい。いくつか、うらやむ様な視線が此方へと向けられているのが解る。が、それを無視し、自分のステータス画面を開く。


 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:52

  体力:56

  敏捷:48

  器用:41

  魔力:51

  幸運:25


 装備スキル

  【召喚術:50】【精霊魔術:50】【陰陽道:50】【ルーン魔術:50】【仙術:50】

  【マントラ:50】【錬金術:40】【瞑想:42】【索敵:38】【鑑定:34】

  【投げ:50】【格闘:50】【身体強化:50】【見切り:50】【召喚師の心得:40】


 SP:40


 50に到達したスキルが一気に増えた。レギンレイヴの時は割と素早く終わったが、今回はほとんどレイドパーティーのような状況でやって、全滅するまでそれなりに時間がかかった。それがすさまじいレベルアップの理由だろうか。とりあえず、メインとも言えるスキルがカンストした。そろそろ上位スキルを覚える頃かもしれない。上位スキルは下位スキルと違って圧倒的にレベルが上げ辛い。こんな風に一気にレベルが上がる事はほぼないらしい。


 辛そうだが、できる事が増えるのはまた楽しそうだ。


 スキルリストを表示させ、習得できるスキルを表示する。


「【投げ】【格闘】【身体強化】を合わせれば【羅刹】に出来て、そこに【見切り】を加えれば【血戦血闘】、と。だけど【見切り】は単体でも【心眼】とかに発展するのか。うーん……」


 複数のスキルを消費する事で習得できるスキルを習得してしまった場合、単体発展形等が習得できなくなる。たとえば【血戦血闘】を習得するのに【見切り】を消費したため、【心眼】が習得できなくなる。そして同じスキルをもう一度習得する事は出来ないのだ。その為、上位スキルを習得する場合は気を付けなくてはならない。ただ、やはりスキル数を多く消費して習得した方が強力なものになりやすい。となると、やはり、習得したくなる。


 身体強化系のスキルのリストから魔術系のリストへと移る。【陰陽道】の上位である【陰陽呪術】や、【仙術】の上位の【神仙術】等も気になる。だが確認すると、【召喚術】と同時に魔法系スキルを五種類消費する事で習得できる、六スキル消費で習得できるスキルがあるのだ。これは間違いなく強力であるに違いない。迷わず習得する事を選ぶ。習得した所でスキル枠が一気にスッキリし、空きが出来る。SPもまだ残っている事だし、スキルで埋める事にする。


 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:52

  体力:56

  敏捷:48

  器用:41

  魔力:51

  幸運:25


 装備スキル

  【魔人:1】【錬金術:40】【瞑想:42】【索敵:38】【鑑定:34】

  【血戦血闘:1】【召喚師の心得:40】【魔力強化:1】【詠唱術:1】


 SP:0


 人間卒業しました。


 冗談は置いておき、【魔人】は召喚術を含めた複合魔術スキルだ。今迄出来た事は出来る上に、できる事が格段に増えているらしい。らしい、というのはガイドデモでは”魔神”と呼ばれる存在を召喚したり、”青竜”を召喚したり、魔術で爆撃を行うような事は見せているが、それ以上の情報がないからだ。とりあえず、スキルの説明を読む限りは今までやってきたことを混ぜ合わせて強化した様なもんらしい。文章そのままであると”魔の叡智、その深淵へと手を伸ばす為の超越の道”とか書かれている。何ができるとか全く説明しない不親切さは今に始まった事ではない。


 とりあえず召喚術はまだできるらしいので、それでよしとする。


 【血戦血闘】は身体強化系の複合スキル。此方もまた物凄い不親切な仕様になっているが、基本的には身体能力を上昇するスキルであり、その説明は文章のままだと”経験と精神が鍛練を通して血肉を形作って行く”という風になっている。予想するのはプレイヤーの行動やプレイスタイルを通して、戦闘での能力上昇等が最適化される、そんな感じのスキルなのではないかと思う。まぁ、これもやはりリサーチが必要だ。


 【魔人】も【血戦血闘】もどちらも完全な上位スキル、その中でも特に強力なものだ。習得にどちらも15SPも必要としたのがその証拠だ。上位スキルという時点で下位のレベル50寄りは強力だと思うので、これからはこのスキルにドンドン頼りたいと思う。ともあれ、余ったSPは【魔力強化】と【詠唱術】に使用した。将来的にはこれが無詠唱系のスキルに発展する事を祈りつつ、スキルの習得等に関してを完了する。


 ふぅ、と息を吐きながらステータスウィンドウから目を離すと、芋虫の様に地面に倒れていたニグレドが、これまた芋虫らしい様子で地面を這いながら近づいてくるのが見える。その前に浮かんでいるステータスウィンドウが、彼女もまたステータス画面を操作していたことを示している。おそらく彼女もスキルを上位のものへと変えていたのだろう。


 そうやって這いながら近づいてくると、彼女はステータス画面を見せてくる。いや、だからなんで俺に、とは思うが、慣れてきたことなのでもういいや、とも思う。


 名前:ニグレド

 ステータス

  筋力:48

  体力:42

  敏捷:58

  器用:49

  魔力:25

  幸運:34


 装備スキル

  【殺技:1】【罠:30】【識別:42】【ファントム:1】

  【鑑定:35】【索敵:45】【料理:1】【高速移動:1】


 この子、まだ早くなるつもりらしい。というかこの殺意の高いスキルの名前ってなんだろうか。なんだ、殺技って。完全に殺す事しか考えていない。相変わらずニグレドには勝てない気がする。スキルと技量とか、そんな部分で完全に上を行かれている気がする。まぁ、完全に対人特化構成であるニグレドに対して勝とうと思うのがおかしな話なのだが。


 なにせ、対集団という点で見るなら、間違いなく自分の方が圧倒的に強いのだから。ぶっちゃけヴァルキリーぶっぱすればほとんど誰にだって勝てるし。


 ただ、ヴァルキリーぶっぱをしても現状、あの竜仙人のグラウと騎士団長ガルシアにはヴァルキリーごと殺されそうな気がするし、王国美少女はヴァルキリーの攻撃を回避してこっちだけ的確に殺してくる気がする。少なくともその実力を見抜くだけの感覚は身に付いた。


 ともあれ、


「スルーズちゃんを召喚してくれえ!!」


「構成を! スキル構成をゲロれよおお―――!!」


「それより白髪の方を呼べぇ―――!」


「疲れたし適当な宿を探して今日はクソして寝よ」


 聞こえてくる叫び声をスルーし、このまま寝る事を強行する事を決定する。


 やっぱノリで馬鹿に付き合うもんじゃない。どう足掻いても酷い事になるのは経験上解っていたはずなのに、それをどうしようもなくやってしまうのは、


 やっぱり自分も、ノリでやらかす系だからなのだろう……。

 チラっとランキングとか見たらなんか相変わらず入り込んでた。


 とりあえず、世界観的に下位のカンストは当たり前、本当の鍛錬は上位からという感じの感じで感じる。スルーズさんは自重しないから多分明日のWIKIトップ絵を飾るだろう。


 果たして殺人事件の事は無事解決できるのだろうか(疑念

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