十六話 騎士団な日々
―――心の底から王国を恐ろしい国だと実感した。
騎士団に所属する事になってしまった。初日はマラソンの疲労のせいで全く何かを考える事もできなかったが、時折リアルへログアウトする事で何とか思考力を取り戻していた。それを抜けば完全に狂う程マラソンしていたことだけは覚えている。
なお狂ったら正常に戻されるので逃げ場はない。
そうやってもはや何を食べたかも思い出せず、初日はひたすら走り続けた事と、そして泥の様に眠った事しか思い出せない。そしてそれが終わると二日目がやってくる。二日目もやる事はほぼ、初日と変わらなかった。フル装備でひたすらマラソン、マラソン、マラソン。そこに工夫は一切ない。【格闘】や【投げ】を同時に鍛えられそうだが、そんな事は一切しない。途中で休憩をはさみながらひたすら一日中マラソン、マラソン、マラソン。マラソンしかしなかった。もはや頭の中はマラソンだらけだった。朝食で出会った同僚の名前が頭の中でマラソンという単語に書き換えられ始めてからはさすがヤバイと感じ始めたが、
多少交流しつつも、二日目はマラソンだけで終わった。そしてガルシアへの殺意のボルテージが上昇して行く。
三日目、基礎固めはこれで終わりでいいんじゃないか、と思い始める。だがそんな事はなかった。朝、演習場に到着するのと同時に用意されているのは鎧のフルセット。無言のままにそれを装着し、そして再びマラソンへと走り出す。ログアウト以外の時間はもはやマラソンの時間となっていた。マラソンゲーという謎の単語が頭に浮かび上がるぐらいにはマラソンをしていた。周りからは偶に応援の声が聞こえてくるのは、きっと彼らもこの道を通って来たからなのだろうか。基礎を、もっと基礎を固めなくてはならない。そんな事を言われているが、その言葉でマラソンの苦しみは決して消えたりはしないのだ。寧ろ殺意が溜まる分、余計辛くなってくる。
ただ三日目になると、体力と筋力が伸びてきた影響か、少し余裕が出てくる。漸く食堂で食べるご飯の味が解ってくる。ご飯の味が解る、と思わず叫んでしまったのも仕方がないと思う。周りからの熱い声援を胸に、感動しながらご飯の味を確かめる素晴らしい三日目の夜だった。
そして、四日目。
ここになって漸く、変化が現れる。
◆
【マントラ】で常に体力を回復しつつ、【仙術】で自分の体、その体力配分を計算する。【マントラ】が呼吸法である様に、【仙術】とは環境への影響の他には、人体の改造術でもある。故に【仙術】と【マントラ】を同時に使用する事によって、効率的な体力配分、そして体力回復が行える。そうやって何日も繰り返してきたマラソンに一定の慣れを作り出す。いや、正確に言ってしまえばマラソンに慣れる事は出来ない。疲れれば疲れる。慣れたとしても、それは新たな消耗の扉の始まりでしかない。ペースを上げるか、距離を延ばせば簡単に崩壊してしまう慣れだ。じゃあ何に慣れているのか、と言えば、
体力を消耗する事、疲れるという事に対して慣れてくる。
そうなってくると、体力が落ちてきても、自分の体がどれぐらい動くのかが分かってくる。少ない体力でもどういう風に動かせばいいのか、そういう動き方が理解できてくる。そうなってくると体力の消耗は減り、そしてさらに長時間走れるようになってくる。決して、ペース配分ではない。効率的な体の動かし方。体という機構を理解する。その能力が身に付くのだ。
「―――止めィッ!」
ガルシアからストップの声が入る頃は何時もよりも早い時間だった。ゆっくりと走るペースを落とし、速度を緩めてからガルシアの前へと向かう。この数日で完全に染みついてしまった騎士団根性が体を自動的に敬礼のポーズを取ってしまっている。騎士団根性に染まりつつある、そんな事を考えながら休め、の一言に体を楽にする。正面、ニヤついたような笑みのガルシアが存在する。一発顔面を殴りたいが、どう足掻いても避けられる気がする。
「ん? どうだ、この数日でえらく走り慣れてきたように見えるな。とりあえずどれだけ成長したのかを確かめるからステータスを出してみろ、見た様子、かなり体力と筋力が上がっている筈だからな」
ガルシアがステータスを催促してくる為、現在のステータスを表示させる。
名前:フォウル
ステータス
筋力:43
体力:44
敏捷:39
器用:30
魔力:37
幸運:18
装備スキル
【召喚術:31】【精霊魔術:30】【陰陽道:28】【ルーン魔術:30】【仙術:42】
【マントラ:42】【錬金術:18】【瞑想:23】【索敵:22】【鑑定:22】
【投げ:25】【格闘:28】【身体強化:43】【見切り:27】【召喚師の心得:20】
SP:23
筋力と体力、後ついでに敏捷は完全に魔力を超える領域に入った。ついでに【マントラ】、【仙術】、そして【身体強化】も完全にレベル40を超えてしまった。四日間、死ぬ思いでマラソンし続けたから妥当と言えば妥当なのだが、若干物足りなくも感じる。死にそうなほど走った結果、もうそろそろレベル50へと到達していても良かったのではないかと思うが、現実はそんなに甘くなかったらしい。そんな考えとは裏腹に、満足そうな笑みをガルシアは浮かべていた。
「流石御老公の紹介というだけはあるな、中々素晴らしい成長っぷりだ。この調子ならあと数日中にはこの三つの限界に到達する事が出来るな。そこで漸く胆の才能が試されることになるだろうな。いや、この様子を見るからに間違いなく陛下や殿下の様な才能を持っているに違いない、間違いなく伸びるぞこれは」
嬉しそうにべた褒めしていた。この数日全く見なかった様子なだけに、吐き気と震えを覚えて、軽く自分の体を抱きしめる。
「団長……病気っすか」
「君が永遠にマラソンを続けたいというのなら別にそれでもいいんだけどね?」
「パワハラはんたーい」
「ふむ、あまり解っていないようだから説明をするが、基本的に我々には”才能の限界”というものが存在する。一般的に才能のないものは【身体強化】等の下位スキルが限度だ。つまりスキルのレベルを50へと到達させてしまえば、それ以上の成長が見込めないのだ。肉体的に、そして同時にスキル的にも成長が酷く遅く、君がたった今経験している成長を受ける為には数倍以上の時間を必要とする。ハッキリ言ってそれと同じペースなのは君達の様な存在や、王族の様な特別な存在だけだよ」
羨ましくなるね、とガルシアは言うが、それに首を傾げる。
「団長、スキルって下位ってので50がカンストってらしいですけど、ステータスのカンストってあるんです?」
「基本的には99が上限だって認識されているらしいけど、ウチの国王陛下が気合で限界突破して100超えたからな。ぶっちゃけ解らない。ただ才能の差で、能力が極端に伸びなくなる、ってのは良くある。基本的に下位が習得が限界の奴とかだと40辺りから急激に伸びなくなって、一年に1か2伸びればいいって感じらしいな。後はそうだな……才能がある奴でも極端に苦手や得意の差が出始めるな、40辺りから。そこらへんから自分の長所と短所を見て、戦術をスキル見ながら決め始めるな」
まあ、とガルシアは言う。
「ウチの騎士団ってのは基本的に下位が限界の奴の集まりだったりする。才能がある奴は隊長格に抜擢されるがな、それでも大半は才能がない。だからと言って鍛錬は止められないし、止める事もない。スキルやステータスだけが強さの全てを決める訳じゃねぇ……ってのはもうわかってるよな? ここにいる連中は全員”仲間の屍を盾にしながら戦う”事もできるし、”どんな状況でも連携を取る”事が出来る様に訓練してある。例え壁を超えた才能の持ち主が相手であろうと、三人一組で圧殺できるように訓練してあるからな、ウチの騎士団はつよいぞぉ!」
「どこの修羅道の住人ですか」
自慢げに自分の騎士団の事を語ったガルシアはいけないいけない、と呟いて頭を横に振る。
「話がそれてしまった。で、本題に移るが、マラソンは卒業だ。と言っても無論、まだ続けはするがな。だけど時間は大幅に短縮だ。おそらくはあと少しで限界へと到達するが、その前に全体として伸ばせるものを伸ばして起きたい所だしな。というわけで、今日からはまた基本的な訓練を変えるぞ?」
「ハイ!」
「あぁ、いい返事だ。体力が付かない事には何もできないしな。今の様子ならある程度はついて行けるだろう……たぶん」
「あの、物凄く不安になる事を言わないで下さいよ。ね」
「うっし、それじゃあ準備しろ。あぁ、重り代わりになるから鎧はフル装備のままだ。というか、今日から基本それは訓練中はずっとつけてろ。タイミング的には三日後ぐらいか、最初の任務に参加する事になるから、その時も絶対に忘れずにフル装備で絶対に行けよ―――まぁ、それに関してはその時でいいか。とりあえず、お前に対して次の訓練内容を告げる」
それは、
「―――基礎の無限反復練習」
◆
そして、新たに地獄の始まりだった。朝に目覚め、シャワーをゲームと現実で両方で取り、両方で朝食も済ませる。それが終わるともはや着慣れたフルアーマー姿になり、そして演習場でマラソンを始める。監視についているガルシアは今まで以上にペースを上げさせ、そして体力を寄り多く消耗させるように走らせる。それを数時間続け、完全に体力が空っぽになったところで次の訓練内容へと、基礎の反復へと移る。
全ての動きには基本となる動作がある。そしてそれは踏み込み、スキル、どちらも変わらない。故にそれを反復する事で徹底的に体の中に染みつかせて、反射を超える無意識の領域で動かせる状態になるまで習得させる。それがガルシアの言った事だった。故に、各種のスキル、そして無手であるという事を考え、格闘での基本動作、即ち突き、払い、防ぐの三動作に蹴りを加えた四動作、そこに投げ動作を加えた五動作。これをひたすらルーティーンとして続けながら、残りのスキルを成長させるためにも、並列してスキルの使用を続ける。
たとえば【マントラ】と【仙術】は何時、どんな時でも使い続けられる優秀なスキルだ。だがそれとは別に、【精霊術】は詠唱を通して召喚でき、意識している限りはその効果をある程度持続させられる。それを【召喚術】と絡める事で精霊召喚の練習も入れる。なお【陰陽道】の基本とは、呪う事になる。対象に対して負荷を与える。それが陰陽の力の最も基本的な事。故に、それを自分にかける。
そうやって、それぞれのスキルを、並列に行ったり、順番に、素早く使って行く事を何度も何度も繰り返す。
それを繰り返し、繰り返し、繰り返す。普通、スキルのトレーニングと言えばただの作業でしかない。意識してどうやって使うか、なんて考えもしない。あえて言うならこれが効率が良い、という事は考えるが、無意識や反射で行動できるように仕込む、なんてプレイヤー―――からすればありえない考えだった。だがそう言う細かい技術が死活問題へと発展するこの世界、騎士団には関係のない話だ。それぞれの技術、スキルの基本と基礎を繰り返して反復する事で、徹底的に体の中に叩き込む。
カルタスと戦った時に、圧倒的に足りていなかったのはこれでもあるのだから。
空気を奪われた時、反射神経に攻撃動作を覚え込ませていたらどうなっていただろ? その際一突きを交わしたときに、そのまま腕を取ってカルタスを投げていたかもしれない。或いは最後の方で、風の壁に対して怯みながらも、直ぐにカウンター準備を完了させていたかもしれない。今から考えても遅すぎる話だが、やらなきゃこの先、後悔する事でもある。もう、半ば思想が汚染されているような気もするが、本気でハマってしまっている以上、途中で切り上げる事は出来ない。
やるからには徹底的なのだ。
それから数日間、ひたすら反復練習が続く。その副次的な成果として能力が、そしてスキルが上昇する。その成果に喜びの声を漏らそうとするが、その度にガルシアが浮かれるな、と釘を刺してくる。この程度は上がって当たり前の領域であり、下位スキルの限界に到達していない辺りは完全に周りよりも弱いのである、と。そうやってガルシアから放たれる言葉にもなんとか耐えつつ、
ついに、最初の任務の日が来る。
◆
「よぉ! フォウル! 今日、初任務だってな? たっぷりメシ食ってけよ!」
「食ってるか? たっぷり食ってるか? 悪い事は言わねぇから良く食っとけよ、次食えるのは何時か解ったもんじゃねぇからな!」
「あ、フォウルおはよう。今日は任務だって? 今日が何の日かを考えれば大体の予想はつくからね、僕は参加しないけど、ここから応援しているよ」
その日の朝、何故だかみんなが妙に優しい。食堂で焼き魚を食べていると、通り過ぎる同僚たちが背中を叩いたり、肩を叩いたり、オカズを一品持ってきたりする。そういう風に交流が出いる程度にはこの一週間で馴染んだのだが、このキャラの濃い連中は妙に絡んでくる。しかし食堂の中、視線を周りへと向ければ大量にご飯を流し込んでいる姿がチラホラと見える。その姿を見ていると、実にいやな予感しかしない。焼き魚を食べつつ、呟く。
「ニグレドちゃん元気にしてっかなぁ……」
「女の名前を叫ぶ奴から死ぬんだよぉ!! 死ぬんだよぉ―――!! アレェ―――ックス!! 逝くなぁ―――! 家で女房が待ってんだろぉ!?」
「うるせぇ!! ちょっとは浸らせろよ!!」
トリップを始めた馬鹿を蹴り飛ばし、朝食を一気に口の中に流し込んで終わらせる。なんだかわからないが、全体的に興奮しているような気配が同僚たちからは伝わってくる。現在この食堂にいるのは第三騎士団の面々だけだが、完全にその雰囲気はテンションと共に上がっている気がする。その証拠として、全体的に一部が騒がしい。ともあれ、華麗な朝の時間が終わってしまった気がする。
この一瞬間で完全に着慣れたフルアーマー姿へとさっさと着替え、そして演習場へと向かう。そこにいる騎士達の姿はまだまばらだが、時間前でありながらその姿は大分集まっている。これから何が始まるのかと思いつつ集団を見ていると、ガルシアを発見する。彼も同様に此方を発見したらしく、近づいてくる。よう、と手を上げてくるフランクな姿は仕事モードに入る前の、普通のガルシアの状態だ。常にこの状態でいてくれると、訓練中も楽なのだが。
というか今、自分、ナチュラルに騎士団員として行動して考えている気がする。
おそるべし、洗脳訓練。元々は鍛える為だけだったのに。
「しっかりアサメシ食ったか? ん? 今日はキツイぞぉ、朝から晩までずっと走るハメになるからな」
「またマラソンっすか……」
目から光が消えて行くのを自覚しながらそう呟くと、ガルシアはちちち、と口で音を鳴らしつつ人差し指を横へ振り、否定する。
「―――王都周辺のモンスターの定期駆除だよ。今日は一日かけてここらにいるモンスターを全滅させるんだよ。忙しくなるぞぉ」
「あぁ、そういえば……」
そんな活動も騎士団の担当だったなぁ、と思い出す。基本的に自分の知識のベースは、ゲームやらWIKIから来る知識がほとんどだ。だからモンスターの駆除は冒険者やギルドが行っているのでは、と思ってたりもしたが、それは違うらしい。王都の周辺に限っては、完全に冒険者ではなく騎士団がサイクルを組んで、周辺のモンスターを根絶やしにするらしい。そうする事によって王都への交易ルートや、農場への道、街道やら街への襲撃やら、いろんな危険性を排除しているそうだ。なのでおそらく、今回はそれなのだろうとアタリを付ける。
「ま、いい経験になるだろうからお前も参加しておきな。といってもお前はまだ攻撃班じゃなくて、支援班にいれるんだけどな」
「えっ」
「だってお前、連携訓練やってないだろ? 自分の魔法を集団のなかで使って、誤射しない自信があるか?」
「ないっす」
この世界に、魔法の味方と敵の識別なんて便利なものはない。範囲攻撃で見方が範囲内にいれば、その場合は味方も巻き込まれてしまう。その為、何でもかんでも広範囲に魔法をぶっ放せばいいというわけではない。スキルである程度制限や識別は出来ても、確実ではないらしい為、これもまた連携等の為に練習、或いは訓練が必要とされることだろう。
「ほら、そろそろ集まって来たからお前も隊列に加われ。んじゃ野郎共! 説明をはじめんぞ! 何時も通り陣を組んだら面と連携で圧殺しろ! 以上! 今日は東からグルっと回って行くから支援班は遅れるな、攻撃班は死ぬなよ!」
「ハッ、了解しました!」
一切に揃えた声が帰ってくる。大合唱に軽くビクつきながらも、隊列から叫んでいる自分もいる。完全に一員として馴染んでしまった、という軽いショックを感じつつも、動きだす全員の動きに合わせて、上層から下層へと移動を開始する。騎士の行列が職務に出る姿を王都の人間は応援する様に、祝福する様に声を投げながらその間を通って行く。まるで日常風景の様で、人が集まっている訳ではないが、通りがかる騎士団に対して人々は応援の声を送るのを止めない。相当愛されているのだ、というのが解る。
そうやってキョロキョロしていたのがばれたのか、横にいるフルアーマー姿の同僚から声がかかってくる。
「お前新人か?」
「うっす」
「じゃあこれが初陣か? 基本的に戦いは古参や先輩方が率先して最前線を受け持ってくれる。才能や能力が足りない部分を連携と経験でカバーしてくれるから見ていて安心感がある、一切怖がる必要はねぇ。ウチの騎士団はそうやって俺達の前の先輩方が着実に実績を重ねて、国と民の為に働いて来たからな、どの団であろうと人気者だぜ」
「おっす」
誇りを持ってそう言う同僚に返答しつつ、王都の外にまで移動する。そこで合計四十人余りの集団で、二十人が戦闘の為に先頭へ、十人が後方へと支援の為に、そして十人が”片付け”の為に下がり、陣を組む。そうやってフル装備姿で、全員での強歩程度の歩みで、王都の周りの殲滅戦が始まる。
モンスターを引き寄せる香を先頭集団が使用し、モンスターを引き寄せ、近づいてきた所を魔法による牽制や盾と剣によるコンビネーションで容易く圧殺する。小さなモンスターに対しては一対一で素早く首を刎ねるか、あるいは心臓を一突きする事で素早く即死させる。もし、独りでは対処の出来ない中型、或いは大型のモンスターが出現した場合、一人目が盾で防御に入り、二人目がそれを支える様に牽制し、死角に隠れていた三人目が槍等の武器でリーチ外から首や心臓を狙って一撃で仕留める。
これを走りながら続ける。
効率的な集団による戦闘というのは、これが初めてだったが、それは凄まじく洗練された動きだった。数十人という規模で動き、戦闘を行っているのに一人一人が互いを邪魔しない様に動き、そして確実にモンスターを仕留めているのは驚嘆すべき事だった。周りに人がいるのに槍を仲間に当てる事無く、モンスターだけに当てるのはスキルの恩恵ではなく、技術としての証明だ。支援班である故に後方から召喚術を使用する機会もなく、ひたすら援護を行っているだけだが、その光景は見ているだけで物凄い勉強になる。
彼らを見ていればよく解る。一騎当千の実力は持っていない。今の自分よりは強いだろうが、抜き出ている訳じゃない。ただそれを、実力と才能の不足を補う方法を見つけているのだ。そしてそれに心血を注ぎ、確実な力としてここに完成させている。片っ端から出現するモンスターを確実に処理し、そしてそうやって殺したモンスターを後ろで片付け班が解体したり回収したりするのを見て、王国騎士の実力の高さを改めて理解する。
彼らは自分が思っているよりもずっと凄かった。
◆
そうやって凄まじい一日が終わる。終始騎士団は出現するモンスターを片っ端から連携を主体とした動きで確実に急所を貫き、殺して行った。HPが存在しない世界であるが故に、心臓や喉を突き刺せばそれだけで勝てる。だから無駄に攻撃に破壊力を求めたりはしない。確実に殺せるだけの攻撃力を持ち、後はそれを運用する為の技術を磨き続ける騎士達。ある意味、王国の騎士は特化型の存在とも言えるだろう。
戦うという行動自体に特化している、と。
完全に王都周辺のモンスターの殲滅に完了した事実に驚きながらも、全てが終わって夜、部屋に帰ってくる頃には疲労困憊だと言わざるを得なかった。フル装備で走り続けながら支援を行い続ける。反射的に術を使う訓練、そしてフル装備でのマラソンはこの討伐の為の下地作りでしかなかった。しかもこれは間違いなく任務の一環であって、本来の目的ではないのだ。
一体どこまで修羅っているんだこの国の騎士団は。
ともあれ、一日の終わりに鎧を全部脱ぎ捨てながら、今迄の成果、という事でステータスを表示させる。
名前:フォウル
ステータス
筋力:43
体力:45
敏捷:40
器用:32
魔力:39
幸運:20
装備スキル
【召喚術:35】【精霊魔術:35】【陰陽道:34】【ルーン魔術:32】【仙術:44】
【マントラ:44】【錬金術:20】【瞑想:25】【索敵:25】【鑑定:25】
【投げ:36】【格闘:36】【身体強化:45】【見切り:30】【召喚師の心得:25】
SP:27
大分ステータスもスキルも上がって来た。しかし、スキルがカンストではない以上、これでもまだ平団員以下という事実だった。スキルが上がりにくくなってきた感覚はあるが、それでもこれでは終わりではないと予感させるものがある。なによるカルタスと相談した事によって、【錬金術】を他のスキルと組み合わせて戦闘利用する方法もついに解った。これでようやく戦闘中に【錬金術】のスキルを上昇させられるようになる。
成長はいい感じだ。システム外のスキルと言えるものも十分育ってきている―――それでもあまり、この王都に長居してはいけない様な気がする。その原因の一つはニグレドに会えなくなっている事だ。ここまで時間を拘束されるとは一切思いもしなかった。正直な話、もっと自由な時間が約束されていると思ったが、完全に軍人として扱われている。これが二番目の理由だ。完全に取り込まれようとしている。
このまま騎士団で修行を続けていれば、なんだかそのうち役職か何かを渡されて、身動きが取れないようにされてしまう気がする。だからそうやって完全に取り込まれてしまう前に、どっかキリのいいところで騎士団を止めないといけない。いや、間違いなく強くなっているのだ。少なくとも少し前の自分では考えもしなかったような事に対して意識を向ける様になって来た。だけど流石に、ここまで時間と、そして身柄を拘束されるのは辛い。
―――近いうちに退団の意思を伝えた方が間違いなく良いだろう。
良い環境だし、人は優しいし、そしてたくさん指導してくれるから場所としては気に入っている。だがプレイヤーとして、なるべく自由に動き回りたいという意思もあるのだ。この一週間、ずっと王都、その騎士団にいた。この世界へとログインしてからというものの、そんなに長居した場所はない。本音で言えば違う風景も見たいという気持ちがある。
明日辺り、ガルシアに相談しよう。
完全に騎士団の一員として抱き込まれてしまう前に相談して、自分用に逃げ道を作っておこうと思う。その際、ついでにニグレドの様子なんかも見ておけばいいだろうとも思う。ともあれ、当面の目標は鍛錬だ。だがそれは自由のある、という言葉が最初に来る。
やりたい事はたくさんある、拘束は勘弁願おう。
そんな事を思いつつベッドの中へと潜り込み、ログアウトの準備をする。
最近は余りリアルで時間を過ごしていない為、寝る前に軽く運動してから寝ようと思う。そうした方が全く体を動かさないリアルの方としても健康的だろう。
あるいは、
騎士団での訓練内容が体に染み付いてしまって、やらないと満足が出来ないだけなのかもしれない―――。
書いててこれ、ぶっちゃけVRMMOじゃなくて異世界にしたほうが良かったんじゃないの? と思ったりするけど、1話から合計16万文字修正するのもクッソだるいのでこのままゴリ押しします(半ギレ
王国民になりつつあることに気付いて逃げ道を探す主人公の図。下位スキルのカンストは難しくないのです。




