十五話 騎士団にて
王国の保有する数々の騎士団は、他の国と比べると圧倒的な練度を保有しているらしい。それがニグレドの持っている情報であり、リーザは王都出身であるせいか、もっと詳しく王国の騎士団について知っていた。王国の騎士団とは即ち現代で言う軍隊に当たる存在であり、そしてこの国家の中枢戦力ではあるが、やっている事は何も戦争の準備だけではない。
警邏で街の平和を守ったり、あるいは定期的に街の周りのモンスターを騎士団総出で殲滅する事で街の周りの平和を守ったり、と自警団や警察がやる様な事にさえ手を出す。しかも日頃から鍛錬する場所と講師を用意されており、任務と含めて日常的に鍛え続けられているらしい。それ故に兵個人の資質や練度、技量を見るならまず間違いなく王国が抜きんでている。鍛え、鍛えられ、そして戦い続けるという環境が出来上がっているのだという。
帝国はモンスターを寄せ付けない技術があるらしいが、王国はそれがない。その分、多めにモンスターが出現するものの、厚遇している冒険者、そして騎士団の数の暴力によって圧殺蹂躙する事で平和を保っているらしい。ともあれ、騎士団は一部、冒険者の様な討伐関係にも手を出している。あのゴブリンの巣、数日中に誰も依頼が受けない様であれば、おそらく騎士団が完全殲滅の為に動いていたのだろう。
そんな情報を受け、騎士団に関しては恐ろしい考えばかりが先行してしまう。それでも、リーザの様子を見ている限り、恐ろしいよりも頼もしい、というイメージが正しいのかもしれないが。ともあれ、リーザとはグラウの屋敷で分かれる結果となった。ある程度リーザの正体に関しては察しが付くが、名乗らないのであればそれを口にするのも野暮な事なのだろう。そんな考えを抱きながらロープウェイに乗り、向かう場所は一つ。
上層。
貴族街のあるエリアではあるが、同時に騎士団のいるエリアでもある。それに対して反発する貴族なんてものは勿論いない。騎士団には貴族の身内等が所属しているのだ。しかしそれを考えると貴族特有のドロドロが騎士団内で行われていないのか、そんな事を考え始めてしまう。あんまり考えたくはない事だ。だから頭を横に振り払う様に動かし、そして上層、教えられた騎士団の訓練場へと向かう。
そこで書状を見せれば話は通る、と言われている。
そういうわけで、貴族街の一番奥、かなり広い土地を保有する騎士団の訓練場へと到着する。建物自体はノーチェックで入れるらしく、中に入る。そこで軽く当たりを見渡すが、特に受付の様なところが存在しない。訓練場なのだから当たり前と言ってしまえば当たり前なのかもしれないのだが。少し困ったな、なんて事を思いつつエントランス付近で視線を巡らせていると、ニグレドが服の裾を引っ張ってくる。
「ん」
そう言ってニグレドが指し示す方向から、一人の姿がやってくるのが見える。黒い服装の上から鋼鉄のアーマーを所々に装備するのは、間違いなく騎士らしい姿だった。その姿に助かったと思い、軽く声を上げながら近づく。
「すいませーん!」
「ん? なにかな?」
青髪の騎士が此方に反応して近寄ってくる。どうやら普通に話しの通りそうな相手で良かった、そう思いつつ書状を取り出す。
「すいません、これを見せれば話は通るって言われたんですけど」
「どれどれ―――」
取り出した書状を騎士へと受け渡すと、騎士はそれを広げ、読み始める。それにかかる時間はほんの三分程度だ。それを終わらせると、騎士は綺麗に書状を畳み直し、そしてそれを返してくる。その視線は多少、同情している様なものを感じる。
「話は分かった。その書状を第一演習場へと持って行くと良い。そこに金髪の騎士が、ガルシアがいる。あの人に持って行けば多分これは良い筈だ。幸運を祈っているよ、っと第一演習場はあっちだよ」
「どうも、ありがとうございます」
軽く頭を下げて去って行く青髪の騎士を見送り、そこから言われた第一演習場の方へと歩き始める。中からは叫び声等が聞こえるが、今の所訓練中なのだろうか、そんな事を考えながら歩いていれば、あっという間に第一演習場へと通じる通路へと到着してしまう。聞こえてくる声に若干躊躇しながらも、通路を一気に抜け、その向こう側へと出る。
そこで繰り広げられていたのは、以外にも普通の訓練風景だった。
素振りをする騎士、ひたすらトラックを周回し続ける騎士、何らかの型を練習している姿もあれば、談笑している姿もあった。王国騎士は精兵。そんな話を脅される様に何度も聞いている為に、多少は恐ろしい風景を想像していたが、そんな事は一切なかった。普通に冒険者がやる様な訓練の風景がここにはある。だから軽く首を捻るが、おそらく時間帯なのだろうと結論する。ともあれ、軽く見渡せば金髪は何人かは見える。だがその中で、一番強そうな金髪の騎士を探し、そして見つける。完全に直感任せではあるが、スキルでも判別できない相手である事を判断すると、やはりこの人物となる。
演習場の脇で全体を眺める様に腕を組んでいた金髪の騎士に、近づく。
「すいませーんガルシアですか?」
「うん? 私に何か用かな?」
どうやら当たっていたらしい。なんか最近、ポンポンと強い人と会うなぁ、と思いつつ書状を見せる。受け取ったガルシアはそれを受け取り、そして先程の騎士の様に書状を広げて確認し始める。それを確認するガルシアはふむふむ、と呟きながら頷き、そして最後に書状閉じる。
「まぁ、何というべきか……大凡の流れは理解できた。君達二人に対する推薦と説明がこの中には書いてある。君を第三騎士団で、そして彼女を第五騎士団の方でね。本当ならここで断りたい所だが―――御老公が態々書いた書状を無視したとなると色々と文句を言われるのは辛いからね、受諾しよう」
溜息を吐きながらガルシアがそう言う。なんか思いのほか無理をやらかしているような気もするが、それに関しては顧みると胃が痛くなるだけだから、完全に忘れて前向きに進む事にする。ともあれ、どうやら自分とニグレドは世話になる場所が違うらしい。しばらくはこれでお別れなのかもしれない。まぁ、今までべったりだったのだからそれを考えるといい機会なのかもしれないが。しかしそこでふむ、とガルシアは呟く。
「まぁ、御老公のちょっかいも回数が多くないから助かるがな」
「ちょっかいですか?」
あぁ、とガルシアは頷く。
「不老や長寿の存在が上に立つと政権を長く維持されてしまうだろう? そう言うのは腐りやすかったりドンドンと歪んで行く。どの時代も、世代を交代する事によって生まれなおして行くのだ。故に不老や長寿が上に立つとそれが発生せずに停滞ばかりが起きて行く。その為に不老や長寿の存在に関しては、純人種と同程度の時間しか政権を握れない様にしているのだがな、あの御老公はその時期が来る前に辞め、ある程度力を保持したまま自由に暮らしているんだよ。おかげかなんかか知らんが、ある程度の発言権があるから面倒だ。早く事故かなんかで死なんかなぁアレ」
一瞬、ガルシアの本音が聞こえた気がするが、それは無視しておく。こういうのは深くかかわってしまったら負けなのだから。
「えーと、どこへ行けばいいんですかねぇ」
「あぁ、君は私と一緒に此処にいればいい。私が第三騎士団の団長だしな。そちらの君に関してはここで待っているといい、担当の者を呼んでくる。さて、久しぶりに冒険者からの入団か。これは少々忙しくなりそうだな」
ガルシアの言葉にふと、違和感を感じる。少しまて、話の流れがおかしくはないだろうか。
「……ん? 入団?」
鍛えてくれる程度にしか考えてなかったため、ガルシアにどういう意味かを聞き返す。しかしガルシアは首を傾げ、そして答えてくれる。
「推薦状だぞ? 騎士団に入れる以外に何をするんだ。さ、さっそく準備を始める必要があるな……」
「えっ」
◆
認識としては講師を付けてもらうとか、共同訓練というか、そういう認識があったが、いきなり横から騎士団の中へと叩き込まれたらしい。そんな無茶な、なんてことを思ったが、現にガルシアは肯定し、ニグレドを回収しに来た女の団長がニグレドを掴み、そのまま連れ去ってしまった。その光景はまるで売り飛ばされるペットのような光景だったのは、記憶の中に深く刻み込まれている。ともあれ、そうやって演習場に残される。そうやってニグレドがいなくなったところで、ガルシアは此方へと向く。
「んじゃ……そろそろ真面目な話を始めようか。まずはようこそ王国第三騎士団へ。ちゃんとした名前があるけど、ぶっちゃけ誰も使わないから覚える必要はない。とりあえず私がガルシア・フェレス騎士団長だ。ちなみに貴族だ。物凄く偉いんだぞ……あ、いや、ここら辺は冗談だからかしこまらなくてもいいんだよ。とりあえず、君の名前とクラスは?」
「フォウルです。一応近接特化型召喚師で通ってます」
「特化型のサマナーか、また珍しいな」
いや、違います、と訂正する。
「近接型のです」
「ん?」
ガルシアはそう呟き、そして納得したかのように頷く。
「成程、君も魔術師が近接するのはおかしい、或いは珍しいと思うクチか」
ガルシアの言葉に疑問を浮かべるのは此方の番だった。
「えっ、普通魔術師って後衛じゃないですか?」
「いいや、それこそありえない。魔術師は後衛も前衛もいけるバランスの取れたポジションだ。というか”前衛で戦う技能は必須”だ。寧ろ後衛しか出来ない魔術師に一体何の価値があるんだ? 攻められたら詰み、護衛を回す必要だってある。だったら最初から魔術師に近接戦闘を行えるように訓練しておくのは常識だろう。まぁ、理想としては無詠唱で即時発動できるぐらいの腕前が欲しいがね。ではないと白兵戦は辛いぞ」
「え、えぇー……」
魔術師は後衛。
当たり前としてこの常識が存在していた。だから召喚師も後衛である。その常識を打ち破ろうと、近接もこなせる召喚師として頑張ろうと思っていた。だがここで衝撃の事実として、別に後衛職ではない事、近接は出来て当たり前という情報を叩きつけられる。その事に深いショックを受ける。
「まぁ、君達冒険者の多くがその間違った知識をどこで入手したのかを個人的には知りたい所なんだがね? 普通に白兵戦を挑めるレベルでの近接戦闘技術は我が騎士団における最低限の要求だ。そしてそれは我が国の騎士団の共通の認識でもある。後ろから守られながら大技を放っていればいい、なんて考えは持たない様に。戦略的に相手の届かない位置から攻撃するのもいいが、それだけでは決して終わりはしない。魔力がなくなれば頼れるのは肉体と武器のみになる。その時に備えて必要な技術は育てるしかない」
「理論は解りますけど―――」
なんだかショックだった。オンリーワンを目指そうとしていたら、それが別にオンリーワンでも何でもなかった、という事実にだ。しかし、考えの違い―――それはゲームに頼ったステレオタイプの考え方を持つゲーマーでありプレイヤーの自分達と、そして今、という戦乱の時代を戦って生きている彼らの考えの違いかもしれない。魔術師といえば後衛、というのはゲームから来るイメージだ。だけどここにいる彼らはゲーム内の存在であっても、経験している事はゲームではなく、実際に経験して考え付いたことなのだ。
当たり前、そう言ってしまえば確かに当たり前だ。
だけどショックなのは確かだった。
「なんだか悔しそうな表情だな?」
「えぇ、まぁ、召喚師で近接を挑むのって俺ぐらいかなぁ、って悦に浸ってたので」
「そう落ち込む事はない。逆に考えれば他の冒険者たちと比べてスタートが早い、考えとしての下地が完成していると思えばいいんだ。ここから更に鍛えて行くのが重要だ……さて、君のステータスを確認させてもらうが構わないな?」
はい」
ガルシアに応え、ステータスウィンドウを表示させる。
名前:フォウル
ステータス
筋力:26
体力:28
敏捷:28
器用:30
魔力:37
幸運:18
装備スキル
【召喚術:31】【精霊魔術:30】【陰陽道:28】【ルーン魔術:30】【仙術:28】
【マントラ:30】【錬金術:18】【瞑想:23】【索敵:22】【鑑定:22】
【投げ:25】【格闘:28】【身体強化:26】【見切り:27】【召喚師の心得:20】
SP:18
一般的なネットゲームで言えば間違いなく”バランスの悪い構成”と言われる一例だろう。基本的にスキルを構成する時はメインとなる者を一つか二つ用意し、それをサポートするスキルで埋める事が効率的だ。だが自分の構成はやる事が全てメイン、という感じの混沌とした組み合わせだ。改めて【召喚術】という軸がなければ物凄い面倒な構成じゃないだろうかとは思う。しかしこの構成も、比較的に普通である事がこの騎士団で判明してしまった。やはりショックは抜けない。
「成程―――良し、カルタス! こっちに来い!」
「はい!」
演習場へと向かって叫んだガルシアの声に反応する様に、素早い応答が帰って来た。視線をガルシアが飛ばした声の方向へと向けると、金髪の美青年が黒い服装に鎧を少量装着した状態で走ってくる。その尖った耳が彼がエルフである事を照明していた。走って近づいてくる彼はガルシアの前まで移動すると、背筋を伸ばして敬礼を取る。
「休んで良し! ……さて、ここにいるカルタスは”能力”的には君と大体同レベルの相手だ。とりあえず一回、君の実力を知る為にも、そして”本当の近接魔術師”というものを理解する為にも、ここで能力的には同じ相手と戦う必要があるだろう……いいな、カルタス?」
「はいッ!」
「良し、フォウル、お前もいいな?」
「はいっ!」
もう既に組み込まれているような気分で、思わず同じように答えてしまった。それにガルシアは苦笑を返すと、数歩後ろへと下がる。
「いいか、殺すつもりで戦え。怪我の事は気にするな、ここにはヒーラーも葬儀屋も神官もいる。だから手違いで殺してしまう事を恐れる必要はない。ただ、無駄に被害を広げない様に」
「了解です! よろしくお願いします」
「此方こそよろしく」
そう言ってカルタスというエルフの騎士は短く言葉を呟き、手に風を集中させると、それを一本のレイピアへと変形させる。そうやって武器を生み出した事に驚いた瞬間、
―――顔面目掛けてレイピアが振るわれた。
それを回避できたのは間違いなくレギンレイヴに一回、同じようにボコボコにされた経験があるからだろう。だからそれに反応しつつ拳を握り、言葉を口にしようとしたところで、口を動かしても言葉が出ない事に気付く。それに驚きを得る間に、既にカルタスは踏み込んでいる。魔法も発動しているようで、氷の槍が頭上に出現している。だがそれが落ちるよりも早く振るわれるレイピア、それを回避するのと同時に息苦しさを覚える。
―――空気を……!
奪われている。理解するのと同時に横へと転がり、頭上から落ちてくる氷槍を回避しつつ両手で印を組む。能力は同じぐらいだ、と言われていたが、失念していた。
一言も実力が同じレベルだとは言っていない。
印が完成して迷う事無く肉壁、そして攻撃の起点として使用できる小鬼を召喚する。登場と同時に振るわれる鉈を正面から潜り抜ける様に回避し、振り向きざまにレイピアが小鬼を貫き、一撃で絶命させる。その隙に続けて召喚を施そうとするが、今度は手がしびれる様な震えを感じ、それで印を結ぶことができない。故に召喚する事を諦め、拳を握り、前に出る。もはや手段はそれしか残っていなかった。あまりにも鮮やかに、華麗に連続で詰ませる様に攻撃を重ねる相手に、それはどれほど愚かなのか、
理解していても本気で殴りに行く。
「ふっ―――」
そうカルタスが息を吐いた瞬間、レイピアが消失し、その代わりに暴風が壁の様に襲い掛かり、体の前進を阻む。それに対して【マントラ】等のスキルで強行突破を狙うが、
「これで詰みです」
既に喉にはレイピアを突きつけられていた。この状態から逆転する事はどう足掻いても不可能だ。
たったの一撃、それを入れる事もできずに敗北してしまった。そのショックに、息を吐きながら演習場の地面に座り込む。
「……参りました」
完膚無きまでにやられた。ぐうの音も出ない程に敗北を認めるしかなかった。カルタス、彼の戦術は完璧だった。魔法と攻撃の動き、それを同時に合わせつつも牽制攻撃、魔法と物理での動きを適切なタイミングで切り替えながら運用していた。その結果、良い様に相手の術中にはまって攻撃は一度しか行えなかった。それなりに自信はあった。だけどそれは今、ここで完全に砕かれていた。
観戦を終えたガルシアが近づいてくる。
「どうだ、勉強になるだろ? 言ってしまえばお前の動きは初心者に良くある事なんだよ。まだ技術がない、スキルというものを理解していない、そして動きと技術とスキルを結びつけていない、って状態だ。その上に基本と基礎が抜けている。いいか」
そこで一旦ガルシアが言葉を区切る。
「―――経験ばかりの奴は直ぐに死ぬ」
それをガルシアは断言した。
「重要なのは経験ばかりじゃねぇんだよ。いや、確かに経験も重要だ。だが何よりも重要なのは基本と基礎だ。スキルの基本を理解し、そして動きの基礎を構築する。覚えた基本と基礎ってのは全ての下地になって、体を支える骨となる。これが組み合わせる事によって、今のカルタスみたいな組み合わされた動きをシームレスに行えるようになる訳だ」
「いや、本当に自分がどれだけ井の中の蛙だったというのかを理解させられましたよ……もう、なんというかホントショックです。個人的に良い線行くんじゃないかと思ってたのに奥の手を使おうとする事すら許されなかったですし」
「若干酷い話かもしれないですけど、冒険者であれば仕方がない話です。ギルドが講師を斡旋すると言っても、国の騎士団が誇る様な優秀な人材を揃えられる訳じゃありませんし。こういうのを教わっていなくても普通なんですよ。冒険者はどちらかというと対モンスターを意識していますし」
「まぁ、騎士団とかは基本対人も想定しているから要求が高くなってるんだよな、そこらへん。対モンスターだけを考えるなら、まあ、悪くはないんじゃないか? 結構いいところは行くだろうよ。ただ人が相手になると、慣れた奴やちゃんとした訓練を受けた相手に対しては今の様になるぜ。そうなりたくなきゃここで―――」
「鍛えます、鍛えさせてください。お願いします」
直ぐに立ち上がり、ガルシアの言葉に応えると、ガルシアが笑顔を浮かべる。その笑顔を見てカルタスがあっ、と声を零して視線を逸らす。待ってほしい。なんでそうやって視線を逸らすのだろうか。ちょっとそれは凄まじいぐらい不安になるから止めて欲しいんだが。懇願してもカルタスは何も言ってくれない。
「お前は……まだスキルが下位か。まぁ、下位スキルを最大の50まで持って行くことはそこまで難しくはない。才能次第だが、殿下みたいな才能の化け物でもあれば一週間で1から50まで上げられる。ただ問題は人口のほとんどが下位で打ち止め、上位や最上位へとたどり着けないだけだ。御老公の書状の中には相当期待していいと書いてあったからな、キツクすればするほど強くなってくれそうで楽しみだよ」
「早まったかなぁ……」
ははは、と笑みを浮かべ、笑い声を響かせるガルシアが、カルタスに何かを持ってくる様に言い、走らせる。すぐさまいなくなったカルタスから視線を外してガルシアへと視線を向けるが、さて、とガルシアは声を漏らす。
「いいか、こう見えて結構な完璧主義者なんだ。妥協は許さない。認めない、求めてはいないのだ。だからウチの騎士団に一時的に預かるという形であっても、一切妥協するつもはない。他の団員達と同じように扱わせてもらう―――いいな!」
「はい!」
敬礼と共に勢いよくそう答えると、満足げな表情をガルシアが浮かべ、そして同時にカルタスが何かを担いで帰って来たのが見える。それはカルタスやガルシアが装着している鎧と同じ様なものに見えるが、フルセットであるのが解る。これを装着すれば頭から足の先まで完全に鋼鉄に包まれてしまうだろう。それを運んできたカルタスは、そのフルプレートの鎧騎士セットを此方の前に置く。そしてそれを確認したガルシアが、言う。
「まずはそれを着ろ。そしてマラソンだ」
「えっ」
「着ろと言ったはずだ!!」
「は、はい!」
インバネスコートをインベントリの中へと放り込みつつ、素早く置いてある鎧を持ち上げる。その着方が全く解らないが、横からカルタスが小声で着方を教えてくるので、それに従って鎧を装着して行く。ヘルムに、フルプレートアーマー、ガントレット、レガース、と完全装備した状態の鎧は、今までの想像を遥かに越える重量だった。即座に【マントラ】と【身体強化】のスキルが発動し、倒れそうな体を立たせててくれる。だけどそれでもまだ重量を感じる。
「さて、マラソンだ。終わりだと言われるまでずっと走っていろ」
「しょ、召喚―――」
「召喚師であろうとなかろうと関係ない。言っただろ、前衛をこなすのは当たり前だと。つまりは前衛がこなせる事をお前もこなせるようにならなくて張らない。その為には第一に体力、第二に体力、そして第三に筋力だ。いいか、体力がある事が基本だ。体力がなければどんな猛者であろうと邪魔なだけだ。つまり体力をつけろ、体力を。理解したか? スキルは使ってもいいが止まる事は許さん。走り続けろ」
「イエッサー!」
ガルシアの足が強く大地を穿つ。それに合わせる様に即座に立ち上がり、そして演習場内をトラックに合わせて、大きく楕円を描く様に走り始める。スキルで多少は打ち消しているとはいえ、それでも体にかかる疲労は、重さは凄まじい。【マントラ】で体力を回復し続けないと、間違いなく直ぐに倒れてしまうだろう、と思う程には。そうやって走りながらも、大きく叫ぶようにガルシアの声が聞こえてくる。
「どうしたァ! 遅いぞ! チンタラ走ってないで本気をだせェ!」
「ハァイ!」
間違いなく返答は半ギレの状態になっているだろうが、それでも入ってしまった以上、やると決めてしまった以上、ここで止める事は出来ないのだ。最後まで完走するしか、このマラソンもこの騎士団での修行も、終わりはないのだ。
「怠けるなぁ!!」
「はぁい!」
終わりはないのだ。
◆
名前:フォウル
ステータス
筋力:28
体力:30
敏捷:28
器用:30
魔力:37
幸運:18
装備スキル
【召喚術:31】【精霊魔術:30】【陰陽道:28】【ルーン魔術:30】【仙術:30】
【マントラ:32】【錬金術:18】【瞑想:23】【索敵:22】【鑑定:22】
【投げ:25】【格闘:28】【身体強化:30】【見切り:27】【召喚師の心得:20】
SP:19
「はい、終わりー、お疲れー。あぁ、見てるだけってのも退屈だよなぁ。あ、部屋とか食堂諸々に関してはカルタス、面倒を任せた」
「了解しました」
数時間のマラソンの結果、もはや答えるだけの余裕は残ってなかった。間違いなく体力と限界を突破して走り続けた、という実感だけはあった。ともあれ、最後のあの投げやりな感じはどう足掻いても殺意が溜まる。戦う機会があったら開幕ヴァルキリーを決めたい所である。
しかし、これは始まりでしかなかったのだ。
そう、現代社会という戦闘とはかけ離れた世界、激しいと言ってもスポーツのアスリートが求めるレベル。
それと、軍人が求めるレベルの基礎とは遥かに違う。基本と基礎を固めるという言葉は、
長くて苦しい戦いの始まりでしかなかった―――。
プレイヤー:魔法は後衛火力。砲台だよなやっぱ
王国騎士団:前衛をこなせない魔法使いはカス。火力も前衛もして当たり前
ゲームからの知識と、実際世紀末モンスターランドで生活している人達で動きやクラスに関する考えの違いが来るのは当たり前だよね!
あらすじをこれでやっと変えられる




