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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
一章 王都編
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十四話 王国美少女

 ふざけた事にも王国超美少女と名乗った女は大まじめ、本気でそう言っていた。ただそれを言うだけの余裕が彼女にはあった。明らかにダグを敵として認識していない。それだけの隔絶した実力の差が存在している。そして宣言した直後、既に赤髪の女は動いていた。


 歩いてだ。


 歩いてダグの前へと彼女は移動する。緩やかで、そして同時に見える動き。しかし、それに対して誰もが反応する事は出来なかった。正面から歩いてくる彼女に対してそれがそうであると正しく認識できず、認識が追いつかず、歩いた状態で彼女を到達させてしまった。そこからダグが瞬きする前に、全てのケリはついた。


「超王国超美少女超パンチ」


 拳を一撃ダグの顎へと叩き込む。それだけでダグの顎が砕け、赤髪の女よりも背の高い人狼の姿は軽く浮かび上がり、そのまま拳の威力を乗せて後ろへと吹き飛ばされ、地面に何度かバウンドしながら転がり、壁と衝突するまで一切止める事無く無様な姿を見せていた。その殴り飛ばした姿を満足げな表情で赤髪の女は眺めると、軽く息を吐く。


「いやぁ、盗賊ギルドの連中が必要なのは解ってるんだけどねー。だけどやり口の汚さに関しては吐き気がするのよね。個人的な恨みは……あ、やっぱあるわ。だけどそれとは別に見かけたらなるべく殴っとこうって考えてるんだわ。これで懲りたら王国内での犯罪はあんまり……って意識ぶっ飛ばしたからおぼえているわけないよね! はぁーっはっはっは! やべぇ、反省させられないじゃない。どうしよう」


 そう言ってこっちへと向くが、痺れ薬の影響が残っていて、どう足掻いても喋る事が出来ない。とりあえずかひゅ、かひゅ、と口から息を吐いてアピールするが、相手は両腕を組む。


「……怪我人ごっこかな?」


 そのものだよ! 盛大にツッコミを入れたいが、女は解っている解っていると、手を振って謝り、近づいてくると手を胸に当ててくる。


「そい」


「がふっ、ごほ、ごほっ、おえ……んあ……痺れが抜けた」


「こっちも、っと」


 そう言ってまた胸に手を当てる様に動かし、痺れをニグレドの体から叩きだす。そうやってなんとか立ち上がり、自分の体の調子を確かめる。多少殴られた箇所が痛いが、それを抜けば体は正常な状態だった。寧ろ、回復効果を受けたせいか、体の調子が良くもさえ感じる。軽く体を動かし、その調子を確かめ、そして目の前の女に頭を下げる。


「ありがとうございます超王国超美少女様」


「死にたくなるから止めて。……止めろ」


 真顔でそう返してくる女に対して、少し警戒をしようかと思って―――止める。なんだか先程の事で、そして今の子の様子を見て、警戒したり疑うのが馬鹿らしくなってしまった。とりあえず目の前の人物が恩人である事に間違いはない。殺さないとは言われていたが、正直それ以外はどうなっていたかは全く分からなかったのだから。だから改めて感謝しようとするが、


「あぁ、別にそこまで感謝されるようなことじゃないから。ほら、目の前で悪事が行われていて、それを見逃すのは気持ち悪いでしょ? だったら気持ちよく一日を過ごす為に殴り飛ばしておかないと。その程度の感覚でやっている事だから、そこまで感謝される事でもないのよ。だからそうね……もし、感謝しているんだったら―――」


 そう言って彼女は人差し指を持ち上げた。


「―――ケーキ奢って?」



                  ◆



 そう言われ、場所は大きく変わって中層へと移る。中層の中でも下層を一望する事の出来る位置に、カフェが存在する。オープンテラス席を赤髪の女は占領すると、早く来い、とその手で呼び寄せてくる。テンションの高い女の姿に疲れないのかな、とニグレドに視線を向けるが、彼女の様子は非常に何時も通りだった。あまり待たせる訳にもいかない為、自分もさっさと席に座り込むと、既に店員を呼んでいた彼女が勝手に頼んでおり、店員がいなくなったところで此方へと視線を向けてくる。


「あ、三人前頼んじゃったけど大丈夫? ここホント美味いから安心して。特にフルーツタルトに関しては厳選に厳選を重ねて使用するのを選んでいるらしく、拘り抜いてるってよ。あ、それとも甘いもの苦手だった? その場合は私が普通に食べるけど」


「大好物」


「あ、やっぱりだよねー。やっぱり女の子は甘いもの好きじゃないと―――つーか、”太るから甘いもの駄目なんですぅ”とか言ってる頭の沸いている連中は一体なんだよ。太るなら太ってろよ。太るのが嫌なら動けよ。太るのが嫌で食べるのを我慢するのはないだろう。私、ああいうぶりっ子? 私超努力してますの系? ああいうの苦手っつーか嫌いっつーか……努力するのは当たり前だろって。あ、これ関係ない話だった」


「お、おう」


 まさか話す、という事で自分が圧倒される日が来るとは思いもしなかった。ただ相手はその反応も楽しんでいるのか、此方が飽きない様に話題を選びつつ、楽しませるように面白い話を振って来るのだ。一方的に見えて、実は結構話術が高い人物のように思える。だがその前に、


「名前はなんすか」


「あ、そうだそうだ、名乗ってなかったわぁ。謎の王国美少女! でも良いけど、それで納得させちゃうと永遠に武器を握らせるような気がするから、とりあえずはリーザだ、リーザ。それが私の名前だよ。あと敬語はいらない。聞いててムズムズする。どうせそっちの兄ちゃんと私、同じぐらいだろ?」


「王国美少女リーザちゃん」


「やめてぇ!」


「超王国超美少女超リーザちゃん」


「や、やめ、がふぅ……」


 ニグレドの追撃によってリーザがテーブルに突っ伏す様に倒れた。しかし次の瞬間、近づいてくる店員の足音に反応したかのように飛び起き、両手をさすりながらやってくくるフルーツタルトを眺め、待っていましたと言わんばかりに目を輝かせる。目の前に置かれたそれをリーザは一切遠慮する事無くフォークでその一部を崩す様に口に運び、幸せそうな表情を浮かべる。リーザから視線を外してニグレドへと視線を向ければ、


「……!?」


 ニグレドも本当に珍しく、幸せそうな表情を浮かべて食べていた。何時もの表情ではない事に驚きつつ食べれば、美味しい事は解る。解るのだが、何が彼女たちをそこまで半分トリップしているかの様な表情にさせるのが解らない。美味しいのは話がるのだが、何が彼女たちにそういう表情を与えるのだろうか。美味しいと評価してみるも、それを理解したかのようにリーザが苦笑する。


「うん、まぁ、この感覚は女子にしか解らないかもしれない。ただ単純に私達が甘党なだけかもしれないけどねー。んで、えーと……」


「フォウル」


「ニグレド」


「フォウルとニグレドね、オッケイオッケイ。しっかり脳味噌に刻んでおいたから。とりあえずその姿を見ると王都に来たばかりの冒険者っぽいけど、何か目的とかあって来たわけ? ん? 言っておくけどここは私ん家みたいなもんだからね、大体どこに何があるとか解っているつもりよー?」


 どうこたえようかと迷っていると、ニグレドが既にタルトを食べ終わっており、まだ半分しか食べていない此方のタルトに視線を向けていた。考えるのは一瞬だけで、自分が食べるよりもニグレドが食べた方がある意味幸せかもしれない。そう思ってタルトをニグレドへと渡すと、ニグレドが笑顔を割かせながらそれを食べ始める。


「いやね、俺達強くなる為に王都へ来たんだよ。ランケルで冒険者として初めて、んでティニア通ってここへ来たんだけど、もっと広い世界を見る為には力が必要だろう? だから王都で今の自分を鍛えられないかと思ったんだけど、どっかない? 訓練場みたいな施設か、ダンジョンみたいな場所。正直それ以外に鍛える方法が存在するなら教えて貰いたい所なんだけど」


「えーと、フォウルとニグレドちんはクラス的にはどんな感じ?」


「俺が近接の特化型召喚師で、ニグレドちゃんがアサシン」


 そう言うとリーザは両腕を組み、フォークを口に咥えたままうーん、と唸りつつ大きく椅子の上で仰け反る。考えているようで、何かを悩んでいるようにも見える。もしかして何か、難しい事を頼んでしまったのだろうかと思ったが、リーザは一気に前へと体を倒し、そして自分とニグレドへと視線を向けてくる。そのまま数秒間リーザは此方へと視線を向け続けてから、頷く。


「まぁ、才能あるっぽいしいっか。個人的な知り合いを紹介するよ。私も凄い世話になった爺さんなんだけどね。元軍人で、ってか騎士の人間で、今は退役して好き勝手暮らしているだけだけど、実力だけはホント真面目に凄いから。まぁ、多分その爺さんの方が私よりもそう言うのには詳しいから、聞いてみるといいんじゃないかなぁ」


「なんか甘える様ですまんな―――あとニグレド、お代わりはなしな。宿代とかあるんだから」


 ショックを受けたかのような表情をニグレドが浮かべ、そのままテーブルの上へと突っ伏す。その姿は完全に二十歳の女というよりは、ペットの猫みたいなものだ。というか扱いがほとんど愛玩動物扱いになっている気がする。ニグレドの頭を軽く何度かチョップして、その欲しがっている表情を止めさせる。改めてこいつを放逐するのは不安になってくる。おそらく自分よりも逞しいのだが、それとこれとは話が違う。とりあえず、強くなるための伝手はリーザを通してどうにかなるかもしれない。それは一歩前進を意味する。


 しかし、


「リーザ……強いなぁ」


 その言葉にリーザは苦笑する。


「まぁ、小さい頃からずっと殴り込んでたから多少はね? 最近は王国の各地を旅してたりするから、訓練している時と違って全く成長しなくなっちゃったんだけどねぇ……。折角王都に戻って来たし、これを機会にちょっと自分を鍛え直そうかと思ってたりするんだけどね。まぁ、久しぶりにダディにあってみたらさ、ダディが見事に痔にかかっててさぁ……」


「そのどうしようもない家庭の情報を俺にぶっぱしてどうしろって言うんだよ!」


「脅せよ!!」


「自分から脅迫を頼んでくるとか斬新だなお前! しかも交渉内容が痔かよ!!」


「きっと楽しいよ!」


「脅迫されるのお前の親父だぞ!」


 この短いやり取りで、彼女がネタ的な意味でかなり優秀な事を即座に理解した。良く考えれば最近、まともにこういう風にネタに走った事はない。というかニグレドといる間はそういうネタでもリアクションが薄いのでアクションに移せないのだ。そう言う事もあり、じーんと、胸に感じるものがあり、手を出してリーザと握手を交わしあう。


「友達になろう」


「喜んで」


「にゃー……みゃー」


「そこ、猫の鳴きまねをしてもケーキは出ません」


 一人だけ蚊帳の外で寂しかったのかもしれない、自分の存在感をアピールする様にニグレドが唐突な猫の鳴きまねをしていた。



                  ◆



 そこから再び下層へと移動する。なんでも現在は下層、それも”裏町”と呼ばれる少々ガラの悪いエリアに住んでいるらしい。生き方に関しては前回のガイド事件と似た様な路地裏に入るのだが、此方に関してはちゃんと舗装された道があり、裏町へと向かう人の姿がぽつりぽつりと、見えるのだ。なんでも裏町は中央大通りやダウンタウンと言った部分には入れる事の出来なかった少し怪しい店や、ちょっと表には顔を出しづらい、そういう連中の集まりやすい場所であるため、そして比較的下層でも内側に存在する為の裏町という名称がついたのだとか。


 ともあれ、リーザの導きにしたがって道を抜ければ、あっさりと裏町エリアに到着する。建物は大通り周辺のものよりも古くなっており、若干スラムっぽさが見えてきている所もある。だが荒んでいる様子は一切ない。完全にスラムと化している場所はない様である。そこらへんは王の政治、或いは経済の手腕としての結果なのだろうか。


「こっちこっち」


 そう言うとリーザは近くの家にかかっている梯子に足をかけ、それで一気に屋根の上へと跳躍する。その遠慮のない行動を見て軽く引くが、


「ここら辺はちょっと大回りしなきゃ到着できない様に出来ていて面倒なのよ。まぁ、この街というか下層自体はぶっちゃけ道を歩くのより屋根を伝った方が早いのよ。だからカモンカモン」


「えー……」


 めちゃくちゃだよ、と言いたい所だったが、ニグレドが先に跳躍して屋根の上へと移動してしまった。ホント躊躇しないなこいつ、と内心呟きつつ自分も梯子に足を駆け、一気に屋根の上へと飛び移る。それを確認したリーザが頷き、そしてそのまま移動を再開する。と言っても、ここからはそんなに移動する事もなかった。屋根から屋根へと飛び移り、六軒程屋根の上を伝って移動すると、そこから道路の上へと着地し、


 大きな家の前に到着する。


 和風と中華風を織り交ぜたかのような、屋敷だった。屋敷と言ってもそこまで大きくはないが、少なくとも現代の基準から言えば、武家屋敷と言える建築物に近い構造をしている。横に広い一階建ての建造物。木製の門は開け放たれており、誰が入ってもいい様に出来ている様に見える。そしてそれに一切遠慮する事無く、リーザは中へと踏み込んで行く。その後を追う様に中へと入り、木製の装飾された扉を開け、中に入る。


 ”準和風”の玄関、靴を脱げる場所があるが、それを気にする事無くリーザは上がると、玄関横の空間へと視線を向け、手を上げる。そこには座布団、或いはクッションの上に座る上半身裸の男がいる。片目に傷の入っている男はそのまま見れば間違いなくヤクザにしか見えないが、リーザを見かけると笑みを浮かべる。


「ちーっす」


「おぉ、お嬢じゃねぇっすか。今日はここへどのような御用で」


「爺さんにちょっと頼み事があるんだけど、今爺さんいる?」


「親分なら奥にいますぜ。なんでも聖国の方で流れてるヤクの方を見分中とか。中へどうぞどうぞ、お嬢とその知り合いってんなら顔パスでいいですぜ」


「おう、サンキュな」


 ―――完全にヤクザじゃねーか!


 ここだけ世界観が崩壊しているなぁ、なんて事を思いながら軽く入口の男に頭を下げ、そしてリーザの後を追って中へと上がる。玄関を抜けた先の通路を歩き、その先にある部屋に入れば、男が三人ほど見た事のない絵札のカードゲームで、銅貨を賭けて遊んでいるのが見える。その三人はリーザを見かけるなり立ち上がり、そして頭を下げてくるが、リーザは気にするな、と手を振る。その代わりに、


「爺さんに会いたいんだけど」


「おっす、少々お待ちくだせぇ。確認とってきやす」


 そう言って賭けを楽しんでいる一人の男が部屋の奥の扉を開け、その中へと消えて行く。そこから彼が帰ってくるのに要した時間は数十秒程だった。直ぐに出てきた彼はリーザの前に立つと、軽く頭を下げる。


「親分に確認を取ってきやした。少々煙いでしょうが、一切問題はないだろうとの事でしたので中へどうぞ」


「おう、遊んでる所邪魔して悪かったな」


「いえいえ、それではごゆっくり」


 短いやり取りを経て、部屋の奥へ進むと、リーザがサクサクと扉を開け、その向こう側へと消える。自分も置いて行かれるわけにはいかず、扉を開けてその姿を追いかけるが―――入った瞬間に鼻を抑える必要があった。


「うぉっ!?」


「むっ」


「きひひひ……ようこそようこそ。あぁー……ちぃとあっかしお子様にゃあキツイ臭いかもしんないのぅ。まぁ辛いなら遠慮するこたぁない、魔術でも何でもで吹きとばしゃぁええでよ」


 部屋に踏み入り、感じたのは徹底的な甘ったるさだった。部屋全体を煙が覆い、そしてそれが部屋に臭いを充満させていた。その臭いの主は部屋の中央、大きなソファに横になって転がる人物が原因であった。男物のチャイナドレスを着ているのは体に所々鱗を生やした人間の姿、竜と人の間の存在、竜人と言われる種族で、三十代頃に見える男性だった。その手には煙管が握られており、半分夢見心地かの様な表情を浮かべ、自分達を歓迎している。リーザは片手で空間をパタパタで手を祓うと、此方へと視線を向けてくる。


「これ、吹き飛ばせない? 気持ち悪いんだけど」


「ちょっと待って……風の精霊!」


 風の精霊を召喚し、一気に煙を近くの窓から外へと吹き飛ばさせる。そうやって一気に部屋の空気を換気させるが、元凶である煙管はまだ竜人の手の中にある。きひひ、と気味の悪い笑い声を零す竜人の男に対して、リーザは呆れたような表情を浮かべる。


「で、爺さん。今度は何をキメてやがるんだよ」


「んあ? ちとばかし聖国の方から流れよって来たん新しいクスリよ。使うやつはよいよ、よいよ言うがの、これはどうもあかんね。吸ったもんの心を堕とす悪夢なもんじゃ。ま、俺にこんな玩具は通じんしの、見聞ついでに楽しんでやらぁという事よ! これぞまさに一石二鳥なんつってな? きひ、きひひ、きひひひっ」


「キメすぎが原因であんまし脳をぶっ飛ばしすぎるなよ爺さん……っとそうだった。このヤクをキメて半分ぶっ飛んでいる様に見える爺さんだけど、これほとんど素面の状態だかんな。年中吸ってなくてもキメてる様な状態だから」


「おう、俺ぁグラウっちゅーもんだ。クソガキがなんか偉い迷惑かけてるもんだろうし、謝っておくな―――そいつの馬鹿っぷりはどうしようもならんから諦めろってなぁ!」


「謝るって言われて諦めろって言われるってどういう事だよこれ」


「あんまり気にすんな。この爺さんそういう生き物だから。このナリで数百年生きているらしいぐらいってか、なんだっけ、東の方から来たんだっけ爺さん?」


「おうよ。俺ぁは元々東の国で仙人やってたもんよ。だけどどこへ行こうが大義やぁなんやらで煩くてしょうがないねんの。軽く頭の顔面殴って出奔してやったわいの! きひひひ! いやぁ、昔は楽しかったでよ。ここらも今よりずっと酷い戦乱で毎日敵ばかりで返り血で体を洗ってたもんよ」


「それでいいのか仙人」


「ええでよ。破門されりゃあ技術だけかっぱらって自由だからよなぁ!」


「何かが違う」


 これを本当に好き勝手生きている、と表現するのかもしれない。少なくとも、この竜人の男、グラウという人物はかなり好き勝手生きているようだ。その姿に呆れを覚えていると、んで、とグラウが声を零す。


「何をしに来たんでよ。巷で有名な王国美少女様が来たって事はアレか、俺ぁついに成敗されちまうってか? おぉ! 王国美少女様ぁ! どうかご慈悲を!」


「マジ殴りするぞ。いや、ちげぇよ。ちとこの二人と知り合ったんだけど、強くなりたいって言うから爺さんの所に連れてきたんだよ。ほら、爺さん顔広いだろ。そういうの色々詳しいんじゃね? って思ってさ」


「お嬢も大概優しいもんだの―――どれ、見てやるか」


 そう言うとグラウは煙管の中の灰を捨て、煙管を置き、そして立ち上がる。その姿はかなり大きい、というも身長だけなら二メートル近い高さを誇っている様に見える。それだけではなく体は良く鍛えられている。おそらく今まで見てきたどの存在よりも強く、そして理解に及ばない領域にある。自分が今、召喚できるヴァルキリー・レギンレイヴ、おそらく彼女さえもこの男は正面から粉砕する事が出来る。それだけの隔絶した実力差を感じる存在だった。事実、一切【索敵】や【鑑定】のスキルがこの相手には通じない―――それだけ、絶望的な差があるというのが事実だった。


「きひひひ、そんなに恐れる事は必要ねぇのよ。ちぃと見るばかりよ」


 そう言って近づいて来たグラウは少し腰を曲げ、此方と視線を合わせる様に覗き込んでくる。


「はんはんはん……」


 そう呟き、何かを納得した様で次へ、ニグレドへと移るが、ニグレドは顔を顰める。


「臭い……」


「きひひひ、それはすまんなぁ! 後でガムでも噛んどくわ。それよりもどれ、嬢ちゃんの中身をよぉく見せて」


 そう言ってグラウは此方に対してやった様に、覗き込む様に視線を向けてくる。一体それで何をやっているかは解らないが、仙人と呼ばれる存在なのだ、おそらく自分の知らない領域に絶技を習得しているのであろう―――現状、完全にただのヤク中にしか見えないのが難点なのだが。ただ、結果としてグラウは何かを掴んだのか、あるいは納得したのか笑みを浮かべながらソファに戻り、寝転がる様に煙管を持ちなおす。


「お嬢の直観は怖いのぉ、ま、俺ぁ見識よりもよっぽど楽になる時があるかんの、俺もそれに全額振り込ませてもらうか―――おい」


 グラウの言葉に反応する様に扉が開かれる。そうやって扉の前に立つのは先程カードゲームで遊んでいた男の姿だ。グラウを前に軽く頭を下げる男は無言でグラウからの指示を待っている。グラウはその姿を見て、顎をさすりながらよしよし、と呟く。


「紙と筆ぇもっと来い。一筆しちゃるでの」


「うっす、了解しました」


 返答した男は直ぐに去って行き、それに合わせる様にリーザとグラウに頭を下げる。


「なんか世話になってるみたいで本当にありがとうございます」


 その言葉にグラウは笑う。


「きひひひ、気にする事は必要なぇのよ、結局俺様ぁ自分の利益か、国益の為にしか動かん男よ。お嬢には悪いが使えないならお嬢の顔だって潰すかんの。よいよ、お前らには才能があるだの、上を目指せるだのはいわんよ。とりあえず好きなだけやってみりゃあええでよ。確実にウチの益になるからでよ」


 それはほぼ確信しているかの様な言葉だった。自分とニグレドに力を貸せば、間違いなく周りに回って自分の益になると。そこまで自信満々に言われるとどうやって、が物凄く気になるが、それを言う気は相手にはないようには思える。ただ、入って来た男から筆と紙を貰ったグラウの姿は実に楽しそうなワルガキの様にも見える。


「長寿やら不老やらがあまり国の方針に口を出すんは根が腐る原因よ。やら俺ぁこんな場所でヤクキメて遊ぶ毎日を選んだがの、それでもつながりっちゅーもんは残っとるわ。それを使って適当な所にぶっこんじゃる。俺からの客って事にすりゃあ悪ぅ扱いにはならんじゃろ。ま、精々俺やお嬢の顔に泥を塗らぬように気をつけんじゃの」


「このヤク中爺さんの言葉は話半分にな? 私は困ってるから手伝っただけだし。まぁ、なんとかなったようで私個人としては嬉しい所だよ」


 リーザのその言葉にグラウが小さく、きひひと笑いつつ書状を書き終わる。


「あまりお嬢もウカウカしとる場合じゃなかろ。聖国からはクスリが、帝国から毒が来とるでよ。それにこのぉ二人もお嬢に匹敵するモノを備えてるでよ。今はまだ殻も破れていないひよっこだけんども、道を見つけりゃあ直ぐに追いつくだろうでよ」


「マジか。んじゃあ私も近いうちに時間見つけて鍛え直しておくか。能力は下がらないけど、レベルはサボってると本当に少しずつだけど下がって行くんだよなぁ……そう考えたらちとヤバイかも。っと、そうだった。爺さん一体どこ宛に書いたんだよ。ちと教えてみろよ」


 そう言うリーザの言葉を確かめる為にも、貰った書状、かなり古風なそれをひっくり返し、宛先を確認するが―――書いてある言語は自分が読めないものだった。基本的には日本語で統一されていると思ったが、違い言語もしっかりこの世界には存在しているらしい。それを読めない為に肩を下ろすが、リーザは理解したかのように呟く。


「あぁ、騎士団か」


「おうよ。現実も身の程を知るにもあそこが丁度ええじゃろ。なんせ天下の王国騎士団様じゃからのぉ! つえぇの、かっけぇの、世間様からしてみりゃあ冒険者以上に人気の国の花形だしの。普通は入ろうとしてもは入れん裏技を利用してるんわ、我に感謝しろよ! きひひひ!」


「感謝したいけど、この物凄く感謝し難い気持ちは何だろ……」


「殺意?」


 そう言ったニグレドへと視線を向ける。なんだかグラウとの相性は悪いらしく、若干威嚇している様にもさえ見える。ただグラウはそれを楽しんでいるのか、機嫌が良さそうに気味の悪い笑い方をしている。どうすんだこれ、と思うが、リーザが両腕を組んで立っているのを見て、そちらへと視線を向ける。


「ん? 爺さんは何時もこんな感じだぜ。遊んでいるのか本気か全く解りやしない。仙人名乗ってるくせに大好物は牛肉とか豪語しているからな、この爺さん! それでいいのかよ! って思うけど、それで肉体作り維持してるから地味にすげーんだわこれ」


「ええ体作るにはええメシを喰らう、ええ女を喰らう、そしてええ酒を喰らうに限るんでよ」


 物凄い理論を展開してた。そんな理論で体を維持できるとしたらそれこそ怪物である事に違いはない。しかし、現に目の前にいる存在は怪物染みている。だからきっと、その理論はどこかで正しいのかもしれない。成程、


 ―――お前がそう思うのなら、それが真実なのだろう。


 ―――故に、真実、グラウはこうなっている。


 つまりはそういう事なのだろう。意味不明な話ではあるが、実行されているとなると何も言えない。まぁ、とりあえず、鍛える為の場所は、その紹介は貰ったのだ。始まりは若干不幸だと思いもしなかったが、結果としては良い方向に流れている気もする。だとすれば幸いなのだろうが、


 この先、こういう展開が続いてくれるとは限らない。チャンスがあるうちに、掴みとれるものは掴み取らなくてはならない。


 その思いを胸に、リーザとグラウに感謝する。


 ひたすら前へと進むしかできる事がないなら、とことん前に進むのみだ。

 次話か、それぐらいで漸くあらすじを変える事が出来るかな……?


 グラウの口調に関しては意図的に滅茶苦茶にしてある感じなので。リーザさんはおっぱいだけで生きる価値がある。それだけのお話。そろそろ巨乳の数増やしませんか……?

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