十三話 王都探索
気づけば夜になっていた。ニグレドの姿がないし、フレンドリストにも反応はない。おそらくは一時的にログアウトしているのだろう。それを確認してからログアウトし、現実での用事を終えた後に再び帰ってくる。メールのチェックやリアルの食事などはどうしても、此方では悲しいことながら出来ない事だ。ログインしたまま食事をとる事ができれば、ずっとこっちで生活していられるのに、とはよく考える事だ。それだけリアルよりも此方にいるのが楽しくなってきているのだ。此方の魂だけを抜いて移住出来ないかなぁ、なんて事を思いつつログインし、元の宿の部屋に戻る。
それでもニグレドの姿はない。長引いているのだろうか、しかし相手は女だ。相応の準備とか手入れが存在するのだろう。もう既に夜になっているから、今夜は此方で夕食を食べたらそれで終わりにするか、なんて事を思いながら視線を風呂場へと向ける。そう、風呂。この宿には風呂場が存在しているのだ。リアルでは毎日の様にやっている事だが、此方の世界でまともな水浴びの経験はない。
川流れを断じて水浴びとして認める事はしたくない。
そんな訳で、風呂場に入り、軽く説明書を読む。中には水の捨て方や色々と乗っているが―――生憎とそんな細かい事を気にする必要はない。バスタブを水で満たし、そこからは【精霊魔術】で水の精霊と火の精霊を召喚し、温度を調整する。それが丁度良いのを確認した着ている服や装備を全部纏めてインベントリの中へと放り込む様に脱いで、そのままバスタブの中へと入り込む。
「あー……あぁぁぁ……」
現実と一切違いのない風呂の感覚に軽く感動しつつ、風呂場のランプに火を灯すのを忘れていた。一瞬、ランプを点けようかと迷うが、風呂場にある窓からアルディアの街並みを一望し、その考えを捨てる。風呂場の窓から見える、中層の下層を眺める光景は素晴らしく美しいものがあった。馬車から見ていた自然の風景とはまた違う、人の動きと音、そして灯される光。地上の星、と表現していいように地上は夜であっても明るく輝いていた。ここが大都市である事を考えると、おそらく朝になるまでこの光が消える事はないだろう。一晩中輝いているであろう光を眺め、風呂の暖かさに疲れを抜き去ってもらい、今まで体に溜まってきた汗や汚れを全部流す。
ここまで割と強行軍でやってきた気がする。こういう娯楽に関しては一切目もくれずに。こういう贅沢も悪くはない。そう思いつつ、十数分風呂を堪能した為、風呂から出る事にする。息を吐きながら風呂からあがり、そして立ち上がったところで足を止める。そう言えばタオルに関してはどうしようか。体を乾かす道具は部屋の中か、と思い出し、そのまま固まっていると、
勢いよく風呂場の扉が開け放たれた。
そこに出現したのは片手にアヒルのおもちゃとタオルを掴んだニグレドの姿だった。
無論、全裸で。
「―――」
「―――」
二人でそのまま、その姿のまま硬直し、固まる。自分の体を隠す物が全く存在しない為、一瞬頭が空っぽになるが、この場合はどうした方がいいのだろうか。ラッキースケベとして考えていいのだろうか、俺が。それともニグレドが。とりあえずニグレドの貧乳っぷりに人類賛歌を謳えばいいのだろう。いや、まて、そこまで貧乳というわけではなさそうだ。まだ小さいが―――いやん、そんな場合じゃない。
「んじゃ、出るんで」
「ん、交代」
そう言って風呂から出て、ニグレドの横を抜け、そしてベッドルームへと戻る。羞恥心を欠片も見せないあの精神力、本当に二十歳なのかどうか、疑いたくなってくるところだが、ノーリアクションなのは地味に傷ついた気がする。とりあえず、
「風の精霊に体を乾かさせて、さっさと寝よう」
夕食はまた今度という事にする。
◆
ラッキースケベ事件から一晩が経過して、朝になる。何時も通り朝は一旦ログアウトし、リアルでのアレコレを処理してから再びログインする。そうやってログインし終わるとニグレドも準備を終えていたのか、何時も通りの姿で部屋の中にいる。そう、本当に何時も通り。何の変化の様子もない。その事にちょっと恐怖を感じるが、此方の世界で朝食に入る前に、昨日は逃げる様に眠ってしまった為に、先に謝ろうと思う。
「ニグレドちゃん……なんか昨日はごめんな」
「……?」
そう言ってニグレドは首を傾げ、そして納得したかのように頷く。
「グッド……筋肉」
「成程、お前不思議系だったんだな……」
全く気にした様子がないどころか、いい筋肉だったと評価して来るこの子の不思議っぷりはその背景をある程度理解しても残る。本当につかみどころがないなぁ、と思いつつもはや固定パーティーとなってしまったニグレドと共に部屋にしっかり鍵をかけ、外に出る。そのまま一階へと降りると、食堂に繋がる通路がある。それを抜け、食堂へと行けば自分たちの様な冒険者の姿がいくつか見える。
そんな彼らから少し離れたテーブルを選んで座る。どうやら朝食に関しては日替わりの固定メニューらしく、座れば勝手に運んで来てくれるシステムらしい。その証拠にテーブルに座ってから数分後、紅茶の入ったカップとポットをスタッフがテーブルに運んできた。紅茶の良し悪しは理解できないが、それでもそれを飲んで味を楽しみつつ、ニグレドと話す。
「どうすっか」
「下層探検。でも……やっぱりガイドは……必要だと……思う。常に誰か……迷子に……なるって」
「まぁ、俺も新宿とか渋谷の入り組んだ所に行けば絶対に迷う自信があるしな、そんなもんだろ」
コクコクと頷くニグレドの姿を視界に収めつつ、自分の中での優先順位を改めて設定する。個人的には修練を第一にしたい。スキルがある程度30に到達したが、次はどこへ移動するか決めていないし、そこに行くにはどれぐらいの実力が必要なのか、というのも全くない。そう考えると環境がと整っている内に鍛えられるだけ鍛えたいとは思う。少なくとも、各スキルをレベル40程度までには上げておきたいとは思う。それはそれとして、自分の要望ばかりを通すのもなんというか、悪いだろう。
「ニグレドちゃんはこう、したい事とかないの?」
「もっと強くなって……もっと世界を見たい……それだけ。だから……もっともっと……レベリングしたい」
「同類であったか」
似た様なものだった。という事は、当面の目標はレベリングになってくる。ギルド辺りに行けば鍛えるのに最適な場所などを聞きだせるだろう。という事は、やっぱりギルドへ向かうのが良いのだろう。ただやはり、下層を探索するというのも捨てがたい。ここはやはりガイドを雇って、下層を案内してもらってからその終わりにギルドへ向かい、情報を聞き出す方向性でいいのかもしれない。そんな風に、ニグレドと今後に関して相談していると朝食がやってくる。朝食の内容はシンプルにベーコンとトーストにオムレツ、フルーツサラダに牛乳、最後にハッシュドポテトという風になっていた。食事に関してはそこまでリアルと乖離している部分はなく、おかげで簡単に食べられる事が出来た。
しかも美味しい。これは非常に重要な事である。
食べ終わったところで宿の外に出ると、昨日は見れなかった朝日に輝く街の様子が見える。そこで改めて体を思いっきり伸ばし、全身で朝の陽ざしを感じる。気持ちよさと温かさに欠伸が軽く漏れるが、眠気は直ぐに霧散する。ここしばらくの戦闘生活で、すっかり脳を瞬時に覚醒させる技能が身についてしまった。何だかんだで体の動きとかはリアルでもついてくるし、段々戦闘者としての習性が体に染みついている気がしなくもない。
「ガイドを探そう」
「ん、そうだな。まずはそっからだな」
どこへ行けばいいのやら、と思ったが、
「―――ガイドを探してるんか?」
そう言って近づいてくる男がいる。軽く日に焼けた様な肌色を持ち、頭から狼の耳を生やした男、人狼種の男だった。ハーフパンツにタンクトップというスタイルで、明らかにこの周辺で暮らしている、という感じの男だった。人狼の男はニカ、と牙を見せる様に笑みを浮かべる。
「俺だったら銀貨三枚で下層のツアーやオススメの店を見せて回るぜ。どうだ? 任せてみないか?」
「あー……」
この馴れ馴れしさと自分を売り込んでくる感じ、アジアを旅行した時を思い出す。アジアの空港から降りると、待ち構えているタクシードライバーがこんな風に自分を売り込んでくるのだ。中には勝手に荷物を運んでタクシーの中に乗せ、そして相談する前に自分で決定、とか言ってしまう部類も。この人狼の態度はその思い出を刺激して、小さな笑いを思い出させる。なおニグレドは全く動じておらず、何時もの無表情を貫いているだけだった。自分に判断を任せる、という事なのだろう。んじゃあ、と思う。
「銀貨一枚」
「はぁ、一枚? ないない、三枚だよ三枚! 俺にだって生活があるんだから、それよりも安くならねぇよ」
「いやいや、昨日聞いたら銀貨一枚って話を聞いたぞ? 銀貨三枚はさすがにボりすぎだろ」
「おいおい、こっちだって別に無駄に高くしようとしているわけじゃねぇぞ? 妻と子供がいるんだからな。家族の生活を考えて働いているんだから……銀貨二枚だ。ここが限度だ。これ以上はどうにもならん!」
「んじゃ成立で」
「うっし! んじゃしっかりと下層を案内するからついてきてくれ。そこらの連中じゃ全く知らない、知る事の出来ないアルディアの裏の裏まで見せてやるぜ。俺の名前はダグだ」
「フォウル。で、こっちのが」
「ニグレド」
「フォウル、んでニグレドな。覚えたぜ、しっかりとな」
豪快に笑う男はそういうとついて来い、と言って昨日利用したロープウェイまでやってくる。これに乗って下層へと向かうらしい。普通にこれに関しては自分で支払い、そしてロープウェイに乗りつつガイドのダグは自分とニグレドの二人へと向けて、話を始める。
「ま、まずは軽い所だけどこのロープウェイだ。こいつぁ元々アルディアにあった技術じゃねぇ、ケルストにあった技術だ。コッチの方の遺跡で発掘された技術なんだけどな、そういうのに関してはアッチの方が上でよぉ、結局技術と引き換えにロープウェイのノウハウを入手したって訳よ。おかげでこうやって俺らは階段やスロープに頼らず移動できる日々を与えられたのさ! ちなみに国営な!」
「ほえぇー……」
見た目に反して、ダグの説明は非常に真っ当なものだった。これならガイドとしては期待できそうだな、と思いつつ続く話に耳を傾ける。
「ちなみに帝国の方から流れてきて浸透している技術ってのは結構多いんだな、これが。”湯沸かし器”なんかは見た事があるんじゃねぇか? あとは貴族か商人ぐらいにならなきゃ見ないだろうが、冷蔵庫っていう魔術と機械を組み合わせる事によって半永久的に冷やし続ける装置も存在するらしいな。そんな訳で奴隷やら侵略でいけすかねぇ帝国様だが、便利なもんは便利なんだよなぁ。だから嫌っている連中は多くても、憎む事は難しいんだわ。実際日常的に世話になってる所があるからな」
「へぇ……」
その知識に少し凄さを感じつつ、ロープウェイから降りる。ロープウェイから降りたところで中央大通りに出る。そこでダグは足を止めながら、此方へと振り返る。
「この中央通りは基本的に冒険者や観光客を目的として作られている。だからこの通りを歩くだけで冒険者が必要とする大体のものは揃う。あっちへ行けば武器屋、こっちへ行けば防具屋、あっちが道具屋、んであっちの方が鍛冶や生産だ。見れば解るけど、こういうのは大体区分けされている。魔術師向けの店舗は一か所に、戦士、職人、とそれぞれを区分けする事で管理しやすくしている。後は副次的な効果で競争心を煽るんだっけ?」
ダグ本人はそこまで理解していない様子だが、言っている意味は伝わってくる。なのでそれで大丈夫だと伝えるとダグは満足したようにそうか、と言って大通りを歩き始める。そうやってダグが紹介するのはそれぞれのギルドの位置だ。まずは戦士ギルド、次の魔術ギルド、そして職人ギルド。そこから路地裏の入り口前で、路地裏の奥を指差す。
「―――んで最後に盗賊ギルドだ」
「盗賊ギルド?」
おう、とダグは今までよりも小さい声で答えてくる。
「盗賊ギルドってのは盗賊等の犯罪者の集まる場所だよ。つっても主に”必要悪”って感じらしいけどな。盗賊ギルドを国が黙認する事で、国内で発生する悪事をある程度制御、或いは直ぐに情報を取得できるようにしているらしいぜ……なんか気になるって顔だな。まぁ、それに関しては後で連れてってやるよ」
そう言うとダグはガイドを続ける。大通りへと再び戻り、そしてそこで出店している屋台を紹介すると、ここのフルーツジュースが美味しいと紹介する。少し位の贅沢もいいだろうという判断で自分とニグレドがそれぞれ一杯ずつ購入し、それを飲みながらダグの後ろを追って中央通りから見上げる王城についての話を聞く。
「んで王城―――ウチの王様の城な。なんか名前があるらしいけど、基本的に”王城”ってしか呼ばねぇから誰も覚えてないんだけどな、あそこにはウチの王様がいる。つってもまだ五十過ぎで現役ピンピンなんだけどな。愛人を含めれば嫁は四人ほど、結構控えめな代わりに子沢山でな、確か二十人近く子供がいるらしいぞ」
「うわぁ……まぁ、子供を作るのが義務って言われるぐらいだしね、王族は」
「んでウチの国の王族の話になるが、こいつら強い。マジ強い。アホみたいってレベルで強い。戦場へ突撃したら一人で戦場を突っ切ったってレベルで頭がおかしい。まぁ、王国自体が超脳筋みたいな国だからな、たぶん帝国が戦争吹っかけてきたら一番最初に戦場に出て、最前線ぶっ飛んで行くのが連中だぜ」
頭の中に筋肉モリモリの集団が兵士をボーリングの様に薙ぎ倒して行く光景を浮かべるが、魔術が存在する世界なんだから、そんな安易なイメージである訳がない。きっと剣で地を割り、天を裂く様な事を成し遂げるに違いない。そういうイメージを持てば、結構夢があるから。
「飲み終わったんか? ゴミはキチンとゴミ箱へな。んじゃ王族から騎士団の話に流れるが、ウチの騎士団もこれがクッソつえーのなんの。現状、最強の練度って言われているぐらいだからな、ウチの騎士団は。まぁ、最強の兵隊はもっぱら帝国だって噂だけどな。あっちはあっちで国外に情報をあんまり流そうとしないから、わけのわからない部分があるんだよな」
「なんか、頭悪そうな顔をして、結構物知りだよな」
「ここに住んでいりゃあ常識よ常識! 逆に言えばそれで金になるんだから上手い話だぜ!」
がははは、とダグが笑い声を上げるのを認識しつつ、軽く苦笑を零す。なんというか、色々と凄まじいと言うべきか、或いはやはり、凄いと感嘆すべきなのだろうか。やはりこの世界は”生きている”のだ。それぞれの思惑を胸に、それぞれの願いを胸に、そうやって発展したに違いない。
良い、実に良い。生きているという感覚が何よりも素晴らしい。この感覚は素晴らしいものだ。
「とりあえず、一番過ごしやすいのは個人的には王国だと思っているぜ。法律さえちゃんと守っていれば、守ってくれるからな。んで帝国は成り上がりたければいいんじゃねぇか? 王国にも聖国にもねぇ、奴隷制度や最高学府。上を目指すなら目指せるところかもしれねぇ。聖国? あんなキチガイ丸出しの国には行きたくねぇよ」
「聖国への熱い罵倒」
「実際あそこはひでぇよ。宗教の為、であれば何をやってもいいって連中がワンサカいるからな。正直この大陸で聖国に消えて貰いたいって思ってるのはそれなりにいる筈だぜ」
「争いの火種はなくならないかぁ……」
まぁ、所詮戦争のない世界なんて幻想である、という事なのだろう。現代でも戦争という行為がなくならないところを見ると、力こそが正義であるこの時代、この世界で、戦争がなくなるわけがないのだろう。その事に溜息を覚えつつも、それを吐きだしきった事で考えを入れ替え、そして考えを変える。
「それよりも次だ次。次へ進もう」
「お、そうだな。んじゃあ盗賊ギルドへと向かうとするか」
「よろしく」
ダグがこっちだ、と言って王都の下層、その路地裏へと入り込み始める。大通りの横から入るその道は、住宅街や店舗の間の狭い空間を繋ぎ合わせた様な道であり、それに沿って歩き進んでいくと、迷路の様に入り組んだ場所へと入り込む。おそらく、ガイドがいないと間違いなく迷えるな、と確信できるほどん入り組んでいる。そうやって道に入り、
十分が経過する。
「まだかー?」
「もうちょっとだよ、我慢しろよ」
「ういうい」
そういうやり取りを経て更に深く進むが、人の気配はなくなってゆくばかり。【索敵】スキルを使っても人の気配はない。ニグレドも似たような疑問を抱き、此方へと視線を返してくる。故に足を止める。何かを言おうとニグレドが口を開くが、口を開いた状態で、
そのまま横に倒れる。
「ニグレ―――」
「おせぇ」
瞬間的に防御する事を判断するが、その動きが何時もよりも鈍い事を悟り、攻撃を防御しきれず、腹にダグの拳が突き刺さる。全身の痺れるような感覚は拳からのダメージではなく、もっと違う所から来ている様な感じもする。あえて表現するなら風邪をひいて体の感覚がなくなる、ああいう感覚に近い。その感覚から、毒を盛られたと判断する。体が倒れそうなのを壁に背を叩きつける事で耐える。
「お前からは何も貰って―――」
「ばぁか、屋台とグルだよ。簡単に引っかかってくれて嬉しいぜぇ」
腹に再び拳が突き刺さる。その痛みと共に今度こそ、体が下へと下がって行く感覚がある。素早く召喚獣を使用したい所だが、指が痺れたような感覚に動かず、そして口もあまり動かない。詠唱をしたくても、それを盛られた薬が許さない。ちくしょう、と胸中で毒づきながらゆっくりと広がる痛みを感じる。少し前までは親しみやすいガイドだった男だったくせに、その表情は一気に凶暴なものに変わっている。
「どうしたんだよ、驚いた表情しやがって。ん? もしかして騙されたことを気にしてるのか? あぁ、そこまで気にする必要はねぇよ。殺しとかは恨みが酷いからやらねぇから。ちと有り金と装備を根こそぎ奪ってくだけだよ。良心的だろ?」
どこがだ、と叫びたかったが、自分にはそれに抵抗するだけの力がない。それが悔しい。もっと力が、力があればこんな思いをしなくても良かったのだろうに。いや、今回に関しては完全に観光気分で浮かれていたことに原因があったのだろう。つまりは自分の不始末が原因だ。何とも嫌になる理由ではないだろうか。
「まぁ、なんだ。悪く思うなよ、俺だってノルマとか上納金とかがあるからな、こう見えて色々と大変なんだ。ん、じゃあな」
そう言って、ダグが蹴りを繰り出す。手加減されていると解っている。それには殺す威力はない。だが十分に意識を刈り取るだけの威力はある。本当に命を奪うつもりはない―――それは何て屈辱的なのだろうか。痛みはある。自分が優れている認識もある。死ねばデスペナルティを受けて蘇るだけの存在。死ぬ事それ自体に意味はない。それはなんと―――なんとも無価値であろうか。そんな葛藤は他所に、無常に蹴りは顔面へと命中しそうになり、
中断される。
「っ」
中断させた原因となったのはダグの足に対して投げつけられた石だった。何の変哲もない石ころ。それが投擲され、ダグの足を正確にとらえたのだ。決してニグレドではない。ニグレドは直ぐ横で倒れているのだから。そして己には不可能だ。つまり、第三者が行ったという事であり、
「ヘイ!」
そんな、声が響いた。
声の先に視線を向ければ、そこには入り組んだ路地裏を構成する建造物の屋根の上に、ホットパンツとタンクトップ姿、赤髪の女が胸を支える様に両腕を組んで立っているのが見える。彼女以外に投石の主はいない。つまり、彼女こそが救世主だった。そしてそれを視界でとらえて思い出す。
ティニアで彼女を目撃した、と。
そんな事を考えている内に赤髪の女は屋根から飛び降り、一回転しながらポニーテールを揺らし、着地する。そうやって、腕を組んだまま着地した彼女は口を開く。
「かっこつけて屋根の上から登場してみたけど予想外に恥ずかしい……!」
―――こ、こいつ……!
天然というか、馬鹿系の女かもしれないと思ったが、そんな考えとは他所に、ダグは恐怖の表情を赤髪の女に対して向けていた。それを受け取った赤髪の女は、ふっ、と息を吐き、
「王国の法律に背いたこの阿呆め!」
「貴様はまさか……!」
あぁ、と頷きながら赤髪の女が叫ぶ。
「王国超美少女だぁ―――!」
なんだこのノリと展開。
王国超美少女は過去作の人物をモデルにデータ作成してたり。
合言葉は絶壁と赤髪。
VRMMOは書きやすくていいけど、最近何時ものノリから外れている気がするから、そろそろ何時もの流れに入る為にキャラとか登場し始めるわよ。あとイベント。果たしてどっからネタを引っ張ってきているとか、何がフラグで何が伏線とか全部解る人いるかなぁ。
ちなみに主要キャラというか、目立つ連中のデータは作成してあります。データあるなしだと動かしやすさ変わるね。




