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魔法の森学園乙女ゲーム狂騒譚  作者: 深月 涼
後期~ルーエの恋~
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これも運命?

 夏の暑さが嘘みたいに、涼しげな風が髪を攫う。

 枯れ葉がハラリと舞って地に落ちては、カサカサと音を立てる。

 透き通った青空がまぶしい、そんな休日の朝。

「あら」

「……お前」

 驚いたように見えたのは、きっとお互い様だろう。

 短く刈り込んだ黒髪と闇の色そのものの様な黒目の青年は、珍しくも目を大きく見開き僅かに呟いたものの、結局その後が続かないみたいで絶句していたもの。

「珍しいわね、ヴィクトール」

「それはこちらのセリフだ、リグレッド」

 読んでいた小説本をぱたりと閉じて率直な感想を述べれば、相手は若干呆れたような表情になってそう言った。

 しっかし……私服を見たのは初めてだけれど、あまり普段と変わらない印象なのもどうかと思うわ。

 おまけに黒の無地の上下って。材質が違うだけでまんま制服と同じじゃないの。

 まさかとは思うけれど、ユニク○信者?いやいや、お貴族様のおうちの子が、まさかそんな。まっさかー(乾)


 ……あまり頓着しないだけなのかもしれない。そう思っておいた方が良いような気がするわ、うん。

 そんな当人は何が不服か眉根を寄せているように見えるけど、そのくらいではもう怖くもなんとも思えなくなってしまっているわよ、残念だったわね。

「……足、出し過ぎじゃないのか」

 失礼ね!普通よ普通っ!どこ見てるのよ!!確かにスカート丈、膝上だけど!

 別にいいじゃない、動きやすいんだもの!

 そんな、生活指導の先生みたいにイチイチちくちくちくちくちくちくと!

 思わず両足ピッタリ揃えてしまった私、悪くないと思う。


 買い物の後に昼食を、という話ではあったのだけれど、変更を申し出されたのは数日前。

 だからどこで集合し、どういう流れになるのか、詳しく知っているのは当事者である私たちだけになる。

 つまり、この出会いは完ぺきに偶然って事……なんだけど。

「ジンが反応しないから、誰かと思ったわ」

 肩をすくめると、妙にけんか腰なのか何なのか、突っかかって来るような物言いをされた。

「普段からよく言う事をきくからと、なあなあにしたまま叱りもせずに甘やかしているせいではないのか?犬はきちんと躾する事が大事だとも言うしな。もしくは危機管理がなって無いか。一度魔法陣を見直す事をお勧めするが」

「失礼ね、ジンは犬じゃないわよ。それに特別甘やかしている覚えも無いし、何より私の組んだ魔法式(コード)は完ぺき……のはずよ?」

「おい、何で最後疑問形なんだ」

「誰にだって、抜けはあると思わない?」

「そこは胸を張るところではないだろう」

 召喚学科の連中は皆こうなのか。

 そう言って項垂れてるけど、別にヴィクトールが気にするとこでも無いんじゃない?

 というか、その様子では地味に召喚学科に繋がりがあるみたいね。

 ラビの友達あたりと面識があるのかしら。

 ……だったら、今の言い方にも納得できるけど。不本意ながら、すっごく。


「で、お前は何故こんなところにいるんだ?」

「人を待っているのよ、分からない?メタシティ駅中央口前は、待ち合わせするにも分かりやすいでしょう?」

 学園の最寄り町であるメタシティは、かつて訪問者の開拓によって出来た街だとも言われている。

 元々は港湾都市だったらしいけれども、現在は複路線が乗り入れる大きな魔法鉄道駅を擁し、そこを中心に繁華街や商店街が広がるにぎやかな街だ。

 中央口前広場には、かつて大戦の際に最終拠点となった場所である事を示す碑が立っていて、日々多くの人の待ち合わせ場所として利用されている。

 学園正門前で待ち合わせてもよかったのだけれど、塔バレを防ぐためにこちらで待ち合わせという事にしてもらったのだ。

 一応こっちの町出身だってことになっているしね。

 だから、そういう風に言ったのだけれど。


「単に聞いてみただけだ、そう突っかかるな」

 どうだか。

 まあ今のは単に興味がわいたとか話の流れみたいな部分も多そうだから、こっちも隠すつもりは無いけれど。

 ……なんとなく素直に言うの、しゃく(・・・)なのよねえ。

「そういうそっちはどうなのよ。王子さま達は?」

「その言い方は、本人方も嫌がると思うが……まあその、なんというか」

 あら、言い淀むなんて本当に珍しいわね。何かあったのかしら?

 ……んん?考えてみればそうでもない?かも?

 珍しいって思うの、多分これ、ゲームの性格設定を基準にしてるんじゃないかって気がしてきたし。

 思えばこの人、結構思っていたのと外れた反応する事多い……ような。

 そうよね、設定なんてその人の一部でしかないって事もあるわけで、そう考えると珍しいなんて思ったら失礼なのかもしれないわ。

 こういう考え方自体、何度目かしらって思わなくもないけれど、気をつけよう気をつけようとしても、どうしてもそれが真っ先に浮かんでしまうのだから始末に負えない。

 ……本当に気をつけないと。


「言い難い事なの?」

 護衛騎士の話や留学の話が宙に浮いているとはいえ、学園に在籍する以上はただ存在するだけというのも人材の無駄。

 ヴィクトールは殿下方の周囲の監視、殿下方はヴィクトールを監督する為、極力行動を共にするよう命じられているって聞いたけど?

「殿下方は今王城に詰めておられるからな、わざわざ俺が護衛する必要は無いんだ」

「詰めるって言い方もどうかと思うけど。戦時でもないんだし。……つまり休暇中って訳?それならそれで、貴方(アンタ)なら剣術の訓練とかしてそうなもんだけど」

「アンタって……。ハア、俺もそう思ったのだがな、殿下方が……」

「あらま、休暇も命令なのね、お疲れ様」

「まったくだ」

 もっとも、向こうは心配してそういう風にしたんでしょうけど。


「あ」

「おや、君は……」

「待ち合わせは貴方方だったのか。どうも、コックのレジルさんですね?たまたま知った顔を見かけたので、少し話をさせていただいたのだが」

「いえいえ、こちらこそどうも。却って邪魔してしまったみたいですみません。……魔法騎士学科(魔騎科)の子、ですね?いつもご利用いただきありがとう」

「それこそ、こちらこそです。それとルーエも。……昨日ぶりだな」

「そう、ね」

 話し込んでしまったせいか、待ち人の到着に気付くのが遅れてしまった。

 ジンなんか、ルーエに頭撫でられていて機嫌よさそうにしているし。

 私もジンも、緩み過ぎ?

 ヴィクトールの言う事、当たってるみたいで何だか嫌だわ。


「もしかして、これから魔鉄に乗るのか?」

 今気付いた、みたいにヴィクトールが言うから、私も素直に答える。

 広場にいるからって、魔鉄に乗るとはかぎらないものね。

「ええ、王都に行くんですって」

「ほう?」

「もっとも私はおまけで、付き添いみたいなもんだけど」

 そう言えば、レジルさんが「いやいや」と手を横に振った。

「貴女も立派な戦力として、期待してますよ」

「戦力?失礼ですが、何かあったのですか?」

 料理人に戦力という言葉が似合わない……というかあまりピンと来なかったのか、ヴィクトールが問いかける。

 うーん、元々心配症なのかしら?それとも気になった事には首突っ込まないと気が済まないタチとか?

 言いかえれば好奇心旺盛とか……うーん、何か違う。それだとラビみたいなヤツだし。

 むしろこの場合、不安要素を払しょくする為なら手段を選ばない、みたいな?

 戦力だなんて、聞く人によっては……それこそ戦士職に就く人なら余計、思わず反応してしまうキーワードなのかもしれないわね。


「ああ、すみません。そう身構えるような話では無いんですよ。彼女たちは、これから自分の“お使い”に同行してもらう予定だったので。そうだ!君にもお願いできませんかね。あ、もちろんこれからの予定が特に無いならで良いんですけれども……って、こんな場所に来るくらいだし、当然予定あるんですよね、引き止めてしまってすみません」

「いえ…………その、特に予定とかは無く……」

 この正直者。

 とはいえ……このいきなり発射された魔弾機銃のようなしゃべりに戸惑わない人がいたら、お目にかかってみたい気はするわね。

 実際に先日、直で喰らった身としては、なおさらよ。


「そうですか!それは実に都合が良い!となれば、まずは腹ごしらえといきましょう!」

「えっ!?」

 まだ行くとも言っていないんだけど、いいのかしら。

 戸惑う私たちに構わず、レジルさんだけが上機嫌のまま話を続ける。

「そういえば、君は知らないんでしたっけ。失礼、まず始めに目的を詳しくお話すべきでした。実は王都で今日、料理人たちによる創作料理の発表会があるんですよ。品評会も兼ねてはいるんですけれど、専門職だけでなく一般客も参加枠があるのです。難しく考えずに、美味しいと思うものに投票すれば良いといった感じでね。自分としては、ここで最新の料理研究の成果を直に見て聞いて触って()いで味わって、出来る事なら参考にしつつ学食に取り入れてみたいと思いまして」

「レジルさんにとっては……お勉強?」

「そういう事になりますかねえ。自習……いえ、これもある意味社会科見学みたいなものでしょうか。料理人は腕を磨くだけじゃなく、時にはこうやって他人の創作物を見ながら新しい知識や違う視点での見方、考え方なんかを取り入れていかないといけません。飽きられてしまったら、そこでおしまいですから」

 まさに立て板に水が如く。

 にこやかな表情で発せられる言葉の羅列は、留まる事無く溢れ出る湧水……いえむしろ、もはやこれは噴水の域よ。

 それでも不快な気分になる訳でもなく、むしろ逆にうっかり気持ちよく押し流されそうになるけれど、待って、聞くべき事はちゃんと聞いておかないと。


「そんな場所に、自分たちまで一緒に行ってしまっていいんですか?」

「それはもちろん!さっきも言ったように『違う視点での物の見方』これが今欲しいので。実際の利用者の意見ほど、生きた情報も無いですからね。加えて女子生徒だけでなく男子生徒の意見も聞けるとなれば、もう何も怖くありません!」

 その意見はどうかと思うけれど……何と無く言いたい事は分かるわ。

 ヴィクトールも「なるほど……」って頷いてたから、こっちも大丈夫そうね。

「そして、その後には買い物に付き合ってもらいます。当初の予定では、こちらが主でしたが……多少の誤差はよくある事です、ええ。発表会の後ですぐに試作できるよう……となると、かなりの大荷物になると思うので、皆さんそこらへん、よろしくお願いしますね?」

 申し訳なさそうに、でも少しお茶目っぽくレジルさんは笑って見せた。


「そうですか。意外ですね」

「……そう?」

「ええ。女の子は皆甘い物が好きだと思ってましたから。……そうですかー」

「……変?」

「いえいえいえいえ、とんでもない!辛い物が好きな女の子も、世の中にはたくさんいますよ。それになにより、甘いものだろうと辛いものだろうと、摂りすぎ注意に変わりありませんから」

「……ふふ、おもしろい。確かに、そう、かも」

「でしょう?(そうですね、これなら小鉢料理も作りやすそうです)そういえば、辛い物にも色々バリエーションがありますが、貴女はどういったものが……」

 駅のホームで次の列車を待つ、そう長くない時間の中。

 列に並ぶ私とジン、ヴィクトールの前では、同じ列に並んだレジルさんとルーエが好きなものについて語り合っていた。

 試食会がビュッフェ形式だと聞いて『もしかして……』と思ったけど、やっぱり気にしてくれてたのね、彼女の事。

 今回の外出で、出来る限り情報を集めるつもりなのかしら?

 時折小声で呟きながら、考えを纏めている様子がうかがえるもの。

 ……でもなんだか、そういうお仕事だけじゃない空気もある様な気がするのよね。

 ルーエも笑ってるし、このまま上手く行っちゃえばいいのに。

 ね、ジン、どう思う?


 なんとなく下を向けば、成狼モードのジンがくりくりした目でこちらを見ながら首をかしげた。

 うんそうね、期待はしてなかったけど。

 でも不安や違和感を感じなかったから、ジンも2人の事好意的に思ってるのかも。

 優しい口調だけど弾丸話術で畳みかけるように話すレジルさんと、途切れがちではあるけれど合い間合い間にきちんと相槌を打つルーエ。

 意外に相性が良いのかもしれないわね。

 そんな風に思いながら、なんとなく周囲を見回す。

「どうした?」

「ああ、ちょっと残念に思っただけよ」

 ほんのちょっとした仕草だったと思うのに、隣にいた男は目ざとく気付いたらしい。

「普段駅なんて使わないから、来たら会えるかなって思ったの。どうやら今日はいないみたいね」

 こっそり探していたのがバレて、ちょっぴり恥ずかしい。

 だってねえ、落ち着きなくきょろきょろしてるって、みっともないでしょ?

 さりげなく見まわしてるつもりだったけど、こうして実際バレてるわけだし。


「他に誰かと待ち合わせしていたのか?」

「あ、ううん、今回は今いるので全員よ、今はね。あー、えーっと、ほら、よくいうじゃない?駅で見かけると幸運がどうのっていう」

 探していたのは鉄道の主こと、ジョニー君とカンちゃんなんだけど。

 まさか知り合いだなんて言えなくて(言ったら『またそんな稀な事案(レアケース)』とか言われそうだし)誤魔化せば、何故だが驚かれてしまったわ。

「ああ、そういえばそんな話を女子から聞いた事がある様な……。しかしお前()ジンクスなんて信じてるんだな。意外だ」

 ほっときなさいよ!どうせ女子力ボーダーライン上よ!あるのかないのか分かんないって、よく言われてるわよ!

 確かにそう思わせたのは自分だけれども……。何か納得できないわ!

 こっちは単に会えたらいいなって、それだけだってば。


「そういえば、ずいぶんのんびりしているようだが試験の方はどうなんだ?」

 ぐっ。

 また唐突に答えにくい質問を……この男は。

「……聞かないで欲しかったわ」

「現実逃避か」

「気分転換と言って」

 お互い顔も合わせず前方を向いたまま、台詞の応酬。

 本当いつの間にか、これが普通になっちゃったわね……。

 決して近くないはずだけど、隣にいて違和感が無くなる様な、そんな距離感。

 そばに行っても良い様な、行ったら行ったでちょっと(トゲ)が刺さりそうで……怖いとか絶対に嫌だという拒否感までは無いけれど、でも躊躇してしまう何かがある様な。

 そこが何故か、面白くも思えたり。

 実際に言葉を交わせば、好意的に思うより先に、ほんの僅か多くうんざりする気分になる事もある。

 友人、とまでは無いと思うけれど。

 どっちかっていうと、友達の友達……よねえ。しかも決して仲は良くないって言う。


 考えては打ち消す作業を脳内で繰り返していたら「ふふっ」と楽しそうな笑い声が降ってきて頭を上げる。

 そこにはなにやら……強いて一番近い言葉を上げるとするならそう……ニヤニヤした表情のレジルさんが。

「……なかよし?」

「良いですねえ、青春って感じで」

 違うっ!!誤解っ!!

 むしろ心情としては、仲深めて欲しいの目の前にいる2人の方だから!

 私とヴィクトールはなんというかそう、喧嘩友達みたいなものだから!!

 実際殴り合ったし!!

「おい」

「ゴメンってば」

 油断してて悪かったわね!

 不本意だと言わんばかりに眉間のしわを深くしたヴィクトールから気まずい思いで視線を逸らせば、分かって無い顔でジンが「くーん」と首をかしげた。







胸を張る所じゃないところで胸を張るのは、むしろお義父さん譲りだったり。

周囲に他の男子(抑止力)がいなければ、こんな感じの2リグレッドとヴィクトールです。



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