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魔法の森学園乙女ゲーム狂騒譚  作者: 深月 涼
夏季長期休暇~メフィ先生の過去行~
35/47

真打ちの登場

「無茶だ!!」

 男子たちが止めようとするけど、クルエラが何か話し出す方が早かった。

「どうぞ、お通りになって」

 なっ!?

「なん、だと!?」

「クルエラちゃん!?」

 その場にいた、事態が飲み込めない者以外の全員が驚いたけど、クルエラはまるで意に介さずむしろ微笑みすら浮かべていたわ。

「わたくし、身体能力に優れているわけでも、殺傷能力に優れた大魔法を使えるわけでもありませんもの。出来ない事は無駄な事でしょう?それに、わたくし大公爵令嬢ですの。体を張って止めるなんて野蛮な事、できませんわ」

 それはそうでしょうけど!

 叫びたいけど、どこか異質な空気がそれを押しとどめようとする。

 見守るしか、無いの……?


 誰も動かぬ中、逃げ出した男と彼女の一騎打ちは、どうやら男に軍配が上がってしまいそうだった。

 とはいえ今までの流れで、彼女の言葉を正直に受け止める者はいないだろう。

「本当に、ここを離れても良いんだな?追わないと、約束するって言うんだな?」

 森の奥へと続く唯一の道を、じりじりと警戒しながらそれでも通り過ぎようとする男を、クルエラは――――――嘲笑った。

「ええ。――――――できるものならね」

 するり。

 とさっ。

「え」

「えっ?」

 私は見た。

 クルエラが、怯えながらも逃げ出すのをあきらめない男のわき腹を撫でたのを。

 そしてその瞬間、何かの魔法が発動したのも。


「はは」

 男が、笑う。

「あはははははははは、げらげらげらげらげら」

 その場にへたり込んだ男は、ただひたすらに笑い続ける。

「……う、うわあああああああ!!!」

「く、狂ったのか!?」

「何をした、貴様らっ!!」

「あら、誤解でしてよ。わたくし、“大した事”などしておりませんもの」

 影に捕らえられたままの主犯の男に向かって嫣然と微笑むクルエラは、視線を笑い続ける男に移し、またも微笑む。

「『いい夢』は、見れまして?」

 “彼”にとってはいい夢であっても、“彼ら”にとっては悪夢に他ならない。

 ついでにもう1つ言わせてもらえば、今のは接触が発動のきっかけだったけれど、次もそうとは限らないという事だ。

「「「「「「っ!!」」」」」」

 恐らく理解したのだろうその瞬間、その場に残っていた意識ある犯人たち全員がなりふり構わず立ち上がり、猛然と逃走を始めた。


「そうやすやすと逃がすわけ無いじゃない、ジンッ!」

「こらこら動かないの。君たちにはここで待機していてもらわないと」

「観念した訳では無かったのだな!ならばもう容赦などせん!」

「殿下は最初っから容赦無かったじゃないですか!」

「確かに」

 じゃなくって!

 ああもう、全方位ばらばらに逃げ出すから追いかける方もバラけざるをえないし!

 この状況でそれはあまり良い手ではないけれど……と、駆けだしながら思案し始めたタイミングで……さっきから大人しかった最後の1人が盛大にやらかしてくれた(・・・・・・・・)

 そう、やらかしてくれたともさ。


「呼び声に、応えて来たれ!こぉい、ブラックシザーアーム!レッドヘッドアーム!」

『『応ッッ!!』』

 てーれっててーれっててーれててれれー

 突如鳴り響く派手な音楽と共に、雨雲を割って上空から出現する2体のゴーレム達。

 1体は黒光りする鉱石の様な体を持ち、全身のあちこちに刃を配した構造をしている。

 ちなみに角は2本。

 もう1体は赤茶、というより錆の色を艶出ししたみたいな色のゴーレムで、相方に比べて腕や足が太く出来てる。

 こっちは角が1本。

『体は鋼で出来ている……刃の戦士、ブラックシザーアーム!』『体は力に満ちている!レッドヘッドアーム!』『『兄弟そろって、ここに爆誕!!』』

 どかーん。

 飛び散る煙幕を背に、2体のゴーレムはビシッと決めてくれた。

 召喚そうそうノリが良いって、感心すべきかしら?

「よっしゃあ!時代も違うし一発勝負だったけど、上手く行ったな!」

 ……うわー、これ、前にも見た流れだわ。


 見事に顔が引きつったのは、私だけじゃない。

 さっきからあ然としっぱなしの両親や放火犯たち、それに先生やクルエラ、シャリラン殿下にグーリンディ君もだ。

 他の子は……ああ、目が輝いちゃってるわ。っていうか、主に“私”。

 ……自覚無かったけど、意外に神経太いのかしら……私。

 ヴィクトールは一見動じて無いように見えるけど、不自然なほど微動だにして無いし……もしかして、冷静に見えるだけだったり、して?


「よしお前ら!来てすぐに悪いが、続けて合体テスト、いくぞ!」

『『了解!トランス・フォーム・アップ!ゴライアス!!』』

 でーでれれっで、でーでれれー、でれーれれれーれーれー、てってれーれー!

 クルエラの時とは別の意味で身動き取れなかったら、何だかどんどん勝手に話が進んで行っているけど……いいのかしら?

 見守っていたら、互いの腕をガシッと組み合った……兄弟(設定)らしい2体のゴーレムは、いつかのゴンザオー召喚の時みたいに頭をひっこめたり装備の一部をはがしたり、体を折ったりはたまたくっついたりと複雑な工程を経た末、1体の巨大ゴーレムに変化……合体した。

『超左右合体(ドッキング)、ゴライアスッッ!!』

 シュピイイイイイン!!

 今度の背景は、閃光の束が放射状に広がるやつだった。

 ……ちょっと待って。……ねえ、この一連の流れ、もしかして召喚するたびにやるつもりなの?


「よし、上手く行ったなゴライアス!その調子であいつらを確保だ!」

『了解!スパイダー・ウェブネット、投射!』

 ゴライアスが手のひらを大きく広げると、そこから投網の様な物が一気に放出される。

 それは結構な飛距離を稼ぎながら空中で広がって行き、逃げ出した犯人たちを―――まさに一網打尽にしたのだった。

「何だこれは!くそっ!!」

「ベタベタしてはがれないぞ……っ」

「いやだ、いやだっ!助けてくれっ!!」

 蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した連中が、蜘蛛の巣に絡め捕られるなんて何て皮肉。

「おとうさん……」

「あいつらは悪い事をしたから、ああやって捕まってしまったんだ。お前も悪い事しちゃダメだぞ」

「そっかー……。ん、わかった!」

 ちょっと待ってそこの父娘。さっきまで命の危機だったこの状況を、逆に教育に利用しないでくれる?

 あーほら、ママも呆れてるみたいじゃない?

「……予定とは大幅に食い違ってしまっているが……まあ、なんとかなった……か?」

 聞かれてもねえ。

 魔法で出火したとはいえ犯人が無力化された今、さすがに炎の勢いも衰えてきているし……後は“これ”をしかるべき場所に突き出せば終わりじゃないの?

 そう、思ったのだけど。


 ボッ


「え?」

 足元から、覚えのある音と温度。

「何だこれは!?」

「さっきと、違う……?」

 鎮火に向かっていた家の炎は、今再びその勢いを吹き返そうとしていた。

「……水よ!!……ダメだ、手応えが無い!」

「シャリラン殿下!?」

「殿下の魔法でも消えないだと!?」

「先ほどのとは全く違う魔法が使われているようだ。……っく、一体何故!?」

 両手を燃え盛る家に向かって突き出し、何度も何度も水の魔法を行使する殿下だったけれど、炎の勢いはますます酷くなる一方で……そう、まるで見当違いの方法で消火しようとしているようにも思えた。

「虹色の、炎」

 そうだ、これは……『昔』見た覚えがある。

 いつかの過去、両親を亡くした日。私は――――――

「おとう、さん?」

 口の中だけで小さく呟いて、仰ぎ見る。

 いつの間にか隣に立っていた“先生”は、普段見ないような厳しい顔つきをしていた。


「リグレッド、控えろ」

「え?」

 いつになく真面目な表情のお父さんは、言うだけ言ってその場にしゃがみこむ。

 ―――まるで、誰か『偉い人』にかしずく様に。

 王様の前でだって、ここまで敬意をあらわにする事は珍しいのに。

 驚いた私をちらりと見て、それからお父さんは前方へと視線を向けた。

 依然、厳しい表情のまま。

 そして、言った。

(ディオスクロイ)の御前である」

 ――――――と。


 がらり

 家が燃える。

 柱が焼け落ちる。

 虹色の炎が、壁を舐める。

 そして――――――

 その中から現れたのは、意識を失ったのか眠っているのか―――とにかく“起きてはいない”1人の少女を横抱きに抱えた、白い髪に白くて長いウサギ耳を頭の上から生やした赤い瞳の少年……で。

「……っあ」

 震えるのは、何故?

 彼の身体から漏れ出す魔力の強さに当てられたから?

 『燃え盛る家から少女を助け出した人物』という、過去を彷彿とさせる出来事に遭遇したから?

 あるいは――――――その透き通った血の色をした瞳に、全てを見透かされた気がしたから……?

 そのどれでもであって、どれでもない気がした。


「……ああ!そっか、そういう事なんだね!そっかー。長い間ご苦労様!」

 突如叫び出した少年に、驚いて目を見張る。

 どういう事?知り合い、なの?

 そうも見えるし、全く知らない人が事情だけ知っているようにも見えた。

 お父さんは平伏したまま、どこか言い難そうに言葉を紡ぐ。

「いえ……“そういう”役目、ですから」

「まあ、それはそうなんだけどさー」


 ケタケタと笑った少年はその腕から少女を下ろし、お父さんへ預ける。

 衝撃でか、するりと少女の片腕が落ち、手のひらから何かこぼれた。

 小さな箱みたいだったけど。

 でも、女の子を恭しく受け取るお父さんはその子に対して―――落とした物に対してすらも、殊更反応する事は無くて。

 その事に、逆に顔をしかめてしまう。

 落とした物くらい拾えばいいのにっていうのもあるけど、何より彼女、すっごくボロボロだったんだもの。

 着ている服もエプロンもスカーフも、みんなどこか破れていたりほつれていたり。

 そんな子が、何も無かった訳無いのに。

 けれど実際にお父さんもその男の子も、それ以上彼女を気遣う様子は無かった。


「ふうん。……へえ」

 少女から視線を移した赤の双眸が、私を―――私たちを射抜く。

 興味深そうに顔を近づけられ、じろじろと見られた。

 少し後ずさると、不意にくすくす笑われる。

「なぁるほどねぇ~、これはこれは。そうかあ、『君』が“そう”なんだね!『僕』ったら面白い事思いついちゃうんだもんなあ~、さぁっすが僕!」

 何?何なの?

 異様な雰囲気に呑まれたまま、言葉も出せずにいると。


 かくん


 背後で物音がして見てみると、そこではちょうどクルエラが膝をついていたところだった。

 セイラかルーエ、それに男子だって周りにいたのだから、誰かが抱き止めるだろうと思って異変に気付く。

 慌てて駆け寄って抱き起こすと、彼女はすでに意識を失っていた。

 そして、周囲も。

 パパやママ、“私”でさえ“それ”は例外ではなく。

「お父さん!?」

 自重などしなかった。その理由だって無いのだし。

 そう、周りにいた人全員―――それこそ犯人に至るまで、その全員が『時間を止められていた』のだから。

 凍りついたように動かない彼ら。

 動ける自分と、父とクルエラ。

 彼女にしたって、意識を失っている―――恐らく『神』と名乗る少年の手によって。


「くすくすくす。『いいよ』『わかった!』」

 その言葉に―――記憶が引きずられる。

 ああ――――――どうして忘れていたんだろう!どうして忘れられていたんだろう!!

 私を助けたのは、お父さんじゃない!


 この『()』だ!!


 炎の中で見つめ合う。

 あの時、両親が動かなくなって呆然としていた私に、最初に話しかけたのはお父さんじゃ無くて、この子。

 今みたいに、女の子を抱きかかえた白い長耳ウサギの少年で。

 そうして―――

「ふうん。――――――君は――――――実に“面白い存在”だね」

 ――――――と。

 そうだ、確かにそう言ったんだ。

 そうして―――

「『君』を『使え』ば、きっととっても『愉快な事』になるだろうね。うん、じゃあこれも入れよう(・・・・・・・)!」

 そう言って『彼』は私の頭に手を――――――


 覚えているのは……思い出したのは、そこまでだ。

 それから、やっぱりぼうっとしていた私に声をかけてくれたのがお父さんで。

 それでやっと、私は自分の周りにいるべき人がいない事に気づき、顔をくしゃりとゆがめ――――――。


 だから、彼が何に納得して何を思いついたのかまでは分からない。

 今目の前にいる『彼』が『あの日の彼』と同一存在だというのなら、『私の出会った彼』に私が何をされたのかきっと気付いて―――それでも話しはしないだろう。

 その方が―――面白いから。

 どうしてか、それが分かってしまったから。


 そこまで考え―――思って、ある1つの考えに行きつきゾッとする。

 ―――心を操作する事、時間を操る事。

 他にもいくつかある、魔法の中でも特異、あるいは禁忌とされる魔法。

 元々は『神様』だけに許された魔法だって、昔、塔にいた誰かに教えられた覚えがあった。


 例えば―――お父さんは時間を操れるけど、いつでもどこでも好きな時間に“跳べる”訳じゃない。

 万全を期するなら、その命をも糧にして購う覚悟が必要。……そう、まさしく今回のように。

 クルエラは心に干渉する魔法を使えるけど、でも、逆を言ってしまえばそれだけだわ。

 ……なら、私の頭の中を見て繰り返す時間を見越し、これから何が起こるのか……未来の『自分()』が何をしようとしたのか知ったのも、出会ったという事実すらいじくって“無かった事に”したのも、今目の前で覗き込んでいる彼の考えが何となく分かってしまうのも――――――ああ、彼は本当に『神さま』なの……?

 混乱する私を、『彼』は面白そうに眺めてはにっこりと笑う。

「くすくすっ、そうだよ!君の大事なお父さんのいう事、信じられなかった?ふふっ、そうさ、全部僕だよ!何で『君の記憶を消した』のかって?そりゃ当然、そっちの方が『おもしろそう』だったからさ!」

 えへん、と胸を張る少年は、そうしているとごく普通の人間にしか見えなくて、逆にその事が恐ろしい。

 何を考えているのか、何を目的にしているのか、それが分からないから。


 そうして――――――最終的に『目の前の少年(ディオス神)』は決めたらしい。

 それが何かは、やっぱり最後まで言わなかったけれど。

「うん、やっぱり面白そうだから、これはこのままにしておくよ!あ、だったら~、これ、言っておかないとかなっ」

 今までの秀麗な眉目が嘘のように、それは歪な笑みだった。

 人に向けていい表情じゃない。

 何か悪い事が起こって、それが楽しくてしょうがない様な……。

 そうだ、人の不幸を喜ぶ顔。きっと、そんな。

「君のね、周りでね、これからきっといろんな事が起こるんだろうね~。君が友人だと思う、そうであると認めている人たち。彼らの考える事、思う事。それら全ては本心から来るものであると、忘れてはいけない(・・・・・・・・)よ。多少、誇張はあるだろうね。だってその方が絶対に面白い(・・・)もの!だからこそ、だよっ。無い物を捏造するなんて、そんなつまらない事したら台無しだもんね!僕ってば、やっぱわかってるぅ~」

 彼は何度もウンウンと頷いているけれど、こっちは何の話をしているのか、本当にさっぱりと分からない。

 ……分からないのだけれど、だけど、それでも。






う~ん、ゴライアス!



なお今回はサンプル音源またはサンプル特殊効果での仮召喚となりますので、本編での正式登場版とは演出が異なります。

また主題歌等もありません。

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