襲撃、迎撃、オーバーキル
リグレッド「わたし、やるわよ!」
ついでに王家の秘宝(笑)登場。(旧作おまけ参照)
『ふん、このような“半端物”まで拵えて……お前は一体どこまで我らの名に泥を塗れば気がすむというのだ!』
『お兄様!もうわたしは、以前のわたくしでは無いの!いかにお兄様といえど……その言い方だけは、絶対に許せないわ!』
『許せなければどうだと言うのだ。しばらく見ぬ間に禁忌に手を染める事に怯え震えるだけの小娘が、口だけは達者になったようだな。くく、何も出来ない“物”同士、傷の舐め合いはさぞや盛り上がったろう』
『黙れ!ナタリーもレディも“物”じゃねえ!!こうるさいだけのその口閉じて、いい加減その手を離しやがれ!』
『聞けん相談だ。そもそも、お前たちは自分がどんな状況にいるのか分かっているのか?』
『……っ!っぐぅ』
『エル!?っあ……』
『ぱ、ぱぱっ!?ままっ!!』
「……っ!!」
落ち着くような余裕なんて無かった。
森の中を駆ける私の鼻は、前方から漂ってくる“木の燃える臭い”を掴み取っていたし、状況を見逃す事が無いよう何も聞きもらす事が無いようにと精度を上げた聴覚は“家”の前に誰がいてどんな会話をしているのか、あまさず伝えてくれる。
だから今、両親が“私”を連れて“炎に包まれ燃えているであろう家”から脱出を図り、その前方をふさがれる形で包囲されているらしい事も分かっていた。
ついでに“私”が放火の実行犯に捕らえられ、両親に対する人質となっている事も。
想像しようと考えるまでも無く写真の様な詳細な絵面が湧くのは、きっとそれが“記憶にあった”出来事だから。
忘れていたはずの記憶は実際にはただ奥深くに眠っていただけのようで、こうしている間にも次々とよみがえってくる。
“私”を捕まえた―――両親から無理矢理引き剥がしたのは、多分細面の―――神経質そうなメガネの男。……記憶通りなら、だけど。
そしてその男は、守ってくれるはずの両親が傷つき地に倒れ伏すのを見て泣きじゃくる私に、べらべらと得意げにしゃべってたはず。
男の家は特殊な―――今でいう『塔』のような実験施設を運営する、その中でも主家にあたる家系であり、彼曰く有能な人材を多数輩出していた事。
けれども男の妹であったママは、その中でも落ちこぼれだった事。
研究の為の実験をしていたところ、パパとママが逃げ出して私が生まれた事。
けがらわしいとか、存在するのも忌々しいとか、そんな身勝手な理由で全部灰にするのだと言っていた―――あの男。
―――許せない。
ぎりりと歯を噛みしめる。
『ぱぱっ!ままっ!やだよう!起きて!!』
『安心すると良い。……お前もすぐ、あちらに行くのだからな』
そう言って、ぽいとゴミでも投げ捨てるかのように炎上する家の真っただ中に放り込まれ――――
「……させない」
絶対に、「グオオオオオオオ―――!!!」
「がああおおお!!!」
今なら分かる。
あいつは、両親を殺した犯人は、多分この時代で禁忌だったはずの魔法使いだ。
その証拠に、こんな雨の中でもごうごうと音を立てて家が燃えているもの。
ああでも、記憶も当てにならないわね。
どうしても主観によるものだから、仕方ないといえばそうだけど。
まさか魔法を研究する組織が犯人だなんて、当時はそんな事考えもしなかった。
本当に……パパもママも運が悪い。
逃げ出しても、こうして見つかってしまうのなら結局寿命が少し伸びただけ。
運命は最初から変わってなんかなかったって事だものね。
……でもいいわ。今は私がいる。
私が全部消し飛ばしてしまえばいいだけの事。
そうすれば“全てが上手く行く”わ――――――
飛びかかった先にいた“男”をかばった“別の男”を押し倒し、目標じゃないからと別の男にとびつく。
そうよ、全部、全部、全部、全部―――誰彼なんて構うもんですか、ここにいる全員、全部が共犯よ―――!!!
「がああああああ!!!」
目の前にいた『黒い男』が何故か悲しそうな瞳で必死に「止めろ!」って言ってたけど、聞く耳なんて持つものですか!
だってこいつら全員、私のパパとママを―――
「まだ死んでない!!間に合ったんだ!だから、お前が殺すな!!」
――――――しんで、ない?
我に返ってみれば、目の前にはやや呆然としている両親と……何故かアルフレア王子に抱えられている“驚いた表情の私”がいて……。
「ある意味無事か」
お父さん?
やっぱり何故か、酷く疲れた様な表情をしているけれど。むしろお父さんの方が大丈夫?
「先生がいなかったら、これはもっとひどい事になっていたのか」
え、それ、どういう意味ですか?シャリラン殿下。
……そういえば、真っ先に飛び出したはずの私に追い付いているって……もしかしてお父さん、魔法使った?
「ジンの巨大化ってこんなんなるのかー!すっげーな!……ゴンも少し設計見直してみるか?」
「今見るべきなのって、そういうとこじゃないはずですよね!?……といいますか、あれがリグレッドさんの“魔獣形態”……」
「ヴヴヴ?」
どこか驚いた顔でこちらを見ている男子たちを、私も首をかしげつつ見返す。
……あ、そっか。
私、怒りと勢いで“人狼形態”通り越して“魔狼化”しちゃったんだわ。
しかも、つられてジンまで超巨大化状態になっちゃってる。
……まあ、これはこれで好都合だから良いとして。
「ヴヴヴヴヴ、ヴヴヴヴヴ~」
純白の毛で覆われた狼体を下げる。
今の自分は、人の背丈ほどもある体高を誇る白毛赤眼魔狼になっているはずだ。
姿勢を低くしながら相手をねめつけ、いつでも飛びかかれる状態までもっていく。
するとどうしてかヴィクトールが、両手を広げた仁王立ちで目の前を阻んできた。
「だからっ!今のお前が本気を出すと、やりすぎなんだと言っている!例えあの連中がこの一家を殺害しようとしていても―――それでも、お前が人を殺して良い理由にはならん!」
「ヴァオ!!ヴヴアアオ!ヴガアアアオオ!!ヴヴヴヴヴヴガアアアアア!!」
「くそっ!完全に頭に血が上っていやがる!」
「先生っ!?」
失礼ね!人の話聞いているだけ、さっきよりはマシよ!
そっちの怒りも加算して、いっそこのまま飛び込んで行って当たり散らしてやろうかと思ったその時、小さな私を不安げなママとこちらを警戒し続けにらんだままのパパに預けたアルフレア王子が、静かに口を開いた。
「だが、彼女の意思は“正しい”。聞けば彼らは『魔法』という偉大なる世界法則の復活を標榜しながらも、手段を選ばず悪辣で非人道的な行為を繰り返していたとか。その時点で彼らの指標は有口無行の大言壮語、自らの残虐なる嗜好を満たす為だけの巧言に過ぎるが、さらには身勝手にも全てを無かった事にしようなどと安易な考えでもって、家に火を付け幼子を人質にとるなど畜生にも劣る下劣極まりない行為……すなわち“悪”に他ならないっ!」
すうっと頭が冷えるのを感じた。
あ、これ覚えあるわ。
乙女ゲームの中で、アルフレア王子はある種独特な能力を持っていた。
能力というか……アイテムというか……立場というか。
いうなればそれは『絶対正義の英雄』とでもいうべきもので……。
つまりは。
「貴様らは人の信じる心を悪用し、自らに都合のいい状況を作り上げた。また、彼ら家族を処刑するという非道で邪悪な行為により平和な生活を踏みにじり、特に!子供の心を傷つけた罪は重い!ゆえに!かれらはここで罰されなければならないのだ!……そう、場合によっては“命”で購う事さえも許される……はずだ!」
「待て待て待て待て!!」
「アルフレア殿下!?」
「あー……これは……」
遠い記憶が、彼が『正義厨』だと訴えかけてくる。
しょうがないなあとでも言いたげな、そんな感情付きで。
相手の命の危機に慌てる先生と驚いているグーリンディ君を置き去りにしたまま、アルフレア王子は駆け出して行く。
シャリラン殿下は……半分諦めてません?それとヴィクトールは変な納得の仕方してないで止めて!いや暴走しかかった自分が言う事ではないけども!
「卑劣な敵に、情けや容赦など無用!往くぞ皆!変身!!」
ちょっ!?さりげなく巻き込まれてる!?
カッ―――
叫んだと同時に奇妙な形のベルトが現れ留められると、赤い閃光がそのベルトから迸ってアルフレア王子の全身を覆う。
夕日よりも眩しい赤光の扉から出てきた王子の姿は炎を模した意匠の鎧で全身覆われていて、それは頭部ですらも例外ではなく……。
「(どう見ても仮面騎士です)」
幼いころに読み聞かされた、絵本に出てくる英雄そのものの恰好をしていたのだった。
「騎士、流星拳!」
どがががががががっ!!
「なあっ!?」
「騎士、七星剣!」
しゅぴーん!ばさーっ!
「うわーっ!?」
「騎士、大爆発!!」
ちゅどーん!!
「ひいいいっ!?」
すでに私によってあちこち傷つけられていた“なんとかいう”組織の人たちは、変身後のアルフレア王子の良い的だ。
拳による連撃で宙に浮かされ、剣の必殺技で意識を失うほどに痛めつけられ、巻き込まれまいと真っ先に逃げようとした男も爆発に呑まれた。
命を奪う事もいとわない様な発言していたけれど、まさか、本気では無い……あ、いえ、そうね……本気?
ゲームでのイベント内容を思い出し、むしろこっちを本気で止めるべきかしらと思った時だった。
「まったくやれやれ、見てられないね……『水でもかぶって反省したまえ』」
呆れたようすのシャリラン殿下が、片腕をひと振り。
するとアルフレア王子……だけでなく敵対組織……さらには私たちにまで冷水が降り注いだ。
「ひゃ!?」
って、思わず変身が解けちゃったじゃないですか!
あ、ジンッ!
……ほ、動揺のあまり強制送還扱いになってしまったかと思ったわ。
巨大化が解除されただけならむしろ、今後の状況によっては有利に持って行けるかもしれないわね。
「うわ!?殿下酷ぇ!これから大物召喚しようってのに!」
「とばっちりは勘弁ですって!」
私たちというからには、当然だけど男子たちの方まで引っかかっていたという事で……。
グーリンディ君の意見には私も同意したくなるわ。まあ、おかげで頭は完全に冷えたけど。
というか、大物?……ラビ?
「くそ!これでは!」
背後が気になったけれど、それより先に相手の言葉に意識が向いた。
あ、連中の足元だけ完全に凍りついてる。
……魔法統制の腕の確かさは相変わらずのようね。
「何なんだ、何なんだこいつらは!!くそっ、こんな魔法、俺たちは知らんぞ!!」
「……っ」
「まさか……突如として王城にあらわれ魔法を再現したとかいう、あの奇妙で胡散臭い連中の仲間か……!?」
「こんな、ところまで……っ!!」
「冗談じゃない、こんなところで終わってたまるか!王家に取り入って魔法を復活させ、その力でもって世界に威光を示すのは私たちであらねばならん!」
うわ、いっそすがすがしいまでの自己顕示欲だわ。
しかもその為に手段を選ばない宣言とか、本当に最悪。
……っと。
家の炎は今の魔法で多少勢いが衰えたとはいえ、まだ燃えているのにかわり無く。
おかげで、殿下の氷が解かされ始めてしまってる。
変身は解除され(てしまっ)たけど、だからってみすみす逃がしたりなんてしないわ!
そんな考えをしているのなら、余計にね!
……そう思って、再び全身に力を込めたのだけど。
私自身が動く必要は無かったみたいね。
「な、なんだこの植物は!?一体どこから!?」
「っく、いつの間にこんな大量の花弁が舞い始めた!?近くに花の咲く場所など無いはず……目くらましか……っ痛!?」
常に無く真剣な表情のグーリンディ君は、相手に絡みつく刺だらけの植物の蔓をぎゅっと強く握りしめた。
「こういうの、苦手なんですけど、ねっ」
「うわあっ!?」
「ぐうっ!!」
蔓を鞭のように操って足を取り、刃物のように鋭い花弁を大量に撒き散らす事で相手を行動不能にしたのね。
普段は周りの皆に隠れてしまいがちなグーリンディ君だけど、やっぱりこういう時、彼も攻略対象なんだって実感するわ。
「こ、このままやらせっぱなしでいると思うなアアア!!」
「ひっ!?」
あ、(いつものグーリンディ君に)戻った。
じゃ、なくって!
主犯の男は、ここまでされても諦めず手を前に伸ばす。
動けないなら魔法で攻撃って事!?目標は!やっぱり“私”たち一家!?
驚きの表情を浮かべた家族の元へ駆けつけ、いざとなったら体ごと盾にするつもりで動き出そうとした、まさにその時。
「させない!!」
―――炎とは別の、まばゆい光が地上に降りた。
「みんな、無事!?」
「「「セイラ!」」嬢!」
「間に、合った……?」
「どうやら、そのようですわね」
女子組がここで合流か。
どっかの誰かには言いたい事が色々とあるけれど、今は心強い事に変わりない。
まさかここまで来た目的、忘れて無いわよね!?忘れてたなんて言わせないわよ!?
状況を把握したらしい彼女たちは、各々魔法を展開し始める。
「お願い……皆を、守って!」
両手を組んだ後、魔力を纏った右手を高々と掲げるセイラ。
魔法が発動し、強固な結界を作り出す。
それは彼女だけでなく、“私”や両親を守る光の堅壁となった。
「ぐうっ!?」
そうかと思えば、ルーエの操る影が“おいた”をした主犯格の男をがっちり拘束する。
「こっちは……心配……しなくて良い……。それにしても……この程度?」
余裕ありそうで安心するって言ったら、おかしいかしら。
「くそっ、どうするんだよ、この状況……ッ!」
「もう何もかもおしまいだ、ここからどうにかしろというのか……!!」
「無理だ……無理に決まってる……!!」
「一体どういうことなんだ!?こんな危険な連中がいるなどとは聞いて無いぞ!」
「お、俺は抜ける!冗談じゃない、やってられるか!!」
「あっ!?」
統率していた主犯が完全にこちらの手に落ちた事によって、相手側に逃げ出す連中が現れた。
「『鉄花吹雪』!すみません!」
グーリンディ君があわてて花弁の吹雪を展開するけど、わずかな差で間に合わない。
相手もなりふり構わなくなって来てて、少々の傷では動揺しなくなっていたから。
「まかせろ!!」
彼の言葉を受けて足に強化魔法をかけたヴィクトールが追いかけるけど、追いつく前に相手の行く手に立ちふさがった人物がいた。
それは。
「……」
「「「「「「クルエラ!?」」」嬢!?」」」
リグレッド「黙れ小僧!」
……でも可。




