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魔法の森学園乙女ゲーム狂騒譚  作者: 深月 涼
夏季長期休暇~メフィ先生の過去行~
29/47

疑問解消?



長文乙。

 棟内は広々とした一部屋の食堂兼居間といった雰囲気で、大人数が座れるだけのイスとテーブルがある他に、クッションで埋まったベンチやふかふかのカーペットが敷かれていた。

 先生が苦労して調達して来た物資と、グーリンディ君ルーエが頑張ってくれた錬金魔法の賜物ね。

 こうなると、せっかくだし本が欲しいところ。

 この時代の書物なんて、何が書かれているか気になるじゃない?


「全員席に着いたな?じゃあ始めよう」

「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」

 それからしばらく、食器の擦れるカチャカチャとした音だけが周囲に響いていた。

 一応遭難に近い状況ではあるけれど、さすがは良家の子女子息たちね、マナーがきれいだわ。

 私語もほとんど無かったし。

 そんな中でもセイラやラビなんかは少しそわそわと落ち着かない様子で、食後のお茶が振る舞われてようやくおしゃべり解禁!ってなったとたんに目を輝かせていたから、少し笑いそうになってしまったわ。

「謝罪が遅くなってしまったが、私的な理由での時間跳躍に皆をまきこんでしまい、申し訳なかった」

 まず最初に、口火を切ったのはメフィ先生。

 それに対してセイラやクルエラ、アルフレア殿下達が揃って「そんな事は無い!」って即座に否定していたけれども。

 でも、先生は。

「親御さんからお預かりしている大切な子どもたちを、どんな理由があれ危険に晒したのには違いないからな。跳躍事故が無かったのは不幸中の幸いであるが、しかしまたここも安全とは言い難い」

 苦笑気味にそう言う。

「あの、先生が時間の魔法に長けているのは聞いていますが、何故危険な禁呪を使ってでもこの時代に来たんですか?あ、それともこの時代ではない場所に用があったとかで、実はここにいるのは事故のせいだったとか……?」

 まるで授業の時のように、挙手をしてから質問をするグーリンディ君。

 どんな時間、どんな場所にいてもお互いの立場自体は変わらないから、どうしてもそうなってしまうわよね。

 私なんかはむしろ少し距離感がつかめなくって、かえって話しかけにくいのだけど。


 だんだん悪い方へ想像が行ってしまったのか、言いながら顔色の青くなるグーリンディ君を落ち着かせるように、先生は落ち着いた様子で答える。

「禁呪の使用を決めたのは、確実性が欲しかったからだ。――――――私は狙ってこの時代のこの場所に来たのだよ」

「理由は、あのご家族ですのね?」

 確認するような口調でクルエラが問うと、先生は「察しが良いな」と頷いた。

「あの家族には近日中に大事が起こるだろう。それも、命にかかわるような一大事だ」

 命にかかわる、の段階で皆の表情が強張った。

「大事を見届け『とある役』をこなさなければならない私は、できればなるべくあの家族を救いたいと思っていた。ただ、彼らがこのまま不幸な目に遭って欲しくない―――そう思っているのも確かだが、だからといって現状ここに一緒について来てしまった君たちの命には代えられないとも理解している。今後何があっても守リ通し、必ず元の世界に全員を戻すと約束しよう。だから、その為にも諸君らには軽率で無謀な行為はしないでもらいたい」

 それは、最悪の最悪の場合、この時代でまだ生きているパパやママ、それに私を見殺しにしてでも“今の私たち”を守り抜いてみせるという宣言。

 先生の話す言葉の中からあふれ、にじみ出る苦悩と強い意志に触れた私たちは―――


「とうてい聞けませんわ、そんなお話」

 即断できっぱりと否定したのは、クルエラ。

「だってわたくしは、“その為に”ここまで来たのですもの」

 その珍しくもまっすぐな瞳に、他の者たちも追従する。

「そうですよっ!先生ばっかり抱えていちゃ、ダメです!」

「あの家族に理不尽な不幸や災禍が訪れるというのなら、我々の手で止めるべきなのでしょう。我々がここにいる事こそ、彼らを救えという世界からの託宣に違いない!」

「先生だけじゃ、ないです」

「そうですよ!ボ、ボクたちも、できるかぎり精一杯がんばりますからっ!」

 そんな中、シャリランさまあたりは小声で「余計な手間を増やして事態を複雑化したのは自分たちの方だろうに……」なんてぼやいていたけど。

 でもそれでも、呆れながらも手を貸すのだろう。

 彼は、そういう人“だった”のだから。


「そうだな、これだけの人手があれば、何が起ころうと対処できるかもしれん。元々彼らを救うのが困難だったのは、その大事に間に合わなかった部分が大きかったのだしな」

 むしろこれからを考えると、過剰戦力の様な気がしてきたぞ。

 小声でぼそっとつぶやいたお父さんの目線は、ちょっとだけ遠かった気がする。

「先も言った通り、事態は近日中に動く。しばらく不自由をかけるが、これも安全を少しでも確保する為と割り切って欲しい。重ねて言うが出来る限り集団で行動し、私の指示には必ず従ってくれ。本日は疲れもあるだろうからこれで解散とし、詳細な行動指示については明日の朝食後に場を設けよう」

 今みたいな小会議って訳ね。

「他に何か、今の内に聞いておきたい事は無いか」

 先生が周囲を見回した時、では、と手を挙げた人物がいた。

 シャリランさまだった。


「ずっと聞きそびれていて、一度きちんと確認しておこうと思っていた事があるのだが」

 何となく訪れた沈黙が、シャリランさまが口火を切った事でどことなく重苦しい空気になったのは……気のせい、かしら?

「リグレッド、君は―――この件について何処まで知っている?」

「この、件」

「メフィ先生がこうして禁呪を使い、過去へとやって来た事についてだよ」

 それを、今ここで聞きますか。

「それだけではないよ。君に聞きたい事は数多くある。こちらに来る前にも言ったが君の才能はすばらしく、我が国サザンバークロイツとしては、のどから手が出るほどに欲しいものだ。だが余りに不審……いや、不自然な点も数多くてね。私はその不明な点を解明し、正々堂々君を我が国へと招きたいと思っているのだよ」

 ちょっと前に勢いでプロポーズして来たような人だけど、冷静になったのかしら?

「わたくしも気になりますわね、その件。もしお話が確かならば、貴女こうなる前に止められたのではなくて?」

 うわ。面倒な人が口挟んで来た。

「クルエラ、君も人の事は言えないだろう?むしろ最近の君は、まるで不自然の塊みたいな存在なのだが?今回の事件に限って言ったとしても、我々がここに来た契機は明らかに君が原因なのだし」

 そうよねえ。明らかに今後について言いきっていたもの。

「そ、そんなことは……」

「だがまあ、それはいいんだ、それは。向こうでも調べを進めているしね」

 ちょっと引いたような様子で言い淀んだクルエラから、すっと視線を外して言った後半部分。ちょっとぞわっとキたんだけど。

「で、君だ。ただの魔力があって珍しい属性の人物、かと思いきや、私の情報網に何も上がってこないというね。まさに鉄壁。取り付く島も無い」

 そう、言われてもねえ。


「ええと、先生の様子については、確証があった訳ではないんです。ただ本当に、様子が変だなって言ってただけで」

 ね、とラビに振ってみると、彼は不思議そうな表情で「そうだぜ」って言ってくれた。

 何の話をしているのかよく分からないというよりは、殿下が何故今この話をしているのか、そっちの方が分からないんだと思うけど。

 ラビの表情に気付いているのかいないのか、殿下はさらに食い下がる。

「しかしその後クルエラ嬢が来たあたりで君、何かに気付いただろう?明らかに様子が変わったからね」

 よく見てるわ、ホント嫌になるくらい。

「……とはいってもですね、殿下に話せるような事なんて、本当に無いんですよ」

 黙秘って、ダメかしら?

 どうしても言えないと、粘ってみようとしたけれど。

「じゃあ、どこについてなら話せるか、1つ1つ上げて行ってみようか」

 にっこりされたわ。

 逃がす気はない、って事よね?これ。

 どうする?お父さん(センセ)


「君は召喚学科所属だろう?それなのに、他学科のしかも臨時講師について妙に詳しいのがまずそもそも。一緒にいたラビだって、他人事だったじゃないか」

 まずそもそもっていうのなら、まずそもそもどこから見てたんですか、シャリランさま。

 それってこっちに来る直前、ラビと中庭でお茶してた時の事よね?

「それからこれも。君が入寮せずに何処からか通ってきているという点。君の家って、実ははっきりしていないんだよね。家族構成も謎だし」

 ええと……ものすごく堂々と個人情報に抵触しているんですけど、この人……。

 さすがにちょっと引くというか、そこまでいくと執念が怖いです。

「そして今回の件だ。偶然とはいえこうも頻繁に何かあると、どうしても気になってしまってね」

「何か理由があるのだとしたら、わたくしその理由について詳しく聞かせていただきたいわ。ええ、是非にね」

 クルエラは「女子同士、殿方には言いにくい事情もあるでしょうし」なんて言っているけど、要は私が『転生者』かどうか、しかも原作知っている人間かどうか確かめたいって事でしょう?

 自分の事は棚上げしているみたいだけれど、いいのかしら。

 ああもう。こっちは諸々全部ひっくるめて回避しようとしている方なのだから、2人がかりで追求されても困ってしまうじゃない。

 まったくこれ、どう説明したらいいのかしら。

 考え込みかけた時、救いの手は割にあっさりのばされた。

「ふむ、リグレッド君はどうやら言い難い様だから、やはり私の方から説明しよう。いいね?」

 有無を言わさない念押しに、私は「よろしくお願いします」としか言えなかった。


「こうなっては、今言っておかないと彼女の今後の学生生活に影響が出かねないからな。余計な口出しかもしれないが、しばらくの間我慢してもらいたい。まず彼女の素性について不明な点が多いという件だが、彼女だけでなく学園は全学生について仔細を把握している。とはいえ先だってのシャリラン君のご実家がらみの騒動などもあったので、現在情報を精査し直している最中だ。だがまあ、それでも彼女については問題ない事ははっきりしているのだよ。なぜなら彼女の家庭環境が……個人的な事なので詳細は省くが塔在籍の保護者と同居しているというものであり、その都合上入寮していないというだけなのだ。またそういった理由から塔の機能を一部とはいえ把握しているし、私とも面識があったのだよ。なので、そういった点からも保証できるだろう。現在は学生と教師という事で少し距離を置いているが、それでも見る者が見れば親しげに見え部分もあったのだろう。学園での保護責任者としての立場もあったが、以後少しは自重しなければいけないかな?入学に際し、多少の嘘を吐いてでも素性を隠すようにしたのは、我々周囲の大人たちの判断によるもので彼女自身に他意は無かったから、そこは留意してもらいたい。学生たちが塔について、あれこれ面白おかしく噂しているのを教員だけでなく塔の職員、研究者も十分に承知していたのでね。余計な騒動に巻き込まれて勉学に支障をきたしてはならないとの判断だったが、それこそ余計だったようだな」

「ほえ……そうなんだ……」

 セイラ?確かに今のは情報過多だったかもしれないけれどね?

 大丈夫かしら?

「なるほど、今のでも思ったが、確かに身内らしい気安さがあるようだ。先生がリグレッドの事を親身に庇ったのには、そんな理由があったのだな」

 余計な事をしたと、騙したり誤魔化したりした理由を勝手に自分の責任にしちゃった先生に、ヴィクトールがどこか納得がいった風に相槌を返す。

「親身に庇った、って?」

「その、リグレッドが彼女らをそそのかし、悪い事をさせたと思いこんだ事があってな」

 ヴィクトールがセイラやルーエ、クルエラを指し示す。

 ああ、あの。まだ春だった頃の話ね。


「あの時は普段の先生と違って、こっちが驚くほどものすごい剣幕で怒られた。言葉づかいも大分変わってしまっていたしな」

「あのな、ヴィクトール君」

「へえ!先生っていっつも穏やかなうさんくせー紳士っぽいって思ってたけど、今みたいに指導する時は結構キリッとしてるし、仲の良いヤツの為にまっすぐ怒ったりもするんだな!俺ちょっと見直したかも!」

「こふっ」

 先生の制止は間に合わなかった。ラビめ。

 ヴィクトールの薄氷を踏むような繊細な話題提供ですら内心ハラハラドキドキものだったのに、ラビの先生に対するエセ紳士評価で耐えきれずにお茶吹いちゃったじゃないの。

 でも……仮面を被ってるって点においては、間違って無いのが何とも。

 よく“野性”とか“本能”とか言われちゃってるアンタのその直感、今少しだけ尊敬するわ。

「ものすごい剣幕、ね」

「いつも怒る時は静かに怒るからな、想像がつかん」

 私はむしろ逆ですけどね、お2人方。

 状況が状況だけに誰にも言えないのがつらいわあ。

 どうかすると『うわあ』って引きたい気分になるし。

「…………」

 ちらりと、だんまりを決め込んだ彼女を見やる。

 どうでもいいけどヴィクトール、話題はきちんと選んでから話さないとダメよ?

 それ君の傷口も開くかもしれないけれど、むしろお姫様にとっても地雷だから。

 君にとっても自傷行為かもしれないけれどね、思いっきり相手の心臓あたりを踏みしめてるから。ナイフで抉った後、体重かけて踏みにじってぐりぐりってやっちゃってるも同然だから。気付いてないみたいだけど。

 あーあ、ものっすごい苦い顔でティーカップに口付けてるわよ、彼女。


「ああそうそう、ついでに言わせてもらえば、セントラール政府も彼女の能力については把握済みだぞ。というか、学園内でも優秀な学生については全員、と言った方が正しいか?まあまだ学園在籍中という事もあって今は自由にさせているが、何か事がありしだい王家が率先して保護に回るだろう」

「え」

 えっ。

 塔云々について言っていいのかと驚いたのもそうだけど、多分今のって後半部分のが重要なのよね?

 何かあれば政府や王家が干渉も辞さない構えでいるから、下手に手を出すなよっていう。

 えっ!?いつの間に!?

 本人聞いていないんですけど!?

「えっと、あの、せんせい」

 多少うろたえたのも、仕方ないと思うのよ。

 動揺した私に向かってお父さんは綺麗に片目をつぶり、その無駄に美形()真価(本領)を発揮した。

「春の終わり頃に、お会いしただろう?」

 あ。

 そうだ、確か会議について行った時、陛下ともお会いしたんだった。

 え、あの時!?





話が進まなかったのは、先生が1人で字数稼いだせいだ(提訴)

メフィ先生「被害!」




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