表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の森学園乙女ゲーム狂騒譚  作者: 深月 涼
夏季長期休暇~メフィ先生の過去行~
27/47

拠点作成




「良い機会だから、軽く説明しておくとしよう。先ほどの会話で察した者もいたかも知れんが、ここは我々がいた時間より200年ほど過去の世界だ。それがどういう意味を持つか、賢明な諸君ならば言わずとも理解できると思う。―――そう、この時代はまさに大戦前夜ともいうべき動乱直前の時期に当たる。その為、今はまだこの山深い場所にいるからいいとして、もし(まん)(いち)人里に下りる際、あるいは見知らぬ人間に出会った場合などの状況下において、魔法の行使を厳禁とさせてもらう。1人で行動はせず、必ず複数人での行動を心がけてくれ。特に女子たちは身を守るすべに乏しい。男子たちは率先して守ってやるように。また先も述べたとおり、ここは現代ではない。君たちの身の安全の為、私の判断や指示には必ず従うように」

 大戦以前のこの世界では、魔法という概念こそ認識されてはいたけれど、その使用は禁じられていた。

 古代、この世界は無秩序な魔法の行使が世界を破滅に導きかけるまでとなり、そのせいで当時の王命により魔法が禁止された、という経緯があった。

 それが『今』つまりこの時代から見て未来でいうところの『中世暗黒時代』。

 この時代はかなり長く続き、大戦を境として魔法文化が花開く近代へと時代は移り変わって行くのだけど、少なくともこの時代までは―――『現代』からすれば嘘みたいな話、使用すればそれすなわち犯罪とみなされた世界だったのだ。

 だから、メフィお父さんも『先生』としての顔を崩す事は出来ないんだろう。

 いつになく厳しい表情で、私たちを見つめるお父さん。

 そのお父さんに―――いいえ、先生に向かって、否を唱える生徒は1人も出なかった。

 ……私以外は。

「……“今から立てる()予定の建物群()”に関しては?」

「まあ仕方ない。衣食住が保証されねば、今後の活動にも支障をきたすからな」

「……」

 なんて大ざっぱ(アバウト)な。

 人目が無いからいい、って判断なのかしら。

 実際その通りではあるんだけど。


「さて、こうしていても仕方が無いな。各自行動に移ってくれ。まず、ラビ君とリグレッド君、君たちは即時召喚でゴーレムを10体ほど喚び出してくれ。属性は任せるが土木ができる大きさの物と、身の回りの世話ができる人型をそれぞれ用意して欲しい。契約召喚は無理であっても、一時的な召喚ならば可能なはずだ。召喚と土台の作成が終わり次第、シャリラン君とヴィクトール君、それとラビ君にリグレッド君たちは、木材の切り出しをお願いしよう。特にヴィクトール君には搬出もお願いしたい。道具さえあればジンにも搬出の手伝いができるだろうから、負担はさほど大きくないはずだ。グーリンディ君は使える木材の選定と、ヴィクトール君やジンの補佐を。それと、彼ばかり負担が大きくなるので申し訳ないが、戻り次第錬金魔法を使い、宿泊棟で使う為の布を用意して欲しい。アルフレア君と他の女子たちは、召喚した人型ゴーレムと共に炊き出しを始めてくれ。土木用ゴーレムには材木の調達ができ次第、宿泊棟の建設にも携わってもらう。それからルーエ君には、グーリンディ君が戻ってきた後、錬金魔法の手伝いをして欲しい。冥属性は錬金魔法と相性がいいからな。それとこれは全員に言える事だが、魔法を使う際には違和感がある事と思う。慣れない場所で慣れない作業をする事も加味し、くれぐれも慎重に頼むぞ」

「「「「「はい、先生」」」」」

「えー、量産型簡易ゴーレムぅ?つまんないだろ、そんなの召喚したってさー」

 良い子のお返事が響く中、ぶーたれたのはラビ1人。

 しかもそれが、召喚する相手が個性の無い量産ゴーレムだからって。

 まあ、本気ではないんでしょうけど。

「文句を言う者は夕食抜きという事にしよう。キリキリ働きたまえ。夕刻までに完成しなければ、今夜は野宿という事になるのだからな。それはそれで面白いかも知れんが……ここが山だけに、危険な野生動物などもいるだろう。安全面での保証はできないぞ?」

「っし、がんばりまーっす!」

 ……まったくもう。


 まず不得手だというヴィクトールの珍しい土魔法で地面をならし、ラビと私で召喚したゴーレム達と共に土台を作って行く。

 それが終わると今度は山に分け入り、木を切りだす作業を開始する事にした。

 シャリラン殿下とグーリンディ君がそれぞれの魔法を駆使しながら木を加工し、身体強化をかけたヴィクトールとラビの召喚したゴーレムがそれを運び出す。

 手伝い要員というわけではないけれど、同様に加工して作った犬ぞりを引いて大量の材木を曳いて行くのはジンだ。

 今回は本当にグーリンディ君が大活躍で、ソリの下にかませる移動用の細い丸太も、彼の魔法によるものだった。

 私もただ待っている訳にはいかないので、指示通りにゴーレムを呼び出したり、ジンに指示を出したり、人形やナイフを召喚していらない枝を落とす手伝いをするのだけれど、集中しているはずなのにどこかぼんやりした思考の中、今回の事について思いをはせていた。


 ヒロインの両親を救うはずのシナリオがどこで狂ったかは分からないけれど、もしそれが『私』が存在するが故の狂い(イレギュラー)だったとして、それでも私は救わなきゃいけないのだと思う。

 ……亡くしたはずの、父と母を。

 シナリオだろうとゲームだろうと、過去だろうと現在だろうと、ただ1つ確実に言えるのは私は今ここで生きているという事で、それだけは間違いのない事実。

 だからこそ、このまま何もせずに現代へと帰る事だけはできない。

 ……だって恐らく両親は、誰かに殺されたのだから。


 今だ完全には思い出せていない記憶の中、それでも忘れられない記憶がある。

 周囲を完全に覆い尽くす炎と熱。

 燃える家と、それから少し時間がとんだと理解できる、誰かに助けられてその場から連れ出された記憶。

 誰かって言うのはこの場合、間違いなくメフィ父さんなんだろう。というか、他に人がいない。


 ――――――ざ、ざ……くすくす―――


 ……少なくとも、いなかったはずだ。

 そして助け出された時点で私は、両親が世界の何処にもいないと理解していた気がする。

 まるで前世の記憶を思い返すのと同じくらい、そこに感情は無くて。

 そうだ……ただ、連れ出されるときに差しのべられた手のひらが、とても温かくてホッとした事だけは思い出せた……ところでぽん、と肩を叩かれる。

 こんな風に、優しく温かかったなと思いながら振り返ると、そこには少し眉根を寄せたヴィクトールがいた。

「先ほどから顔色が良くないな。動きもよくないようだが、もしかしてまだ具合が悪いのか?」

「ううん、少しぼーっとしちゃっただけだから平気よ。悪かったわね、残りの仕事はちゃんとするわ」

 誤魔化して立ち上がる。

「『癒しの波動』は必要かい?」

 シャリラン殿下が確認をとってきたけど、その声に感情は無い。

「なんなら、後は任せといていいんだぜ!」

 一方で、ラビがいつもみたいに元気良く胸を叩いた。

 これで心配しているみたいだ。

 ラビには大丈夫と笑って、シャリラン殿下に向き直る。

「すみません、ご心配をおかけして。どうも時空移動のせいで、悪酔いしたみたいです」

 いい訳を口にすると、ヴィクトールと、様子を見ていたらしいグーリンディ君が声をかけてきた。

「無理はするな」

「あのっ、僕、疲労回復のお薬なら、調合できると思います。病気だと……ちょっと自信無いですけど」

 彼らなりに心配しているらしい様子に、くすりと笑みがこぼれる。

 こっちは本当に、本心からの笑顔だった。

「ヴィクトールもグーリンディ君もありがとう。でも、もうちょっとだから。頑張って終わらせちゃいましょう、向こうの様子も気になりますしね」


 切り倒した木を纏めて材木に加工し、指定場所まで運ぶ。

 建設予定地へと戻れば、そこはすでに炊き出しが始まっていた。

「湯の準備はできているのか」

「料理に使う分だけですが。ただ、俺たちは現在、食べられるようなものを持っていないので」

「ならちょうどいい、これを使ってくれ」

「ありがとうございます……先生」

「わあっ!お肉に山菜、それに果物まで!任せてください、だてに貧乏孤児院で家事手伝ってなかったんですから!腕、振るっちゃいますよー!」

 物資を調達に街まで行くと言っていた先生が戻ってきたみたいで、居残り組の女子たちに何か渡していた。


 思ったより時間がかからなかったのは、もしかしたら魔法を使って時間短縮(ショートカット)でもしたんじゃないかしら。

 お父さんの属性は『時間』で、色は『銀』。

 今回のように大きな時間跳躍は別としても、周囲の時間に干渉して時を速めたり遅らせたりする事くらいならできるもの。

 疲れた様子もなく布や筆記用具、どこで手に入れたのか鉱石なんかを渡していたけど……布はともかく他のは一体何に使うつもりなのかしら?

「……先生は、躊躇なさらないのですね」

 戻った報告の為近寄って行くと、クルエラ嬢がためらうようにそう言ったのが聞こえた。

 手元には……ああ、丸々肥った“元”野鳥。

 下処理は既に済んでいるみたいで、香草だの穀類だの詰めればすぐにでも丸焼きに出来そうだけど、これ食料代わりってことかしらね?

 助かるのは助かる……けど、大貴族のお嬢様にはちょっと直視するのが難しいんじゃない?これ。

「これでも一時期国軍に属していた事もあってね。それに、緊急時における(サバイ)生存の為の行動(バル)訓練は魔法学園でも必修講義であったと思うが?」

「それは……そうなのですが」

 肩をすくめた先生に、彼女は返す言葉を持たなかった様子。

 理解はできるけど納得はいかない、そんな感じだったわ。

 まあ元が女性向けゲームだけに、丸ごとの鳥を部位ごとに分けるとかそんな描写の必要性も無かったでしょうし、公爵の一人娘がいくら訓練経験があるとはいえ、実際にサバイバルを体験する事態もそうないのでしょうけど。

「あの、戻りました」

 微妙な空気になったところで、後ろから声をかける。

 振り返る前から気付いてたんだろう、振り返った表情に動揺は無かった。

「ああ。ではさっそく棟上げを始めてくれ」

「了解しました」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ