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魔法の森学園乙女ゲーム狂騒譚  作者: 深月 涼
学園入学から前期まで~ゲームの始まり~
22/47

湖底からの脱出

17:30


魔動機士『権蔵王(ゴン・ザ・オー)

OPテーマ:Rord to G・T・O!


キャスト

ゴンザレス


ラビ


ヴィクトール


シャリラン


グーリンディ


リグレッド


トト


ドン・カジョスマドリレーニャ(多分)


他、共演者の皆さま


「無事成功したみたいだな」

 見つめあって和んで……いやいや、各種チェックを入れていたら、横にいたヴィクトールが興味深そうにのぞき込んできた。

「では、この頭上にある湖底を破壊してそこから外へ、という事でいいのかな?」

「そうですな。新人君には少々荷が重いでしょうが」

「大きいトトなら問題ないわ。いつでも行けるから準備して」

「了解だっ!」

「……どんな惨事になるか、考えただけでも胃が痛くなりそうだ」

「どうとでもなるさ。それよりも私は楽しみの方が大きいけどね」

「シャリラン様ぁ……」

 どう考えても大事にしかなりそうにないのに、シャリラン様の目は期待に輝いてる。

 あの、ご自身の方の準備はいいんですか?行きますよ?

「トト、『最大化』!!」

 

 見る見るうちに大きくなったトトが「シャアッ」と鋭い蛇のような一声を上げ、天井が崩れて一気に水がなだれ落ちる。

 それが殊更ゆっくりに見えるのは、私たちの物の見方のせいだけじゃなくて、トトやシャリラン様がその重量を支えているから。

 私たちの周りだけを避けるように水が滝のように流れ落ちていき、その周囲からさわさわと蔦植物が覆い茂っていく。

「こんな感じでいいですか!?」

「上等!」

「これならば、俺のトーチカも必要ないだろう」

「周辺住民への被害は?」

「問題ありませんぞ、すでに避難指示と誘導に関しては手分けして行われているはずですからな」

 なら、遠慮する必要もないのかな。

「たぶん今の騒ぎで犯人たちも現場へ確認に来ているはずだ。ラビ、ゴンざれす、脱出を頼む!」

「任せろ!ゴン、究極合体だ!」

『わかったよ、ラビくん!来ォい!王の箱車(キングトレーラー)!!』

 あ、何か空気変わった。

 

 でれれでーっでれれでー、でれれれーでーでー、でれれでーでれれでーっ、でれれでー、でーれーれーれででぇぇぇぇん!!


「……何だこの音楽は」

「ああこれはな、合体フォーメーションバンクのBGM『キングトレーラー召喚』と『登場、無敵のゴンザレス』。それと挿入歌『究極合体権蔵王(ゴンtheキング)』だ!めっちゃかっこいいだろ!」

「そういう問題じゃない」

 意味分かって言ってんのか、甚だ疑問なんだけど。

 ラビとゴンざれすの命令によって中空に展開された魔法陣から現れたのは、頭の無い胴体だけのゴーレムみたいな物体で、前面が開いて展開すると通常形態に戻って『とうっ!』と飛び上がったゴンザレスを背面から収納する。

 ……ん?あら?

 わずかに疑問を抱いた私を置いたまま、目の前のゴーレムもどきはさらに変形を重ねていく。

 横から前へ一部が折りたたまれたり伸びたりして腕になり、手首部分から突き出された手のひらがぐぐっと握りこまれること2回。

 同時に、おそらく足部分であろう場所が2つに分かれ、一部がやっぱり折りたたまれたり引っ込んだりしながら足首が形成される。

 すでにどこがどうなっているのかよく分からなくなってる気もするけど、どっから出て来たのか胸が光ったと思ったら、すうっと輝く鳥の翼のような胸装甲が現われて、その中心に肉食の獣を模した顔が合体する。

 何も無かった首から上に兜をかぶったみたいな頭が飛び出るように現出すると、すかさず口がフェイスガードで覆われた。

『究極不滅ッ、ゴン・ザ・オー!!』

 やっぱり!?

 さっきからそんな気はしてたけど、変形したら声まで変わっちゃうなんて!

 どんだけこだわったの、マニアたち!

 しかも案外良い声だわ!


「よっし、合体成功だ!ひゅーっ、すっげーかっこいいぞー!」

「ほう、トレーラー合体とは分かっておられますな!」

「ちっさいおっさんこそ!」

 イエー!とテンション高く叫ぶのは2人だけ。

 後の人間は……私も含めて何をどう言っていいのか分からない空気に陥っていたわ。

 心なしか、巨大化したゴンの隣にいるトト(大)も戸惑っているように見える。

 というかこの状況、はたから見たらゴンざれす……いやゴン・ザ・オーとトトがお互い大暴れして湖底が崩壊したように見えたりして……。

 そんな湖水はすでにほとんどが流れ落ち終わっていて、大穴のあいた天井からは星の輝く夜空が見えていたのだけれど。

 ああ、良い天気ね。明日もきっといい天気ね。(現実逃避)


「よし、脱出だ!ゴン、みんなをその手に乗せてくれ!」

『了解であります、ボス!』

 そろそろ突っ込みたいところだけど、やってると時間も精神ももったいない気がしたので、蔦のバリケードから出た私たちは無言のまま差し出された手のひらの上へ。

「おお、これはなかなかにいい眺めですな!」

「だろう!?」

 はしゃいでいるのはドンさんとラビだけというこの状況の中、こうして私たちは無事地上へと戻る事が出来た。

 ……わけなんだけど、これってどう見ても私のトトの出番と見せ場、ゴンザレスに持ってかれた形じゃない?

 そんな場合じゃないのは重々承知の上で言わせてもらうけど、正直ちょっとフクザツ。


「ラビ、前方にかたまっている5人の男がいるだろう?あいつらだ」

「了解了解っと!ゴン、保護モードだ!」

『保護モード、承認!』

「トト、ゴンザレスのお手伝いしてあげて」

「ッシャアア!」

 湖……だったものの脇に降ろしてもらい、集まってきた野次馬さんたち(主に教職員)に混ざっていた犯人らしき人影を殿下の魔法によって目ざとくも見つけた私たちは、各々の召喚獣に次の指示を出す。

「はあ、結局こうなったな」

「ここまでくると、ちょっと犯人がかわいそうかもしれないです……」

「自業自得さ、ははは」

「ゴン、今だ!必殺『プレッシャー・コキュート』だっ!!」

『来たれ、ゴーレム剣!天魔、粉砕ッ!!ハアアアアッ!』


 でーでっででー、でーで、でーででででーでー


 胸で咆哮する獅子(そう、あからさまに獅子(ライオン)なのだ!)の口から、巨大な剣が出現する。

 そのまま必殺技バンク(挿入歌:黄金の断罪者)に移り、特殊効果を兼ねた目くらましビーム『ディフェンディング・ハーレイ』で視界を乱し、その後振り降ろされた剣技『プレッシャー・コキュート』から発射される拘束けん引ビーム(剣だけに)で犯人を足止めたのち確保し始めたゴンザレスを見ている3人の同級生はあきれ顔だ。

 まあ確かに保護モードじゃなかったら、剣の攻撃だけで確実に人死んでそうだものね。

 必殺って言っちゃってるし。

 あ、何とか目くらましビームの範囲から逃げた犯人の1人が、巨大化したトトの足元を抜けようとして変な風に引っかかってふっ飛ばされてる。

「おおっ、今のあれ、どうやったのかよくわかんなかったぞ!」

「ほう、4次元殺法ですな」

「4次元殺法!すっげーかっこいい!!ゴンー!まけるなー!」

「……やれやれ、一体何と戦ってるんだか」

「ラビらしい、かな」

「……やっぱりずるいと思うぞ」

 ずるい、かしら?

 うーん。


「やはり素晴らしい」

 ひと息ついたと思ったら、いきなり何の事でしょうね、シャリラン様。

 目の前には大きく陥没した大地、そして目を回して1か所に集められている犯人。

 その中には制服着ている同学年の子もいて、これは間違いなく学園内で活動してたって事でいいのよね。

 どういう経緯で入れ込めたのか、知っておきたい気もするけど。

 少し視線をずらせば、ラビが大きいままでいるゴン・ザ・オーを絶賛してる。

 もうこれ、ゴーレムって言い張れるかしら。どう見ても前世知識でいう巨大人型ロボットにしか見えないのだけど。

「ラビは……うん、どうにでもなるとして、君」

 がしっと手を握られる。

 うわ、いきなり怖さびんびんドMAXなんだけど!

「嫁に来ないか」

「スミマセンが無理です!」

 本能というか反射というか。

 とにかく悲鳴のような返答しかできなかったわよ!

 ああもう、どうしたら急にそんな話になるの。

 私がトトを召喚したから?

 けど、これっばっかりは不可抗力だし!


「殿下、一応人前ですが」

「何を言う、これほどの才能ある人物を野放しになどできるものか!むしろ好都合!かくなるうえは、一刻も早く我が国に……」

 ヴィクトールのたしなめる声も聞こえてないみたい。

 嫁っていうか、それもう一番手っ取り早い手段選んだだけよね?

 うのみにしてついて行ったら、骨の髄までしゃぶられそう!

 どういう言語を使おうとも、その本意が「拉致監禁しなければ」になるんじゃないかと思われるセリフが続くかと思われたその時……。

「そこまでにしていただきたい、シャリラン殿下。ご学友の皆様方がご心配していらっしゃいますよ」

 口に出さない部分で“頭でも打ったかと思って”と続けたんじゃないかと思われるお父さん……メフィ先生は、本人の方が(頭が)痛そうな顔をしながら後ろにいた生徒たちを導く。

 そこには。

「大丈夫か?お前たち」

「もうもうっ、急に皆いなくなっちゃったって聞いて、すっごくすっごく心配したんだから!あのねっ、わたしっ、もうすっごくびっくりしてっ!」

「怪我は、無い?」

「…………」

 いつものメンバー、残りの4人が、こわばった顔でこちらを見ていた。


「ああ、これはね」

「大変だったんですよー。でも、見ての通りラビと彼女……リグレッドさんのおかげで無事戻ってこれました」

「うんうん、途中からだけどばっちり見えたよ!すごかったねー、どっかーんって!」

 ほっとしたのだろうグーリンディ君とセイラが、きゃいきゃいとはしゃいでる。

 無事で済んだのは、グーリンディ君やシャリラン様の魔法、それに……ヴィクトールのおかげもあると思うけど。

「……知らない」

 うん?

「知らない、こんな“イベント”が起こるなんて知らない。どうしよう、もしかしてゲームには描かれなかったことも起こるの?じゃあ、じゃあ、フラグ立ててイベント起こしているだけじゃ、フルコンプはできないって事?コンプは無理でも好感度調整が……。どうしよう、このままじゃ、ただでさえ好感度が上がりきってないのに、こんな……知らないイベントまで……。しかもあのイレギュラー、シャリラン様に……」

 ええっと。

 口の中だけで呟いているつもりだろうけど、集中して聞けばわかっちゃうのよね、それ。


 彼女―――クルエラは、やっぱり転生者みたい。

 もうこれは、どう聞いてもそうとしか思えない事言っているし、確定でいいかしら。

 問題は、彼女がこれからどういう行動をとるかなんだけど……。

 まあいいわ。

 今後も似たような対応すればいいんだもの。

 ……できる、わよね?

 異国の皇太子にばっちり目を付けられたけど。

 転生者さんには、イレギュラー認定されているっぽいけど。

「……っあ、どうしよ、どうしよう……っ、このままだと、先生……っ」

 彼女……ライバル悪役としてどうやら転生したらしいクルエラが、悲壮な顔つきで見つめる先には、私にとってのお父さん―――メフィ先生が。

 お父さんが、なんだろう?

 思い当たる事が無くて首をかしげる。

 これから先のイベントで“先生”と“彼女”の絡むものって、何かあったかしら?

 


「結局“あいつ”の思惑通り、事故って事で処理されるそうだ」

「そうなんだ」

 その日の夕食、お父さんは不機嫌そうな顔でそう言った。

 あれから駆け付けた各学科主任の先生たちにはガッつり怒られ、お父さんにもガッつり叱られ、学期末試験は再度やり直しとなった。

 シャリラン様だけでなく、私たち関係者全員が。

 いわゆる連帯責任ってやつである。

 ちょ、巻き込まれただけなのに、ヒドイ!……って言ったら、いくら『ネット』に接続したからってやりすぎだって、やっぱり怒られたわ。

 だから、それも不可抗力だってば!

 そそのかした保護者代わりの案内人……妖精郷の大統領は、気づいた時にはもういなかったし。

 まったくもうっ、逃げ足ばっかり速いんだから!

 ……あーあ、レポート再提出かあ。

 トトもすでに召喚()しちゃってるから、学年末の方の試験のお題も変更せざるを得ないのよね。

 踏んだり蹴ったりだわ、まったく。

 あ、トトは悪くないから。大丈夫、そこだけはちゃんと分かってるわよ。


「解散直前に口止めされてたから、そうなるんじゃないかなって気はしてたのよね」

 大げさにしたくないから黙ってて、ですって。

 にっこり笑顔を浮かべる皇太子殿下に危機検知がびんびん反応していて、思わず口をつぐんだわよ。

「物分かりのいい子は好きだよ」なんて、他人が聞いたら甘ったるい声に聞こえるかもだけど、正直危機感しか感じないわ。

 しかもついでのように「巨大化縮小化が自在な存在についても、学園外に公表して大騒ぎになる……なんて事は望んでもいないだろう?」なんて、脅迫まがいのセリフで半ば強引に口止めするなんて。

 あの人本当に攻略対象だったのか、自分でも自信無くしそうよ。

 口の軽そうなラビやグーリンディ君でさえ具体的な事を何ひとつ口にしなかった事を考えると、そこら辺は……地雷原を踏破した実績、なのかしら?

「ったぁく、あの場にいたほとんどが仕事終わりの教職員だったからまだ良かったものの、学園の生徒たちがいる中で『嫁』とか、もみ消すの苦労すんのは俺なんだぞ!」

 だんっ、とハンバーグにフォークを突き刺して吠えるお父さん。

 ……怒ってくれるのは嬉しいしお疲れさまって言いたくなる内容だけど、ちょっと落ち着いてってば。

 記憶消去したろかって、それ本当に最終手段にしてね。

 ……止めないけど。


「それにしても、落盤“事故”ね。間違っては無いけれど……」

 状況は一緒でも、自然現象か故意かではずいぶん違うもの。

「捜査はどうなるの?保安関係(セキュリティ)に変化はあったりする?」

 気になるのは、やっぱりそこかしらね。

「さすがにこのままにしてはおけないからな。内通者のあぶり出しは早急の課題になるだろうさ。どんな理由があれ、穴は塞がれなければならん」

 つまり脅されたとか弱みを握られしぶしぶ協力していたとしても、温情かけて学園にとどまらせるようなことはしない、って事ね。

 相手にとっては不幸かもしれないけれど、私たち被害者や一般生徒にとっては安心材料だわ。

 願わくば、望まないまま協力する羽目になった人たち……もしいればだけど、その人たちの未来に、いくばくかの保障がつく事を願うわ。他の学校に転校とかね。

「犯人の方に関しては……こいつはもう学園上層と国家間の問題だな。一般生徒と教師には関わらん話になる」

「……そうよね」

 だからこそ、口止めしたっていうのもあるんだろうし。

 余計なことしゃべって睨まれたら、私だけじゃなくてシャリラン様も……ひいてはサザンバークロイツも混乱しかねないものね。

「うん、わかった。なら黙ってるしすぐにでも忘れる。……忘れて、いいんだよね?お父さん」

 嫌なことをすぐに忘れるのは、私の特技だ。

 今回の事も、こうして忘れると決めたのならきっとすぐ気にしなくなる。

 ヴィクトールに言われた事だって、本当の両親の事だってもう忘れたもの。

 ……あ、ヤツの事は、思い出したらまだちょっとムカっとするかも。


 だけどとにかく、こうして忘れるのは一種の防衛本能だって、昔教授たちに言われた事があるけれど……本当に大切な事は忘れてないから、いいんだよね?

 なんとなく、心細いのかなって思うような気分のままお父さんを見上げれば、よしよしって頭をなでられた。

「いい子だ。いいか?口を出さないってのも、一つの防衛手段になる。納得はいかないかもしれんが、飲み込まなければいけない事もあるってのを、よーく覚えておけ」

 温かい掌に、お父さんの愛情を感じて安心する。

 けれどその後にもれた言葉は、私の心にわずかなさざ波を起こした。


「俺が“いなくなった”ら『12の針』の『13針目』を継ぐのは、お前なんだから、な」


 いなくなった後?

 ……いなくなるって、どういうこと?


 視線を上にあげたけれど、目は、合わなかった。





挿入歌:究極合体!!権蔵王(ゴンtheキング)


EDテーマ:てのひらつないで


制作

ゴンザレスシリーズ制作委員会


この番組は、王立魔法の森学園と

ご覧のスポンサーの提供でお送りしました


提供

魔法の森学園

灰の塔

セントラール王室

テスラ研究所

ゴーレムマニアクス


ラビ「次回もまた見てくれよな!」





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