珍客は案内人
???「“さん”をつけろ、“さん”を」
主人公「!?」
「とにかく、このままここにいても仕方ない」
「移動ですか?」
「ああ。連中がこのまま、ただ生き埋めにしただけで済ませるはずは無い。必ずや何らかの止めを刺してくるだろう。……私ならば、そうするからな」
なにそれこわい。
「元の方角がこっちだーかーらー……あっちの向こう側だな!」
「進む先があるのはありがたいが……あまり複雑化していないことを祈ろう」
「真っ暗で、なんだか怖いです」
あれから少し話を聞いたところ、私が気絶している間、犯人たちによって私たちはあの学園の中庭からどこかへと移動されたらしい。
内部は横穴だらけで、どこへ繋がっているのかもよくわからないらしく、とりあえずという事で私が目を覚ますのを待っていたんだそう。
分断させたり迷わせて、消耗させるつもりだったのかしら?
暗闇が怖いというグーリンディ君の魔法で発光植物がさらに増え、周囲がより明るく照らし出される。
「……恐らくは、あまり時間もないだろうな。上は我々が間もなく動き出す事を感知しているはずだ」
「魔法を察知できる能力持ち、ですか」
「ああ」
見かけるたびいつも朗らかに笑っていたシャリラン様も、今のこの場では言葉少なに険しい表情……って。
「ああもうっ!陰気臭くうだうだ考えてんの、やっぱ性に合わねーや!いくぞ、ゴン!省エネモードお披露目だっ!!」
ぱあああああっ
「おいっ!?」
「ラビ!?」
ヴィクトールとグーリンディ君が止める間もあらばこそ。
ラビの手から放たれたコマの形をした媒体が、地面に光跡を描き出す。
少し小さめの魔法陣から現れたのは……。
たったららったったーたーたー♪
『こんにちは、ぼく『ゴンざれす』です』
“のぶ代”ーーーーーー!?
イメージカラーの紫と白を基調としたボディは、かつての特徴をほどよく残しつつ2等身の丸っこいボディへと変化している。
ゴンザレスはパワーファイター型のはずだけど、この姿だと何かの道具とかで戦う方が似合いそうな感じ。
頭部にあった宝石のはめ込まれた採光部分は、デフォルメされたキャラクターの瞳に変わっているし。
おまけにその声!
なんでいきなり“のぶ代”声なの!?
「……ラビ、その“子”は」
さすがのシャリラン様も、絶句してる。
逆に言うと、この方を絶句させるってどんだけよ。
「ん?だって“おっきい方”を出しちゃったら、上の天井突き破っちゃうだろ?あ、そっちの方がいいか?」
「「「「止めろ(て)!!」」」」
その場にいた本人以外全員が、間髪いれずに唱和する羽目になった。
「……ラビ、ここがどこだかわかるかい?学園の地下ならまだいい。運が悪ければ私たち全員水底で溺れ死ぬぞ」
「えっ、あっ、そっか!」
そっか!じゃないわよ、もう。
『ラビくんは、いつもそそっかしいなあ』
「わりーわりー」
てへへって頭かいて笑ってるけど、自作ゴーレムに諭される召喚主なんて見た事も聞いた事もないわよ。
見なさいほら、シャリラン様まで頭抱えちゃってるじゃないの。
「以前見せてくれた形態は、普通に小型化しただけだったわよね?」
「おう!けど、それだけじゃつまんねーって話になってさ!」
……すでに召喚学科名物になっている例のゴーレムオタク集団、一体どこまで突き進めば気が済むのかしら……。
ラビが自重とか自粛って言葉知らないの、知ってるはずでしょうに。
「とにかく!こんな暗いだけの場所とはおさらばだぜ!ゴン、頼むぞ!」
『はいはい。『探索光』』
ぴこぴこ~ん!
カッ
気の抜ける効果音とともに、小さくなったゴン……ゴンざれすの大きな両目が強い光を放つと、彼の向いている方向が明るく照らし出された。
「おお」
「うわあ!ここまで明るいなら、ボクも怖くないですよ!」
「足元の不安も解消されたし、ある程度横穴についても見通せそうだな。問題は魔法の使用痕だけだが……はあ、今さらかな」
後は地上への出口が無事見つかると信じて、気をつけてはぐれないようにすればいいだけ、かしら?
……それにしても。
のぶ代がおっけーなら、大谷さんもいけるんじゃないの?これ。
「黄色と茶色の横じまの、小さな電気ネズミ……」
『……っ!?』
きゃっきゃうふふと草原を走り回る1人と1匹を想像しかけ、思わず自分のよろしくない考えをぽつりともらした直後だった。
「それ以上は、いけませんな」
「「「誰だっ!?」」」
「『うわあっ!?』」
突然聞こえたのは、どこか気取った風な紳士の声。
慌てたのは他のみんなだけ。
私には、この声に聞きおぼえがあった。
「かるぱっちょさん!」
「誰が“カルパッチョ”ですか!」
振り向いた先にいたのは、2等身になったゴンざれすよりもさらに小さい……そう、一般的に『妖精』と呼ばれる種属の壮年男性。
タキシードに蝶ネクタイ、シルクハットをかぶり、たらこの口元に立派なひげを蓄えたその人物は、私が子供の頃さんざん遊んでもらった“おじさま”。
その名も……。
「じゃあ、ガスパチョさん!」
「何が“じゃあ”ですか!いい加減、食べ物の名前から離れてください!」
学園の目の前に広がる森の湖、そのほとりにある妖精郷『グードアイランド』の大統領、その人。
「はあ……いくら私の名前が“コード”にひっかかるとはいえ、毎回これだと悲しくなってきますな」
「あ、はは、ごめんなさい?」
そうなのだ、彼の名前はどうやら“世界法則”にひっかかっているらしくて、どうも毎回「名前なんだっけ」って、記憶があやふやになっちゃうのよね。
「あの、それでか……か……」
「もうドンでよろしいであります。ここに来たのは、どうやら貴女が危険な事を考えてるようでしたから、消されますぞ、と忠告しにですな」
「「『ええっ!?』」」
びっくりしたのはラビとグーリンディ君……とついでにゴンざれす。
って事は何、後の2人は私が消されてもいいと思ったのか、それともそれくらい考えていてもおかしくないと思っているのか……。
どっちなの。(暗黒面)
「……というのは冗談で」
「はあーっ」
『驚いたなあ、もう』
「びっくりさせないで下さいよー」
「ふふっ」
「……」
「改めまして。魔法の森湖畔にある妖精郷の大統領にして、当魔法の森学園の用務員を務めさせていただいております、ドン、と申します。どうやら皆さま方は災難にあわれたご様子。なればこそ、いささか僭越ではありますが、このわたくしめが地上へのご帰還、そのお手伝いをさせていたければと」
うやうやしくお辞儀をするかるぱっちょ……ガスパチョ……さんに(放棄した)みんなの目が丸くなった。
「じゃあ、あなたが“あの”ウワサの……」
「驚いたな」
「すっげー、すっげー!マジ本物見ちゃった!」
『ラビくん、少し落ち着いて』
「貴方が『お手伝い妖精さん』や『小人さん』と呼ばれる、あの……?まさか、実在していたとは……」
寮や学内がいつの間にかお掃除されていたり、忘れ物届けてられていたり書類整理されていたり、迷子にそっと救いの手(道案内)を差し伸べてくれたり。
これらは全て、学園の用務員さんたちの仕業……お仕事だ。
そんな学園内のなんでも屋さんがこの湖に昔から住む妖精のみんなのおかげだって、普通の人はなかなか気付かない。妖精という種族がいる事は知っていてもね。
一般の生徒なんかは、きっと魔法だって思っているのかもしれないわ。そっちの方が話も手順も早いもの。
けれど、彼らは生きて動いている。
普段は人目に付かないよう、学生たちの勉学の邪魔をしないように極力気配を消してはいるけれど、完全に見えなくなる事はできない。
私と違って、そうするだけの理由もないしね。
かくして学園7不思議の1つ『謎のお手伝い小人』さんの出来上がり、という訳。
あ、そうそう、この7不思議はグーリンディ君ルートで出てくる話でもあって、そういった点でもつながりが見えておもしろい。
……だからどうってないんだけど。
「なあ、レディは知ってたのか?」
「んー?まあね」
「……ますます訳がわからんな」
「ふふ、こんな時だけど、ますます興味が湧くね」
勘弁してください、特にシャリラン殿下。
「まあ、既知ではありますな」
「ですね」
「どういうお知り合いなんですか?」
「ふむ、昔の遊び仲間、というやつが1番近いでしょう」
「私、この近くに住んでいるから。小さい頃から魔法の森を遊び場にしてて」
「そうだったのか」
「(一応筋は通るが……しかしそれにしても、入寮していないのは不自然……やはり何か理由が?)」
聞こえてる、聞こえてるからシャリラン様。
本当だってば。全部じゃないけど。
昔、お父さんに塔に連れてこられた後、一緒になって缶詰めになっているよりはよほど健全だからという理由で学園の敷地内に放り出されたのだけど、友達もいない中どうしていいか途方に暮れていた私に声を掛けてきたのが、彼ら妖精の一族だったのだ。
当時は鬼ごっことかかくれんぼとか、さりげなくこちらにとって不利な遊びを振ってきたものよ。
幼女相手に大人げないったら。
……とと、昔を懐かしんでいる場合ではなかったわね。
「久方ぶりに見かけましたのでね、成長をほほえましく見守っておりましたらこの状況。慌てて追ってきたのはいいものの、穴を塞がれわたくしめまで閉じ込められるハメになってしまったのです」
しみじみと言うか……か……ドンさん。(諦めた)
「それは……大変申し訳ない。ならばなおさら、一刻も早く外へ出なければいけなくなったな」
予想外に巻き込んだ人物が現れ、脱出する決意を新たにするシャリラン殿下に、ドンさんは首を横に振った。
「急いては事をし損じる、とも言いますぞ?焦りは禁物、今がダメならこの先に。殿下、殿下ならこの場所が何処か、もうお気づきではないですかな?」
茶目っ気たっぷりに片目をつぶったドンさんに、殿下がはっとします。
「そういえば、この場はずいぶんと魔力に満ちているようだ。それに、水の気配……これだけの量となると、まさか、ここは」
「ご明察」
ぱちぱち、と小さな両手を叩くドンさん。
「ここは学園の前に広がる魔法の森の湖、その地下なのであります」
「先ほどそこの坊ちゃまをお止になっておりましたが、その判断は間違っておりませんぞ。うっかり天井に穴でもあけようものならば、水がこうだばあっと」
身振り手振りで説明するその姿はとてもかわいく思えるのだけど、言ってる内容がいかんせん怖すぎよ。
グーリンディ君なんか見てよ、ゴンざれすと抱き合って震えてるじゃないの。
「となると、ラビやヴィクトールの魔法でどこかの天井に穴をあけるのは論外、だな。正確な位置がわからない以上、ここではないどこかの天井でも、水没の危険性を伴う」
「では、いかがしましょう」
「うん……」
考え込むシャリラン殿下に、ドンさんは胸を叩いて言った。
「そこで、です。わたくしめに考えがございますゆえ、まずはとある場所までご案内いたしましょう。よろしいですかな?」
「えっ!?」
「とある場所、とは?」
不思議そうに首をかしげる一行に、ドンさんは笑って言った。
「なに、この学園の動力―――すなわち『失われし古き青』の安置されている場所ですな。幸いにもシャリラン殿下は水の属性。それに加え、もう1人……いえ、もう“1匹”。これだけの手があるのならば、たかが水、恐るるに足らんのです」
「「「ええーーーっ」」」
「「なにっ!?」」
『何だかよくわからないけど、それってすごいのかい?ラビくん』
「すごいも何も、世界に5つしかない魔力収集増幅炉……つまり所蔵されている国家間で機密にされるくらいの秘宝だぞ!」
「この国には王宮と、あと1つあるとは聞いていたが……それがここなのか」
「あわわわわ」
とんでもない事聞いちゃったせいか、グーリンディ君が泡を吹きそうな顔してる。
大丈夫かしら。
塔の事もあるし、学園内で使われている魔法の多さとか色々と腑に落ちたから、私自身はちょっと動揺しただけで済んだけど……それにしてもまさか、こんなところに『大戦』時に創られた時代の遺物が隠されていたなんて。
「そういえば、貴殿はなぜ我々の事を?」
えへん、と胸を張るドンさんに、今さらだが、とヴィクトールが尋ねた。
その顔は本当に不思議そうなだけで、疑ったり何か探っている感じはしない。
こうしてみると、さっきの私の話といい、セイラの光魔法は彼の心にこびりついていたという魔法の残滓を、完全に消し去っているようね。
「何、情報というものは、しかるべき手順を踏めば自然と集まるものでございます」
ドンさんのその言葉に、シャリラン殿下もうんうんと頷いている。
……情報通といえばルーエさんだけど、彼女がもしこの場にいたら、やっぱり同意するのかしら……?
ところでドンさん、聞き捨てならない言葉を聞いた気がするのだけど?
『もう1匹』って何の事よ。
「ドンさん、もう1匹って召喚獣の事?言っておくけど、私の召喚獣もラビのゴンざれすも水の属性なんて持ってないわよ?」
おかげ様で見事に役立たずと化してしまっているけどね、私。
「何の為に秘宝のそばまで行くと思っているのです。当然そこで召喚していただきますよ?水属性の魔物をね」
「……誰が?まさか、シャリラン殿下?」
「そんな訳がないでしょう、貴女ですよ、ア・ナ・タ」
一字一字区切ってまではっきりと言われたわ。
え、私なの?
あの、シャリラン殿下の名前を出したのは、水属性の専門家だからってだけで。
そんな呆れた目をしなくてもいいじゃない。
「レディ、貴女次の護衛魔獣に魚を選ぶ予定でしょう?」
「なっ!?何でそれを!?」
確かに試験の準備段階として逐一担当の先生に報告入れてるし、実際召喚陣も大方組み上がってはいるけど!
それでも、大方であって完全ではない魔法陣を使ってアドリブ一発勝負で固定召喚しろとか、何という無茶ぶりをさせる気かしら、この人!
それに用務員さんとは言え部外者が、この事何で知ってんのよー!
まさか、学園内の事全て把握していたりとか……。
ドンさんはチッチッチ、と小粋に人差し指を振ってにやりと笑った。
「話は単純ですな、怪盗マウスキッドに教えてもらったのですよ」
「「ええーっ!?」」
『ぎゃーっ!!ネズミーっ!?ネズミどこーーー!?』
「「な!?」」
4人と1体、それぞれの反応を見せてくれるけど、特にゴンざれすのリアクションに全力で突っ込みたいトコだけど……だけど!それどころじゃない。
何、妖精郷ってあの義賊くずれと付き合いあるの!?
「ご存じないかもしれませんが、彼は元々『地下王国』の出身。本業は間諜ですからな」
今度こそ絶句する私たちの頭上で「ハハッ」という誰かの笑い声みたいな鳴き声が聞こえた……気がした。




