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第99話 隣国軍には光姫がいるらしい、どうすんのこれ


 うわー戦争が始まってた。


 何か忘れてるなと思ったんだよ、隣国のなんちゃら国家がこの国を侵略しようとしてるんだった。

 ケーキも食べたしハンバーグも食べたし、全ての重要イベントは無事完了したと安心しきってたわ。


「戦況はどうなのです。国境線には辺境伯軍と侯爵軍が臨戦態勢で派遣されていたはずですが」

「は、一瞬にして壊滅した、との事であります」


 その場にいた全員が息を呑んだ。


「壊滅だと? どういう事だ! 辺境伯軍と侯爵軍は我が国の精鋭軍だぞ!」


 お姫ちゃんの側近に怒鳴られて、兵士君がビビってる。可哀想だよ。


「そ、それが、気が付いたら馬がロバになってた、盾が二つに折れる、砦も二つに折れ、剣がトウモロコシになってたりと、我が軍が一瞬でポンコツ化した模様です。全員のポケットが破れて財布が落ちて、拾っている所を襲われた部隊もあったとか」


 なんじゃそりゃー。

 私だけじゃなく、全員がポカーンである。


「なんですかそれは、まるで兄上みたいではないですか。原因に何か心当たりはありますか」


「シュムーア公爵から情報は来ています。敵のダスキアルテ王国軍に、あ、あの光姫が味方に付いたとか」

「光姫ですか? 光姫ってあの伝承の光姫様ですか? 敵に回したが最後、相手はポンコツ化してペンペン草も生えなくなるという」


 お姫ちゃんが驚いている。光姫が出現している事は知らなかったんだね。


「は、ルーアミル殿下。まだ未確認の情報とはいえ、我が軍の此度の状況を鑑みるに、まず光姫で間違いないかと思われます」


「な、なんて事……光姫様に目を付けられてしまっては、もうこの国はお終いではないですか。私も兄上みたいなポンコツになるのですか? ああ、死のう」


 おい王子、実の妹にえらい言われようだぞ。


 それにしても、光姫とやらはやっぱり向こうの国に付いちゃったのかー、実に迷惑な話だ。

 さっきまで皆が希望に輝いていたいい感じだったのに、一気に暗雲が垂れ込めちゃったよ。邪魔だから帰ってくれないかな。


 でも公爵は光姫はもう一人いるって言ってたよね、元々この国にいた光姫がそのもう一人なら、今どこで何してんのよ!

 呑気にどこかでケーキだのハンバーグだの食べてたら怒るわよ! 仕事しなさいよ仕事を! おいこら光姫!


 まあ私だったらそんなわけのわからないヤツとしばき合いなんて、まっぴらごめんだけどね。

 私がポンコツ化なんかしたらたまったものじゃない。食べようとしてたハンバーグが草履に化けたら即死ものだよ。


 今まで公爵だ伯爵だその他がポンコツ化してる現場を間近で見ているだけに、その恐ろしさはよく知っている。

 できるだけ遠くに逃げようかな?


「国境線の部隊が壊滅したと言う事は」

「恐らく国境沿いの町や村は敵軍の侵略を受けているでしょう」


 敵軍に侵略を受けている――

 当たり前の話だが、この言葉には衝撃を受けてしまった。


 息ができない。

 平和に暮らしていた人たちの所に敵国の軍勢が攻め込んだのだ。何が起こったのか想像しただけで心が苦しい。


 思わず後ろにいたモブ男君に振り向いてしまった。因みに彼が後ろにいた事は、振り向いて気が付いた。


 私の顔を見たモブ君はこくりと頷いてくれる、その両隣にいたモブ太君とメガネ君も同様だ。因みに二人が両隣にいた事は、振り向いて気が付いた。


 ニンジャのように近くにいてくれた我がモブパーティーの思いは同じなのだ。私を含めて全ての人々がその存在を綺麗さっぱり忘れていただろうけど、思いは同じなのだ。


「行こう、リン。僕たちが行って何ができるかはわからない」

「行ったって、たった一人くらいしか助けられないかも知れないけどブヒ」

「たった一人を助けたくらいでは、情勢は何も変わらないかも知れませんが」(メガネくいっ)


「少なくともその助けた人の人生は大きく変わるよね!」

「私も敵の軍隊にバーカとかクズとか煽ってやるもん!」


 ほ、程ほどにねフィギュアちゃん。フィギュアちゃんみたいな可愛い存在に言われるとけっこう心臓に刺さるから。

 でもみんなの思いが一つになって、私はちょっと感動しちゃったよ!


「ようし、モブパーティー出撃だ! 私たちの戦いはこれからよ!」


 私は天井に向って拳を突き上げる。

 あれ? 『おおー』って反って来ないんだけど。


「だからその言い方は禁止だってリン」

「心臓に悪いんだブヒ」

「あえてパーティー壊滅のフラグを立てるのですね」(メガネくいっ)


「ご、ごめんなさい」


 しょぼーん。



「私も出撃します。私の近衛部隊に命令を」


 お姫ちゃんも行くと言い出したが、さすがに碌な軍勢も無しで次期国王をそうホイホイ戦線に投入するのはまずいのだろう、側近の顔が青ざめたのがわかる。


「なりません殿下、近衛隊だけでは圧倒的に数が足りません。殿下にはここで総大将として軍の集結をして頂きます。各領主軍に集結の下知を」


 お姫ちゃんが暫し考え込む。


「わかりました。陛下はお尻のご病気で軍務は無理でしょうし、兄上が総大将では敵の光姫を待たずともポンコツ化ですね。王都に戻る時間も惜しいとなれば、ここを全軍の集結地とするのが最善でしょう」


 うーむ、そう言えば王様は暗殺者にお尻をやられて動けないんだっけ。

 この国のポンコツ病の進行がやばいな、どうしてポンコツ化していってるんだろうか。


「それでは、私の代わりに当面の敵軍の撃滅は、モブパーティーの皆さまに依頼しましょう」


 できるわけないよね!

 お姫ちゃんの依頼は、毎回冒険者の仕事の範疇を越えまくってくるよね!


「炭酸ビンを改良して、みんな空に打ち上げちゃおうよリン」


 何万本必要なんだそれ。

 それを運んでいる時にうっかり転んでビンを割ったら、私たちが間違いなく打ち上がると思うよ。


「代わりに私が出撃しますルーアミル殿下」


 お姫ちゃんの前に進み出たのは金髪縦ロールちゃんである。


「辺境伯軍と侯爵軍の残存部隊と連携して、何とか戦線を維持し敵の侵攻を遅らせます。その間に殿下は援軍を纏めてください」


 凛とした金髪縦ロールちゃんの顔には一片の曇りもない。

 強力な敵を相手にしようとしているのに、当主になった彼女には恩人のお姫ちゃんに報いたいという思いが強いのだろうか。


「お願いできますか? アルメーレル様のご武運をお祈りいたします。決して無茶な戦闘はせずに、危なくなったら引くと約束してください」


「ルーアミル殿下預かりの身ながら、新領主の力量をお見せする時が早くも来ました。助けて頂いたバコ伯爵家一同、殿下の為に必ずや任務を遂行してご覧にいれます!」


 金髪縦ロールちゃんの言葉に、控えていた彼女の共の人たちが一斉に姿勢を正す。


「領主軍全軍に通達! 全軍終結せよ! 我らはこのまま国境線へと出撃する!」

『オオー!』


 か、かっこいいよ金髪縦ロールちゃん!

 やっぱり出撃はこうやりたかったよ、私なんておかしな言い方して皆に怒られたし。


「全軍、剣がトウモロコシになっていないか確認せよ! ポケットに財布を入れるのも禁止とする!」

『オオー!』


 この号令はいかがなものか。



 次回「隣国軍には光姫以外にも最強の部隊もいると聞いた」


 幻覚ちゃん、おかしな野望を抱く

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