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第95話 あらやだ、伯爵がポンコツ化したわ


 フィギュア氏はどこに行った?

 ふと伯爵とお姫ちゃんの中間の床を見て、ぶひゅっと声が出た。


 炭酸ビンを背負ったフィギュアちゃんが歩いているじゃないか!

 目の前を謎の炭酸ビンが歩いているのに、誰も気が付いていない。


 いつもモブの衆と一緒にいるから、すっかり私たちも空気のように気が付かれずに行動できるようになってるのかな。モブご利益だ、ありがたや。


「どうかなされたのですかなリンナファナ様、切り札が通用しなくて焦っておいでですかな。ふふふ、私の目は節穴では無いのでしてな、細かい表情にもすぐ気が付くのですよ」


 なら目の前の歩く謎の炭酸ビンに気が付けよ! とんでもない節穴じゃないか!


 フィギュアちゃんが偉そうな椅子の脚に辿り着いた! もう少しだ、頑張れフィギュアちゃん!


「小娘の浅知恵でしたなルーアミル殿下。そろそろお別れですな、ここに川が無いのが残念です」


 川があったらまた放り込む気か。


 伯爵に川に放り込まれたと言えばカリマナだよ。

 あの時私がどんな思いをしたか、カナがどんなに悲しかったか、カリマナがどんなに怖かったか。考えただけでもこのバカ伯爵は許せない。


 ――私はリンと一緒に冒険がしたいんだ――


 あの子は……あの子は、あれで夢を諦める事になったんだぞ!


「あなたは自分の利益の為に他人の命を蔑ろにするのですか。あなたは自分の野望の為に人の夢を破り捨てるのですか。正直あなたのような貴族には辟易とします」


「グスタフ殿下に告げ口しますかな? リンナファナ様には申し訳ないですが、あなたはもう愛する王子には会えないのです。残念です」


 誰が誰を愛してるって? この人頭のネジが何本か外れてるんじゃないだろうか、これだからイカレ貴族は困る。


「おやおや、私に呆れたという顔をしておいでですなリンナファナ様。だが結構、これから死んでいくあなたに呆れられようが憎まれようが、私は痛くもかゆくもないですな、あっはっは」


 立ち上がっていた伯爵が、憎まれ口を叩きながらやれやれと言った感じで偉そうな椅子に再び座る。


『ブシュウウウウウウウ』


「おほおおおおおおおお!」


 椅子に座った伯爵が盛大に飛び跳ねてひっくり返り、周りの側近たちも大慌てだ。


「大丈夫ですか!」

「バカモノ! 誰だ椅子に炭酸ビンを置いた不届き者は!」


 よし! グッジョブだよフィギュアちゃん!

 カリマナの仇討ち取った!


 惜しむらくは出入り口がカッチリ固められていて、お姫ちゃんを連れて脱出までには至らなかったという点か。


 私は戻って来たフィギュアちゃんを拾い上げて、いつもの胸元にセットする。


「お疲れ様フィギュアちゃん」

「ふー、ひと仕事終えた後は気持ちがいいねリン。でも打ち上がらなかったね、ざーんねん」


 フィギュアちゃんの言う通り、炭酸ビンではパワーが足りなくて期待していた伯爵打ち上げには至らなかった。誠に残念無念である。

 花火師としての私の腕の未熟さゆえか。


 花火というからには、もっと強力な火力が必要なのだ。

 それこそズドオオオオオオオオオオオン!! という爆発が欲しいのだ。


『ズドオオオオオオオオオオオン!!』


 そうそうこれこれ、この爆発音だよ。

 何だこの爆発音は。


 その爆発音と共に、屋敷全体がグラグラと揺れる。

 次いで『パパンパンパン』と破裂音、そして『たーまやー』という声は執事さんのものだろうか。


 これはどう考えてもお姫ちゃんのスイカ(花火)だよね、何故爆発したのかわからないけど。


「何事か!」

「申し上げます! 丸ごと焼きスイカを作ろうとかまどに放り込んだところ、何故か厨房が吹っ飛びました!」


 丸ごと焼きスイカってなんだよ!


「何故丸ごと焼きスイカで!?」

「丸ごと焼きスイカって爆発するのか!?」

「丸ごと焼きスイカだぞ!?」


 まず丸ごと焼きスイカがわからねーわよ!

 焼くのならせめて切ってから焼けよ!


「大変です! ワインセラーの床から土ドラゴンが乱入! 伯爵家の秘蔵のワインと保管してあった芋を盗んで地中に消えました!」

「うおおおお! 我が家の宝のワインが! 毎晩ちびりちびりと飲むのが楽しみだったのに!」


 何やってんのよ土ドラゴン。


「あらあら、猫ちゃんったら。またオヤツを集めているのでしょうか」


 猫じゃねーけどな。


「申し上げます! 上空より真っ黒なドラゴンが来襲して、馬小屋をかっぱらっていきました!」


「あらあら、あの猫も子供たちの物資調達に頑張ってるのね」

「違うよリン、あれも猫じゃなくてドラゴンだよ」


「先ほどの爆発で、五億ゴールドかけたバコ様の肖像画〝麗しき私〟が落ちて裂けました!」

「大変だ! 伯爵の愛馬が逃げた!」

「伯爵家に代々伝わる皿が割れた!」

「バコ様が一番寵愛されていた女性から、別れの手紙が届きました!」


「うわあああ! 何が起こっているのだ! 何故だミシュリーヌちゃん、何が不満なんだああああ~ミシュリーヌちゃん!」


 ミシュリーヌちゃんは沈み行く泥船からいち早く脱出したのでしょう。

 それにしても突然伯爵がポンコツ化したけど、一体何が起きているんだ。


「皆の者落ち着け! 私はまだポンコツ化などしておらん! まだ建て直しは可能だ!」


「報告します閣下! アルメーレル様が! お嬢様が!」

「アルメーレルがどうかしたのか! 娘に何があった!」


 伯爵のポンコツ化がまさか、娘の金髪縦ロールちゃんにまで及んだのか?

 これには伯爵も動揺したようだ。可愛い自分の娘が怪我か何かしていたらと思えば、気が動転するのもわかる。


 どうしよう、あの子がポンコツ化して酷い目に遭うのはなんか嫌だ。

 美味しいケーキをくれたんだしね。


「アルメーレルお嬢様が、閣下に対して反旗を翻しました!」


 あ、伯爵がここでようやく私の村の名物ハニワ君になった。ここまでよく頑張ったよ伯爵。


 次回 「金髪縦ロールクーデター」


 伯爵、泣く

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― 新着の感想 ―
[一言] ざっとこんなものだな まだまだ転落してくだろうけど あ み ろ だまっててももうポンコツ化したから終わりだ な
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