第91話 金髪縦ロールちゃん登場
一体どうやって誤魔化せばいいのか。
王子もいい加減、子供だましの誤魔化しは通用しないはず。
「お姉ちゃんたちはモグラ姉妹だから太陽の光を浴びると、萎んでしまうんだよね。さ、早く帰ってモグラ協会の案内パンフレット作ろうよ」
「そ、そうねー、地上世界は眩しいモブねー」
誤魔化してくれる幻覚ちゃんには申し訳ないけど、さすがに二回目は厳しいんじゃないだろうか。
前回はこの誤魔化し方で通用したけど、今回はアウトかな。
「殿下、どうされましたか、あの怪しい娘どもがなにか?」
「うむ、ただのモグラ姉妹だったようだ」
二度目も通用しちゃったよ! モグラ姉妹ってなんなんだよ! そこに疑問は無いのかよ!
新しく誤魔化す方法を考えなくていいなんて、なんてラクチンな王子だろうか。
「ふふ、困ったものだ。リンナファナ嬢を求めるあまりに、あのようなショボいモグラ娘ですら彼女に思えてしまう」
誰がショボいモグラ娘だって?
今すぐ振り向いて眩しさで目を潰してやりたい、ぐぬぬ。
それにしても実の妹にも気が付かないなんて、ポンコツもいいところよね。
「心中お察しいたします。妹君も心配ですしな」
「ふむ、リンナファナ嬢に比べて、ルーアミルは別にどうでもいいがな。ヤツには子供の頃に頭にカブトムシを乗せられた恨みがあるしな」
「あらあら」
なんだかお姫ちゃんが怖いよ。
おろおろしていると、そのお姫ちゃんがそばに寄ってきて小声でささやいてきた。
「リンナファナ様、伯爵家に行くついでに、ちょっと王子も討伐していきませんか?」
ついでにちょっとお花でもという感じで、王子討伐を依頼するなよ! 困るから!
「まったく、子供の頃のお茶目なイタズラをまだ根に持っていらっしゃるなんて、兄上もいつまでも成長しませんね」
広場から離れたところでお姫ちゃんが『あらあら』と言い出した。困ったな、王族なんてどうやって宥めればいいのやら、飴ちゃん食べるかしら。
「ちょっと寝ている間に、可愛らしいカブトムシちゃんを百匹ほどプレゼントして差し上げただけですのにねえ」
ひいいいいい! 想像しただけでアウトな予感!
「男の子はカブトムシが大好きでしょ? だから喜んで頂こうとしただけなのに。一匹一匹角にリボンを付けるの大変でしたのに、兄を慕う妹心がわからないなんて」
喜んで貰おうとしたのはわかるんだけど。
「カブトムシだけじゃなくて、クワガタも人気だからと入れたのが不味かったのでしょうか。確かに兄上のお鼻をグイっと挟んでましたからね」
王子が怒った原因はそれじゃないだろうか。
「そこに二体のカブトムシが突撃して、兄上の鼻の穴をグイグイっと突き上げて。勝ったのは右の穴のザビエル君でしたね」
何の勝負だろうか。
「インパクトが欲しくてカブトムシに似た甲虫モンスターも入れて差し上げたのに」
おい、決定的な原因が来ちゃったよ。
「そこの少女たち、止まれ!」
お姫ちゃんにつっこみを入れようか悩んでいた時に、いきなり兵士に呼び止められてしまった。
「どうした?」
「は! カブトムシについて語るルーアミル殿下の声が聞こえた気がしたのであります」
「何! カブトムシについて語るルーアミル殿下だと! どこだ、どこにいらっしゃる!」
一難去ってまた一難かーい! 兵士の数が多すぎるのよこの町!
位の高そうな将校がきょろきょろ探し始めちゃったよおい。
「不味いですね、私の近衛部隊の指揮官です。私が信頼をおいている右腕のような方です。彼になら、なんなく私の正体がばれてしまうでしょう」
指揮官さんはじっと私たちを眺めている。さすがに側近だとバレたかな?
「変なほっかむりをした女が二人と子供以外、特に誰もおらんではないか。そこの変な女、邪魔だからどこかに行け、そんな恰好して遊んでいるとお母さんが泣くぞ」
うるさいわね! カナなら爆笑するわよ!
爆笑して涙を流すわね! 半分正解じゃないの。いや違う違う、オシャレだって褒めてくれる……はず? 自信無くなって来たよもう。
歩き去りながら、ついうっかりお姫ちゃんの顔を覗き込んでしまった。
覗き込んでひいってなった。
「あらあら」
ジト目。お姫ちゃんがジト目。
側近に気がついて貰えないとかあり得ないもんね。
「オシャレを変な格好だなんて、殿方、特に軍の方はこういう方面は粗略でいけませんね」
そ、そっちだったか。
「仕方ありません、男性に乙女のオシャレ心なんてそう簡単にわかりませんから」
「頭に巻いてるだけで、一目でリンお姉さんとお姫様だってわかるのになあ。顔ほとんど丸出しだし」
こ、こら幻覚ちゃん、この件はいい感じで終わろうとしてたのに、こんな所でおかしな疑問を抱かないで!
ああ! お姫ちゃんが首を傾げちゃった!
「あらあら、大丈夫ですよ、別に更迭しようなんて考えてませんから。彼にはまだまだ働いて貰わないと困ります。ボーナスの査定にちょっと響くかもしれませんが」
し、指揮官さん、今後活躍してがんばれ。健闘を祈る。
「そこのおかしな恰好のお嬢ちゃんたち、どうだい串焼き食ってかねーか、美味いぞ」
「あら、これは何でしょうか」
声をかけてきたのは串焼き屋台のおっさんである。おかしな恰好とは聞き捨てならないが、ここはスルーしよう。
「ささ、殿下、伯爵家はこの道をまっすぐみたいですよ、急ぎましょう」
私はお姫ちゃんの手を引いて先を急ぐ。
こんな調子で声をかけられていたら、いつまでたっても目的地に着きやしない。
「よろしいのですか? 私が勝手に屋台の食べ物を食べてしまって、お金って何かしら? と可愛らしく首を傾げるイベントをやらなくても」
無理矢理やらなくていいですから! お金知ってるんでしょ!
「私が食べ物の代金に王家の秘宝みたいなのを差し出して、屋台の店主の腰が砕けるのも? それ見てどうしたのかしら? と私が可愛らしく首を傾げるイベントとかも?」
やめてあげてください!
どんだけ首を傾げたいんだよ! 腰を破壊した上で可愛らしく首を傾げたらそれは悪魔だよ!
「はあはあ、疲れた」
色んな謎のイベントを持ちだしてくるお姫ちゃんをなんとか引っ張って、遂に伯爵家のお屋敷に辿り着いたよ。
串焼き屋さんに串カツ屋さん、肉まん屋さんその他と、私はこの町の屋台のおっちゃんたちの腰を守り抜いたのだ。
敷地への門で何者だ(主に泥棒と間違えられた)とひと悶着あったものの、お姫ちゃんが光り輝く金属の力で門番を黙らせて、現在屋敷の扉の所まで来ている。
お金の力は偉大である。
「ようやく着きましたね。普段は馬車で移動するので、町の散策が新鮮で楽しかったです」
「よ、良かったですね」
私は疲れました。ゴールにケーキが待っていなかったら、どこかその辺で寝ていたと思います。
「いよいよ本番ですね、たのもーう!」
「な、なんですかそれ」
「これが殴り込みの挨拶なのではないのですか?」
「どこで覚えたんですかそんなもの」
「家庭教師のリンチン先生ですけれど。私だって勉強しているのですよ」
な、何の作法の勉強なのだろう。
王侯貴族のカチコミって……それもう戦争なんじゃないだろうか。
「誰? 何? うちに何か用ー?」
何か出てきた、いかにもな貴族のお嬢様みたいなのが出てきた。縦ロールだよ、セットがめんどくさそう。
金髪縦ロールで歳は私くらいかな。
普通執事とかが出てくるんじゃないの?
貴族の家なんかよく知らんけど、お嬢様がいきなり玄関のドア開けて何の用? とは聞かないと思う。
「爺! いないの? 変なのが来ちゃってんだけど! ったく、あんたたち何? 泥棒? 邪魔くさいから帰れよ」
本当に貴族のお嬢様なんだろうなこいつ。
次回 「平民と王侯貴族の格の違いを見せつけられた」
リン、気絶する




