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第90話 町の広場にはやはりヤツがいた


 お姫ちゃんはこれから伯爵の屋敷に行くという。

 心の準備がまだというか、ハンバーグステーキを食べてからじゃだめかな? ハンバーグパワーも出るし。


「最後の晩餐はやっときたいもんね」


 おいこらフィギュアちゃん、私は今日も明日も明後日も、十年後もハンバーグを食べるつもりだよ!


「いきなり行って大丈夫ですか、伯爵がおかしな行動をしなければいいのですけど」


「突然自分の屋敷に現れれば何も手出しはできないでしょう。伯爵家全てが企みに加担してるわけではないので、人の目が多い中で私をどうこうしたら一発でアウト宣言ですよ」


「確かに殿下が健在なのを早くに知らせれば、バカ伯爵のけん制にもなりますね。でも大丈夫かな」


 さすがにこればかりは慎重にならざるを得ないのだ。

 何しろ相手は、王女だろうと川に放り込むヤツなのだから只者ではない。


 うっかりすると気が付いたら川の中にいた、みたいな結末が待っているかも知れないからだ。


「伯爵家で美味しいお茶と三時のケーキをご馳走になりましょう」

「是非お供させていただきます」


「そうすれば夜までに時間潰しになりますし。無事にハンバーグステーキを迎えられます」


 おいおいお姫ちゃんもハンバーグステーキを食べる気満々だったのかよ。庶民のレストランだよ、大丈夫か。


「まさか私はハンバーグステーキからハブられるのですか……」


 ハブられるってあんた。ちょっと涙目ですか。


 その絶望感はよくわかるよ、ハンバーグを食べられると思ってたのにダメだった。そんなの私なら涙目どころか号泣するわよ、泣きわめくぞ。

 行こう、お姫ちゃんも一緒にハンバーグ食べよう。


 問題は幻覚ちゃんの伯父さんがひっくり返って腰を抜かさないかだね。

 冒険者にうんめーハンバーグをいっちょ食わせてやろうと思ったら、一国の王女が混ざってた、これは怖い。


「伯父さん、手紙でぎっくり腰って言ってたから、一周回って治るかも知れないね」


 王女治療法か、なるほどこれは新しい。


「あ、あの、王女様。私も伯爵様んちに行ってもいいのかな」


 幻覚ちゃんがもじもじとお姫ちゃんに確認している。女の子ならケーキは食べてみたいもんね、しかも私たち平民が食べるような物とは次元が違うのが出てきそうだし。


「もちろん、スージーちゃんもご一緒しましょう」

「バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ」


 モグラ以外でもテンションを上げる事あったんだね幻覚ちゃん。

 これは意外な発見である。


「モグラと甘味は別物だからね!」


 格言が出たのかな?

 た、確かに別物すぎるよね。


「伯爵家を訪問するのはよいのですが、伯爵の屋敷に行くまでに見つかると色々と面倒ですね」

「それなら大丈夫ですよ、私たちには乙女のオシャレグッズ、手ぬぐいがありますからね」


 私は見本として手ぬぐいを頭に巻いて見せる。せっかくなのでお姫ちゃんとお揃いにする為に、村で貰った村長の柄の手ぬぐいである。


 私の手ぬぐいを見ながら、お姫ちゃんも同じく村長の柄の手ぬぐいを頭に巻いた。

 村長の柄というのがわけがわからないけど、こんな謎グッズが早くも役に立つ時がこようとは夢にも思わなかったわ。


「それでは参りましょうか」


 ほっかむりをしたお姫ちゃんが歩き始めると、人々の注目を浴びているようだ。

 大丈夫かな、いつものパターンだと泥棒扱いされるんだけど……


「ねえ見て見てあの子、オシャレー」

「可愛いね」

「どこに売ってるのかな」

「恋人にしたい」


 普通にオシャレと言われてるよ。この町はオシャレの最先端を行く町だったか。

 遂にオシャレというものが何かを理解できる人々に会えた気がする。これは感動だ。


 私の心に引っかかりがあるのは、村長の柄という点に関してだけど。

 よし、私も颯爽と歩くか。恋人にしたいとか言われたらどうしよう、照れるわね。


「おい、泥棒がいるぞ!」

「白昼堂々とふてぇ野郎だ」

「衛兵を呼べ」

「ふん縛りたい」


 なんでだよ!


「泥棒スタイルじゃねーわよ!」


「何だ? ぷんすかしだしたぞあの子」

「もう一人の子は可愛くてオシャレなのに残念だ」

「こっちの子は頭に巻いてる柄が悪すぎるのよ」

「よくあんなわけのわからない柄を選んだな」


 両方とも同じ柄だわよ! よく見ろよ!


 もう無視して前進あるのみだ。

 私たち一行は町の中を進んでいく。


「可愛い!」

「泥棒だ!」


「可愛い!」

「泥棒だ!」


 呼びかけがおかしなセットになってるよ!

 無視して暫く歩いていると、人通りも多くなってきた。


「広場で何か開催しているみたいですね。何でしょうか、少し見てみましょう」


 お姫ちゃんが興味津々な感じで人だかりの方へと歩いて行く。

 嫌な予感しかしないけど、こうやって一般人のふりして歩く事なんて普段はなかなか無いんだろうから、しばらくは楽しませてあげようかな。


 案の定、展示された品物とそれを拝む人々の図が目の前に広がって来た。やはりこれか、これですか。

 今回の展示品は二着の服のようだ。


 これもやっぱり光姫とやらが着ていた服なんだろうな。一着なんて田舎娘丸出しの服だよ、可哀想だよ。

 こんな感じで晒されるなんて光姫も哀れ過ぎるよね、一ゴールドくらい寄付してあげようかな。


 はて、どこかで見覚えのある服のようだけど、服なんて似たり寄ったりでどこにでも同じような物があるわよね。

 あはは、気のせい気のせい。


「これは一体何ですか? 皆さま雑巾を拝んで何をしていらっしゃるのでしょう」


 おいこら王侯貴族、雑巾じゃなくて服だ。

 一着はともかく、もう一着は平民風に改造はされてるけどそこそこ高そうな生地だぞ、それすら買えそうにない平民に謝れ。


「世の中には色々な風習がありますからね、ささ、もう行きましょう」

「そうですね、わかりました。私も城に戻ったら、雑巾を飾ってみましょう」


 そんな物を飾ってたらメイド長さんに怒られそう。


 とにかく嫌な予感が当たってしまった以上は、こんな危険地帯とはさっさとおさらばである。

 ヤツが湧きかねないのだ、どこだ、ヤツはどこにいる。


「今、リンナファナ嬢とルーアミルの声が聞こえた気がする」


 真後ろにいやがったああああ!

 ポンコツのくせにこういう時の能力だけは天か一だな。


「そこのご婦人方、申し訳ないがほっかむりを取ってこちらに振り向いてもらえないだろうか」


 来た来た、王子が来たよ。どうやって誤魔化せばいいんだ。

 カラスの爆撃隊は!? 上空に機影なし! まずいよこれ。


 今回は私だけじゃないんだよ、王子の実の妹まで一緒にいるし完全にバレるよ。

 どうすんのこれ!


 次回 「金髪縦ロールちゃん登場」


 リン、お姫様イベントをひたすらスルーする

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