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第88話 また謎の銅像が建てられるみたいだ


 お姫ちゃんの国家転覆の依頼は、私たちが転覆しそうなのでなんとか無しにしてもらった。


「あらあら残念ですね。皆さま冒険者パーティーには、依頼を同時に受けられるのは一つのみという、鉄の掟があるのでは仕方ありませんね」


 そんな鉄の掟は無いけどね。

 私たちモブパーティーの処理能力的に、一個でアップアップという生ぬるーい暗黙の了解ならあるんだけど。


 最初の依頼の時点でアップアップどころか、私も含めて全員溺れて底に沈んでるんじゃないのかという疑惑すらある。

 でもお姫ちゃん一人で放り出すわけにもいかないよねえ。



 村の問題も片づけたし朝ごはんも食べたし、お姫ちゃんとの今後の行動も決まったしで、そろそろ出発しようか。


 出発の準備をしていると幻覚ちゃんが飛んできた。


「すごいよリンお姉さん! モグラ協会の会員が二人も増えたよ!」


 モグラ協会って何かしら。ってさっき勧誘してのか幻覚ちゃん。


「き、奇特な村人さんもいたのね、良かったね」

「うん、この村の村長さんとそのお孫さんだよ!」


 村長さんはお断りした方がいいんじゃないだろうか、めんどくさいし。


 それとおにぎりトンビ君は、さては幻覚ちゃんの事をまだ諦めてないのね。都会の子の気を引こうとしておかしな勧誘に引っかかるタイプだわ。

 どれ、私もリンちゃんグッズの一つも売りつけてこようかな。


 リュックの中をごそごそ探っていると、あるオシャレアイテムが出てきた。

 忘れてたのを思い出したよ。


「これ借りっぱなしになってたお花の柄の手ぬぐいなんだけど、返却が遅れてごめんね」

「いいよ、リンお姉さんにあげるよ。それ宿のお客さんが脇とか拭く用なんだけど、まだ一杯用意してあるから」


 私はそんなものを頭に巻いてたのかよ!


 いやまて、まだ絶望する時間じゃない。なにしろブツは可愛いお花の柄なのだ、これは可愛い女の子が使ってた物に違いない、きっとそうだよね。

 ああ良かった、これは天使の手ぬぐいだったんだね。一時はどうなるかと思ったよ。


「おっさんも普通に使ってたよ?」


 悪魔かこの子は! 夢ぐらい見させろよ!

 お、お花の柄の手ぬぐいには罪はない、ちゃんと洗濯してるから大丈夫。


「新作も作ったんだよ、モグラの柄の手ぬぐい。これもリンお姉さんにあげるね」

「あ、ありがとう」


 私の手ぬぐいコレクションがまた一つ増えた。無駄に可愛いなこの柄。


 


「モグラのモンスターを退治して頂いて本当にありがとうございました」

「これで村の芋が守られます」


「皆さまの事は、村の芋を救った伝説のパーティーとして代々語り継いでいきます」

「芋伝説ですな」


 伝説と芋が見事にマッチしてないわね。


「そうだ銅像も建てましょう、芋を背負った少女の像とかどうですかな」


 ただの行商人の銅像じゃないか!


「モグラと格闘する芋を背負った少女の像を、早速銅像屋に発注しよう」


 伝説とはかけ離れた、村のお姉ちゃんがお芋の収穫中にモグラ退治してるだけの像になりそう。


 最近、銅像屋さんは儲かってるんだろうなあ。

 自分は一体何を作らされているんだと、人生について悩んでなければいいけど。


「それとこれはお礼と言ってはなんですが」

「いえ、お礼とか別にいいんですよ」


 金銭は当然受け取れないし、また大量にお芋を貰って行商人化するのは避けたいのだ。

 お芋が大量にあるからいらねって言ってるのに、満面の笑みでお芋を掘ってくる人たちがパーティーにいるからだ。


「そうはいきません、つまらないものですが受け取ってください。これは村長の柄の手ぬぐいでございます、限定百本の優れ物でしてな」


 本当につまらないものだった! なぜこの柄で作ったし。

 私の手ぬぐいコレクションがまた一つ増えた。


「もう一枚いりますかな? 八十枚ほど余ってしまいましてな」

「いえ、結構です。もうお腹一杯ですごめんなさい」


 よく二十枚も需要があったな。


 手ぬぐいは結局、パーティーメンバーやお姫ちゃんたちにも配られてた。

 お姫ちゃんは手ぬぐいとかわかるんだろうか。平民の最先端のオシャレアイテムだと教えてあげた方がいいかな。


「あらあらこれは何かしら、得体のしれないモンスター柄ですが」


 その柄は村長さんだよお姫ちゃん、まあ、モンスターで合ってるんだけど。エナジードレイン系のやばいヤツだよ。


「私も貰ったよ、いらないからリンにあげるね」

「あ、ありがとうフィギュアちゃん」


 コレクションがまた一つ増えた。ダブリである。


「ニ十本も貰っちゃった! 宿のお客さんのおじさんがお風呂でお尻を拭くのに使うよ!」


 喜ぶ幻覚ちゃんの横で、宿屋における手ぬぐいの使用方法について軽い絶望とめまいがしたのは気のせいだろうか。

 お、お花の柄の手ぬぐいには罪はない、ち、ちゃんと洗濯してるから大丈夫。


「それじゃ村の皆さんまたね!」

「モブパーの皆さん! バンザーイ! モブパーバンザーイ!」

 

 またこの見送られ方をしてしまった。王女様が混じってるのにモブパーティー呼ばわりで大丈夫なんだろうか。

 お姫ちゃんの側近とかいなくて本当に良かったわ。


「あらあら、私も実は冒険者に憧れていたのですよ。この世に蔓延る様々な悪を退治したかったのです」


「へー、そうなんですか。王族の方だと、対する悪のスケールも大きいのでしょうね」


 汚職貴族に悪徳神官、国家の存亡にかかわる悪とか、色々ありそう。


「お稽古お勉強とうるさい家庭教師のリンチン先生や、私が嫌いなニンジンをこっそり食事に忍ばせてくる、メイド長のカミーラとか退治したかったのです」


 ちっせー、スケールちっせー。

 とんだミニチュア感だった。


 そんなスケール感で、よく貴族討伐なんてとんでもない依頼をぶち込んでこれたな。

 そういや、砂糖菓子の仇だったわ、スケールちっせー。


 そんなものに巻き込まれた私たち。


 これぞモブパーティーの中のモブパーティーだ。


 次回 「のんびり馬車の旅はいいものだよね」


 リン、ハンバーグの時間までにお腹を減らす使命感に燃える

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[一言] モグラで一儲けする魂胆か、商魂たくましい
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