第84話 土の中から二体出てきた
穴から現れたのはくそでっかい地中モンスターの土ドラゴンだ。
頭に夢のドリルが付いた大型のトカゲ型の怪獣である。
「こんなの相手にできるわけないじゃない! 逃げよう!」
「モグラじゃ無い」
「え?」
私が撤退を促した相手であるところの幻覚ちゃんが、ジト目で土ドラゴンを見つめている。
ご立腹のようだ。
「モグラじゃ無い」
た、確かにこれはモグラかと言われれば、ちょっとばかし違うかな?
「私が期待しているのはあんたじゃないし! かーえーれ! かーえーれ!」
土ドラゴンが心なしか凹んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
ドラゴン相手に帰れコールをする十歳児というのもまた凄い図だ。
取り合えず幻覚ちゃんが襲われるのも嫌なので、ドラゴンと彼女の間に私が入る。
なんか今このドラゴンが『うお、まぶし!』ってなった気がする。土の中の生き物が、太陽の出てる外に出ればそうなるのは当たり前か。ならもうとっとと帰れよ。
「今、リンさんを見て『うお、まぶし!』ってなりましたね」(メガネくいっ)
私かよ!
いつものごとく、いつの間にか近くに潜んでいたメガネニンジャの登場である。どーせ最初から真横にいたんでしょうね、気が付かなかったけど。
「で、あんたは一体なんなのよ? 土ドラゴンがこんな所で何してるのよ、私たちと戦うっての?」
『モグ』
うむ、わからん。
「眩しくてやってられないから降参する。モグラと間違われただけでも凹むのに、幼女にモグラ以下の扱いされて死にたくなった、モグラの方が可愛いからかチックショーモグって言ってますね」
モグしか言ってないよねこのトカゲ。
それにモグラへの期待値が高いのは〝朝ごはんのお肉になる〟って事なんだけど、そっちの方がいいのかな。
「ねえリンお姉さん、あのメガネの人は何でドラゴンと意思疎通ができてるの?」
「世の中には気にしてはいけない事があるのよ」
ああ、懐かしいな。ロリっ娘ちゃんともこんな会話したっけ。
私が眩しいってどういう事だろう、眩しい美少女という事でいいのかな? 土の中の生き物だから眩しさに敏感なのかも知れない。
「これどうしようかリンお姉さん。村の人も困ってるし、とっとと討伐して朝ごはんにしようか」
ど、どっちの意味だろう。朝ごはんを食べに行こうなのか、こいつを朝ごはんにしようなのか。
どっちにしてもドラゴンなんか相手にできるか、こんなデカブツは討伐しようがないぞ。ここは大人しく帰ってもらった方がいいんじゃないだろうか。
「ほ、ほらモグラじゃないし、無関係の通行人かも知れないしさ」
「右手の爪の間に挟んでいるそのお芋が動かぬ証拠だよ、畑荒らしの犯人はこいつだよリンお姉さん!」
あほかあああ! 犯罪の証拠を何あっさり発見されてんのよこのポンコツドラゴンめ!
そういうのはこっそりと土の中に埋めて証拠隠滅しとけよ! 土の中に埋めるだと!? ひいいい怖い!
「犯人はやっつけなきゃだよ!」
「そ、そうね。討伐しなきゃいけないんだけど、降参するって言ってる相手を討伐するのも気が引けるわね」
降参したいのは私である。
「モ、モブ男君たちも落ち着いて、先走らないでね」
私は後ろの方に声をかける、いつものごとく気配が無いからいるのかいないのかわからないんだけど。
また、わーっとドラゴンに挑みかかられても困るのだ。モブの衆はどんな動きをするか気配がわからないから怖い。
「お待ちください」
私がどうしようか、いやどうやってここからとんずらしようかと模索していると、穴の中から女の子が出てきた。
十代半ばくらいの少女だが、これもまさか土ドラゴンだろうか。おいおい二体に増えちゃったよ。
「私はドラゴンでもモグラでもありませんからご安心ください。とても可愛い一五歳の少女です」
穴から這い出ようとするのをドラゴンが咥えて引っ張り上げている。
なんだか見覚えがあるような無いような女の子だ。結構可愛いからとりあえず抱きしめてもいいだろうか。
「この猫は私におやつをくれようとしただけなのです。勝手にお芋を採って申し訳ございませんでした、代金は後程城の者に届けさせますのでご容赦下さいませ。一億ゴールドくらいでいいのかしら。申し遅れました、私はルーアミル・アンゼルマ・エリカヒルデと申します。職業は王女を嗜んでおります」
一番最初のセリフが気になりすぎて、後半が全く頭に入ってこなかったよ。
これ――
どう見ても猫じゃないよね!
「あらあら、猫ですよ? 私が小さい頃からよくオヤツを持ってきてくれていた猫ですけど? そうね、あの頃はこの子もまだ小さかったからわからなかったけど、こうやって大きく育ったら若干違和感が無いかと言われれば、普通の猫とはちょっと違うのかなとは思いますが」
見るからにくそでっかいトカゲだよ!
この子、本物の猫を見た事あるのだろうか。ドラゴンを猫と間違えるとは相当のうっかりさんだよね。そんな子普通いないよね。
「ねえリン。私今、リンにもの凄くつっこみたいんだけど」
うん? どうしたのかなフィギュアちゃん。
ほら、幻覚ちゃんもトカゲを猫と間違える女の子をポカーンと見てるよ。普通そんな反応になるよね。
「私がポカーンしてるのはそこじゃないよリンお姉さん」
わかってる、私だってわかってるよ。後半にとんでもない告白を聞いた気がするんだよ。でも長い名前は覚えられないんだよ!
二文字くらいにまとめてもらえないだろうか。で、確か、お、王女って言ってたよね。
「お芋の値段は一億ゴールドじゃないよ。何、一億ゴールドって、ペロニャン何本買えるのかな。うちのお得意さんになってくれないかな」
そっちのポカーンだったか!
「と、とにかく、お芋を無断で拝借するのはいけない事なのよ。さすがに代金は一億分の一ゴールドくらいでいいけどさ。今まで畑を荒らした分×一ゴールドでいいんじゃないかな」
「今まで? お芋を頂いたのは今回が初めてですけど」
うわあ、つまり真犯人のお芋泥棒モンスターが他にいるって事か、めんどくさ!
ここで私が穴に落ちて、モグラのモンスターに追いかけられるイベントとか発生したらたまったものじゃないぞ。
そう思った瞬間、幻覚ちゃんやお姫ちゃんの姿が忽然と消えた。いや周りの風景が突然変わったのだ。
どこだここは! いったい私はどこのワールドに転移召喚されたんだ!
結論から言うと私は穴に落ちたのである。
次回 「地下ワールドでの死闘」
リン、電撃を出す




