第81話 私を待っていたという謎の老人
目の前の孫を連れたお爺さんは、私たちが来るのを待っていたと言った。
ま、まさかこのお爺さんは未来予知のスキルを持った、もの凄い御仁なのかも!
人の出入りが少ない人々から忘れ去られたような村には、よくこのような謎の長老が存在するものなのである。
突然人々に世界の根幹にかかわるような隠された伝説を語ったり、預言を食らわせてきたりするのだから侮れない。
そう思うと、この御仁からとてつもないオーラが出ている気がしてならない。
このお爺さんは私に何かを伝えるために現れた。私は今、私自身の人生の分岐点に到達しているのかも知れない。
例えば、私が実は〇〇であった! みたいなアレである。
手を繋いでいた男の子が、そのもの凄い御仁の手を引っ張っている。
「爺ちゃん爺ちゃん、まだ冒険者ギルドに依頼出してないよ」
「そうじゃったかミチ子さんや、わしもうっかりしとったわ」
「爺ちゃん爺ちゃん、俺かーちゃんじゃなくて、孫のタマ吉だよ」
「おうすまんかったのう、朝ご飯はまだかいな」
さて、先に進もうか。
もうすぐ夕方になるっていうのに、とんだ道草を食ってしまったわ。
「待ってください、爺ちゃんや俺たちが冒険者に用事があるのは本当なんです」
「冒険者? はて、なんじゃったかいな」
なんだろう……もう帰ってもいいかな。
割烹着コントの脱力感を思い出してしまうよ、爺ちゃんと孫コントには私は付き合わないからね。
今回は一切つっこまない、何が起きても全て華麗にスルーするのだ。私の鉄の決意である。
「すみません、爺ちゃんすっかりボケちまって」
シャキーン!
「舐めるなよ小僧! わしゃすっかりどころかしっかりしとるわ! お前は孫のタマ吉十一歳と三ヶ月、おにぎりトンビ座でHP15の、称号〝村の子供〟じゃ!」
「なんなのその称号! おにぎりトンビ座なんて初めて聞いた星座!」
ああしまった、ついうっかりつっこんでしまったじゃないの。
今ので私の体力が三分の一消費されたわよ!
「間違えたかのう……。おにぎりトンビ座なんて、わしも初めて聞いたからのう……」
くう、我慢、我慢よ私……私は我慢強い子だって近所でも評判なんだから。
「おにぎりカラス座じゃったかのう」
そんな星座も聞いた事ねえし! ああ! しまったあああ。
「すみません、爺ちゃんはボケという言葉を聞くとシャキーンとするんだよ。因みにおにぎりトンビ座で合ってるよ、この村特有の星座なんだ」
あるんだ、ホントにあるんだその星座。
「おにぎりトンビ座というのは、おにぎりを食べようとした少年神アポリンが、トンビにおにぎりを掻っ攫われて八十八日間嘆き悲しんだという神話から来ている星座ですね。私のノートの星座の章に記載してありました」(メガネくいっ)
どうでもいい無駄情報をありがとうメガネ君。
八十八日も泣いてる暇があったら、新しいおにぎり握れよ。
「おにぎりカラス座はわしじゃったわ! さあさあ旅の方々、お疲れでしょう。我が家でくつろぎながらちょっと話でも聞いてくださらんかな」
「因みにおにぎりカラス座という星座はこの村には無いよ」
我慢我慢……私は我慢強い子……。
「参考までに言うと、爺ちゃんはおにぎりオサル座だよ」
「おにぎりオサル座というのはですね――」
もういいよメガネ君、少年神がおにぎりをオサルに取られて泣いたんでしょう?
「私のノートの星座の章が未完になっていて、記載がなく永遠の謎となっています」(メガネくいっ)
完成させとけよ! 何日嘆き悲しんだのか気になってきたじゃないのよ!
「それで、このお爺さんが私たちに用事があるのね」
「うん、爺ちゃんというか村人全てがね。爺ちゃんこの村の村長なんだ、ボケ爺さんだけど」
シャキーン!
「ボケとらんわ貴様! わしは村長のオオボッケーでござる」
「因みにオオボッケーは婆ちゃんの名前だよ」
「すみませんでした、もう勘弁してください」
めんどくさい村に来てしまった気がする……もう帰りたい。ここに立ち寄った人間は全員そう思うだろう。
モブ男君も苦笑気味か、私はすっかり脱力気味だ。
お爺さんとメガネ君によって私の体力はもう半分以下である。敵は味方の中からも現れたのだ。
「皆さんこちらへどうぞ」
おにぎりトンビ君は私たちを家に案内しながら、チラチラと私と幻覚ちゃんを気にしている。ちょっと顔も赤いかな。
村の少年としては、外からやって来た綺麗なお姉さんと、同年代くらいの町の垢抜けた少女が気になって仕方無いのだろう。幻覚ちゃん可愛いしね。
私はさすがに六歳も年下だと異性とは感じられないけど、幻覚ちゃんはどうなのかな。いい感じに発展するんじゃないのかな。
乙女としては人の色恋沙汰には興味津々を呈したいのだ、ホントは一ミリも興味無いけど。
「え? 私今のところモグラにしか興味無いけど」
少年の恋はいきなり散った。
さらば少年!
「少年は将来、有望なモブ村民になれるブヒ」
「ふむふむ、十一歳で散ると」(メガネくいっ)
やめてあげて! 散った記録をノートに記録しないであげて!
「こうやって少年は大人に成長していくんだよ」
遠い目だけど、少年時代に何があったモブ男君。
「うむ、あれはわしが少年の頃じゃった」
なにやら遠い目でお爺さんが語り始めた!
「という話だったんじゃ」
何がよ! 話の内容を全部すっ飛ばすなよ! 気になるじゃないの!
少年神はオサルにおにぎり取られて何日泣いたのよ!
モブ男君は少年時代に何があった!
どうしよう、つっこむ所が多すぎて私の能力をオーバーしたよ。
「実はモンスターを倒して欲しいのですよ」
そう言っていきなり本題をぶち込んで来たのは、私たちが家に上がってからお茶を持って現れたお婆さんである。
冒険者が旅の途中に寄った村でモンスター討伐を依頼される。
よくある話である。
おかしい、二行で済む話なのに何故か私の体力はゼロなのだ。
このお婆さんが出てきてくれなかったら、私は死んでいたかもしれない。
冒険は恐ろしい。
次回 「大喜びの幻覚ちゃん」
リン、嫌な予感を覚える




