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第78話 盗賊団がポンコツ化


 盗賊団の数は七人。

 昨日より一人少ないな、留守番かな。


「なんだてめーらは!」

「こいつら昨日ドラゴンと一緒に、馬車で飛んでった泥棒チームじゃねえのか」

「そうか? こんな連中だったっけ」

「初めて見る顔だが」


 泥棒じゃねえっつってるのに。

 モブ男君たちを覚えられないのはよくわかる。

 一回会っただけで覚えられるのなら、こんな所で盗賊なんかやってないで今頃学者か神様でもやってるはずだ。


「間違いねえよ、この嬢ちゃんの頭と顔と胸は覚えてる」


 このエロ盗賊が、嫌な記憶の仕方しないでくれるかな。


「ちょっと可哀想だなと思ったんだよ」


 どれが!? 頭と顔と胸のどれが可哀想なの!?

 ああそうか、胸にフィギュアちゃんを入れてるからいい年して可哀想な子扱いにされたって事か。なんだいつもの誤解か、ああよかった。


「何が可哀想だと思ったって言うとな」

「真相は明かさなくていいわよ! 墓場まで持っていけ!」


「ああ、俺も見覚えあるわこの姉ちゃん。昨日も男三人連れてたけど今日も別の男三人侍らせてるとか、随分モテる姉ちゃんだな」


 残念ですが昨日のメンバーと一ミリも変わってません。


 盗賊たちが私たちの方に剣を向けてきた。


「ほら兄ちゃんたち、その娘っ子を置いてさっさとどこかに行きな」


 残念だけど幻覚ちゃんもお母さんも私もついでに荷物も、あなたたちに掻っ攫わせるわけにはいかないのよね。


「悪い事は言わないから、何も取らずにここから大人しく立ち去りなさい」

「ははは、脅してるのか。昨日も戦おうとしなかったし、その兄ちゃんたちがめちゃくちゃ強いってわけでもなさそうだな」


「めちゃくちゃ強いわよ?」


「はったりだな」

「一生懸命強く見せようとして健気だねえ」

「ぎゃはは、可哀想」


 私は溜息を一つつく。


「いいから消えなさい。私たちに手を出すとめちゃくちゃ強いアレが黙ってないわよ?」


 私のとある方向を差す指を盗賊たちも目で追った。それはモブ男君たちではない、それは空である。


 空には一匹の猫が飛んでいた。

 考えてみたらシュールな図だ。


 今日も子供たちの為に物資調達にせいを出しているのだろうか、お仕事ご苦労様です。

 ドラゴンに手を振ると、『ニャー』と返事を返してそのまま飛び去って行った。


 うん、『こっちに来て』という合図だったのだが、いまいち猫には伝わらなかったようだ。


「おおお、驚かせやがって」

「お前らの切り札は飛んでっちまったぜ?」

「さあどうするよ姉ちゃん」


 うう、こっちは七人、あんたたちも七人。数の上では互角なんだからね! 半分以上は女性とフィギュアだけど。


「上玉の女が三人も手に入ったぜ、ぐへへ」

「売り飛ばす前にお楽しみだな、ぐへへ」


 うわー引くわー、幻覚ちゃんはまだ十歳なんだけど、引くわー。

 ジト目の私に盗賊がちょっとうろたえた。


「何だよその目は、盗賊は女子供を掻っ攫ってこその盗賊なんだよ!」

「恨むのなら何の力も持ち合わせていない自分自身を恨むんだな」

「それとも何かとんでもない力でも持ってるのか?」

「おう見せてみろ見せてみろ、そのとんでもない力ってのをよ。ゲラゲラ」


 ゲラゲラ笑う盗賊の前で、私は相変わらずのジト目である。

 こいつら盗賊って、人の人生を台無しにするんだよね。平和に暮らしている何の罪も無い人の将来をさ。


「お、おいその目をやめろよ」

「どうしたお頭」


「こいつにこの目はさせちゃいけないって、俺の五感が訴えている」

「あ、あっしもさっきから背筋がざわざわする。守護霊様が騒いでるのかな」


「この目は、今までにも貴族や悪魔を泣かせて来たような目だ」


 失礼ね、村にいた頃にアレンタ君をいじめてた近所の悪ガキしか泣かせてないわよ。


「お頭! 靴の紐が切れた」

「ベルトも切れたぞ!」

「俺のカツラが風で飛ばされた!」

「お頭の剣が竹光になってる!」


 大事な剣を質屋に預けてるんじゃないわよ! それからズボンを穿け!


 私が顔を覆った手の平の指の間から盗賊たちを凝視していると、森の方から『ドーン』という爆発音が聞こえた。


「何事だ!」


「お頭ー! 大変だー!」


 血相を変えて森から転がり出てきた盗賊が一人。きっと留守番していたやつに違いない。


「アジトの厨房が吹き飛びました! 昼飯作ってて、塩と火薬を間違えた!」

「はあん?」


 火薬味ステーキかしらね、それとも火薬釜焼きかな? 随分斬新な料理だ。一回食べてみたいから食事に誘ってもらえないだろうか。


 それはそうと随分近くにアジトがあったものね。

 貴族でも襲わない限り討伐隊は出ないもんだからって、ゆるゆるの生活してんじゃないわよ。


「馬鹿野郎! 火を消せ! アジトには俺の大事なコレクションが!」

「いやーそれが、あはは」


 報告に来た盗賊は引きつった笑顔でポリポリと尻を掻いている。そこは頭を掻くところじゃないのかな。

 コレクションごと吹き飛んだってオチだろうか。


「爆発の直後にドラゴンが飛んで来て、アジトを掻っ攫って行きました。ええ、頭のコレクションごと」

「のおおおおおおおおおおお!」


 あらあら、爆発の煙がいい目印になったのね。『おや、こんなところにお宝にゃー』てなもんだろう。

 一般市民の物資は持って行かないように猫には言っておいたけど、盗賊のお宝ならなんの遠慮もいらないよね。


「お前がそんな目をするから、子供の頃からせっせと集めた俺のカードコレクションの集大成が消えちまったじゃねえか!」


 知らねーわよ!


「くそ、こうなったら何が何でもお前らを売り飛ばしてやる」


 あーこりゃだめだ。大事なコレクションを失って自暴自棄になってるよこの人。ハンカチ貸してあげるからその涙と鼻水を拭け。


 その悲しみはわかるわよ。私も子供の頃に集めてたおばば様カードコレクションを、カナにご飯を作る燃料として全部燃やされて、キレイサッパリ消えた事あるもん。


 まあ、出来上がったハンバーグステーキで、私の悲しみもキレイサッパリ消え去ったけどね。

 カナにゴミだと思ったと言われて思い返せば、何故私はおばば様カードコレクションなどという謎のアイテムを集めてたのか疑問に思ったものよ、洗脳ねあれは。


「お頭、やめた方がいいって。こいつらドラゴン盗賊団だ、敵わねーって」

「ドラゴンを飼って仕事する盗賊団だろ、なんて恐ろしい」

「俺が飼ってるカブトムシとは比べ物にならん」


 虫とドラゴンを比較すんなよ!


 盗賊団のリーダーはその竹光で何しようってのかな、いくらなんでもモブ男君の鉄の剣の方が強いよね。

 なんなら私のロッドでもいけそうだから、足の小指でも叩いてやろうかな。


 それに――


「私たちに手を出すとめちゃくちゃ強いアレが黙ってないわよ?」


 私が指差す空には猫が飛んでいた。

 アジトはもう運び終えたのだろうか。それとも大したものが無かったから途中で捨てた? 容赦無いな猫。


「ああ、私を見つけたからオヤツを持ってきてくれたんだ、ありがとう猫」


 私が下りてきた猫からオヤツを貰ってから振り返ると、盗賊たちが消えている。

 あらやだ、知らない内にドラゴンが食べちゃったのかしら。お腹壊したらどうしよう。


「あいつら泣きながら速攻で逃げて行ったよリンお姉さん。ニンジャかと思っちゃった」


 次回 「幻覚ちゃん母娘を護衛しよう」


 リン、トラウマの貴族を思い出す

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[一言] 盗賊達を討伐しないのか モブたちよ
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