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第73話 相手は軍隊かー


「んがっがほっんぐ」


 の、喉が! ステーキを詰まらせて昇天とか幸せな、じゃなかった乙女的に食いしん坊キャラみたいな昇天をしてたまりますか!

 み、水!


「うわーん、大きい子ちゃんが死んじゃったああ!」


 いえ死んでないから、ちょっと走馬灯が見えただけだから、利根四号ちゃん落ち着いて。

 川の向こうから手を振ってる人も見えたけど、あれ誰よ。


 とりあえず持って来てもらったお水を飲んで一息ついた。


「リン、そういう時は何か飲み物を飲んでからブーが様式美として正解なんだよ、ステーキでチャレンジしちゃダメ、危険すぎる」


 何の話かなフィギュアちゃん。


「軍隊が集結してるって本当なの?」

「みんな同じ鎧着てたよ、盾と武器も持ってた」


 うわーマジかー。


 やっばいなあ、ここが居心地良すぎて長居しすぎたのが原因かな。

 軍隊の目的はやっぱり私だよね。別邸から二度も逃げたから、とうとう王子が強硬手段に出てきたのだろう。


 軍隊がこの山を攻めるという情報に、子供たちの間にも動揺が走っている様子だ。

 利根四号ちゃんの報告は結構大きな声だったもんね、この点もしくじってしまった。


「みんな落ち着いて。大丈夫だからね、軍隊なんて怖くないから」


「何そのちっこいやつ!」

「ふあああ! 妖精だあ!」

「妖精なんて初めて見た!」

「これはやばすぎる!」


 そっちの動揺か!


 フィギュアちゃんの時は驚いてなかったよね! いつの間にか普通に遊んでたよね!

 妖精より動いて喋るフィギュアの方がよほどレアリティ高いんだけど。


 利根四号ちゃんの方は『わーい人間の子がいっぱい!』と喜んではいるものの、決して子供たちには近づこうとはしない。警戒しているのね。


 賢明だと思う。興奮した子供たちって平気で羽とか毟りそうだし、力加減に不安がよぎるよね。

 この前利根四号ちゃんがこの子供たちの楽園にいた時に、ずっと私のリュックの中で寝ていたのはそのせいだったのか。私のリュック内に巣を作ってたんだよね。


 実際フィギュアちゃんなんて踏まれるわ、ぶん投げられるわ見ててはらはらしどうしだもの。

 一緒に遊んでる時なので、本人がけらけら笑ってるから大丈夫なんだろうけど。


 さてそんな事よりも軍隊だ。軍隊が襲ってきたら、今度はこちらが踏まれたりぶん投げられたりする側なのだ。

 フィギュアちゃん体験コースは遠慮したい。


「結構楽しいよ? ブーン、バキ、ゴキって」


 いや遠慮します、フィギュアちゃん。


 モブ男君たちも私の周りに集まってきた、というよりいつの間にか取り囲まれていた。気配も無く囲むのやめて欲しい。

 これから緊急モブ会議である。


「この山の中腹までのモンスターで、軍隊を押し戻せるかな」

「無理だろうね、一点だけを集中して効率よく狩られたら、ここまでの道は開いてしまうと思う」


「待ち伏せしてトラップを仕掛けようにも、逆にモンスターが邪魔だブヒ」

「この山に軍隊を侵入させない方が賢明ですね」(メガネくいっ)


 キャットドラゴンだって軍隊相手じゃ無傷とはいかないだろうし、なんといってもこの猫ドラゴンは子供たちの楽園の生命線なんだ。戦わせるわけにはいかないよ。


「となると、もうやる事は決まったよね。私が軍隊の前に出て行って姿を見せた後で逃亡。軍隊丸ごと違う方向に一本釣りするよ」


 もともと私がここにいるせいだ、私が動かなくてどうする。


「姫が危険ブヒ」

「仕方無いよ、私の身の危険とここが壊滅する事を天秤にかけたら、どっちを選ぶべきかわかるよね」


「僕たちからしたらどっちも嫌だけどね。でもリンがそうしたいんだよね」

「うん」


「じゃ僕たちの行動は決まってるよ。リンと行動を共にする、それがこのパーティーだ」

「一緒に大物を釣り上げましょう」(メガネくいっ)

「ゲーム屋のフィギュア釣りゲームで、釣りすぎて出禁になった腕を披露する時が来たブヒ」

「私も釣りしたい! そして煽りたい!」


「みんなありがとう、フィギュアちゃんも程ほどにね」


「あ、あの、リンナファナさん」


 ロリっ娘ちゃんが心配そうにこちらを見ている。その後ろにはさっきパーティーを組んでいた二人の少女も見える。


「というわけで、私たちそろそろおいとまするよ」

「私も一緒に行ってリンナファナさんを守ります」


 ロリっ娘ちゃんの言葉に、ジーニーちゃんとミーナスちゃんもこくんと頷く。みんなもついて来てくれるんだね、嬉しいけどそれはダメだ。

 下手したら軍隊と争う事になるのに、まだ冒険者でもないこの子たちを連れて行く事はできない。


「ありがとう、でもあなたたちが守るべきはここよ、だからここでお別れ。一度だけだったけどさ、みんなとのパーティー本当に楽しかった」


『わああああーん』


 三人の少女に抱きつかれて泣かれるのは辛いよ。私だってここにいたいよ。

 私は三人の頭を撫でながら、一人一人涙を拭いてやる。


「大丈夫、私は逃げ足早いんだからね。さっと逃亡してほとぼりが冷めた頃にまた遊びに来るよ」

「本当?」


 少女たちの涙で光る目が私を見つめる。なにこれ宝石かな。


「だからその時はさ、またみんなで一緒にパーティーを組もう」

「楽しみですリンナファナさん」

「私頑張る! 頑張って強くなってリンお姉ちゃんとパーティーを組む」

「私だって上級治癒魔法を覚えるからね!」


 お、おう、ますます私が要らない子になりそう。


「女の子が三人も増えたら華やかすぎて、もうモブパーティーじゃ無くなっちゃうね」


『あははははははははははは!』


 私たちはお腹を抱えて、涙を浮かべて笑い合った。


 みんなごめんね、もしかしたらもう私は戻ってこれないかも知れない。相手は軍隊だ、これが最後のお別れになるかも知れない。

 でも私は行くよ。その笑顔を私に守らせてね。


「おーいドラゴン! ちょっくら私たちを麓まで乗せてって貰えないかな?」


 呑気に徒歩で山を下りて途中途中でモンスターと戦っている間に、軍隊の進撃が始まったら止められるものも止められない。

 ここはドラゴンに乗せて行ってもらおう。


「で、結局僕たちは風呂敷包みなんだね」


 ドラゴンの背に乗り私は精一杯手を振った。モブ男君たちは相変わらずの風呂敷包みの中だ、きっとドラゴンの中ではそうなっているのだろう。


「みんなー! 元気でね!」


「お姉ちゃんたち! またねー!」

「モブパーバンザーイ!」


 子供たちと別れて空から一気に山を下っていく。

 もう私の目に涙は無い。


 目標は軍隊だ!


 次回 「山の殲滅」


 リン、取り乱して叫ぶ

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