第67話 王子の前に引きずり出された
馬車は数時間ほど走っただろうか、やがて町に到着したようだ。
あれから馬車の中は大騒ぎだった。
拳からトゲを抜くので散々騒いだ後で治療を終えた役人が、懐に隠れたフィギュアちゃんを引っ張り出そうと、私の服の中に腕を突っ込んだのだ。
結果私に噛みつかれ、服の中ではフィギュアちゃんのトゲに再び刺されて役人の腕はぼろぼろになったのである。
フィギュアちゃんは、トゲを何本も私の服の中に用意しているのだ、私に刺さらないようにしてもらえると助かる。
美しいバラにはトゲがあるのよね、身を持って知った事だろう。
キレた役人から脳天に空手チョップをお見舞いされたけど、結果にはほぼ満足なのである。でも鼻水と星が出た。
馬車は町に入った後も進み、やがて大きな屋敷に到着した。小窓から見えるのは見覚えのある屋敷だ。
まず役人が先に馬車から降りていった。
「お探しの娘を連れてまいりましたぞ!」
「おお! でかした、ご苦労であった」
うわー公爵の声だよ。
つまりこの町はコッカーの町か、またもやここに逆戻りしてしまったわけだ。
歩くと時間かかるのに馬車を飛ばすとあっという間ね。馬車買おうかな?
「本当に苦労いたしました、でも殿下と公爵閣下の為、粉骨砕身の働きができて光栄であります」
殿下だと。
「娘がこのドレスを所持しておりました、ご確認を」
「まさしくこれは私がこの別邸にて用意させたものだ」
うわー王子もいるよ!
見覚えがある屋敷だと思ったら、この前の王子の別邸だったのか。
公爵と王子って敵対してたんじゃないのかな、二人揃って何してんのよ。
まあ王侯貴族なんて表では仲良く、裏で暗躍なんて珍しい事ではないか。知らんけど。
「あの馬車の中か」
「は、今引き出してまいります」
役人が馬車の扉を開け、私に降りろと促した。
こんな姿で出るのやだなあ……私顔が腫れて赤いし、鼻血が出たの拭けて無いし。ついでに涙も鼻水も拭けてねーわよ。
これではまるで屈強な男ばかりの逆ハーレムに涙を流して興奮して、鼻血を出したイカレた変質者みたいになってるじゃないの。
初等治癒魔法で治療したかったけど手枷と足枷が鎖で繋げられていて、手が顔まで届かなかったのよね!
乙女が馬車から降りる時は華麗に降りたいのに、引きずりだされてしまったよ。足枷のせいでまともに歩けやしない。
「おお、リンナふぁ――」
あ、私の姿を見て、王子と公爵が面白い顔になった。私の村のハニワ君人形だ。
良かった、私の村の名物人形は未だ健在のようでなによりだ。
この前、フィギュアちゃんを洗って私を着替えさせてくれた人だろうか? メイドさんが何人か気を失った。
「そ、そのお顔の怪我は」
「ちょっと転びましてね」
殴った役人の成敗した手柄にさせないわよ、痛かったんだからね!
「私が自ら尋問してやったのですよ!」
「違いますーあんたのへなちょこパンチなんか痛くも痒くも無かったですー、これは馬車にぶち当てただけですー」
「なにおう! 殴られて泣いてたくせに!」
「あまりに遅いパンチにあくびが出ただけですー」
完全に子供の喧嘩だ。
「うぐぐ、殿下! こいつの両腕は私に斬らせて頂けませんか、噛み付かれた上にトゲを二本も刺されたのですよ! 殿下の御前にて窃盗犯の腕を、この私めが見事に斬ってご覧に入れましょうぞ!」
役人が私の両足を払って私は顔面から地面にダイブである。
まいった、手足を拘束されていると受身がとれない。フィギュアちゃんが私の豊満な胸で潰れてなければいいけど。
「リンの胸は慎ましいから大丈夫だよ」
フィギュアちゃんが何だかおかしな事を言っている。まあフィギュアちゃんが無事ならいいか、地面にぶち当たった私のおでこはめっちゃ痛いけど。
そんな役人と私を、王子ハニワ君と公爵ハニワ君が仲良くポカーンと眺めている。新しい置物かな?
「さあ両腕を前に突き出せ小娘! 叩き切ってやるわ。さっきはよくもコケにしてくれたな、思い知らせてやる。あー気分がいい、はははは!」
仕方無しに私は両腕を前に突き出した、鎖が邪魔で上手く突き出せないからもの凄く不恰好な姿である。
今後は切られた腕を仕込み剣とか飛びだすパンチとかに改造しよう。でも乙女的には鏡と櫛を仕込む方がいいかな。
役人が剣を振り上げて私はぎゅっと目を瞑る。
「おい衛兵、この愚か者を捕らえよ」
「抵抗したらこのウンコ役人の首を刎ねていい」
あ、ハニワ人形ズが喋った。置物では無かったみたいだ。
兵士たちに押さえ込まれて、自分に何が起きたのかわからずに驚愕しているのは役人だ。
屈強な男たちによって拘束された役人は、まるで人形のように立たされた。数時間前の私の姿がそこにあった。
「な、何故私が捕らえられるのですか!? ウンコ役人? 何かの間違いでは?」
わかってない、この人は何もわかってない。私にはこうなる事はわかってたよ。
だから特に抵抗もせずに成り行きにまかせていたんだ、むしろ哀れみすら感じてたよ。
だってそりゃそうだよね、王子専用サンドバッグを他人が使っちゃまずいよね。この王子は私が自分で腕を切るのですら許さなかったんだよ、全部自分がやりたいのさ。
公爵と王子が私の元にやって来た、来なきゃいいのにやって来た。
「リンナファナ嬢! おいたわしい」
「リンナファナ嬢! なんという事だ、こんなブサイクになってしまって」
おいこら王子。
「最上級の薬を持って来い! 王家の秘薬でもかまわん、どんなバケモノも一発で治る魔薬だ!」
おいこら王子。
「枷を外して頂ければ、自分で治せますので」
このままではどんな危ないお薬を飲まされるかわかったものじゃない。お薬キメて一瞬で周りがお花畑とか勘弁して欲しい。
とにかく手枷と足枷を外してもらって、ようやく治癒魔法を使う事ができた。
顔の腫れが一瞬で治り、私は美しさを取り戻したのだ。
「やはり最上級の薬を用意させましょうか?」
おいこら王子、どういう意味よ。
結局私は最上級のお高いお薬を使われた。
「ああ良かった、可愛いお鼻の血がやっと取れました」
こいつ最上級の薬で私の顔を洗いやがった!
あまりの贅沢さに一瞬意識が飛びかけたわ。なんという恐ろしい攻撃をしかけてくるのか、まだまだ侮れないわねこの王子は。
「ち、因みにお聞きしますけど、このお薬はおいくらゴールドするものなのでしょうか」
「うん? たかが城が一軒買えるくらいだろう、大した事はない。リンナファナ嬢?」
しまった五秒くらい白目むいてたわ。
「あの、嬢とか呼ばれてますが、その娘はどこぞの平民のドレス窃盗犯ではないのですか?」
もしかして自分はとんでもない間違いを犯してしまったのではないか、そんな感じの役人が聞いている。
でも借りパクなので正解です。
「そのドレスは私が彼女に贈り物として渡した物だ」
「えええ……」
私の借りパクは無かった事にされた!
つまり窃盗犯だと両腕を勝手に斬られてしまう事になるから、自分の楽しみを取られてたまるかいというわけかな。なるほどさすがホラー王子、自分の趣味に全力で生きている。おーこわ。
「この場で即首を刎ねられないだけましだと思え、その者は地下牢へ連行しろ」
「何が起こるかわかりませんからな。賢明なご判断です殿下」
顔面蒼白な役人は、そのまま地下牢へと引きずられていったのである。
次回 「王子の別邸から脱出せよ」
リン、馬車に乗り込むも馬がいねえ




