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第63話 利根四号ちゃんからの贈り物


 妖精ストライク。

 それはドラゴンですら撃墜する、妖精の子の突撃である。


 超高速で音より速く突っ込んでくるのだ、ドラゴンもたまったものじゃないだろう。

 障害物が多い森の中ではそんな速度では飛べない為に、妖精の子を襲う相手、例えばオーガなどには使えないのが残念だ。


 だが高空を飛ぶ者や、サイクロプスのような剥き出し丸出しの巨人には効果覿面なのだ!


 妖精は一瞬でサイクロプスに到達した。

 巨人が私に触れるよりも早く、私が息を呑むよりも早く。


――シュッゴオオオオオオオオオオオオン――


 突っ込んだ後からもの凄い音と衝撃波が追いかけてきた。

 やったか!


 私は地面に張り付いて衝撃波からフィギュアちゃんと自分の身を守りつつ、状況を把握しようと顔をあげる。

 巨人はどうなった。


 だが妖精の子は弾き飛ばされた。攻撃の意思を持った妖精ストライクは、残念な事に攻撃とみなされたのだろう。


 サイクロプスの攻撃阻害のスキルを通すことが出来なかったのだ。

 これが普通に移動中での交通事故だったのなら、サイクロプスはぶっ飛んでいたに違いないだけに残念だ。


 そのまま突っ込んで来たのと同じ方向に、跳ね飛ばされていく利根四号ちゃんを見送る。

 ありがとう利根四号ちゃん。小さな身体で頑張ってくれたんだね、本当にありがとう。


 サイクロプスはというと、さすがに突っ込んで来た衝撃全てを跳ね飛ばすというわけにもいかなかったようで、私から離れるように押し戻されたようだ。


 攻撃阻害の結界ごと巨人を押し流したのだ、とてつもない体当たりだよ利根四号ちゃん。


 妖精の子の突撃は、私に少しだけ時間をくれたようだ。だがこの時間を利用して私は逃げるわけにはいかない、それだと村が襲われてしまうからだ。


 もう私は覚悟は出来てるんだよ、後は私とフィギュアちゃんの共同作業で巨人を殲滅するんだって。


 でもせっかくの利根四号ちゃんからの贈り物なのだ、この時間を有意義に使おうと思う。

 彼女の突撃は、寂しい気持ちで食べられるのを待つだけだった私に、最後に笑顔をくれたよ。


 何をしようか。


 よし、やっぱり最後の晩餐だよね、まだお昼だけど。

 私は何か美味しい物を食べて終ろうと思う、それが一番私らしい終わり方なんだよ。


 食べられる前に食べる。さっきまでの寂しい気持ちは払拭して、幸せな気持ちのままで締めくくろうじゃないか。


 何かあったかなと、担いでいたリュックを下ろして中を探る。レモンのハチミツ漬けはもう全部消費してしまった。

 探していると、昨日お祭りで村のパン屋さんから貰った食パンが出てくる。食べ切れなくて仕舞って置いたんだった。


 なるほど、私のラストは食パンか。

 でもこのまま食べるのは味気ないな、何か塗るものはないかな。と、リュックの底からビンが一つ出てくる。


 懐かしい、これは私が勇者パーティーをクビになったその日に、隣の家の奥さんから貰ったマスタードじゃないの。

 あの日偶然にもわたしのざまぁを完遂してくれたこのマスタードが、締めくくりも飾ってくれるとか、奥さんに感謝しなければいけないな。でもざまぁは偶然だよ、偶然。


 サイクロプスが私を捕まえようと歩いてくる。もう少し待ってね、すぐに食べちゃうから。

 マスタードを食パンにたっぷりと塗った。このまま残すと痛んでしまう、そろそろ賞味期限も切れる頃なのだ。余らせたりしたら貰った奥さんに申し訳ないじゃないか。


「ねえリン、それ美味しいの? なんか鼻がツーンとするんだけど」

「これは大人の食べ物だから、フィギュアちゃんには無理かもね」


 珍しくフィギュアちゃんが食わせろと言ってこなかった、生存本能が危険を察知したのかも知れない。


 ちょっとこれは塗りすぎたかしら。

 果たしてこれを食べて幸せな気分に浸れるかどうか、少し疑問に思う所も無いわけではないけど、このマスタードは辛いけど美味しさは保証付きなのだ。


「いっただっきまーす!」


 その時突風が吹いた。

 あらやだ、突風でたっぷりマスタードの食パンが飛ばされてしまったわ。どこに行くのかしら私の最後の晩餐!


 突風で飛ばされた食パンはサイクロプスめがけて飛んでいく。

 まあどうせスキルで弾かれてこっちに返ってくるんだから、口を開けて待ってるか。


 自動で食べさせてくれるなんてサービスいいわねここ。


 と思ったら食パンはそのままサイクロプスの目に、たっぷりマスタードの面が付く様にしてべっちょりと張り付いたのである。


「ああ! もったいない!」


 そんな私の場違いな悲鳴を掻き消すほどの悲鳴を上げて、もんどりうってぶっ倒れるサイクロプス。

 そりゃ目に刺激物を投入されたんだから、たまったもんじゃないわね。


 それはモブ男君たちが駆け上がって来るのと同時の出来事である。

 ポカーンと口を開けて突っ立ってる私の横を駆け抜けて、サイクロ巨人に剣を突き刺しているのはモブ男君だ。


「やったぞ! 攻撃阻害のスキルが無くなってる!」

「きっと目を潰したからですね!」

「やっちまえブヒ!」


 モブ男メンバー、メガネメンバー、モブ太メンバーが一斉にサイクロプスに襲い掛かった。

 スキルと視界を失って倒れていた巨人は、パーティー男衆によってボッコボコにされてしまい遂にカクンとなったのである。


「やった! 倒したぞ!」

「サイコロステーキを討ち取ったブヒ!」


 すっげー……この人たち、凶悪な巨人をやっちまったよ……


 でもモブ太君、お腹が減る言い間違いは禁止です。お陰で今夜の私のお腹はサイコロステーキになってしまったじゃないか。マスタード食パンを食べそこなって、私のお腹が迷子になってるんだよ!


「凄いよリン! 攻撃の殺気を一切見せずに、偶然を装って攻撃阻害のスキルをスルーするなんて!」


 いえ、私攻撃の殺気どころか、どうせ跳ね返ってくるだろうとポカーンと口を開けて待ってて、うっかり涎を垂らしてただけなんですけど。


「攻撃阻害は目を潰せば出来なくなるってお見通しだったんですね。あんな方法をすかさず取るなんて、やはりあなたは素晴らしい頭蓋骨の持ち主ですリンさん」


 いえ、私マスタードが勿体無いから、ちょっとチャレンジャーになってただけなんですけど。

 それとどうせならそこは頭蓋骨じゃなくて、頭脳と言って欲しかった。


「大きい子ちゃーん」


 あ、利根四号ちゃんが戻ってきた。

 お帰りーお疲れ様です。今回の優勝は利根四号ちゃんで決まりだよね。


「あ、でっかい目の怪獣がカクンてなってる」


 そう言った利根四号ちゃん、石を拾ってサイクロプスにぶつけてにんまりと満足そうに笑った。


「命中ー」


 全然攻撃が当たらなかったから、ちょっと悔しかったんだね。

 ストレスは溜めない、満足できてよかったよかった。


 ストレス溜めると妖精の子は滅んじゃうもんね。


 次回 「役人が私を捕縛しに来た」


 リン、謎の像にクレームを入れる

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