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第59話 私、人気無さすぎ!


 村の子供たちもくじを引いているようだ。


「うわあ、またリンが出たよ」

「こっちもリンだ、ハズレ~」

「おーい誰かこのリンとトレードしてくれよ、勇者の剣とか盾でもいいよ」

「やだよ。リンはダブってるもん」


 くじを引いた子供たちの微笑ましい声が聞こえてくる。

 内容はあんまり微笑ましい感じではなかったわね、私のフィギュアは勇者フィギュアの装備品以下かよ!


「あらあら、可愛いリンちゃんのフィギュアやブロマイドやストラップが出るなんて羨ましいわねー」

「お姉さん、リンのファンなんだ。珍しいね」


 ファンどころか本人だわよ、こんちくしょう。


「僕も引いてみたら、リンの秘密小話っていう小冊子が当たったよ」


 私に隠れてこっそりくじを引いてたのねモブ男君。


「いや、目の前で堂々とくじを引いてたけど」


 とうとう子供たちにも紛れてしまったか、この人恐ろしいよ。

 秘密小話ってどうしよう、あんな事やこんな事の乙女の秘密がモブ男君にバレてしまうじゃないの。


 なになに? 『リンのどんぐり家出事件』、カナか! 出所はカナか!

 というか、カナは全てお見通しだったのね、家出の事は誰にも気づかれて無いと踏んで、何食わぬ顔してご飯に戻ったのにバレていたとは。親って恐ろしい。


 どれ、私も一個試しに引いてみようか。


「何が出たブヒか? おおっシークレットが出たブヒ」


 さすが私! 一発でシークレットを引くとは持ってるわね!

 どれどれ、お品物は……黒い水着姿のセクシーリン……何だこれは。私こんな水着持って無いんだけど。


「き、気を落としちゃだめだブヒ、くじはシークレットが一番のハズレの事はよくあるんだブヒ」


 私の顔が曇ったのはそっちが原因じゃねーわよ! っていうかこれもハズレ扱いなのかよ!


 ハ、ハズレはともかく、最近うちのパーティーメンバーとあまり絡まなかったら、なんだかこういうのも久しぶりで嬉しいわね。

 う、嬉しいんだからね、泣いてなんかないんだからね、これは嬉し涙なんだからね。



「あーまたハズレリンだ」

「俺もだよ、リンぬいぐるみとかどうしろって言うんだよ」

「リンシールを壁に貼ったら、かーちゃんにゲンコツ食らったよ俺」


 また子供たちの微笑ましい幻聴が聞こえる。


「あーいいなあ、私普通にリンちゃんのファンだから、リンちゃんグッズが羨ましいよ」

「あ、ケーニーお姉ちゃんだ、これ全部あげようか?」


 なんだと! このしがない村に天使様がご降臨なされたぞ!

 ケーなんとかと呼ばれたその村娘ちゃんは、見れば私と同世代の少女である。同世代だからこそ良さがわかるのだ。


 まだまだ尻の青いひよっこ共にはこの渋さがわからないのよね。

 私の事はこれから〝しぶりん〟と呼んでくれてもいいのよ。


 子供たちからリンちゃんグッズを貰った村娘ちゃんは本当に嬉しそうだ。

 ええ子やー、天使ちゃんやー。



「リン、あれなにあれ! 水あめだって! 食べよう!」


 うわー、村娘ちゃんにホクホクしてたら、フィギュアちゃんが更に上位な危険物体に気がつきやがった! あれはだめ! あれを食べる時は許可証がいるから!


「あなたたち旅人さんかしら?」


 フィギュアちゃんに適当なウソを練りこみながら、フィギュアちゃんが練りこまれそうな危険物から離していると、先程の村娘ちゃんに声をかけられた。


 服にはさっき子供たちから貰った、リンちゃんぬいぐるみが留められていた。裏がピンになっててバッジの使い方ができるみたい。


「はい、旅人です」


 逃亡の旅ですけどね。


「外部の方がこのお祝いのお祭りに参加してくれるなんて、とっても嬉しいです! これは私の門出を祝うお祭りなんですよ!」


 ほうほう、結婚ですかな? 私と同い年くらいなのに、ご結婚ですか、ほうほう。

 別に悔しくなんかないんだからね。


 村娘ちゃんに手を引かれるまま広場の中央に来ると、彼女が楽しそうに踊りだした。


「一緒に踊りましょう」


 私だってこれでも村娘なのよ、村娘の踊りなら得意!

 村娘ちゃんと踊るのはめちゃくちゃ楽しくて、周りの声援もあって最大出力で踊ってしまった。彼女の新しい門出を、見ず知らずの私でも目いっぱい祝ってあげるんだ。


 フィギュアちゃんも私の頭の上で、飛んでる利根四号ちゃんと踊っている。

 踊り終えると周りから盛大な拍手を貰った。いやー皆さんありがとう。


「ありがとう旅人さん。一生の思い出にしますね」


 目いっぱいの笑顔の村娘ちゃんはキラキラ輝いている。眩しいぜ!


「これは何の祝いのお祭りなんですか? ご結婚?」


「あはは違いますよ! これはね、これは……」


 彼女の笑顔が急に歪む。みるみるうちに彼女の目に涙が溜まっていった。


「私が……私が生贄にされる門出を祝うお祭りなの……うう、ひぐ」


「ケーニー、ううううう」

「お母ああああさん、うええええん」

「ケーニーお姉ちゃあああん」

「うおおおおおん」


 ええええええ……


 さっきの子供たちや村人まで泣き始めちゃったよ、号泣だよ。




****





「旅人さんにお見苦しい所をお見せしてしまいました。せっかく祝って頂いたのにすみません」


 私たちは村娘ちゃん改め、生贄ちゃんの家に招かれている。

 散々泣いた母娘は目が真っ赤で痛々しく、そうさせてしまったのは私の質問なんだ。楽しいお祭りをぶち壊してしまった感があって、いたたまれない気持ちだ。


 母娘の隣に座っているのが父親だろうか、その男性が静かに語り始める。


「近くの岩山にその怪物が現れたのは、今から二年前になります。村の占い師によると、年に一度若い娘をその怪物に捧げよ、さもなくば村が滅ぶと」


「それで女の子を生贄として捧げて来た、と」

「はい、今回のこの子で三人目になります」


 父親はそう言って娘の頭を愛おしそうに撫でている。


 ふうー、やな事聞いちゃったよ……

 その怪物が悪魔族なら、叩きのめして腕を口の中に突っ込んででも今までに食べた子を吐き出させるんだけど。


「その怪物は何者なんですか」

「岩山の巨人、サイクロプスです」


 はあ……肉食のモンスターか。


 今までの子たちは絶望的でやるせないけど、この目の前の子はなんとか助けてあげたいな。


 次回 「敵の名はサイクロプス」


 リン、ウソをつく

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