第53話 モブパーティーの移動は風呂敷包みで
その日は公爵家に泊まらせてもらった。
火災が起きたり漏水したり床が抜けたりと、そんな危ない城に泊まりたくはなかったんだけど、お夜食にハンバーグステーキを出すと言われたら泊まらざるを得ないでなはいか。
夜が明けて、馬車で送ってくれるというのを辞退して徒歩で城を出た。ポンコツ城の馬車なんて、車輪が吹っ飛びそうで怖いんだよね。
「おっちゃん、おまんじゅうちょーだい! お金無いけど!」
町の中をロリっ娘ちゃんと一緒に歩いていると、そんな声が聞こえてきた。
「金がねえんなら帰ぇんな! って客どこにいんだよ?」
「おっちゃん、ここだよここ! おっちゃんのハゲ頭の上!」
「あ? ふああぁ妖精だあぁ」
饅頭屋台の店主が腰を抜かしているようだ。
妖精ちゃんはパンパンと店主のハゲ頭を叩いているが、ちょっとやめてあげて欲しい。ああ! 貴重な資源が毟られた! 軽い災害である。
「おっちゃん、おまんじゅうちょーだい! はやくはやく!」
「おお! 持ってけ持ってけ! 妖精は縁起もんじゃねえか! 饅頭なんざ何個でも持ってけ!」
「一個でいいよ、重いから」
ニコニコ笑顔でお饅頭を抱えた妖精ちゃんが、こちらに飛んでくると私と目が合った。私も頭の毛を毟られるのだろうか。
「あ! 大きい子ちゃんだ! 新入りちゃんもいる!」
やっぱり知り合いの妖精の子だったか。えーとこの子は。
「利根四号ちゃんじゃん! どうしてこの町にいるの?」
「更なる美味しいおまんじゅうを探して、あちこち索敵中なんだ! ちょっと待ってね。こちら利根四号機、コッカーの町でおまんじゅう見ゆ。ついでに大きい子ちゃんと新入りちゃんも見ゆ」
今頃妖精の村では、通信係の妖精ちゃんが受信しているのだろう。すっかりお饅頭にはまったみたいだね。
「大きい子ちゃんたちはここで何してるの? やっぱりおまんじゅう探し?」
「いや、私たちは子供探し」
「ふうん、似たようなもんだね!」
全然違うから。
ロリっ娘ちゃんがさっきから目を丸くして妖精ちゃんを見つめている。ぽかんと開いた口から涎垂れてるって。
「やっぱりリンナファナさんは凄いんですね。その妖精の子といい、フィギュアの子といい、キャットドラゴンもそうだけど普通そんな存在と友達になんかなれませんよ」
そうかなあ、そう言うロリっ娘ちゃんも友達なんだけど。
「リンはいろいろおかしいからね」
おいこらフィギュアちゃん、一番おかしい存在に言われたくないわ。
「そうだ、利根四号ちゃんに手伝って欲しいんだけどいいかな」
「うんいいよ、さっき妖精の村から返信来たよ、大きい子ちゃんと新入りちゃんによろしくって、また遊びにおいでよってさ。ラフレロンを用意しとくって」
ラフレロンはもうお腹一杯です、堪忍してください。未だにあのクソ不味い蜜の味を思い出して膝小僧を抱える時があるんだから。
ロリっ娘ちゃんが私の服の脇を掴む、可愛いアピールだね。
「そうだ、こっちの人間の女の子は私の友達で」
「コムギといいます。妖精の子が間近で見られて嬉しいです。私も仲良くしたいです」
「うん、お友達だね、仲良し大歓迎!」
妖精の子と友達になれて、ロリっ娘ちゃんがめちゃくちゃ嬉しそう。
しっかりしてるけど彼女はまだ十三歳だもんね。
『では行こうか』と皆で移動を始めた時に向こうから声が聞こえてきた。
「妖精御用達の饅頭はいかがっすかー。妖精も認めたこの味、是非食べてみてー」
饅頭屋台に行列ができている、商売人はたくましいのだ。
妖精ちゃんはまだそのお饅頭を食べて無いけどね。
町の外に出て待っていると、猫ドラゴンが迎えに来た。朝にここで待ち合わせをする約束だったのだ。
因みにドラゴン不在でも、ドラゴンの棲みかに近づこうとするチャレンジャーなモンスターはいないので安心していい。
ドラゴンに乗って子供たちの楽園に戻ると、子供たちは小屋の中で新しい豪華なベッドにしがみ付いて寝ていた。昨夜ドラゴンがかっぱらった公爵のベッドだ。
気持ちよすぎて寝坊してるのだろう。何人かはベッドの下に潜りこんでいるけど、意味あるのかあれ。
モブ男君たちを招集すると、早速作戦会議である。
色々真剣に討議した結果、作戦名は〝悪魔カチコミ・亜号作戦〟に決定した。ふう、白熱した長い会議だった。因みに作戦の内容はとっくに私が決めているのだ。
私が立てた作戦はこうである。
まずフィギュアちゃんと利根四号ちゃんを格納した私とロリっ娘ちゃんが、予め公爵から聞き出しておいた悪魔族との取引の場に取引商品の生贄として行く。
私たちが悪魔族の拠点に連れて行かれたところで、利根四号ちゃん発艦!
待機していたモブ男君たちに連絡をつけて貰い、キャットドラゴンが彼らパーティーを運んで判明した敵の拠点に強襲上陸。
子供たちを強奪後に全員ドラゴンに乗って帰還、という算段だ。
問題なのは全員ドラゴンの背には乗せられないという点だったけど、ドラゴンが公爵家から木馬の柄の大きな風呂敷をかっぱらってきたので解決した。
「僕たちは風呂敷包みで運ばれるんだね……」
「ご、ごめんね、お花の模様の方が可愛くてよかったよね」
「そこじゃないと思いますリンナファナさん」
出撃準備は整った。悪魔族との取引時間は夜である。
「じゃ行こうか!」
一旦モブ男君たちの待機場所まで、全員でドラゴンで運ばれるのだ。
「帽振れー」
キャットドラゴンが離陸すると、楽園の子供たちが一斉に帽子を振って見送ってくれた、真っ赤なハンカチーフの女の子もいる。
私もフィギュアちゃんも敬礼で返答する。
「必ず、必ず仲間の子を救出して戻ってくるからね!」
待機場所に到着すると、私とロリっ娘ちゃんと公爵の兵士に化けたモブ男君がそのまま徒歩で取引場所へと進んだ。
そこは森の中にある少し開けた場所で、中央に大きな岩が一つ置かれている。それが目印らしい。
少し来るのが早すぎたか、悪魔族が来るまで私とロリっ娘ちゃんは岩に座って休憩する事にした。
ロリっ娘ちゃんは少し思いつめているようだ。
「ミーナスとジーニーは無事なんでしょうか」
心配そうに目を潤ませて私を見つめる彼女を抱き締める。
心配なんだね、大丈夫……大丈夫だよ。
「無事に決まってるから安心して」
「そうですよね、ありがとうございます」
私からもありがとうございます。
ロリ柔らけぇー。
そしてその時、悪魔がやってきた。
私の至福の時間を潰してくれるとは、さすが悪魔である。
さあ、作戦を開始しようか!
作戦名〝悪魔ボコボコ……〟なんだっけ?
次回 「私の扱いが酷すぎて泣けるんですけど」
リン、ケルベロスのエサに




