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第50話 フィギュアちゃん、ホラー人形になる


 短刀を握りしめた私を、王子はおろおろと見つめていた。


「あなたがそのような危ない物を持ってはいけません、先ほどの女性の胸の件は謝りますから」


 おっぱい関係ねーわよ!


「これが私の覚悟です!」


 私はその危ない物を振り上げる。


「私の片腕はあなたの望みどおり差し上げます! ですから殿下! どうか子供たちの未来を奪わないであげて欲しい! 孤児だって未来を見てるんだから!」


 思いっきり自分の左腕に短刀を突き刺した。

 血しぶきが目に入って視界が霞む、腕が熱い。王子の叫び声と慌てて駆け寄る兵士の足音を遠くに聞きながら、私の意識は真っ暗になった。




 気がついた時、私はどえらい豪華なベッドに寝かされていた。


 天蓋付きベッドよ、天蓋付き! どこのお姫様がご就寝なされるベッドかしらね。服も豪華なドレスに着替えさせられている、まあ私の服は血まみれだったろうしね、そのまま寝かせたら豪華なベッドがホラーになってしまう。


 自分の左腕を確認すると、傷一つなかった。高い治癒ポーションでもぶっかけられたのだろうか。

 あげるって言ってるのに何で受け取らないのよ。自分で斬り飛ばす楽しみを奪うなという事かも知れない。おーこわ。


 ベッドの上でポンポン跳ねて遊んでいたフィギュアちゃんが私に気が付いた。


「リン起きたんだね。いきなりブシューだもん、私びっくりしちゃった」

「ごめんねフィギュアちゃん」


 私のやらかしの一番の被害者はフィギュアちゃんだね。


「私はメイドさんがお湯で洗ってくれたんだよ、くすぐったくて動かないようにするの大変だった」

「血まみれホラー人形が動き出したら、メイドさんの尊厳的な何かの問題になっていただろうから、頑張ったねフィギュアちゃん」


「うん、私がんばった!」


 部屋の外が騒がしくなっている。


「いつまでも悲観に暮れている場合では無いな! 子供たちの売買ルートを洗え! 徹底的にだ! 容疑が固まり次第公爵家には、私が直々に乗り込む! 決して公爵に気取られるなよ!」

「はっ!」


 遠くから聞こえてくる王子の怒鳴り声と、兵士たちの喧騒。王子は何故かやる気を出したみたいだ。

 血を見て興奮したのだろうか。おーこわ。


 とりあえず、私はここで退散しよう。


 畳まれて机の上に置かれていた私の手ぬぐいを取って頭に巻くと、こそこそと王子の別荘からおいとまだ。


「盗賊だ! 盗賊が出たぞ!」


 あっさり見つかった私は、ほうほうのていで何とか脱出したのだった。


 まったく、ほっかむりばっかり注目してないで、他も見ろ。

 オシャレだって言ってんのに、こんな豪華なドレス着た盗賊がいるか!




****




 無事に皆と合流した私は現在作戦会議中だ。


 因みに短刀の件はフィギュアちゃんに暴露されて、みんなにしこたま怒られた。

 正座させられてお説教で涙目である。


 モブ太君には、ドレスを着たオシャレ怪盗メイプリーちゃんについての説明を受けた。

 正座させられたままそれを聞かされて涙目である。



「王子が動き出したみたいだけど公爵は後回しっぽいから、まずは貴族側に囚われている子供たちの救出ね。フィギュアちゃんからの報告によると、この町の公爵家の城の地下牢に子供が数人囚われているらしい」


 そう、この情報を得るのにフィギュアちゃんが大活躍したのだ。

 私は感知していないので、どのような活躍だったのか詳しくはわからないのが惜しい。


 まず公爵家ご令嬢の偶然やって来ていたお誕生日プレゼントに、フィギュアちゃんが買われるように仕向けた。

 フィギュアちゃんは〝ジョセフィーヌ〟だか〝マリアンヌ〟だかの名前を付けられて、ご令嬢の部屋に入り込む事に成功。


 その後夜中に、夜な夜な動き出す恐怖のホラー人形として活動したのである。失神メイド二人、泣いた人二人の戦果だったらしい。

 地下牢の鍵は公爵本人が持っているとの事、さすが悪魔族との取引だけあって、貴族も慎重且つ慎重を期しているのだろう。


 公爵はこの国の何人かいる副神官長を務めているらしい、貴族で聖職者のくせに子供たちを犠牲にするとか、ますます許せない。


 私とロリっ娘ちゃんとフィギュアちゃんは、闇夜に乗じて空からドラゴンで城に侵入した。暗闇の黒猫は、目が光らない限り見つけにくいのだ。

 私たちはとある部屋のバルコニーに降り立った。


「ここであってる? フィギュアちゃん」

「うん、公爵のおっさんの執務室だよ。因みにハゲてる」


 人物特定には重要な情報ね。


「少ない髪の毛がこの前――」


 もうその辺の情報はいいわよフィギュアちゃん、戦意が萎むから。

 聞き耳を立てると、どうやら中に人がいるらしい。


「ではそのような娘を見つけ次第に、お連れすればよろしいのですね」

「くれぐれも丁重にな、決して傷一つ付けるではないぞ、不興を買っては我が家どころか、国も危ない」


「そのような者、放っておいてはどうなのです」

「そうも言ってはおれんのだ。いずれこの国がわしの物になったとしても、出て行かれて国が傾いておっては話にならん、悪魔共の幹部もその者に関しては完全に腰が引けておる」


 またどこかの少女を拉致しようという悪巧みなのだろうか、悪いやつね。


「いっその事始末してしまっては?」

「恐ろしい事を言うな、そんな事をしたら一瞬で破滅だ。わしは神官だからな、恐ろしさはよくわかっておるわ。それに殺そうとしても殺せんぞ、その瞬間必ず何かが起こってこちらが終了だ」


 いったいどんな化物を攫う気なのよ。


「それとは別の件ですが、王子側が嗅ぎつけたようで、我々とは全く無関係の暴力団組織が二つ三つ潰されたようです」

「あの馬鹿王子が、何を突然やる気になったのか。子供なんかどうでも良いだろうに、理解できん。この城の子供をさっさと処分した方が良さそうだな」


 あっぶなー、まずこっちに来て正解だったわ。


 それにしても王子は何をしているのか。

 公爵に決して気取られるなと言っておいて、早速気づかれてるわ、無関係の組織潰してるわ。役に立つのかだんだん不安になってきたな。


「その任は私が」

「いや、お前は先の任務に当たれ、処分はワシが直々に行う。確実にやったという確認をせねばならんのでな、人にまかせておけんわ」

「は、では」


 どうやら部下は去ったらしい。暫らく時間を置いて、私はバルコニーから侵入した。


「何者だ」

「お初にお目にかかります閣下」


 私は優雅に令嬢の挨拶をする。


 王城の晩さん会にお呼ばれしたと聞いて必死に練習した甲斐があったわ。

 美味しい物を食べられると思えば、稽古にも熱が入ったものよ。


 直前にパーティー追放を食らわされたおかげで、行けなかったけどね!


 次回 「光姫って誰なのよ?」


 リン、光姫が誰か知ってるっぽい公爵に会ってあわわわさせる

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