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第25話 お饅頭を食べさせたら妖精が絶滅?


「こうやってね、お花の下の先っぽからチューって吸うんだよ」

「おいしーい」

『ぐうううう』


「取って置きのお花出しちゃった」

「あまーい」

『ぐるるきゅうううう』


「ねえ、さっきから怪獣の唸り声みたいなの聞こえない?」

「地震かな」


 うん知ってた。妖精さんはそりゃ花の蜜がご馳走だよね。

 肉食で牛に群がってる妖精の図なんて、子供たちが見たらガン泣きするもんね。


 でも、こんなお花の蜜だけじゃ、私のお腹の妖精さんは満足できないのよ!


『くーきゅるるるるる』


「ねえ、もしかしてこの大きい子ちゃんのお腹が鳴ってる音じゃない?」

「そうなのかな、もしもし? 返答どうぞ」

『くるきゅるくるきゅるきゅる』

「ホントだ、お腹減ったって」


 私のお腹の妖精と会話しだしたぞ。恥ずかしいからあんまり意思疎通しないで欲しいんだけど。


「そっか、この子身体がおっきいから」

「ちっちゃなお花じゃダメなんだね」

「いっぱい食べるんだ」

「なるほどなるほど」


「無駄に育ってごめんなさい」


『ちょっと待っててね、大丈夫だよー』そう言って妖精の何人かが巨大な物体を運んでくる。

 私の目の前にドーンと置かれたそれは、真っ赤な巨大な花だった。置かれた衝撃で周りの妖精たちが吹き飛んでいく、迷惑な話である。


「な、なにこれ」


「肉食植物のラフレロンだよ」

「大丈夫、今寝てるからね」

「こいつ寝坊助」

「寝てる間にお花の蜜を吸っちゃいなよ」


 なんてものを持ってくるのよ!


「モンスターや人間を捕食する植物モンスターですね。おやこれは珍しい、ノートに記載せねばなりません。ほら花の模様が普通のより若干薄く――」


 そんなどうでもいい事より齧られてる! 齧られてるってメガネ君!

 うわー私も蔦に巻きつかれたあああ!


「起きた」

「起きちゃったね」

「ラフレロン元気」

「起きちゃったよどうしよう」


 どうしようじゃねーわ!


 花の中央にモブ男君の鉄の剣が突き刺さった。それと同時に私とメガネ君とモブ太君が、蔦から放り出されて地面に落ちる。


 た、助かった!

 それと私の感知して無い所でこっそりモブ太君も捕まってたんだね、モブ力さすがだ。


「た、退治したのよね?」

「リンが蔦を押さえててくれたお陰で僕でも倒せたよ。ありがとうリン、さすがだね」


 いえ、私ただ捕食されそうになってただけなんですけど。


 因みにせっかく退治した植物モンスターだけど、花の蜜はくっそ不味かった。


「私の近所ではくっそ不味いって評判だもんね」

「私の近所でもくっそ不味いって定評だよ」


 近所もくそも同じ村内でしょ。そんな不味い物を何故用意したのか、ちょっと問い質してもいいですか。


「仕方ないなあ」


 私はリュックの中から自分の食料を出してくる。

 もういらなくなったからと、廃棄予定の勇者まんじゅうをお土産と称して大量に持たされていたのだ。体のいい廃棄処理である。


 こんな物でも花の蜜よりはお腹にましだと口に放り込んだ。あまーい。

 満面の笑みになった私を妖精たちが取り囲んでいる、いつの間に私は大スターになったのだろう。


「それなに?」

「まるいよね」

「いい匂いする」


「ただのお饅頭だけど、みんなも食べてみる?」


 妖精たちにお饅頭を食べさせて良いものかちょっと気になったけど、この子たちはたまに木の実や果物も食べるようだからお饅頭も平気だろう。まさか毒じゃないよね。

 というか、なら最初から果物を持ってきて欲しかったよ。


 細かく割って渡したお饅頭に、妖精たちがかぶりついていく姿はとても可愛い。


「ん――!」

「ぐ――!」

「う――!」

「ぎ――!」


 目を見開いた妖精たちがパタパタと倒れたり、地面に落ちていく。辺り一面妖精たちが死屍累々となった様は、天国から地獄に早代わりしたみたいだ。


 大虐殺――!

 なんで――! 毒だったの? 食べさせちゃだめだったの?


 涙目の私の前で妖精たちがピクリともしないのだ。


「おいしくて目をまわしちゃった!」

「あまーい、こんなの食べた事ないからびっくりしてフリーズしちゃったよ」

「おいしさにびっくりしたね」

「喉に詰まって死ぬかと思った」


 まぎらわしいー!

 あと三十秒妖精たちが起きるのが遅かったら、私は自分の犯した罪に耐えられなくなって、泣きながらどこかの教会に飛び込んで出家してたよきっと!


 というか一人だけホントに死にかけてたんだ。水飲んで水!


「これどこで手に入るの?」

「私もっと食べたい!」


「あーごめんね、勇者まんじゅうは販売終了で、もう行っても手に入らないと思う」


 私の答えを聞いた妖精たちが、またもやパタパタと地面に伏せていく。心臓に悪いからやめて欲しい。


「ああなんて事、絶望した」

「私たち、もう滅びるしかない」

「みなさんさようなら」

「また会う日まで」


「待って待って! お饅頭なんてどこにでもあるから! 人間の村や町に行けばたいていあるから!」


「なあんだ、容赦の無いこの世を儚むとこだった」

「あはは、妖精族はストレスに弱いから、簡単に滅んじゃうんだよねー」

「弱い弱い」

「ストレスだめ」


 めんどくさい種族! それに笑いながら言う事じゃないよね。


 お饅頭を手に入れる為にはお金が必要って事を、この子たちに伝えた方がいいのだろうか。でもそれで絶望して滅ばれても困る。


 縁起物の妖精が『お饅頭ちょーだい』って言えば、多分お饅頭屋さんは喜んで渡してくれるだろう。商売の運気が上がるのだ、むしろウエルカムのはず。


 お饅頭問題をクリアしたところで、この妖精の村にとっての、もっとクリアせざるを得ない問題が発生していた。


「大変大変!」

「どうしたの?」


「仲間の妖精の子が、またオーガに襲われた!」


 運ばれてきた襲われたという妖精の子を見てぞっとした。

 事態は一刻を争うようだ。


「またやりやがったかオーガのクソが」

「あのクソ嫌い」

「ゴミクソのくせに」

「死ねばいいのに」


 妖精のイメージが壊れるセリフは禁止ですよ。


 次回 「オーガウェー海戦」


 リン、第一次攻撃隊を発進させる


 本日中に投稿します

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