第111話 そいつは隣国軍の副官らしい
焚火の燃料を見てさすがに私も慌てた。
なんせ、店の前に大量に積まれたフィギュアが、隣国の兵士によって燃やされているのだから。
「何? どうしたの? 焚火でお芋でも焼いてるの?」
「フィギュアちゃんは見ちゃダメ」
慌ててフィギュアちゃんをくるっと後ろ向きに反転させた。
お芋なんて幸せアイテムだったらどんなに良かったか。まさか仲間が業火で焼かれてるなんて知ったら、ショックを受けてしまいかねない。
「ブヒ、ブヒヒブヒ?」
なるほど、わからん。
ごめん、ブヒ語わかんないよ。
涙目のモブ太君が私に何かを訴えているがさっぱりわからない。猫との意思疎通よりもわからない。
「ブヒー」
とうとう地面を叩き出したよ。
でも何言ってるのかやっぱりわからない。
「地面を叩きながら、『フィギュアが燃やされるくらいなら自分が燃やされた方が良かった。長い間生きているとこんなに辛い出来事に出くわすのか、歳はとりたくないもんじゃ。この世界のフィギュアの神様は死んだ、なんてこったブヒ』と彼は言っています」(メガネくいっ)
そこまでか! あんたまだ二十歳だろ。
ブヒしか言っていない気がするけど、正確なんだろうなその通訳。
「ちょっと横になるわ……ブヒ」
よほどショックな事が起こった時に、人は横になったり縦になったり斜めになったりするという。
地面に横たわる仲間にかける言葉が見つからなくて、なすすべもなく見守っていると、突然ビヨーンと立ち上がったモブ太君。
「お前ら、なんて恐ろしい事をしでかしてるブヒか! これは全人ブヒに対する挑戦だブヒ!」
やべええ! 絶望が脳天を突き抜けちゃったモブ太君が、フィギュアを焼いてる兵士に食って掛かっちゃったよ!
こうなったら全員ステルス機能オフだ。
ところで全人ブヒって何? 全人類的なやつ?
「な、なんだこいつら、どこから出てきた」
「突然現れてちょっと怖いわ」
「ニンジャか、ニンジャの集団か」
「敵の隠密部隊か」
ま、そうなるよね。
いつの間にかそこにいる能力は隣国にも効果があるみたいだ。
「どうした、何を騒いでおるか!」
なんだか隣国軍の偉そうなおっさんが登場したようである。
マント姿のいかにも隊長という風貌。こいつはマント隊長だ、今決めた。
「マント隊長! 何やら平民が抗議してきまして」
「誰がマント隊長だ、私はマーメント副官だ。町の人間は一か所に集めたのではないのか。ん? こいつらは冒険者だな、勝手に入り込みおったか」
マント隊長はこちらをしげしげと眺めている。
町の人たちを集めて何をする気だ、まさかこのフィギュアみたいに建物に集めて火を点けたりしないだろうな。
こいつはやりそうな悪い顔をしてる、何よりあごひげが胡散臭い。私はあごひげ人は信用しない主義なのだ。
子供の頃、村のあごひげのオジサンにすりすりされて、かぶれた事があるのだ。ヒゲには毒があるに違いない。
「なんだかめちゃくちゃな事を思われている気がしてならんが。あごひげだって頑張って生きてるんだよ、差別は許さんぞ」
「この悪行はあんたが指示したブヒか!」
「いかにも、更に奥地に侵攻していったコードル将軍から、占領地を任された名誉ある副官であるこの私が直々に命令を下したのだ」
自己紹介長いな、どんだけ鼻高々なんだよ。
「おかしいな、先日の戦闘で楽勝でひねり潰せるはずの戦いにボロクソにやられて、コードル将軍にこっぴどく怒られて町に残されたんじゃなかったっけ」
「虎の子の竜騎兵部隊のお仕事増やしちゃったんだよな、あの人」
「戦闘中に敵の女指揮官にボコられて泣いてたらしいよな」
「いるよな、皆がゲームで馬鹿勝ちしてる時に一人だけ負けちゃうやつ」
あ、マント隊長こと副官さんが涙目になった。可哀想だよいじめよくない。
「何で全人ブヒの宝であるフィギュアを燃やしてるブヒか。今すぐやめるブヒ」
「全人ブヒの宝である事は認めよう、しかし全人ブヒを敵に回そうと私は撤回はせんぞ」
何で全人ブヒで話が通じてるんだよ! 全人ブヒってなんなんだよ!
でも全人ブヒは置いておいても、一介の冒険者と隣国軍の隊長との謎の会話の内容に関しては、私も疑問に思うところはあるんだよね。
何でフィギュアを燃やしてるんだろう。
焚書みたいなものかな、偶像礼拝禁止的な?
宗教的な、もしかして軍事的な理由があったりするのかも知れない。
じゃなきゃ、戦争の真っ最中に兵力割いて燃やしたりしない。
「この店はな、我が国の観光客からぼったくりしまくっていたのだ、私もカモにされた事がある!」
ただの私怨だった――!
「ぼったくりはまだ許せる。しかし抱き合わせ、これはいかん。メイプリーちゃんセットを買ったのに、メイプリーちゃんは袋の絵だけで、中身全然知らんおっさんの人形とか舐めてんのか!」
「メイプリーちゃんの袋だけで尊いんだブヒ、三袋も注文したブヒ。あのおっさん人形も、メイプリーちゃんのマネージャー役とか、プロデューサー役とか、セクハラするオッサン役で使えるんだブヒ!」
「そんな高度な遊び方は知らん! おかげで私はすっかりフィギュアアンチになってしまったわ!」
何の会話だこれ。
この店もなかなかやるわね、もう抱き合わせを越えて詐欺じゃないだろうか。私の村のおばば様の親戚だったりするのだろうか。
フィギュアを焼いていた兵士たちもその戦いに加勢してきたようだ。
敵の増援である。
「俺もこの店にはぼったくられたよ。店でアイドルのカリーナちゃん激安箱なしフィギュアを買ったのに、持って帰ってよく見たら全然知らんおっさんだった」
買う時に気付けよ。どんだけ舞い上がって金を払ってるんだよ。
私も冷静さを失って全然違う物食べてた事はあるけどさ。
「俺もだ。勇者フィギュアが欲しかったのに、くじで変な女のグッズばっかり引かされた」
ちくしょう!
その変な女はあんたの目の前にいるぞ、勝負すっかこのやろー。
「とにかくフィギュアは全て焼くと決めたのだ! そこの女! 胸元に入れているそのフィギュアも火の中に投げ入れよ!」
はあ? 何言ってんのこの人、はあ?
フィギュアちゃんを火に? とんでもない事言わないで貰えるだろうか!
なんだこのマント、戦いで泣かされたって聞いたけど、ここでも泣かしてやろうかしら。
次回 「光姫なんて変な人に心当たりはありません」
マント隊長、マント隊長じゃなくなる




