8話目 訓練
あれから毎日がストリートファイト。キシさんに連れられて、城下町の路地裏、スラムの溜まり場、城門にある詰め所、それに牢獄の檻の中へ強そうな人ばかりと戦わされた。
キシさんは命に係わらない限り、ぼくを助けてくれない。足払いに砂かけ、ありとあらゆる汚い手でやられながら闘いを覚えていく。
たまに騎士団の道場で、空手の強いマスダさんと柔道の達人のカクダさんに、接近戦を身体で覚えさせられた。踵落としで失神してしまい、裏投げで意識を刈り取られる。そうしていくうちにぼくでも強くなったと自覚ができる。
人に殴られるのも殴るのも、もう震えて動かないほど怖くはない。
「いい顔してきたじゃない。これなら次へいけそうよ」
今日は珍しくお供も連れて来ないで、マリアーヌお姉さんがキシさんとともに、ぼくとカクダさんの投げ合いに注目している。
「でもダメじゃない。柔道は寝技よ? 縦四方固めなんて最高よ」
ぼくもカクダさんも、このときだけは言葉を交わさなくても通じ合っている。そんなお姫様が大喜びする技なんて、その目の前でしてたまるか!
「そうですな……それでいつから行きますか?」
キシさんがやんわりと話題を変えてくれた。さすがは気使いのできるおじさん、グッジョブだよ。
「そうね。明日は月一のアキ×カクの同人評論会、明後日の出発でいいわ」
カクダさんはマリアーヌお姉さんの言葉で一気に気が抜かれてしまった。勝負するならここだ。ぼくの裏投げが初めてカクダさんに通用しましたが、投げ飛ばされたカクダさんが立ち上がろうとしない。
なぜだろう? 頭でも打ったのかな。
「可哀そうに。心のダメージは中々回復しないぜ」
キシさんの言葉にピクっとカクダさんが反応して頷く。騎士団のみなさんと仲良くさせてもらってるいま、ぼくにもマリアーヌお姉さんたちによる横暴が、精神攻撃の一種であることはよく理解できました。
「それはいいとして、アキ!」
「はいっ!」
立ち上がって息を整えたぼくにキシさんは笑いかけてくる。
「異世界移転の定番と行こうか?」
「もうケンカは嫌ですよ」
「ダンジョンだ」
「え?」
ぼくの疑問形に答えてくれたのはキシさんじゃなくて、マリアーヌお姉さんからの言葉である。
「いいこと? 明後日からはダンジョンよ。付いてらっしゃい」
ヒャッハーさんたちとの戯れの次は、どうやら迷宮潜りになるそうです。
ありがとうございました。




