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7話目 反撃

 痛い。


 キシさんがぼくのことを無視してることを確認して、怖いおじさんたちはパンチとケリをぼくに降り注ぐように叩きつけてくる。


 怖い。


 身体から力が抜け、呼吸が乱れ、脈拍が早まり、意識が混雑する。


 フッと学校のあいつらにイジメられてたことを思い出したので、いつものように身を屈めて両腕で頭を庇う。



 その間にもパンチとケリが止むことはなく、酒場の中でお酒を飲んでいる人たちが、この場面を肴にしてるように酒を飲み続けている。



「調子に乗ってんじゃねえぞこのガキが!」


「身を弁えないもやし小僧が!」


「ぶっ殺すぞコラあ!」


「あとで着ている鎧を剥がしてやらあ!」


「死ねや、ガキがあ!」



 愉しそうにぼくを痛めつけるおじさんたち。

 それを見て囃し立てるお酒を飲む大人たち。

 ぼくに構わないで若い売り子さんとお喋りするキシさん。


 なんだか、ムカっとしてきた。

 そんなに人を傷つけるのは楽しいか、面白いか!


 痛いけど痛くない。


 キシさんとの訓練に比べると、この怖いおじさんたちが与えてくる痛さは大したことがない。



 だからぼくは拳を握りしめる。


 立ち上がってから怒りを込めて、薄笑いしているおじさんたちを睨みつける。


「ああ? んだよその目は? 歯向かえないようにぶっ殺してやらあ、クソガキが!」


 学校のあいつらと同じことをいう怖いおじさんの顔を目かけて、ぼくは力一杯握りしめる拳を振りぬいた。生まれて初めて、ぼくから人を殴りたいと思ったんだ。


「ゲブシーッ!」


 ぼくに殴られた怖いおじさんが吹き飛ばされて、ピクリとも動かなくなって酒場の床でぐったりしている。それを見たほかの怖いおじさんたちの目付きが変わった。



「こんのガキがあ、調子に乗ってっと……ブヘー!」


 なにか叫んでいる怖いおじさんの顔にパンチを入れる。無駄話してる間は隙だらけだよ。ぼくは言い終えるまで待つこともないし。


 残りの3人の怖いおじさんが腰から剣を抜いて、ぼくのほうに向けてきた。



「殺すっ、マジで殺してやる!」


「優しくしてりゃ付け上がりやがって、死ねやもやし小僧」


「ふん、この世にゃやっちゃいけねえことを死んで知れや!」


 この場合はどうしたらいいだろう。さすがに本物の剣で脅されるのは初めてで、ぼくも剣を抜いたほうがいいのかな。



「ここまでか」


 キシさんが若い売り子さんから離れると、ぼくの前に仁王のように立っている。



「おい、騎士さんよ、てめえの出る幕じゃねえよ」


「「そうだ!」」


 怖いおじさん3人は少し震えながらキシさんを牽制しようと凄んでる。


「はんっ、ガキ相手に真剣を抜きやがって、ダサいなお前ら」


 キシさんの嘲笑に怖いおじさん3人は顔を真っ赤にしてから、いきなりキシさんへ剣で切りつける。この人たちはバカだな、そんなスピードじゃ当たらないのに。


 案の定、3人はまとめてキシさんの連続キックで蹴り飛ばされてしまった。


「二人もやりゃ上出来だ、アキ。次からは怖いからってしゃがむなよ? 殺してくれみたいなもんだからよ」


「はい、気を付けます」


 どうやらキシさんはぼくに対人戦を体験させようとこの酒場に連れて来て、怖いおじさんたちに因縁をつけたみたい。てっきり玩具にされたと思ったので腹が立ったけど、キシさんの配慮に感謝します。



「ありがとうございました、騎士さま。お名前は教えてもらえないでしょうか」


 若い売り子さんが身体をキシさんに密着するように引っ付いている。キシさんはまんざらでもなさそうにニタニタと笑っている。ムカムカとしてきた。叩かれたのはぼくなのに。


 家に帰ったらアーリアさんにイイツケテヤル。



 翌日、キシさんの顔には痣と引っかけ傷で一杯だ。

 ざまぁみろ。ヒャハハハ!


 その日、キシさんとの訓練はいつもより厳しかった。

 ウェーン!


ありがとうございました。

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