32話目 親友
ぼくはアルと孤児院の屋上で月を眺めている。公害というものがないから、この世界の夜空は星が沢山煌めいていて、とても美しいんだ。
「アル。ぼくが元の世界へ帰るって言ったら、ぼくを止めるかな?」
「止めないよ。アキがいいと思うことはおれもそれでいいと思うから」
「アル。ぼくはね、元の世界から逃げ出したかった。でもね、子供のぼくにはどこも逃げられる場所なんてない。だから、死にたいと思ったんだ」
「そうか。辛かったんだな、アキ」
「この世界に来て、ぼくはアルたちと出会えて、生きることを見つめ直すことができた。生きることはつらいことも多いけど、死んでしまったらなにもかも無くなる。今はそれのほうが怖いんだ」
「そうだね」
「この世界のことが大好き。良くしてくれる人たちも大好き。でも、この世界におとうさんもお母さんも妹もいないんだ。会いたいよ。すごく会いたいよ……」
膝を抱えてその間に首を差し込み、ぼくはアルの前で泣くことをやめようとは思わない。この子はきっと許してくれる。ぼくがこの子に心を許しているように。
「たとえアキがこの世界から姿を消しても、アキは元の世界で頑張って生きるんだろう?」
「……うん」
「だったらそれでいいじゃないかな。どこに行ったって、会えなくなるとしても、アキがおれの親友で、一緒に冒険したことの思い出は消えたりはしない。お互い、確かに寄せ合って生きてきたからな!」
ぼくの親友はとても男前でぼくのことをいつも気にかけてくれている。そんな友達と異世界で出会えただけでも、転移してよかったと思っている。
「ダンジョンのときは返事してあげられなかったけど、今ならはっきりと答えてあげられるよ。アキ、おれもお前のことが大好きだ!」
親友からの熱い抱擁、それはそれはとても温かくて その心地よさが身体の隅々まで染み込ませるものであった。
「いいわ、耽美だわ、爛れているわ。これで来月はハルカのやつにぎゃふんと言わせられるわ!」
ぼくらのことを木の上に隠れて覗く刺客がいることをぼくは知る由もなかった。
ありがとうございました。




