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30話目 岐路

 ぼくがギガンテスを討伐したことから、今や城下町と冒険者ギルドで有名人になってる。どこへ行っても挨拶されることが絶え間もなく、悪党たちに至ってはぼくの信者になったといっても過言ではないと言えるほど、その熱狂ぶりにさすがのぼくも引きそうになる。



「アキの兄貴、今日はご機嫌麗しく!」


「や、やあ。こんにちは」


「くう、さすがは兄貴。偉ぶらないところが最高だぜ」


「じゃ、じゃあね」


 そそくさに逃げるぼくに、アルは笑いを堪えて口元を押さえつける。


「ひどいなあ、アルも見てないで助けてよ。ギガンテスを倒したのは一緒にだからね」


「いやいや、畏れ多いことを。おれはなんもしてないよ、煙球を投げただけだから」



 てっきりバラ(ローゼン)の騎士団(リッターオルデン)のリーダーさんに付きまとわれるかも思ったけど、彼女たちはダンジョンの件でマリアーヌお姉さんたちと仲良くなり、今や毎日欠かさずお城でBLの話に花を咲かせている。



 うん、腐ったみかんは一緒の籠の中でいいや。そのままクサってるがいいよ。でも、リーダーさんが恨めしそうにアルのことを見て「あなたに渡さないわ」って絡んできた時はさすがにまいったね。


 ぼくじゃなくてアルが。


 少しはぼくの大変さを知るがいい、親友よ。




「今日は何の用かな、マリアーヌお姉さん」


 お城に来てと、アーリアさんからマリアーヌお姉さんの伝言でぼくは転移してきた時の石室に案内された。


 石室にはキシさんとハルカお姉さんがいて、この場には4人しかいない。しかも、みんながいつものようなふざけた表情をしていないことにぼくは怪訝そうに感じた。



「よく来たわね、アキヒロ。今日はあなたに聞きたいことがあるのよ。あなた、帰りたくはないの?」


「え? なんですか? 帰るって、どこへですか?」


 マリアーヌお姉さんはなにを言ってるのでしょうか、いきなりすぎて意味が分からない。



「もちろん、元の世界よ」


「ええー? 帰れるんですか?」


「なにを言ってるのかしら、この子は。呼べるんだから勿論帰せるわよ」


「じゃあ、なんで最初にいってくれないの?」


「あなた、そのまま帰ったらまた死にたいと思うかもしれないわよね? 弟分にそんな思いをお姉さんとしてさせてあげられないわよ」


「あ……ありがとう……おねえさん」



 そうだよな。


 あの時に帰っても、なにひとつ変わることも変えることも、ぼくにはできなかったかもしれない。ここで長い時間を過ごして、少しずつぼくという人間が作り上げられていった。みんなのおかげで。



「それとあらかじめに言うけれど、アキヒロがもとの世界に帰ったら今の力は全て消えるわよ。元の状態に戻るんだから仕方ないと言えば仕方がないのよ」


「そう、ですか……」


 いやいや、今は力がどうこうというより、ぼくがここからいなくなることだよね。アルにも、マリアーヌお姉さんたちにも、もう会えなくなることなんだよね。



「返事はすぐにというわけではないわ。考え抜いたら答えをあなたから聞かせてほしいわね」


 それだけを言い残すと、マリアーヌお姉さんは石室から出て行ってしまう。今回も最初のときと同じように、ドッキリの仕掛けがあるのかな。


ありがとうございました。

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