27話目 覚悟
「炎龍!」
イメージ通りの東洋の龍が虚無から現れて、ギガンテスの全身を縛り付ける。ギガンテスはそれを振りほどこうとして暴れているが、ぼくの全魔力を費やした幻影の龍がそう簡単に消されてたまるか!
「燃え尽きろ!」
最後の魔力をつぎ込んで、それがトリガーとなり、炎龍が爆発するように大き燃え上がった。ぼくは意識が飛ぶほどの疲労感に襲われて、膝から力が抜けてしまい、そのままの体勢で跪いてしまった。
辺りは焦げ臭い匂いが広がって行き、どうにか目を開けてみると、ギガンテスがいた場所には真っ黒に焼かれたギガンテスだったものが倒れ込んで、ピクリとも動きそうにない。
よかった。ちゃんと強敵を倒すことができたんだ。
「すごいじゃない! こんな魔法はヤマモト大魔法師のイフリート以来見たことがないよ」
マジシャンの子がすごく興奮してぼくに抱きついた。でも今のぼくは疲労感が凄過ぎて、その感触を感じる余裕なんて持っていなかった。
「よくやったな、アキ!」
「冷血の通り名は偽りじゃないのね。こんな絶望的な戦いでも冷静でいられるなんて」
親友とシールダーさんからの褒め言葉に謙遜し、みんなの協力に感謝してあげたいのは山々だが、今は無理だ。
もう、次の危機が訪れようとしている。
煙球の煙が散り消え、その中から怒りに駆られたもう1体のギガンテスがこっちへ向かってゆっくりと歩き出した。
「くっ……打ち合わせの通り、壁を伝って逃げきれ」
ぼくはマジシャンの子とシールダーさんに指示を出した。
「置いて行くことなんてできないよ」
「ああ、一緒に戦うよ。盾くらいはなれる」
熱い気持ちをどうも。
だけどそれはだめだ。彼女には負ってもらう役割があるんだ。疲れている身体の神経を振り絞って、ぼくは立ち上がる。
「違う、きみらには誘導の役割を果たしてもらう。モンスター部屋とは反対の方向に逃げて、こいつに勘違いをさせてやるんだ。だから、行け!」
本当はアルにも行ってほしかったけど、こいつはぼくを置いて行くことは絶対にしないはず。言うだけ無駄だから何も言わない。
マジシャンの子とシールダーさんはなにか言いたげであったが、時間が無駄になることを理解してくれたのか、猛然と駆け出してこの場から離れていく。
残されたぼくとアルがお互いの顔を見つめ合ってから、お互いに微笑みをたたえたまま抱き合った。
こういう場面を見られてしまうと、ハルカお姉さんとアーリアさんはきっと鼻血でも流しながら興奮するに違いない。
まったく、クサってる人って、どうしてそうなのかな。
「相棒、悪あがきでもしてみるか?」
「ああ、友よ。力のある限り、悔いのない闘いをやろうぜ!」
やっぱり熱血呼ばれるだけであって、こいつはいつでも熱いのままだな。
もう、勝つ見込みのない戦闘にぼくもアルも死の覚悟を決めている。
マリアーヌお姉さんたちと会えないのはつらいけど、きちんと感謝の気持ちを伝えたかったけど、仕方のないこと。
孤児院の子供たちと誕生日会を開けなくて申し訳ない気持ちがいっぱいで、イワシタさんとの約束を違って、アルを死なせてしまうことに謝りたいと思ってるけれど、叶わない願いだと今は知っている。
ありがとうございました。




