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21話目 信頼

 その時は突如やってきた。


 上層の3層でオーク狩りして焼き肉による今月の誕生日会を目論んで、ダンジョンを降りていくと中がとても騒がしい。冒険者たちが上に上がる階段へ殺到してくる。



「どうしたんだ、なんでみんな逃げている?」


 さすがは熱血(パッションキラー)のアル、こういう状況を見逃すことができない。



「ギ、ギガンテスが2体出たんだ! やられたやつがいっぱいいる!」


「ギガンテスが? あれは下層しかでないモンスターじゃないか」


 ぼくの問いに今にも泣きそうな冒険者が何度もかぶりを振ってくる。



「そうだけど、違うんだ。いきなり本当に出たんだよ、死んだやつだっているんだ」


 これはぼくらも引き返したほうがいいと思う。ギガンテスは皮が厚くて刃物が通りにくく、上級魔法じゃないと効きもしない。並大抵の攻撃じゃ通用しないんだ。



「今はバラ(ローゼン)の騎士団(リッターオルデン)が食い止めてるけど、あの様子じゃ崩れるよ。あいつらもここで死ぬんだ」


 聞き覚えのある名前におれとアルはお互いの顔を確認する。


 アルのことだから彼女たちのことを見捨てたりはしないのでしょうが、ギガンテスが相手では、ぼくらの力じゃ立ち向かえないのは考えなくてもわかることだ。



「お前らも逃げたほうがいい、あとは冒険者ギルドに託そう!」


 それだけを言い残すと、状況を説明してくれた冒険者が階段を駆け上がっていった。


 冒険者たちが次々とぼくらの横を通り過ぎていく。


 突っ立ているぼくらは互いの意思をはっきりと口にする必要があるんだ。



「気持ちはわかるけどギガンテスなんて無理だよ、アル」


「ああ、アキの言う通りだな」


「でも、アルは引く気はないだろう?」


「ああ、アキの言う通りだよ」


 こういうやつなんだ、ぼくの親友は。


 助けを求める人に手を差し伸べ、困難に立ち向かい、泣き言をけして口にはしない。



「わかったよ、アル。きみとならどこまでも行こう」


「すまないな、アキ。いつも無茶に付き合わせちゃって」


「いいさ。二人でならなんとかなるかもしれないし」


「あの女たちを死なせると目覚めが悪くなりそうなんだ」


「気に入った子でもいるのか?」


「そんなのいないよ。ただ、ギルドで騒がしくやるのが好きなだけだ」


 人助けに理由を付けたがらないぼくの親友は、照れ臭そうに片手をヒラヒラと振ってみせてからはにかむように笑う。


 こんな友達を持ちえたことがぼくは誇りに思う。



「行こうアル、時間がもったいないよ」


「ああ、行くぞアキ。お前を頼りにしているから死ぬなよ!」



 ぼくらは人の激流を逆らっているように、ダンジョンの奥へ向かって駆け出す。


ありがとうございました。

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