15話目 冷血
「なっ! なんだてめえは!」
痩せた男がいきなり現れたぼくに驚いてか、立ち上がってから片手剣を抜いてぼくのほうへ振りかざす。
でも、そんなことはどうでもいい。アルの容態のほうがぼくは心配であった。
「アル、大丈夫か! 遅れてごめん!」
「あっ、アキだ……ゴホゴホっ……」
咳で口から血を吐いたアルを見て、ぼくは頭に血が上った。
「待ててね、こいつらを追っ払ってやるから」
ぼくの言葉を聞いた痩せた男が嘲笑うように、自分の仲間に目を向ける。
「ハッハ、聞いたかよ。この弱そうなモヤシが俺らを追っ払うだとよ」
悪党どもが高笑いしているが、ぼくの友達を傷つけるやつらを許す気はない。こいつらも血反吐を吐かせてやるんだ。
ぼくは構えを取って、魔法を練り出す。マスダさんは教えてくれた。やるなら徹底的にやれと。出し惜しみするのは三流のやつがすること、ここから先は初めて殺す気で本気の対人戦だ。
こいつら、残さずにころしてやる。
「おい、こいつ……冷血のモヤシじゃねえか……」
「おう、そうみたいだぜ」
数人の悪党がおくのことを見て、慄くように声を上げている。
「ああ? なんだその冷血のモヤシってのは?」
痩せた男が仲間に向かって吠えるように知らない言葉を聞いた。うん、それはぼくも聞いたことがないので教えてほしいな。冷血のモヤシってどんな野菜?
「てめえ、冷血のモヤシを知らないでよくも俺たちを誘ったな!」
「こいつはアホだ。牢獄にいるパトルスの兄貴とフレインの兄貴らを一人で顔色一つ変えないまま、まとめて潰した売り出し中の神童を知らんとよ」
パトルス? フレイン? うーん、どこかで聞いた名前だよな……あ、そうだ! 牢獄でキシさんに嵌められて、パンチだけで決闘して倒した巨漢たちの名前にそれらが含まれたような気がする。
「すまねえ、冷血のモヤシ。あんたの連れと知らずに手を出したことは詫びるから許してくれ」
瞬く間に痩せた男以外の男たちは全員が頭を下げてきた。戦闘を覚悟してたのに変な成り行きになって、ぼくは戦う気を削がれた思いで、とりあえずは構えを解かずに殺気だけを消すことにした。
「ありがてえ。この町であんたらに二度と手を出さないように通達しとくから今日は勘弁してくれ」
「あ、ああ。次からはぼくも遠慮しないからね!」
「「ああ。今日は本当にすっませんでした!」」
痩せた男以外の悪党たちはホッとしたような顔でぼくとアルに頭を下げて謝っている。なんだか変なことになったけど、アルを助けることができて良かった。そうだ、傷薬のポーションを早くアルに飲ませなくちゃ。
「な、なんだよてめえら、ガキ一人にビビりやがってよ」
痩せた男が納得できないようで悪党たちに詰問しているが、その横にいる悪党がすかさず痩せた男の腹に突き刺すようなパンチを容赦なく入れる。
「ガボッ……な、なにを……」
そうしているうちに痩せた男が悪党たちから制裁を受けるようにタコ殴りされた。ぼくがイジメられた頃と比べ物にならないほどの殴打はすごく痛そうだけど、ぼくから止めるというのもおかしい気がするので静観することにした。
ありがとうございました。




