13話目 強化
ぼくは手足が無くなって蠢くゴブリンに怖気づいてしまっている。手と足の付け根から血を流しながら、逃げようとしているゴブリンに太刀を突き刺すことを躊躇っている。
ぼくの横ではアルが手早く短剣を差し込んだのにもかかわらず、ぼくは生き物を殺すことに怖がっていた。
「お前が殺さなくてもこいつらは死ぬ。だけどお前が逆の立場ならこいつらは容赦なく殺してくる。勘違いをするなよアキ、これはゲームなんかじゃねえ。お前は生きるためにやらねばならないことをやれ!」
ぼくを後ろから抱え込むようにして、その両腕をぼくの両腕に添えてくるキシさんは、ぼくに初めてのゴブリン殺しを手伝ってくれた。
「おれらがお前を守れるのは最初だけ、あとは自分で覚悟を決めて生きていけよ。どうしたいのか、なにがしたいのかを自分で決めてみろ!」
キシさんの言葉に突き動かされたように、ぼくは泣きながら残りのゴブリンを殺しまわった。
「へっ。やっぱアキは弱っちいだ。泣いてやんの」
アルの笑い声もさほど気にならない。マリアーヌお姉さんも、キシさんも、ぼくが強くなるために色々としてくれた。この人たちの期待に応えてあげたい。ぼくは自分の力で強くなりたいと思う。
死んだゴブリンは形を崩して消えていき、その後に残るのは透明で淡く光るクリスタルみたいな石だけ。
「アキ、これが魔物の結晶よ。モンスターの等級に応じて売れるからね」
ハルカお姉さんがクリスタルみたいな石のことを教えてくれた。アルはいうと、せっせと魔物の結晶を籠の中に入れていく。集めた分だけ、彼の報酬も上がっていく。ぼくと変わらない年なのになんて逞しい生き方しているのだろう。
「アル、その籠は捨てなさい。これからはこっちを使いなさい」
マリアーヌお姉さんは皮で作ったリュックをアルに手渡した。
「これ、時空の革袋じゃないですかっ! こんな高価なものは……」
「受け取りなさい、うちのアキを頼んだわよ」
有無言わさずマリアーヌお姉さんはリュックをアルに押し付けた。マリアーヌお姉さんたちの心遣いに、ぼくは強くなることをこの人たちに知ってもらいたいとここで決意した。
「マリアーヌお姉さん、ぼく、強くなります!」
「そう、しっかりね。でも無茶はダメよ」
柔らかそうな笑みでぼくを励ましてくれるマリアーヌお姉さん、人は人のために頑張れることを思い出した。小学校の頃、お父さんとお母さんに褒めてもらいたくて勉強も運動も頑張ったんだ。
褒めてくれる両親はぼくの最高な元気の源だったのに、いつからぼくはそれを忘れたのだろうか。
「さあ、今日は3層のオークまで行くわよ!」
なぜかハルカお姉さんがやる気を出してる。それに釣られる形でアルが手を高く上げて気勢を高めている。
「おー! 頑張ってみんなに腹一杯食べさせるぞ!」
ん? アルのいうみんなは誰のことだろう。それが気になったけど、アルとハルカお姉さんがダンジョンの通路を突っ走り出したので、慌ててその後をついて行くことにした。
この日、ぼくたちは3層のオークキングを討伐することに成功した。ぼくとアルのレベルがかなり上がったとマリアーヌお姉さんが教えてくれた。
ありがとうございました。




