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10話目 勇気

 ダンジョンの入口では背中に籠を背負った人が沢山いる。筋肉隆々の大男や綺麗な獣人のお姉さんに、見るからにすごい装備を纏ってる青年など ぼくがイメージしてた荷物持ちだけのポーター役とは全然ちがう。


「ポーターと言っても別に弱いから荷物持ちをやってるわけじゃない。ダンジョンアタックでの役割が違うだけで、良いポーターがいるかどうかでダンジョンの難易度が変わってくるくらい ポーター選びは大事だ」


 キシさんはぼくが離れた場所からボーっとポーターの人たちを見てるときに、ポーターについての知識を伝授してくれた。



「アキヒロ、ポーター選びは自分の直感を信じなさい。当たりでも外れでも、それで勉強になるというものよ。さあ、行きなさい」


 嗾けてくるように、マリアーヌお姉さんはぼくにポーターの群れへ行くように言いつけてくる。ハルカお姉さんも、キシさんも、魔法の師匠のヤマモトさんも、マリアーヌお姉さんのそばから離れない。


 ここから先はぼくが自分の運命を選ぶ時、選んだ結果を受け入れる覚悟を決める時。




 ポーターさんたちはぼくが近付いても声を掛けて来ない。着ている装備が良くても、見た目が弱そうでぼくみたいな小僧っ子だから仕方がないけど、ぼくのほうもポーターさんたちを観察していた。


 その中にぼくは一人のボロボロで安そうな皮の鎧を着て、自分を隠してしまいそうな籠を背負ってる犬人の男の子を見ていた。


 その子は片っ端から冒険者を手当たり次第、雇ってもらえるように声を掛けてる。だが、素っ気なく断られるか、うざったそうに追い払われてるだけで、その犬人の男の子の声に耳を傾ける冒険者はいない。



 冒険者に蹴られて倒れた犬人の男の子は、腕で零れる涙をひと拭きすると、立ち上がって俄然と次の冒険者たちに声を掛けていく。


 なんて勇気がある子なんだろう。


 ぼくになくて あの犬人の男の子にあるのは諦めない心。


 犬人の男の子の生い立ちをぼくは知らないけど、懸命に生きようとして、運命を諦観で受け入れるのではなくて、立ち向かうその姿にぼくは羨ましいと思った。



 あんな勇敢な子と冒険を共にしてみたい。


 そんな思いを抱いたぼくは いつの間にかその子の傍に立っている。



「なんだお前? 邪魔だからあっちに行ってよ」


 うう、この子にもぼくは弱そうに見えたのだろうね。


「ぼくのポーターをやってくれないか?」


「ええ? お前、冒険者か? ものすごく弱そうだけど」


 怪訝そうな顔で犬人の男の子はぼくのことを疑念に思ってるようだ。だけど、ぼくもここで諦めるつもりはない。



「そうだよ、ぼくは駆け出しだけど冒険者だ。今日からダンジョンデビューでポーターを探しているんだ」


ありがとうございました。

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