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9話目 迷宮

 キシさんは硬そうな皮革の鎧を一式、ぼくのために用意してくれた。着てみると身体ピッタリに合っていて、おかげで身体はとても動きやすい。


「オーガの皮で作った鎧だ。ユキコちゃんの特製でありがたく貰っとけよ」


「はい! マリアーヌお姉さん、ありがとうございます!」


 ぼくのお礼にマリアーヌお姉さんは顔を赤くして、ぼくのほうに向かないでキシさんのことを怒鳴りつける。



「ふん……キシくん、ユキコはやめなさいって言ってるでしょう。今度言ったら本当にぶつからねっ!」


 そんなマリアーヌお姉さんを見るキシさんは、両肩を軽く竦めてからぼくのほうに片目のウィンクをしてくる。マリアーヌお姉さんの照れ隠しであることも、今のぼくならそれがわかる。



「ダンジョン行くわよ、さっさと付いてきなさい」


 マリアーヌお姉さんについて行くハルカお姉さんは頭を振り返ってぼくに笑いかけてくる。キシさんも、ヤマモトさんも、そんなマリアーヌお姉さんを微笑ましい目で見ている。ぼくはこんな優しい人たちがたくさんいる、この世界のことが好きになっている。




「アキヒロ。あなた、自分でポーターを見つけて来なさいよ」


 マリアーヌお姉さんに連れられてきたダンジョンは、城下町の北西にある緩やかな山の麓に入口がある。入口の周りには武器屋に医薬品屋、食糧を売っている売店に大きな3階建ての宿屋まである。


 これはれっきとしたダンジョン村と言っても過言ではない。


 お姫様であるマリアーヌお姉さんは、ダンジョンが発見されるとすぐに保護策を打ったとキシさんから教えてもらった。もちろん、最初に踏破したのはマリアーヌお姉さんが率いる騎士団であり、その価値を認めたマリアーヌお姉さんは ダンジョンコアの保護に最下層の攻略を禁じた。


 それと最下層の階段にはマリアーヌお姉さんが作ったアダマンタイトゴーレムが配備されていると ハルカおねえさんはそっと耳打ちしてくれた。



「アキ君、ここのダンジョンは層に応じた強さのモンスターが出るようになっててね、ここで冒険者を育成するって意気込みかけてたの」


 ハルカお姉さんは悪い彼氏さんに騙されて、莫大な借金を背負い込み、どうにもならなくなって自殺しようと首を吊ったところ、この世界へマリアーヌお姉さんに召喚されたと道中で自分の人生を語ってくれた。


 そんなハルカお姉さんもBLが大の趣味で、あっという間にマリアーヌお姉さんと仲良くなって、マリアーヌお姉さんから内政を任されたと話してくれた。



「アキ君みたいの可愛い子が自殺を考えるまで追いつめられるなんて、ユッキーが怒ってたわ」


「嬉しいです。そんなことを思ってくれるなんて」


「うん。だから強くなりなさいよ? それがユッキーの願いなんだからね」


 ハルカお姉さんはぼくの頭を優しく撫でてくれた。


 世の中にはぼくと無関係でも、いい人がたくさんいるんだ。イジメられてた頃は自分のことしか見えなくて、逃げ出したくて、居なくなりたかった。


 ひょっとするとぼくは助けてくれる人を、サインを、チャンスを見逃していたのかもしれない。



「なにしてんのよ、早く来なさいよ」


 前を行くマリアーヌお姉さんに急かされて、ぼくらはダンジョンの入口へ足を速めた。ダンジョンの入口の前に着いたとき、マリアーヌお姉さんからダンジョンでお供するポーターをぼくが選ぶようにと言われた。


ありがとうございました。

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