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ローズの選択4


「文句なしの合格だ」

「わっ、わたくし、合格ですの?」

「ああ。ジェイクの花嫁候補として認め、そして、私の後継者をきめる権利を与えよう」

「ま、まあ……それは、責任重大ですわね」


 不合格を言い渡されるとばかり思っていたため、ローズは唖然とし、その横で、ジェイクは苦笑いする。一方で、その場に集まっていた精霊たちは、バレンティナの許可が降りたことで、一気にざわめき立ち、みんなソワソワした様子でローズへ視線を集中させる。


「しかし、一発合格する娘は初めてだ。普通は魔法石に魔力をすべて吸い取られてしまい、立っていられない状態になる。さっきの娘もそうだ。吸い取った魔力はすぐにお返しするゆえ、お前さんのたちの目には元気に見えただろうが」


 そんなことが起きていたとは微塵も思えないほど元気だったべネッサの姿を思い返し、ローズは神妙な面持ちのまま、確かにと小さく頷く。


「しかも、ローズに関しては魔法石の方が魔力を吸い込みきれず、機能停止になってしまっておる。これもまた初めての事例だ……おまけにお前さんには、まだ余力が残っていそうだな」


 小声で付け加えて、バレンティナは愉快そうに笑った。

 機能停止になった魔法石から解放された魔力がそのままローズに戻ったのなら、そうあって当然なのだが、魔法石から放出されたローズの能力は、実は周囲にいる精霊たちへとすべて分け与えられているのだ。


「……しかし、我らと暮らすことを拒み、シェリンガムを出て行ったマリアンの娘を、ジェイクが妃にしたいと連れ帰ってくるなんて皮肉なものだ」


 バレンティナからも母の名が出て、しかも、精霊たちと暮らすのを拒んだというのを聞かされ、ローズは思わず顔を強張らせる。


「もしかして、わたくしの母は、あなた方に失礼なことをしてしまいまして? それなら母に代わって謝らせてくださいませ」

「いいや。謝る必要はない。国を出て行ったのは、あやつなりの考えがあってのことだろうと思っていたし……そうか、アルビオンに行ったのか」


 バレンティナは表情穏やかに、嬉しそうでいて寂しそうでもある儚げな微笑みを浮かべたが、すぐにその面持ちに凛々しさを取り戻し、背筋を伸ばした。


「マリアンが亡くなってしまったことも、娘がいたこともつい先日聞いたばかりだ。母親譲りの力を持ちながら、私の耳には一切、ローズの情報が入ってこなかったのはどういうことだ? 聖女宮にも入宮していたのだろう?」

「いえ、入宮はしておりません。わたくしは、入宮が許可される年齢に達していませんでしたし……仮に達していたとしても、わたくしの育ての親である叔父夫婦の意向で、聖女見習いとして入宮することはできなかったと思いますわ」

「叔父夫婦、そいつらの名は?」


 そこでローズは黙り込み、それ以上は言い辛いという風に顔を伏せた。しかし、バレンティナは眉を顰めた後、ローズに代わってジェイクとフェリックスへ説明を求めるように視線を向ける。ジェイクとフェリックスも互いに顔を見合わせた後、フェリックスがここは俺が引き受けたとばかりにバレンティナに向かって進み出て、深々と頭を下げる。


「叔父はエドガルド・セレイムル。叔母のエマヌエラは、パーセル家の出でございます」

「パーセル家か。マリアンは、よりにもよってあの血筋の者の身内になるなんて……まさかな」


 フェリックスの返答に、バレンティナは手で抑えた頭を、軽く振ってみせた。エマヌエラ叔母さんのご実家はあまり評判がよろしくないのでしょうかと小首を傾げたローズへと、バレンティナから続けての質問が飛ぶ。


「そう言うことなら、ローズは聖女宮の内情は知らぬのだな?」


 その通りだとローズが頷くと、バレンティナは寂しそうな顔をし、その様子をフェリックスは辛そうな顔で何か物言いたげに見つめる。


「承知した。では、世間話はここまでにしておこう」


 ひとつため息を挟んだことで区切りとするように、バレンティナは「アイレン、サーリア、ナディア」とこの場のどこかにいるだろう精霊の名前を呼び始める。

 名前がひとつ呼ばれる度、精霊たちがざわめき立つ。そして、名前を呼ばれただろう精霊たちがバレンティナの前へ出てきて、それぞれがお辞儀をした。


「そして……ミア!」


 最後に付け加えられた名前に、ローズはパッと表情を明るくさせたが、その一方で精霊たちのざわめきが一際大きくなる。今までのざわめきは祝福するかのように好意的に聞こえていたのに、ミアが呼ばれた途端、非難だったり嘲笑うような響きが混ざり出したため、ローズは不思議に思い精霊たちを見回す。


「ミア、いるのはわかっている。さっさと前へ出てきなさい」


 四番目として呼ばれたミアがなかなか姿を現さないため、バレンティナが自分の後方へ向かって呆れ顔で呼びかける。すると、数秒置いて、木の後ろからミアが出てきて、気まずそうな様子で名前を呼ばれた他の三体の精霊たちの横に並ぶ。


「以上だ」


 バレンティナが発した短い宣言に、精霊たちが再度大きくざわめき、「静かに」という制止の言葉がその場に響き渡るまで続いた。


「この中から、私の跡を継ぐのにふさわしいと思う者を選びなさい」


 ローズは責任の重みを改めて感じながら、最初に呼ばれた生真面目そうな見た目をしたアイレンという名の精霊と視線を合わせ、軽くお辞儀をした。すると、アイレンもローズへとお辞儀を仕返し、にこりと笑う。


「ローズさん、初めまして。アイレンです」


 返事をされたことに、ローズは驚きで目を大きく開く。


「まあ、アイレンさんは言葉を喋れますのね」

「はい。先ほどジェイク様の候補者となった女性が選んだ精霊のドロシーも、私と同じく上位精霊です。彼女はとても優秀です。この中で、ドロシーと渡り合えるのはこの私だけと言って過言ではありません」


 べネッサを連れてこの場を後にした精霊の様子を思い返し、ローズは「確かに喋っていらっしゃいましたわね」と呟く。すると、気が気じゃない雰囲気で、サーリアとナディアがローズに必死に訴えかけ始め、同時にローズはサーリアが以前本屋の前で出会った娘の精霊だと気づく。自分も次世代の国守りの精霊の候補に上がっていたから、あの時必死に食い下がっていたのだと腑に落ちた。

 とはいえ、時折混じる身振り手振りから、何かをアピールしているだろうことは分かるが、やはり言葉がわからないため、ローズは微笑み返すことしかできない。

 そしてミアとも視線を合わせるが、プイッと顔を逸らされてしまい、微笑みが苦笑いへと変わる。


「この先の試練は、選んだその者と共に取り組むこととなる。それを踏まえて、さあ、選択なさい」


 バレンティナが厳かに告げて、次のローズの言葉を待つように、精霊たちが一気に静まり返る。ミアは相変わらず興味がなさそうな態度だが、選ばれた他の三体の精霊は一様に緊張の面持ちでローズを見つめる。

 張り詰めた空気の中、しきりに小首を傾げるローズだけはどことなく緊張感が薄いように思われ、こんな時でもいつもと同じ調子の彼女にジェイクはこっそり笑みを浮かべた。


「今ここで選ばなくてはいけませんの?」

「ああそうだ」

「困りましたわね。それなら、わたくし選べませんわ」


 バレンティナの返答を受け、ローズは短く息をつき、にこやかに告げる。考えるまでもなく上位精霊であるアイレンが選ばれるだろうと考えていた精霊たちは、みんな呆気に取られている。もちろん自分が選ばれると疑わなかったアイレンも同様で、唖然とした表情で固まっている。


「精霊の皆様方やシェリンガムの大事な未来を担う存在ですもの。会って数秒で即決できるほど、自分の見る目が優れているだなんて、わたくし、まったく思えませんし」


 ローズはにこやかに「だって、ポンコツですもの」と付け加え、ふふふと笑う。その説明で、バレンティナは仕方あるまいといった様子で軽く頷く。



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